「でも、せっかく入ってきたんだしお背中お流しさせてよー」
睦月ちゃんの駄々っ子モードが始まる。こうなると僕が折れないと睦月ちゃんは拗ねてしまう。
「ああ…もう、わかったよ。少し後ろ向いておいて」
僕はハンドタオルを腰に巻き、椅子に腰掛ける。
その背中を、睦月ちゃんがタオルでゴシゴシと洗う。
なかなかに気持ちがいい。よく父親が子どもに背中を洗ってもらう描写がホームドラマなどであるが、ちょっとわかる気がする。
「あのね…お兄ちゃん」
「どうかした?」
「私ね、お姉ちゃんに嫉妬しちゃったの」
「嫉妬…?」
「うん、墨お兄ちゃんとお兄ちゃんは同い年で同姓だし、お姉ちゃんとも同い年で私だけ年下だから…学校でも学年違うし一緒に過ごす時間が少なくなるの…だから、今回お姉ちゃんと仲良くしてるの見て嫉妬しちゃって」
「…」
僕は家族をおざなりにしたつもりはない。しかし、墨君も怜ちゃんも睦月ちゃんも全員一緒の時間が少ないと感じていた。ならば、それは事実なのだろう。そして、睦月ちゃんと怜ちゃんは似たもの姉妹のようだ。2人ともお互いに嫉妬して、後悔している。2人ともいい子なのだ。
「よく言えたね、えらいよ。さっきも約束したけどこれからもっと一緒の時間を増やそう。そうしたら大丈夫?」
「うん…」
あれ、歯切れが悪い。予想していなかった反応に僕は戸惑ってしまう。
「お兄ちゃんは…おっぱい大きいのと小さいのどっちが好き?」
「」
「お姉ちゃんの胸とお尻、大きいから…やっぱり男の人って胸が大きいのが好きだよね…」
別に睦月ちゃんが胸がないとか小さいというわけではない…と思う。しかしこれに関しては相手が悪すぎる。なんと答えるべきか…小さい方が好きといって睦月ちゃんは納得してくれるのだろうか。かといって大きい方が好きと言ったら睦月ちゃんをより傷つけてしまう。なぜ僕はこんなことを真剣に考えているんだろう。
なんと返せばいいかを考えている間に、背中に柔らかいものが当たる。
「む、睦月ちゃんん!?」
「動かないで、今、背中を流している最中なんだから」
耳元でぼそりとつぶやかれて僕はゾクっとする。蠱惑的な睦月ちゃんの声に僕は思考が停止してしまう。
「よいしょっと」
睦月ちゃんは自らの体をスポンジのようにして、僕の背中を洗っている。柔らかいものと、そして少し固い二つの突起物の感触に僕は気が狂いそうになる。
「ん…!んん…!!」
甘い吐息が耳をくすぐる。
「どう?お兄ちゃん。気持ちいい?」
「う、うん…気持ちいいよ」
「そっか、よかった」
地獄のような天国のような時間が終わると、睦月ちゃんに頭からお湯を被せられる。
「うわっ!」
いきなりのことに僕は思わず声を上げる。
「はい、これで終わり!」
「あ、ありがとう」
「私、先出てるね。早く上がってきてよ?お腹減っちゃったから」
いつもの調子で話す睦月ちゃん、どうやら元に戻ったようだ。
「あ、そうそう…」
「お兄ちゃん、大きい胸が好きでも、私は構わないよ。でも私無しじゃ生きていけないようにお兄ちゃんを調教しちゃうから」
「…」
僕の返事を聞く前に睦月ちゃんはお風呂から出て行ってしまった。
しばらく、僕の方は動けそうにない…
「おーいしー!」
「うん、美味しい」
すき焼きというのはご馳走だ。昔はあまり好きじゃないというか、同じ肉料理ならステーキとか焼肉とかの方がいいという考えだった。生卵につけて食べるというのがなかなか受け入れられなかったのだ。しかし今や僕の中で好きな食べ物上位には食い込んでいる。
「美味しいよ怜ちゃん」
「うん!よかった!ところで、なんか疲れた顔してない?お風呂で何かあった?」
「…いや、なんでも」
「そう?ならいいけど」
「お肉もーらい!」
「睦月、肉以外も食べろ。豆腐食え豆腐」
「えー、せっかくのすき焼きなんだからお肉食べないと!」
お肉ばっかり食べる睦月ちゃんを注意する墨君、平和だ。僕はその光景を見て笑みが溢れる。
しばらくその光景を眺めるのだった。
「この後おうどん入れるから全部鍋の中からにしてねー」
「はーい」
とりあえず、これが最後かなー?と思いながら具を自分のお椀によそう。
「ん」「あ…」
最後の一個であった焼き豆腐に僕と墨君が同時に手を伸ばした。
「京、食べろ」
「いやいや、墨君が食べてよ」
「俺はもう十分豆腐を食べた」
「うーん…あ、それなら」
僕は取り箸で豆腐を半分に切ると片方を墨君のお椀に入れた。
「半分こしようよ」
「ああ、ありがとう」
「半分…」「半分こ…」
「睦月ちゃん?怜ちゃん?」
「ううん!なんでもなーい!」
「うん、なんでもないよ」
2人から何か不穏なものを感じ取ったが、どうやら気のせいだったらしい。
「そう?」
「それじゃ、おうどん入れてくるね」
その後も、うどんを食べ、締めの雑炊を食べて大満足な晩御飯となった。
ご飯後、僕は宿題を終わらせ就寝準備を整える。なんか、今日は色々あったな。ともかく今日わかったのはみんなとの時間をもっと作らないといけないということだ。
僕はベッドに横になる。時刻は11時を少し過ぎた頃だ。もう寝てしまってもいいかもしれない。明日の朝も早い、明日に備えて英気を養うのも必要だ。僕は電気を消し、眠ろうと目を閉じようとした。
コンコン
「ん?はい」
こんな時間に誰だろう。
「京君」「お兄ちゃん」
「「入るね」」
僕の返事を待たずに睦月ちゃんと怜ちゃんが部屋に入ってきた。
「ど…どうかしたの?」
異様な雰囲気を放つ2人に僕は若干の恐怖を感じる。
「うん、実はね」
「一緒に寝よ?お兄ちゃん」
2人に僕の肩を掴まれ、半分強引にベッドに押し倒される。
「ちょ、ちょっと!」
「私達ね、考えたんだ」
「どうしたらお兄ちゃんともっと一緒にいられるのかって」
「どうしたら、睦月ちゃんと喧嘩せずに京君と過ごせるんだろうって」
グイグイと肩を抑えられながら睦月ちゃんと怜ちゃんが布団の中に入ってくる。
「わかったの、2人で半分こすればいいんだって」
睦月ちゃんが右側に、怜ちゃんが左側に寝転がる。
「京君、大好きだよ」「お兄ちゃん、大好き」
耳元で2人が囁いた。もう後戻りはできない。これからも僕たちはずっと一緒なのだろう。離れることはできない。きっと、離れることは許されないのだ。もしかしたらどこかで間違ったのかもしれない。いや、きっと間違わなくてもこうなっていた予感がする。僕は…諦めたかのように2人に全てを委ねた。
おまけ
「墨お兄ちゃんは一緒に行かなくていいの?」
「4人一つの布団は狭いだろ」
「それに、俺にはもう心に決めた人がいる」
「わーお…」