手続きと言われたが、何をするんだろう。職員室にでもいくのだろうか。
「つきましたよ」
招かれたのは適当な教室だ。ここで必要な書類でも書くのだろうか。それなら別に放送室でもいいような気がするが。
「…先輩」
「うん?どうしたの?」
「体調、大丈夫なんですか?」
「え、ああ。うん。もう大丈夫」
「そーですか」
突然体調を心配されて少し驚いてしまう。
「あの?大園さん?」
「…先輩、私先輩の役に立ちましたよね?」
「え?うん、寮のことを色々してくれたしなんなら、僕の体調も気遣ってくれたし、感謝してるよ」
「そうですか、それなら…」
ずいっと大園さんの顔が僕に近づく。
「何かご褒美があってもいいと思いません?」
「ご褒美?」
「そう、たとえば、膝に座らせるとか」
「膝に?えっとそれは…」
「さっきナチュラルに恵さんを膝に乗せてましたよね?」
「いや、あれは人形の姿だし…」
「だめなんですか?」
「いや、だめというか…恥ずかしいというか…」
「あーあ、恵さんにはできて私にはできないんですねー。いいように使われてポイされちゃうんですね…」
大園さんの言葉が胸を抉る。別に悪いことはしてないはずだが確かに助けられているのは間違いない。
「えっと…その、わかったよ」
「はい、言質とりました!じゃ、椅子座ってください!」
「…」
女の子が落ち込んでいる顔に僕はよく騙されるらしい…
言われた通り僕は椅子に座る。
「じゃあ、乗りますよ」
僕は頷く。少なくとも膝の上に女の子を乗せたことはない。ドキドキしてしまうし、緊張してしまうというのは当然のことだろう。
すっと大園さんが僕の膝にゆっくり座る。
「おお、これはなかなか座りごごちがいいですね」
大園さんが僕にもたれかかる。僕の膝に乗っている分、座高の高くなった大園さんの頭が僕の目の前に迫る。甘い香りが漂ってきて、変な気持ちになりそうだ。いけないいけない、邪な考えを振り払うために頭を左右に振る。
「先輩、昨日何かありました?」
「え?急にどうしたの?」
「なんか変でしたよ?お昼に会った時」
「…ううん、別になんでもないよ」
「先輩嘘下手ですねー」
大園さんがより安定する座り方を求めてモゾモゾと動く。その度に柔らかさやいい匂いが僕を刺激する。
「お、大園さんあまり動かないで…」
「うーん、正直に話してくれたらやめてあげますよー」
うりうりーと言いながら大園さんの柔らかい太ももやお尻が僕を刺激する。その度に理性が揺れるのを感じる。
「わ、わかったよ。話すから!」
観念した僕は大園さんに昨日の出来事を話した。ちなみに、林君が告白されていたのはぼかした。そういうのは言わないほうがいいだろう。
「ふーん、なるほどねえ…先輩考えすぎじゃ?」
「…」
「先輩の気持ちは私にはあまり理解できませんが、少なくとも日向先輩や本庄先輩や林先輩は私の中で関わりのある人間です。それだけで十分です」
「何事にも優劣があるのは当然です。例えば学校のテストと好きなアニメの記念グッズの販売会だったらグッズ買いに行くでしょ?」
「僕はテスト受けると思うよ」
「先輩にとってはテストの優先順位が高いってだけです。でも例えばテストの日に事故にあったらテストなんて受けずに病院行くでしょ?」
「まあ、確かに…」
「タイミングごとに優先順位って変わります。実際、本庄先輩は放課後は調査部に顔出してくれています。放課後は部活を優先してくれているんです、その友達とかよりも」
大園さんは足をパタパタしながら話を続ける。
「私は、みんなが常に私のことを優先してくれているとは思いません。本当に必要な時に優先してくれたらいいです」
「大園さん…」
「それと、私と先輩の住む世界が違うって言ってましたけど…私が好き好んでやってると思います?できることならそんなところ行きたくないですよ、行かないといけないから仕方なくです」
「…ごめん、大園さん」
大園さんもこの学校のために、予算のために仕方なく大人の世界に入っているのだ。それなのに、勝手に距離を感じて失礼なことをしてしまった。
「もー、先輩ってば心配しすぎなんだからー。そんなところも、可愛いですけど」
「…っ!」
可愛いなんて言われて少し恥ずかしい。後輩に僕は頭が上がらないのはなんだか情けないな…
「よし、こんなもんでいいでしょ。残りのお返しはまた今度」
ぴょんっと大園さんが膝から降りる。
「まだあるの!?これで終わりじゃないの!?」
「今のは昨日の夜の連絡の分、恵さんの働き口の紹介と寮の部屋の用意はまた別です。それのお返しはまた今度」
助けてもらっている以上何も言えない…せめて僕にできる範囲であることを祈ろう。
「さ、戻りますよ」
「あれ?手続きは?」
「そんなものないですよ」
「…そっか、戻ろうか」
まだ大園さんの温もりが残っている気がする。本当に変な気を起こしてしまいそうだ。
「…せんぱーい」
立ちあがろうとする僕に大園さんが声をかける。
「ん?」
「また今度も、膝に乗せてくださいね?」
大園さんが僕の耳元で囁く。さらに、大園さんの右手が僕の太ももに触れる。そのままつーっと這うように右手が上がっていき僕の胸に添えられる。
「ふふ、ドキドキしてる」
「…」
「先輩、戻りますよー」
大園さんは僕から手を離す。
「ちょっと待って…」
しばらくは立てそうにない。もう少し時間がかかりそうだ。いつまでも立たない僕に大園さんが不思議そうな顔を向ける。しかし、僕は少し待ってくれとしかいうことができなかった。