音楽室の扉から懐中電灯を向けてこちらを照らしているのは、僕のクラスの担任、新山先生だ。本庄さんが冷や汗を流し、林君が無言で先生の方を見つめる。
「お前がそこまで聞き分けのないやつとは思わなかったぞ」
「うっ…」
僕は何も言い返せなかった。
「先生!こ、これはですね!知的好奇心の探求と言いますか!」「俺が二人を無理やり誘った」
「!!」「!!」
林君の思いもよらぬ一言に驚き、本庄さんと僕は同時に林君の方を見た。
「俺が、七不思議を確かめたいから二人を誘った。二人は何も悪くない」
「ちょ、ちょっと林君!」「林君は関係ないです!これは僕たちの意思で…」
林君は僕たちの前に出て先生に深々と頭を下げた。
「オカ研の活動として七不思議を調べたかった。だから、悪いのは俺だ」
「…はあ、林はこういっているが?他の2人はどうだ?」
ちらっと林君はちらっと僕たちの方を見て、僕たちにしか聞こえないように小さな声で「あわせろ」と言った。僕と本庄さんをかばい、自分一人の責任にしようとしているのだろう。
その気遣い、余るほどの献身に対して僕たちは…
「違います。僕の意思できました」「違います、私が来たいと思ったから来たんです」
「お前ら…!」
ごめん、林君。やはり君一人だけを悪者にしたくないよ。
「…はあ」
一通りのやりとりを見て新山先生はため息をつく。先生は険しい顔をして僕たちに語り掛けた。
「林、誰が首謀者とか、誰が一番悪いとか関係ない。ここにきている時点で全員同じくらい悪い」
「はい…」
「本庄、新聞部の活動の一環だろどうせ。新聞部は活動休止中だ。その中で新聞を書こうとして夜の学校に忍び込むのはルール違反だ」
「は、はいぃ…」
「そして、日向。俺はお前に来ないように再三くぎを刺したな?それなのに来たというのは、問題だ」
「はい…」
「仲間をかばうことはいいことかもしれない。だが、悪いことをしているのにかばうのは善い行いとは言えない。分かるな?」
「…」「…」「…」
完全に返す言葉がない…おっしゃる通りだ。
「でも、まあ」
先生は険しい顔を崩してにっこりと笑う。
「我先に友達をかばう姿、正直に悪いことを伝えたその姿勢は評価できるな。もう、これに懲りたらこんなことすんなよ?今回は見逃してやる」
「…!」「…!」「…!」
僕たち三人の顔がぱあっと明るくなる。
「ほら、さっさと帰れ」
しかし、やはり僕たちを帰らせようとしている。当然といえば当然なのだが、なんとかならないだろうか。このままでは最後まで七不思議を解明できずに終わってしまう。
「あの、先生…先生はどうしてここに?」
「あ?そりゃセキュリティが落ちるんだから、誰か一人くらい残って見回りしないといけねえだろ。宿直ってやつだ。近くの飯屋で飯食って帰ってきたら音楽室の方からピアノの音が聞こえるから心臓止まるかと思ったぜ」
「も、もしかして先生も聞こえてたんですか!月光!」
「あ、ああ、まあな」
「先生も七不思議を知っているんですか?」
「…まあな」
一瞬の沈黙ののち、先生が答える。七不思議のことについて知っているのならばもしかしたら…
「先生、先生は花村の日記を持っていますか?」
「あ?花村の日記…?落とし物として一冊の日記は預かってるが…」
「それを花村に返してあげたいんです。花村の未練なんです」
「…お前、もしかして花村にあったのか?」
僕は静かに首を縦に振った。
「…分かった。ついてこい。お前に託す」
「ありがとうございます!」
新山先生の後に続き、僕たちは職員室に向かった。
その道中、僕は思わず先生に問いかける。
「先生は中を確認したんですか?」
「いや、正確に言えばできなかった。鍵かかってたんでな。だから、返せなかった」
「鍵付きの日記、今もあるんだ…」
「一応、教室で誰の忘れ物かは聞いたぞ?お前もいたはずだが」
…はっきり言ってあまり記憶にない。呆然としていた時期だったからだろうか。
話していると、僕たちは職員室前についた。職員室のカギを差し込み、扉を開ける。先生の机は奥だ。
「えっと…確か…」
先生の机はお世辞にもきれいとは言えない。プリントや教材でめちゃくちゃになっている。
机の引き出しを先生はおもむろに探り出す。
机の中もひどくごちゃごちゃしている。しかし、その整理されていない机の中にきれいな箱を見つけた。あの大きさとか、形からしてもしかしてあれって…
「あったぞ、ほらこれ」
思考を巡らせていると
新山先生から僕に日記が手渡される。確かにカギがついており、開けることはできなさそうだ。
「先生、今から花村のところに行ってこれを返してきてあげたいんです。お願いします」
「…まあ、いいぜ。俺も少し、花村に会えるなら聞きたいことがある」
断られるかと思ったが、先生は意外にもOKしてくれた。
「ほら、行こうぜ」
先生は職員室の扉の鍵を閉め、1組に向かう。
「先生ってオカルトに理解のあるタイプの人?」
僕と林君にしか聞こえないくらいの小声で本庄さんがささやく。
「そういうタイプには見えないが」
「うん…僕もそう思う」
人は見かけによらないということだろうか…
「おい、おいてくぞ」
「あ、はーい」
慌てて僕たちは先生の後を追いかけた。