帰り道
本庄さんを膝に乗せたのち、放送室に戻ると
「先輩、寮監さんには話をつけました。あとは細かいことの段取りはお任せしますね。部屋どこにするとか」
「私も何か手伝えることがあれば手伝うよ!」
「ありがとう二人とも」
「私と本庄先輩で服を用意してあげましょう」
「うん、そうだね。服が実家に残っているか聞いてみるね」
「それじゃ、今日は解散にしましょう!お疲れさまでしたー」
大園さんが放送室から出ていく。そのすれ違いざまだった。
「約束忘れないでくださいね?」
ぼそっと耳元で囁く。
「それではー!」
「私も行くね。新聞部の方に顔出さないといけないから先帰ってて。何か必要なものとかあれば教えて。そ、それと…約束、また考えるね…」
後半部分は僕にしか聞こえないような小声でささやかれた。
「…」
二人の女子から約束を守るようにプレッシャーをかけられてしまった。
「俺たちも帰るか」
「そうだね、紅葉。またかばんに入って」
「かしこまりました!」
紅葉は人形の姿になり、カバンに入った。
僕はカバンを肩に担ぐと席を立つ。
「重くないか?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか、行こう」
僕と林君は放送室を後にした。
帰り道
「…てことがあってさ」
「日本刀は難しい。刀というのは縦に降ろすもので横からの力に弱い」
「やっぱり僕に戦いは難しいみたい」
「そんなことない。お前がいなかったら恵さんはここにいない。お前の力で解決したんだ」
「でも…結局足ぴぱっちゃったしな…」
「そんなことありません。あなた様のおかげで助かりました」
カバンの中から声が聞こえる。
「ありがと紅葉」
「日向、お前にはお前の役割があると話したのを覚えているか」
「うん。覚えてるよ」
「お前の目的は何だったんだ」
「えっと、それは紅葉を助けるため…」
「事実、恵さんはここにいる。それは助けたことと違うのか?」
「そうだけど、そのせいで危ない目にあわせちゃったし」
「日向は危ない目に合っていないのか?」
「そりゃあったけど」
「何もお前は安全なところで見ていただけではない。お前も戦い、そして目標を達成した。胸を張れ」
林君はよく僕に胸を張れと言ってくれる。それがちょっとうれしい。
「ありがとう、林君」
「かまわない。それと、日向。お前昼休み見てたか」
おそらくは告白のことだろう。
「うん、ごめん…」
「かまわない。だが…」
「分かってる、誰にも言わないよ」
「ああ、そうしてくれると助かる。言わないと思っていたがな」
「林君はモテるんだね」
「そんなことはない。それに俺は心に決めた人がいる」
きっとオカルト研究会部長の斑鳩先輩のことだろう。
「俺はあの二人のように何か手伝うことはできない。だが困っているときは力になろう。すぐに言ってくれ」
林君の心遣いに僕の胸が軽くなる。近くに事情を知ってくれている人がいるというのは心強い。
「そろそろ紅葉、人間の姿に戻ってもらっていい?寮につくから」
「わかりました」
紅葉は人間に戻ると、僕の後ろに下がる。
僕たちは寮に入った。
そこからそこそこ大変だった…
「事情は聞きました…まさか一家離散の借金を負い、その若さでお金を稼がないといけないとは…」
大園さん、どんな説明したんだ…
「日向君の遠い親戚と聞いています。日向君、サポートしてあげてください。他の寮生にも紹介しましょう」
「はい、これからよろしくお願いします」
紅葉は深々と頭を下げる。寮監さんは人情派(僕が学校に忍び込んだときも怒ってはいたがご飯を用意してくれるくらいには)なのでまあ、大丈夫だろう。
「早速部屋に案内しましょう。こちらです。」
部屋は一階の角部屋。ちょうど寮監さんの隣の部屋だ。
「あと仕事に関してはまた明日説明しましょう。基本的にはご飯の手伝いや掃除です」
「両方得意です!」
「それは心強い、よろしくお願いします」
そこからは、寮生に紹介したり、寮の中を案内したりして時間が過ぎていった。
「疲れた…」
時刻はすでに10時を回っている。お風呂も入ったしもう眠ってしまおう。
僕は布団に入ると、すぐに微睡みの中に落ちていった。
どれくらい眠っただろうか。寝苦しさに気づいて目が覚めた。身体が動かない。意識はあるのに体だけがいうことを聞かない。まさか、金縛りと呼ばれるものだろうか。
背中に冷や汗が伝うのを感じる。
唯一視線が動かせたので布団の方に目を向ける。暗くてよく見えないが、布団が膨らんでいるように見える。
布団の中に誰かいる…?
「すう…すう…」
紅葉だった。紅葉が勝手に僕の部屋に入って布団の中に入ってきていた。
「何してんのさ…紅葉」
「すう…すう…」
これでは部屋を分けた意味がない。しかしどうしたものか。気持ちよさそうにせている紅葉を起こすのも忍びない。でも、本庄さんが放課後に言ってたことも一理あるし…ここは起こすか。
「おじいちゃん、おばあちゃん…」
紅葉を揺さぶって起こそうとする手が止まる。暗闇に慣れてきた目は、紅葉の頬に涙が伝っているのをとらえた。
紅葉は最近までおじいさんやおばあさんと寝ていたのだ。急に一人で寝ろと言われてもいきなりは寂しいのだろう。
僕はそのまま、宙に浮かんだ手を紅葉の背中に回した。とんとんと起こさないように優しく叩いてあげる。
僕も眠い。また明日にいろいろ考えたらいいさ。僕は再び瞼を閉じた。
おまけ
次の日の朝
「紅葉、おはよう」
「おはようございます、京介さん!」
いつの間にか布団から出ていた紅葉に朝の挨拶をする。
「勝手に布団に入ってくるのはだめだよ」
「そうでしたか・今度からは事前に連絡しますね」
「うん、じゃなくて!紅葉、わざわざ部屋を分けたんだからさ」
「京介さんのおそばにいることが使命ですので!」
「毎日来るつもり?」
「?はい」
「だめだよ…」
「では、六日にしますね」
「そうでもなくて…」
「…睡眠の邪魔をしてしまいましたか?」
「いや、違うけど…」
「そうですよね、お邪魔でしたよね…」
紅葉の顔が暗くなる。そして、そういう顔に僕はとことん弱い。
「毎日とか、そんな高頻度でとかはだめ。きちんと来るときは言うこと。いい?」
「わかりました!」
ぱあっと紅葉の顔が明るくなる。なんか、もしかしてうまいこと交渉されてしまったのだろうか。
のちの紅葉との話し合いの結果、部屋で寝るのは週に三日までということで落ち着いたのであった。