家に帰り着き、玄関に荷物を置く。
「名残惜しいけど、今日はここまでにしておくね」
「うん、わかった」
「ほら、墨君のところに行ってあげて。多分待ってるから。荷物は大丈夫だから!」
「わかったよ、ありがと。またご飯で!」
僕は一言お礼を言って部屋に戻る。ジャージに着がえた僕は、墨君が待っているであろう庭へと急ぐのだった。
庭には墨君がすでにトレーニングを始めていた。
「おかえり、京」
「ただいま、遅くなってごめんね」
「構わない、早速だが、足を押さえておいてくれないか?」
「うん、いいよ」
僕は墨君の足を押さえる。ちょうど腹筋の形だ。そしてスマホを開き、タイマーをつける。
墨君はフッと細かい息を吐きながら何度も体を起こしていく。
「そこまで!49回だよ」
「ふう、50の壁はなかなか高いな」
30秒で49回はすごいのだが…どうやら満足していないらしい。
「じゃあ、次は…背中に乗ってくれ」
今度は腕立て伏せの姿勢になる。その背中に僕が座る。
僕の体重が54kg。全体重をかけているわけではないとはいえかなりの負荷がかかっているはずだ。にも関わらず墨君は細かく息を吐きながら腕立て伏せを繰り返す。
「30!」
30回を数え終えた僕は背中から降りる。
「ふう、流石にきつい」
「水飲む?」
「ありがとう」
僕は持っていた水を墨君に手渡す。墨君は軽く水を飲むとまた僕に返してきた。
少しの休憩ののち、また腹筋を始める。これを5セット繰り返すのだ。
「ふう、筋トレはここまで」
「お疲れ様、次は?」
「次はランニングだ。京、お前も走るか?」
「走ってもいいんだけど、僕遅いから墨君のトレーニングの効率落ちちゃうよ」
「そんなことはない。どうせ軽く流すつもりだった」
「そう?それなら一緒に走ろうかな」
僕たちは軽く足のストレッチをしてゆっくり走り出した。
「はあ…!はあ…!」
墨君は呼吸が乱れていない。軽く汗が流れているくらいだ。流しているのは本当なんだろう。何よりも僕がついていけているというのが手を抜いてくれている証拠だ。墨君が全力を出せば僕がついていけるわけがない。
「こうやって走るのも久しぶりだな」
「え…?」
「昔は男同士、よく遊んだな」
「そ…そうだね…」
なんだかんだ一番付き合いが多かったのは墨君だ。やはり家族とはいえ女子ばっかりと付き合っているのは周りの目が気になるお年頃もあった。もちろん今は気にしないが。そんな中、やはり同性の存在というのは大きい。よく外で墨君と遊んでいたのだ。主にトレーニングと走り回っていただけだが…
「最近はお互い忙しい」
「う…うん…」
「だから俺は今みたいな時間が楽しい」
「…!」
前を走る墨君が僕の方をチラリとみながらいう。
確かに高校2年生になってから、というか高校生になってから忙しくてこういう時間を取れていない。思い返せば、家族での時間が確かに減った気がする。
「また、忙しくなければ付き合ってくれ」
「いつでも…!付き合うよ…!」
走りながら話しているので息も絶え絶えだが、僕は答える。
「これから…一緒にトレーニングしよう!昔みたいに!」
「ははは!それならまた誘おう!」
思い返せば墨君が意見を言ったり、自分の意見を優先したりするのは珍しい。
朝、睦月ちゃんと怜ちゃんの意見に対して自分の意見を押していたのは、実は珍しいのだ。
それだけ、僕との時間を作りたいと思ってくれたのだ。純粋にその気持ちは嬉しい。
町内をぐるっと周り、家の前にたどり着く。僕は肩で息をしているのに対して墨君は涼しい顔をしている。これから一緒にトレーニングをするにあたって僕ももう少し鍛えなければ…
トレーニングをするためのトレーニングとはなんなのかを考えていると
「お疲れ、京」
「うん…お疲れ様…」
いつの間にか家へとついていた。
「先にシャワーを浴びるか?」
「いや、後で大丈夫だよ。お先にどうぞ…」
シャワーよりも前に少し息を整えたい。それならば先にシャワーを浴びてもらうほうがいいだろう。
「そうか、それならお先に」
「京、ありがとう。今日トレーニングに付き合ってくれて。また誘う」
「うん、了解!」
それだけ言い残して墨君はお風呂へと向かった。