放課後 放送室
放課後、僕は氏神様のもとにいた紅葉を連れて放送室にやってきた。まだ誰もきていないようだが鍵は空いている。おそらくだが大園さんあたりがお昼休みに使って鍵を閉め忘れたのだろうか?それとも先に一回来て開けたのだろうか?どちらにせよ、中に入れたのでよしとする。
「紅葉、人間になっていいよ」
「はい、わかりました」
「紅葉的には人間と人形、どちらの方が楽なの?」
「あまり変わりませんが、人形の方が楽ですね」
「そうなんだ、それなら人形の方が…」
「ただ、こちらの方が作業はしやすいので一長一短です」
「なるほど、人形だと確かに不便なこともあるもんね」
「どちらの姿も私ですので、お気遣いなく」
「うん、わかったよ。それにしてもみんな遅いな…そうだ、紅葉お菓子食べる?」
僕は戸棚にしまってあったクッキーを取り出す。大園さんがよく紅茶を飲むのでお茶菓子として用意された物だ。戸棚から缶に入ったクッキーを取り出し紅葉の前におく。
「そんな!いけません!」
「いいっていいって、みんな食べるやつだし。紅葉はご飯を食べた方がいいって言われてたでしょ?これも力を取り戻すために必要だよ」
「でも…」
「ほら、一つ食べてみて」
僕は缶からクッキーを取り出して紅葉に差し出す。紅葉はおずおずと口を開けた。
「…!今までに食べたことないです!美味しい!」
目をキラキラと輝かせて紅葉が喜ぶ。やはり、甘いものは人を幸せにするらしい。
僕は別の味のものを取り出して紅葉に運ぶ。またパクっと口にする。紅葉が幸せそうな顔をする。また僕はクッキーを取り出し紅葉の口元に持っていく…そんなやりとりを繰り返すこと数度、がチャッと扉の開く音が聞こえた。
「あ!先輩!元気に…」
中に入ってきたのは大園さんだった。
「…どういう状況?これ」
確かに大園さんからみたら着物の少女に僕がクッキーを食べさせている光景はツッコミどころ満載だろう。
「ふぁ、ふぁじめまして!ふぁたしは…」
「…口の中のクッキーを食べてから話そうね」
「ふぁい!」
「大園さん、みんなが来たら説明するんだけど先に言っておくとこの子は人形に魂が宿ったもので、ちょっと色々巻き込まれたんだ」
「ちょっと色々巻き込まれたって…何をどう端折ったらその説明になるんですか…」
「遅れた」「ごめん!おまたせ!」
大園さんから遅れること数分、林君と本庄さんが入ってきた。
「あ、先輩」
「2人ともお疲れ様」
「ごちそうさまでした!改めて自己紹介を…」
「その前に、口周りについたクッキー取ろうね。はいこっち向いて」
僕はポケットからハンカチを取り出し口周りを拭いてあげる。
「ありがとうございます!」
「…?」「…」
「「どういう状況?」」
林君と本庄さんの声が見事にシンクロした。
「改めて事情を説明するよ、実は…」
「…眠ったらいつの間にか知らない家にいて…」
「そこでこの子と出会って…」
「化け物を退治したと」
大園さん、本庄さん、林君の順で僕の説明を反復する。改めて聞くととんでもなく濃い1日だな。
「はあ…それでその屋敷の主人の女の子をたらしこんでこちらに連れてきたと…」
ジトーっとした大園さんの視線が刺さる。
「いや、たらしこんだなんて人聞きの悪い…あ、紅葉。紅茶熱いからよくフーフーして飲むんだよ?」
今紅葉の前には大園さんがいれてくれた紅茶が置かれている。
「初めて飲む味です、美味しいです!」
紅葉は目の前の新しいものに興味津々だ。あの家にはなかったのだろう。
「なんか、日向君父性に目覚めてない?」
これまたジトーっとした本庄さんの視線が刺さる。
「あれ?そうかな?そんなことないと思うんだけど…」
「しかし、信じられない。本当に人形なのか?」
「ああ、そういえばまだ見せてなかった。紅葉、人形になれる?」
「はい、わかりました!」
そういって紅葉は人から人形に変わる。この場合元の姿に戻ったというべきか。
「おおー、すごい」
「本当に人形なんだ…」
「付喪神か、本当に存在していたとは」
三者三様、さまざまな反応が返ってくる。僕は宙に浮かぶ人形を抱き抱えて、膝に乗せる。
「さて、事のあらましは分かりました。問題はこれからですね(膝の上に乗せるんだ…私もしてもらった事ないのに)」
「住む場所はどうする?(膝の上に乗せるのか)」
「服とかもいるよね(膝に乗せるんだ…いいな)」
「うん、とりあえず家は僕の部屋があるからいいとして…」
「ちょっと待って!その子…えっと…」
「あ、恵とお呼びください」
紅葉は人形のままで答える。
「(恵紅葉さん?もしくは紅葉恵さんって名前なのかな…まあいいや)恵さんは日向君の家に寝泊まりするの!?」
「はあ、そのつもりですが…」
「それはだめ!ダメったらだめ!」
なぜか知らないが本庄さんが必死に抗議している。
「わ、若い男女が一つ屋根の下って…だめだよ!そんなの間違いが起きるよ!」
どうやら全く信用がないらしい。ちょっとへこむ。
「あ…日向君を信用してないわけじゃないよ!で、でも男女で同じ部屋に住むのは健全じゃないと思って…」
「私は京介さんにお仕えすると誓いました。離れる気はありません」
「だからって同じ部屋にいるのは…」
本庄さんの言い分もわかる。男女がいたら何が起こるかわからない。しかし、紅葉には紅葉の苦しみがある。大好きな祖父母を失い1人になった今、また一人になるのは酷だ。どうしよう、このままでは平行線だ。
「はあ…じゃあ、男子寮の寮監をするってどうですか」
「寮監?」
「ちょうど今寮監の人手が足りないって困ってたんですよ。だから男子寮の寮監として働くってのはどうでしょう?」
「そんなことできるの!?」
「はい、お給料も出しましょう。これだったら自分で食べる分は稼げるでしょう」
あ、冷静に考えればお金も必要になる。ご飯を食べていくのだってお金がいるのだ。
「学校にいる間は氏神様と修行、夕方から夜にかけて寮の清掃やらなんやらをしてもらいます。寮監ですから部屋も用意します。これでどう?」
「うう、それなら…」
「京介さんのおそばに入れるのであれば問題ありません」
これはいい落とし所ではないだろうか、紅葉の僕のそばにいるという願いは叶えつつ、同じ部屋で寝泊まりするということはない。さすがは大園さんと言える。
「さて、寮の手続きがあるんでちょっと日向先輩来てください。すぐ終わらせるんで」
「うん、わかった」
入寮の手続きを僕ができるのだろうか。保護者記入欄にでも名前を書けばいいのだろうか。
「それじゃ、行ってくるね」
僕は放送室を出ていく大園さんについていった。
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