「ずいぶん楽しそうだね」
家に帰り着くと、玄関にジト目の怜ちゃんが立っていた。
「うん!楽しかった!」
睦月ちゃんはVサインしながら答える。
「腕まで組んじゃって…ずるい…」
「何か言った?」
「何も!もういくよ京君!」
「いってらっしゃい2人ともー」
睦月ちゃんがひらひらと手を振りながら僕たちを送り出した。
「あのー…怜ちゃん?」
「なに…?」
明らかに不機嫌だ。基本的に怜ちゃんを怒らせるのは僕か睦月ちゃんだ。今回はどちらの責任なのだろうか。少なくとも今この場には僕しかない。僕が怜ちゃんの機嫌を取るしかない。
「あー…えっと…」
しかし、何を言えばいいのかわからない。
「京君、睦月ちゃんを甘やかし過ぎ」
「うっ…ごめんなさい…」
「私だって…」
「私だって…?」
「私だって、甘やかしてほしい!」
「」
思わぬ一言に思考が追いつかなかった。
「私だって京君に甘やかしてほしいの!」
「えっと…じゃあ…」
怜ちゃんの頭を撫でる。さっきまで睦月ちゃんにやってあげていたことだ。
「もっと」
僕はもっと頭を撫でる。今考えたら怜ちゃんに甘えてたのかもしれない。怜ちゃんは今日誰よりも早く起きてご飯を作ってくれていた。怜ちゃんのストレスも溜まっていたのだろう。
「腕も組む」
「はい」
僕は素直に腕を差し出した。睦月ちゃんよりも圧倒的な存在感を誇るその胸が僕の腕を包み込む。睦月ちゃんが軽巡洋艦くらいだとしたら、怜ちゃんは重巡洋艦くらいか、いや、もしかしたら戦艦クラスまで行っているかもしれない。
「手も繋ぐから」
くだらないことを考えている間に、怜ちゃんは僕の手に指を絡めてきた。恋人繋ぎというやつだ。
一瞬流石にこれは恥ずかしいと言おうと思ったが、やめた。今は怜ちゃんのお気に召すようにするべきだと考えたからだ。
そのまま僕たちはスーパーに向かうのだった。
「怜ちゃん」
「何?」
ちょっとぶっきらぼうに怜ちゃんが答える。
「いつもありがとうね」
「え?」
「いつも頑張ってくれているからさ。本当にありがとう」
「…」
「朝ごはんもお昼ご飯もおいしかったよ」
「もう…バカ…」
「いつも頼りにしてるよ」
「本当?」
「本当だよ」
「もう、調子いいんだから」
先ほどまでとは違い、言葉に棘がない。どうやら機嫌が治ったのだろう。よかったよかった。
「ちょっと睦月ちゃんに嫉妬しちゃったの」
「嫉妬?」
「うん、京君いつも睦月ちゃんを甘やかしてるし、遊んでるし。墨君とは男同士で仲良いし。私だけ仲間外れにされてるって思っちゃって」
そんなことはない、そんなことはないのだがそう感じている本人がそういうのだ。きっと、疎外感があったのだろう。
「ごめんね、寂しい思いをさせちゃって」
再び僕は怜ちゃんの頭を撫でる。
「あ…」
「これからもっと一緒に過ごそう。たくさんの時間を一緒にいよう。」
「本当?一緒にいてくれるの?」
「もちろん」
「約束破っちゃ嫌だからね?」
「破らないよ」
「仕方ないから信じてあげるね」
「ありがとう」
打って変わって上機嫌になった怜ちゃんと腕を組みながら目的地であるスーパーに辿り着いた。
「えっとね、白滝とーお肉とー…あ、豆腐とネギも忘れたらダメだね」
怜ちゃんは商品をカゴに入れていく。僕たちは今2人で一つのカートを押している。
僕は左手で左の持ち手を持ち、怜ちゃんは右手で右側の持ち手を押す。そして僕の右手と怜ちゃんの左手は繋いだままだ。流石に腕を組むのは難しかったので手を繋ぐにとどまっている。
怜ちゃんは器用にカゴに食材を入れていく。
「周りから僕たちってどう見えているんだろうね」
なんとなく疑問に思ったので聞いてみた。
「どうって…それは…」
仲のいい兄妹に見えているのだろうか。
「…夫婦、とか」
これは予想外の答えだ。夫婦とは思いもよらなかった。
「怜ちゃんは素敵なお嫁さんになるだろうね」
「もう、京君ったら!」
手を握っていなかったら背中辺りを叩かれていたかもしれない。よかった、手を繋いでいて。
「ねえ、京君。京君はどんなお嫁さんが欲しい?」
「うん?そうだな。あんまり考えたことなかったよ」
「例えば、料理が上手い人とか?」
「料理が上手い人か、そりゃ魅力的だけど。怜ちゃんのご飯食べてるからなあ…怜ちゃんくらい料理上手い人なかなかいないよ」
「ふふ、そっかそっか。私の料理美味しい?」
「うん、めちゃくちゃ美味しい」
「これからも、美味しいのたくさん作るね」
「うん、でも今度から手伝うよ」
「そんな、私が好きでやってることだし」
「さっき約束したでしょ?一緒の時間を増やすって。僕も怜ちゃんとご飯を一緒に作りたいんだ。でも、今日はごめんね、この後は墨君とトレーニングだから…」
「ううん、いいの。そう言ってくれるだけで嬉しいから」
話をしている間にすき焼きの具材をカゴに入れ終わり、僕たちはお会計を済ませる。その時も片時も手を離すことはなかった。
そのまま、手を繋ぎながら帰る。
「京君」
「どうしたの?怜ちゃん」
「大好きだよ」
「うん、僕も大好きだよ」
さっきも睦月ちゃんから言われたななんて思いながら怜ちゃんにも同じことを言う。
「ふふ、これからも一緒だよ!」
怜ちゃんがはにかみながら僕の方を見る。その笑顔にどきっとしてしまったのは秘密だ。