背徳の夜飯
「…」
時刻は深夜二時を回ったところ。僕は空腹で目を覚ました。ご飯の量は足りている。夕飯はしっかり食べたはずだ。しかし、たまに夜中に空腹で目が覚めることがある。それは仕方ないことだろう、なぜなら男子高校生だもの。
僕は僕の上で眠る紅葉を起こさないように下ろしてこっそりと部屋を出た。
「さて…」
僕は共用の冷蔵庫から食材を取り出す。この冷蔵庫は寮の共有物である。みんなが色々なものを入れていいとされており、僕もこういう時のために非常用の食材を入れているのだ。
今回の食材はレンジでチンするとできるご飯と、ウインナーだ。共用のキッチンを使い調理を開始する。まずはフライパンに油を垂らす。火をつけ、油を広げていく。ある程度温まったらウインナーを投入する。
ジュ―
「よし、次は…」
「何してるんですかこんな時間に」
「!!!!?!?!?!!」
背後から声を掛けられて僕の心臓が跳ね上がる。
「も、紅葉…びっくりさせないでよ…」
「びっくりしたのは私です。ふと目を覚ましたら京介さんがいないんですから」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと小腹すいて夜食を作ってたんだ」
「夜食?」
「あ、そうだ。紅葉も食べる?」
「うーん、こんな時間ですよ?」
「こんな時間だからこそだよ。ちょっと見てて」
僕はフライパンに紅葉用のウインナーを追加する。まだ焼けるまでに時間がありそうなのでこのすきに僕はご飯をレンジに入れる。こういう時に本当に便利だよね。
「次は…」
ウインナーを箸でコロコロ動かしながら焼き加減を調節する。本来なら皮が破けるほど焼いてはいけないのだが、焼き目はしっかりとついているほうが僕は好きだ。皮は破けてなんぼ、というのが僕の持論だ。
ウインナーの香ばしい匂いがあたりに充満する。
「うーん、いい匂い…」
「でしょ?こんな時間だからこそこういうの本当においしいんだよ」
真夜中に食べるジャンクフードは、何か悪い成分が入っているんじゃないかと思う位おいしい。いや、体に悪いものは入っているんだけど…
パチパチ
油のはじける音がする。そろそろだろうか。
チーン
お米もちょうどたけたらしい。僕はレンジからご飯を取り出す。ふたを開けてその上にウインナーを乗せる。
洗い物を極力出したくないのでこのまま食べるというのが僕の流儀だ。ウインナーに向けてコショウ少々、そしてほんの少し醬油をかける。
「ほら、召し上がれ」
「いただきます」
「どう?」
「…」
「あれ…?あんまりおいしくなかった?」
「…( ´;ω;`)ブワッ」
「!!??」
「美味しすぎます…!おいしすぎて感動しました」
「お、おおげさな…」
僕も紅葉の横でウインナー丼を口にする。うん、本当においしい。
「今の世の中にはこんなにおいしいものがたくさんあるんですね。しかも簡単にできる」
「そうだね、便利な世の中だよ」
「このウインナーというのはおいしいですね」
「ふっふっふ…紅葉これが完成形だと思ってない?実はまだこの丼は進化を残しているんだよ」
「な、なんと!?本当ですか!?」
「うん、このウインナーよりもおいしいものがあるんだ」
実はこのウインナー、最も高い物ではないのだ。これでもおいしいのだが、やはり一番いいやつは格が違う。
「また食べたいです!」
「うん、また今度作ってあげるね」
こうして二人だけの夜食同好会が発足したのであった。
おまけ
「林君は…」
「必要以上の脂質はとらない」
「だよねー…」
雨と傘
部活動のない日、たまたま帰る時間が被った僕と本庄さんは一緒に帰ろうとしていたのだが…
「いやー、すごい雨…」
「しばらくは降るって予報だよ」
大雨で学校に立ち往生してしまっているのだった。玄関で立ち往生するのもなんなので、僕達は放送室で時間を潰すことにした。放送部の窓からは激しく打ち付ける雨しか見えない。
「なんか、こうやって日向君と2人で話すのも久しぶりな気がするね」
「そうかな?」
「うん、だって林君とか、本庄さんとか、斑鳩先輩とか、たくさんの人と一緒だもの。賑やかなのも悪いことじゃないけどね」
思い返せばそうだ、今まで1人で行動することが多かった僕が今や1人でいる時間の方が少ない。周りには必ず誰かがいる。そして、少なくとも3人以上になることが多い気がする。
「せっかくだし普段話せないこと話そうよ。例えば日向君のタイプの人とか」
「僕の?」
「そうそう、あるでしょ?こういう人が好みーとか」
「うーん…あんまり考えたことなかったな…」
「ほらほら、言っちゃいなよ?他の人には内緒にしとくからさ!」
「…笑顔が素敵な人」
「あら…これまた意外なところから」
「うん、笑顔を見たらこちらも幸せな気持ちになるんだ」
僕は今まで出会ってきた色々な人の笑顔を思い出す。
「そっか、素敵なことだね」
「うん」
「…で?胸は?大きいのが好き?小さいのが好き?」
「今ここでその話題が終わったら綺麗に終わっていたと思わない?」
「ふふん、取り繕った答えだけじゃノーセンキューってやつ?で、どうなの?」
「…考えたことないよ」
「うっそだー!あ、もしかしてお尻派?それとも、足とか?」
「本庄さんは僕のことを変態に仕立て上げたいの!?そういう本庄さんはどうなのさ?」
「え!?私の好み?」
「そうだよ、僕は答えたんだから本庄さんのも教えてよ」
「えっと…」
「…?」
なかなか答えずこちらを見てくる。なんだろう、何かあったのかな?
「…笑顔の素敵な人?」
「僕と同じじゃん」
「いや、大切なことだよ、笑顔って」
「他には?」
「あとはー、優しい人、かな」
「ありふれた答えじゃん」
「大切だからね、例えば、自分は傘を持ってるのに私が持ってないから一緒に待ってくれる人とか」
「…バレてた?」
そうだ、僕はカバンに折り畳み傘を入れている。ただ、本庄さんは傘を持ってきていなかったのだ。最初は傘を渡すことも考えたが、どうせ受け取らないだろう。一緒に一つの傘に入るには小さい上に、流石に恥ずかしい。
「うん、だって日向君、玄関でカバンの中漁ってたし」
「折り畳み傘で帰っても、濡れちゃうと思ったからだよ」
「そうやって、気を遣ってくれる人は優しくて素敵だと思うよ」
ニコッと笑いながら答える本庄さんに、思わずドキッとしてしまう。
「せっかく帰るタイミングあったんだから、一緒に帰りたいなって思って…」
「…!そういうの、ずるいよ…」
2人の間にわずかな沈黙が流れる。
「…またこれからも、たまには2人で帰ってくれる?」
「うん」
「約束だよ?」
「うん」
なんとなく照れくさくて僕は窓の外を見る。どうやら雨は上がったみたいだ。通り雨だったらしい。
「雨、上がったね。もう帰ろうか」
「…もう少しだけ、一緒にいない?まだ、帰りたくないな…」
「う、うん…わかった」
上目遣いで見つめられて、ドキドキしてしまう。本庄さんはこういうことをナチュラルにできる人なのかもしれない。
「よかった、じゃあ何話そっか?今度は日向君が何か話題振ってよ」
「そんな無茶振りな…えっと、それじゃあ…」
そうやって、僕達は新山先生に追い出されるまでたわいもない会話をしたのであった。