その日は、僕が風邪をひいて休んだ日のことだった。
花村:大丈夫?
僕:うん、ちょっと風邪ひいただけ、明日には学校いけるよ
花村:了解!そんじゃ、明日の放課後は空けといてー
僕:了解
花村:お大事に!
花村とのやりとりを終え、僕は布団にこもる。早く寝てよくなろう。
花村が死んだことを聞いたのは、僕が学校に復帰した日の朝だった。構内に残っている先生が1組の教室で首をつっているところを発見したらしい。
クラス内は騒然となっており、泣いている生徒、そわそわする生徒様々な反応だった。そんな中僕はというと
「は…?」
呆然と立ち尽くすしかできなかった。
花村と仲が良かった僕も先生から聞き取りがあった。何か変わったことはなかったかとか、ここ最近どんなことを話したかとか、いろいろなことを聞かれた。その質問に対して僕は
「花村が自殺するなんてありえない!何かの間違いだ!」
といって先生を困らせることしかできなかった。先生なりの配慮だったのだろうか、先生は「そうか…」といって深く僕に聞くことはしなかった。
花村の机には花が飾られていた。僕はぼんやりとその光景を眺めているだけだった。そんな時だった。一つの噂話を耳にしたのだ。
2-1組に置かれている花は、このクラスで自殺した子の花。しかし、枯れることなくずっと咲き続けている。自殺した少女の無念が宿って、他の人の生気を吸い上げているとのことだった。
僕は、知りたかった。放課後の教室で待っていても花村の姿は見ることができなかった。でも、夜ならばどうだろうか。もしかしたら、本当に会えるかもしれない。自分でも何を言っているのかわからない、藁にも縋る思いとはまさにこのことだろう。
「というわけで、噂の真相を確かめたかったんだ」
「ふーん…花村さんのこと好きだったの?」
「…そんなんじゃないよ」
高校生というのは得てしてこういうものだ。男女が一緒にいたらすぐ好きなのかとか、付き合ってるのとかすぐ言ってくるんだから…
「花村にとって僕は友達の1人に過ぎないよ。それ以上でも以下でもないよ。でも…」
僕は顔を上げる。
「僕にとって花村は大切な友達なんだ。だから…知りたくて」
「確かに大切な友達だと思うよ。だって、確証もない噂話を確かめにくるくらい思っているんだから」
本庄さんは僕の顔をじっと見つめる。
「そんなに君から思ってもらえるなんて、花村さんも幸せだね。そして、やっぱり君は優しい人だね」
「え…?」
やっぱり?どういうことだろう。ああ、さっき助けたことかな。
「悪い、待たせた」
非常口を開け、林君が戻ってきた。
「おかえりー」
「ただいま、本庄はもう大丈夫そうか。まさかあんなところに祠があるなんて。初めて知った」
「あんなとこ?」
「ああ、学校の裏、茂みの奥の奥に祠があって、倒木に押しつぶされそうになっていた。それを取り除いてきた」
よく見ると、林君の体が汚れている。
「興味があったらまた連れて行く。」
「いいね、いい記事が書けそう」
「氏神様が、困ったら助けてやるって」
そういえば、氏神様がいない。その祠?に戻ったのだろうか?
「さて、この次だが…」
「2年1組、いかない?」
本庄さんが提案する。きっと、僕の話を聞いて気を遣ってくれたのだろう。
「いいぞ、2階にあがろう」
林君に懐中電灯を渡し、再び林君先頭に探索を開始する。ちらっと本庄さんの方を見ると小さくウインクされた。その姿を見て、不覚にもドキッとしてしまったのは内緒だ。
2階につながる階段を登り、1組の教室に入る。鍵はかかっていなかった。
「…?」
「…?どうしたの?林君」
「…いや、なんでもない」
教室に入ると、夏にも関わらずひんやりとした空気が漂ってくる。自分のクラスにも関わらず、入ることを躊躇してしまう。
ふうっと一呼吸おいて僕は中に入る。
2年1組の枯れない花、この植木の花は花村が好きな花らしい。本来本来ならば花瓶の花を置くのが主流だが花村の好きな花ということでこれを飾っている。
花村が死んだのは、6月頃。今は8月30日だから2ヶ月くらいは咲いている。
「確かに枯れている様子はないな。きれいに咲いている。」
「うん、誰かが世話しているとか?」
「そりゃ、クラスで水やりとかはしてるけど…夏休みとかはできなかったし…先生がしてるのかもしれないけど…」
大切な友達と言っておきながら、花の世話をしていなかったのは薄情なやつと思われるかもしれない。でも、僕は夏休みそれどころではなかったのだ。学校に行って花壇に向かえばそこに花村がいそうな気がした。もちろん、いないのだが…僕はその光景に耐えられなかったのだ。だから、近寄れなかったといった方が正しい。
「噂によると、生徒の生気を吸って咲いているという話だが」
「見るからに普通の植木鉢だけどね。ところでこれ、なんて花?」
「えっと…これは」
「スーパーベナだよ」
「そう、スーパーべ…な…」
今のは僕の声ではない、女子の声だ、当然質問をしてきた本庄さんの声ではない。そして、当然その声を忘れるわけがない。
「花村…」
「久しぶり、日向」
声は僕の後ろから聞こえた。視線をあげ声の主の方を向く。そこには何一つ変わらない、花村の姿があった。
「きゃっ…!」「…!」
林君が距離を取り、本庄さんが小さな悲鳴をあげる。
「花村…」
「うん、何?」
再び花村の名前を呼ぶ。花村に会って、僕は何を話せばいい?聞きたいこと、言いたいこと、たくさんある。だめだ、頭が回らない。
「しっかりして!」「!!」
本庄さんは震える手で僕の背中を叩いた。
「花村…君は本当に自殺だったのか?」
「ううん、そんなことしてないよ」
「やっぱり…!」
花村は自殺なんかじゃなかった。
「何があったんだ?」
「あの日、私が死んじゃった日。放課後忘れ物をして教室にとりに戻ったの。そしたらね、後ろから首を誰かに絞められたの」
そういって、花村は首を見せる。そこには縄のようなもので縛られた跡があった。
「誰がそんなことを?」
静かに聞いていた林君が問いかける。それに対して、花村は首を横に振った。
「死んだ時のこと、思い出せないの。気がついたら死んでて…」
「花村…ごめん」
「なんで日向が謝るの!?」
「分からない、でも、僕が学校にきていたら…」
「そうやって、自分を責めないで?日向は悪くないよ」
「…花村の心残りってなんだ?」
「きっと、私の花の記録日記だと思う。その日記を忘れちゃって取りに戻ってきたから…」
「大切な日記だったんだね…」
「それを見つければ心残りが解消されるのか?」
「うん、多分…?」
「わかった、探すよ。必ず見つける」
「日向…ありがとう」
「でも、教室にも机の中にもロッカーにもないんでしょ?どこにあるのやら…」
「…もしかしたらなんとかできるかもしれない」
「本当?林君」
「ああ、氏神様」
「あ、確かに。私のなくしたもの見つけてくれたし、氏神様に聞いたら探してくれるかも?」
「よし!それだ!花村、ちょっと探してくるよ。」
「うん、ありがとう。私もついて行きたいんだけど…教室から出られなくて」
「出られない?」
「うん…出ようとするとね…」
そういって花村は出口に向かって歩いていった。教室の扉を一歩出た瞬間、花村の姿は消え、いつの間にか花村の机の椅子に座っていた。
「本当だ、ここまで戻されちゃうんだ…」
本庄さんが驚いたように口にする。未練を残して死んだ人は地縛霊になるというが、本当のようだ。
「今から、氏神様のところへ行こう。林君、案内してくれる?」
「任された」
僕たちは教室を飛び出し、氏神様の祠に向かった。