あたりには静寂が広がっている。さっきまでの戦いが嘘のようだ。
「うっ…!」
「大丈夫!?」
紅葉の体が縮んでいき、先ほどまでと同じくらいの中学生サイズまで縮んでしまった。
「力を使いすぎたみたいです…でも、大丈夫、全て終わりましたから」
「うん、お疲れ様」
これで鵺の脅威も去った。もう安全だろう。僕はぬえが消えていった場所を見つめて一息ついた。
「うん?これは…」
鵺が消えた場所にきらりと光る何かが落ちている。これは…
「みて、あれ。最後の記憶のカケラじゃないかな」
どうやら最後の欠けた部分は鵺が持っていたらしい。これで全ての記憶が取り戻されたわけだ。
「…最後の一枚は、一緒に見てもらっていいですか?」
「うん、わかったよ」
僕は彼女の体を支え、カケラのそばによる。
「いきますよ?せーの!」
今回は近寄っても光出さなかったので一緒に触れることにした。彼女の合図のもと同時に手を伸ばした。
一瞬の暗転ののち、目の前にお婆さんとお爺さんの顔が見える。
「ありがとう、私達のところに現れてくれて」
お婆さんの手が伸びて頭を撫でる。
「神様からの恩恵、天の恵み。あなたは神様からの授かり物なのよ?」
「たくさん幸せになって、愛してるわ恵(めぐみ)」
お婆さんの手が背中に回されて抱きしめられる。
「恵がいるおかげで生きる活力が湧く。ありがとう、本当にありがとう」
お爺さんの手が伸びて頭を撫でる。
紅葉…いや恵は愛されていた。その愛はきっと伝わっていたのだろう。出なければこの家を守っていこうなんて思わないだろう。そして、お爺さん達から大切にされていなければ人形に魂なんて宿らないだろう。
再び一瞬の暗転、ゆっくりと瞼を開けると先ほどの地下室に戻っていた。
ちょうど彼女も目を開いた。
「あ、ああ、ああ…」
ボロボロと彼女の目から涙がこぼれ落ちる。
「うぁあ…!うわあああああああん!!」
ダムが決壊するかのようにたくさんの涙が溢れ出した。
「」
あまりの出来事に一瞬フリーズしてしまう。今この場面だけを切り取ったら僕が泣かせたように見える。そしてもちろんこんな大泣きしている人を宥めた経験はない。どうしよう、どうしよう!何か落ち着かせる方法は…!
「よ、よしよし…」
僕は彼女の頭を撫でた。記憶の中で2人がやっていた行動を真似しただけだがどうだろうか…
「うわああああああん!!!」
だめだ、全く効いてない。全く泣き止む気配はない。
泣きじゃくる彼女は僕の服を引っ張りながら体に抱きついてきた。
僕は頭を撫でながら背中を叩いてあげた。こうすると、人は落ち着くというのは実証済みだ。
僕はしばらく大泣きする彼女に胸を貸すのだった。
「…もう大丈夫です、、ありがとうございました」
あれから5分ほど経過しただろうか。目を真っ赤にしながら僕の胸から顔を離した。
「ううん、いいんだよ」
「それにしても、なんだか手慣れてましたね」
「え!?そうかな!?」
前に本庄さんや大園さんにやったことを思い出す。こうやって胸を貸したり背中を叩いてあげたりするのは確かに経験済みだがわかるものなのだろうか。別に悪いことはしてないと思うのだがちょっと図星をつかれて気まずい気がする。
「色々な人をそうやって励ましてきたんですね。おかげで元気が出ました!」
「あ、うん」
ニコッと微笑む彼女の顔に僕はなぜか罪悪感を覚えてしまう。
「それにしても、えっと…恵…さん…?」
「…なんだか急によそよそしいですね」
「いや、なんて呼べばいいかわからなくて」
「紅葉でいいですよ」
「でも…」
紅葉は僕がつけた名前だ。本来の名前ではない。
「紅葉は京介さんがつけてくれた名前です。だから本当の名前を思い出した今でも京介さんにだけは紅葉と呼ばれたいんです」
「わかったよ、紅葉」
「はい!」
屈託のない笑顔で笑う紅葉に僕も笑みを返すのだった。