さて、鵺の気を引くには何をすればいいのだろう。今回は倒すのが目的ではなく気を引くことだ。何か使えるものはないだろうか。
「そういえば、紅葉はなんでこの家を異世界に飛ばしたの?」
何か使えるものがないかを探しながら、なんとなく気になっていたことを聞いてみる。
「ここは時間の概念がありません。ずっと同じ状態でいられるんです」
「時間が止まっているって感じだね」
確かに今考えたら廊下のろうそくがずっと燃えたままだ。これも時間が止まっている影響だろう。
「しかし、使えそうなものと言えば…これくらいか」
僕は日本刀を指さす。正直な話、使ったことのないものを使うのは愚策のような気がする。斑鳩先輩が攫われて小人たちと戦ったときも僕が持っていたのは物干し竿だったし…ただ、紅葉が封印の何かしらをしている間は何とか時間を稼ぐ必要がある。ないよりはましだろう。
あとは…どうしよう。化け物というならやはり火だろうか。
「ねえ、鵺の弱点とかないの?」
「そうですね、一度戦ったときは弱点らしい弱点は見当たらなかったです」
「うん…そうかい…」
こういう時に氏神様含めてほかのみんながいたらどうしただろう。
「どうかしました?」
「うん?ああ、いやいやちょっとね。僕の友達たちのことを思い出してたんだ」
「京介さんの友達ですか?どんな人なんですか?」
「うん、一人は強くて一人は優しくて、一人は僕よりもしっかりしてるよ。あ、あとは色々知っている神様」
「ずいぶん頼りになる人たちなんですね」
「うん…僕にはもったいないくらい…」
「そんなことないですよ!京介さんはすごいです!」
「はは、ありがとう紅葉」
「信じてませんね?まず私のために残ってくれただけですごいです!それに、京介さんのおかげで記憶も…取り戻せました!」
一瞬紅葉が止まった気がしたが、気のせいだろう。紅葉の必死の慰めが心にしみる。
「でも、ふと思ったんだ。僕にとってみんなはかけがえのない友達だけど、みんなにとって僕は数多くいる友達の一人なんだって」
ふと今日楽しそうに話していた本庄さんのことを思い出す。本庄さんは明るくて友達も多い。クラスが違うから詳しくは知らないがきっと男女問わず人気なのだろう。林君だってそうだ、あの性格であの運動神経、さぞかし女の子人気は高いだろう。大園さんは僕と同じ孤独を抱えた人だ。でもその一方で大人と渡り合っている。僕は子どもだ、大園さんと比べるのもおこがましいくらいに…
「僕はみんなに並ぶようなものがないんだよ」
「てい!」
「いた!」
突然紅葉が僕の後頭部にデコピンをしてきた。突然のこと過ぎてフリーズしてしまう。
「あんまり落ち込まないでください!京介さんには良さと武器があります!」
「僕の良さと武器…?」
「京介さんはそのお人よしさと言葉巧みに人を引き付ける良さがあります!」
「それ褒めてるの?」
若干どちらも悪口にも聞こえるんだが。
「細かいことはいいんですよ!実際私は京介さんがいなければどうなっていたかわかりません…京介さんの言葉には人を信じさせるような不思議な力というか、安心感というか、この人の言うことを信じようって気持ちになります!」
「あ、ありがとう…」
紅葉の鬼気迫る雰囲気に押されてしまう。
「京介さん、あまり自分を卑下しないでください…」
「…うん、そうだね」
顔をぱちぱちと叩いて気合を入れる。僕は目の前にある日本刀を握りしめ、立ち上がる。ずしりとした重みが手に伝わる。
「僕はこれにしようかな」
「使いこなせますか?」
「う、うん…何とかするよ」
「あまり慣れていないものを使うのは逆に危険ですよ」
「…やっぱりやめとくよ」
この前の物干しざおと違って日本刀は刃物であり、下手をしたら僕の方がケガをする可能性がある。
「うーん…まあ一応持っていくくらいで、メインは別のものを使うよ。何かいいものないかな」
「弱点かどうかは分かりませんが、鵺は三つの精神が宿っているとされています」
「三つの精神?」
「頭脳を司る猿、行動を司る虎、そして精神を司る蛇です」
「一つの体なのにバラバラなの?」
「はい、つけ入るとすればそこでしょうか」
その三匹の中で一番狙いやすいのは蛇だろうか。蛇、ヘビ…うーん、蛇で有名と言えばヤマタノオロチだろうか。あれは確か…
「紅葉、もしかしたらちょっと使えるかも。少しだけ用意してほしいものがあるんだ」
「はい、何でしょう」
「大き目の風呂敷を用意してほしいんだ」
「風呂敷…ですか?」
「うん、その間に僕は一つ物を取ってくるよ」
「はあ、わかりました。探してきます」
いよいよ最終決戦だ。元の世界に笑顔で帰るためにも、そして何より紅葉の思い出を守るためにも頑張ろう。
…こう考えてしまうのは、やはりお人よしだからなのかもしれない。僕は苦笑いを浮かべた。