廊下を挟んで隣の部屋、もう探せそうな部屋はほぼ残っていない。障子を開けて中に入ると…
「ここは子ども部屋ですかね?」
「子ども部屋というか、誰かの部屋に子どものおもちゃが置かれているみたい」
一言でいえばまとまりがない部屋だ。壁には厳かな掛け軸と子どもが描いたかのような絵が飾られている。床の間には日本刀が置かれている横には、透明なガラス張りの箱があり、なぜかけん玉が飾られている。
そしてこの部屋で何よりも目を引くのは…
「これって…仏壇ですよね…」
「そうだね」
仏壇には老夫婦の遺影が飾られている。戒名が書かれた位牌もないため質素だがしっかり手入れされた仏壇だ。横には花も添えられている。
「…この二人、あの記憶?で見た二人ですよね」
「うん…」
この仏壇が用意され、そして手入れされているということは、やはり老夫婦以外の誰かがいたことになる。しかしなんだ、この違和感…言葉で言い表せないが、あべこべな気がする。
「…私、この二人を知っている…」
「そりゃ、記憶で見たからね」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「会ったことがある気がするんです…」
「紅葉、もう少し探索してみよう。何かわかるかもしれない」
「…そうですね」
最初であった時の元気さは影を潜め、不安げな瞳でこちらを見てくる。これは僕ができる精一杯の励ましだ。先ほどから、二つの人魂に言われたことが頭の中をちらついている。ダメだダメだ、疑心暗鬼になるな!もう少し信じると決めたのならば、もう少し信じてみよう。
「といっても、この部屋にはあのガラス板はなさそうですね」
紅葉があたりを見渡す。確かに、収納と呼ばれるものはなさそうだ。
僕は念のため、壁の掛け軸の裏を見る。漫画やアニメではよく掛け軸の裏に何か隠されているものだが…
「うん、何もなさそう」
当然のごとく何もなかった。僕は掛け軸を戻しながら言う。しかい、これは和歌だろうか。学がないので誰が読んだとか、何に書かれているなどは全く分からない。
三輪山を しかも隠すか 春霞 人に知られぬ 花や咲くらむ
五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする
白露の 色はひとつを いかにして 秋の木の葉を ちぢに染むらむ
ふるさとは 吉野の山し 近ければ ひと日もみ雪 降らぬ日はなし
「古今和歌集ですね」
「え!紅葉分かるの!?」
「あ、なんとなく知ってただけですよ。誰が読んだとかは分かりません」
「すごーい…」
「五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする…か」
「どうかしたの、紅葉」
「これ、昔にあった人を懐かしむ歌なんですよ。京介さんはいますか?そんな人」
「…昔ってほどじゃないけど、僕もふと思い出す人はいるよ」
「そうですか、また逢えたらいいですね」
「…もう亡くなっていて、いないんだ」
「あ、ごめんなさい…」
「ううん、でもね、すごい偶然が重なって幽霊になったその子と話すことが出来たんだ」
「そんなこと…あり得ないって言ったら笑われちゃいますね。今この状況で」
「それくらいかな」
「私には、いるんですかね」
「きっと、いるさ」
「ほんとに思ってます?」
「うん、本当に思ってるよ。この僕にいるくらいだから」
「何ですかそれ」
紅葉に笑みがこぼれた。少しでも元気になってくれたのならそれでいい。
さて、次が最後の部屋だ。鬼が出るか蛇が出るか…はたまたお化けがでるか。それは、神のみぞ知るというわけだ。
左奥の部屋、二階の部屋はここで最後だ。部屋の中に入ると
「どうしよう…どうしよう…」
青色の人魂がぐるぐると回っている。こちらには気が付いていないようだ。
どうしたんですか…?」
思わず廊下から声をかけてしまった。
「ギクゥ!どどどどどちら様でしょうか!?」
「僕たちはここに迷い込んだ者でして」
「ひ、ひええ!!私は落ちていた小物を拾って箱にしまっただけなんですう!キラキラ光っていて綺麗だったから大切に保管しようとしていただけなんです!?どうか!お命だけはお助けをぉ!」
「落ち着いて…きらきら光ってたガラス板みたいなのでした?」
「は、はいぃぃ…ガラスの破片のようなキラキラしたものを見つけたので箱にしまって保管しようと…でも、カラクリ箱だったのか箱が開かなくなってしまって…」
よく見ると人魂の下の机には何かの箱が置かれている。
「どうしましょう、開けられるんですかね?」
ひょこっと紅葉が僕の陰から顔を出す、その時だった。
「ひ、ひえええ!!!あああああるあるあるじさま!!!」
「え?」
「主人様!どうかお情けを!!ここを追い出されたら!!!!」
「え、いや。ちょっと」
「うわああああああああ!!!!!」
人魂は叫び声をあげて見えなくなった。どこか別のところに行ったのか、はたまた我々に見えないだけなのか、それはわからない。そんなことよりも
「私が…主人…?この屋敷の化け物…?」
「紅葉、落ち着いて」
「私は人間じゃない…?」
「紅葉、まずは落ち着いて話をしよう」
うっすらと感じていたもう一つの可能性。紅葉が記憶の中の視線の主じゃないとするならば、最初の記憶の中にあった黒い影、あれが主なのかは分からないが、良くないものというのはなんとなくわかる。
「私は、化け物…!いやああああああああああああ!!!!!!!!!」
「紅葉!待って!」