僕は朝が嫌いだ。
翌る日も翌る日も、生きている限り一生、一日の始まりを見なければいけない。
人々は新しい一日が始まると言うが、その実何も変わりやしない日常が始まる。変わりたいのに変われない自分と、同じように感じてしまう。
ああ、また変わらない今日が来るんだなと憂鬱になる。
例えるなら、終わりの見えないマラソン。
「おはよう……」
僕───
平日の月曜日。
それは週の始まりの日であり、多くの人々にとって最も憂鬱な一日である。
休日という夢から目覚め、現実に向き合わなければならない過酷な日。
だが、僕に限ってはそうではない。月曜日は特に憂鬱でもなければ、現実に向き合う日でもない。
何故ならば、僕は学校に行っていないからだ。もちろん仕事もしていない。
所謂不登校、というやつ。親は渋々ながらも理解してくれたし、教科書は全部家に持ち帰っているので、勉強もたぶん問題ない。
……まぁ、親はなんとかして学校に行ってもらいたいらしいけど、理由が理由なのでやんわり説得しようとするだけだ。
正直それもやめて欲しいけど。ほっといてくれ、たのむ。
僕が学校に行かなくなった理由はとても簡単でありふれたもの、とどのつまりイジメ。
理由もこれまたありふれたもので、やれ視線が気持ち悪いだのノリが悪いだの言って、イジメに発展した。
決定的だったのが自習の時間、クラスの中心人物に思いっきり殴られたこと。
あれから、僕を虐めても良いかのような雰囲気が流れ始めた気がする。
殴られたし、蹴られた。
財布も盗まれるわ針をお腹に刺されるわで酷く苦しかったのを覚えている。
最悪だったのは担任もだ、クラスメイトに同調しイジメを黙認した。
新任の先生でどう対処すれば良いか分からなかったか、揉め事を起こしたくなかったのか理由は謎だが、孤立していた僕を見捨てた。
────"あー……何かの間違いじゃないのか?あいつらはお前と仲良くしたいだけだと思うぞ…
その言葉を聞いて、もう生きていられないと思って引きこもった。
引きこもることだけが、自分を守れると思ったのだ。
もう二学年に進学するまでは行かない、行きたくない。
「朝ご飯にしよ……」
そう考えながら布団から起き上がる。時計を見れば、針は午前八時を指している。両親は共働きでこの時間にはもう仕事に行っていて、顔を合わす心配は無い。
実の親ながら会うのは気まずいので、これは好都合だった。
寝ぼけた目を擦りながら廊下を歩き、台所へと向かう。
「ん………?」
廊下の前に、
何度も目を擦って見てみても、変わらずそこにある。
一人分すっぽりとはいれるような摩訶不思議な物体。
それは炎のように揺らめき、ゆっくりと膨張している。
「え?あ、ゆ、夢?」
そんな呑気な言葉を呟いた時にはもう遅く、碌に逃げることも出来ずに、暫定ブラックホールに飲み込まれた。
「■■■■■■────!?■■■───!!」
これ以上ないほどの声量で悲鳴を上げたが、声さえも飲み込まれ、何も聞こえることはなく。
視界も聴覚も、そのまま闇に閉ざされた。
♦︎♦︎♦︎
眩しい、さっきまでの闇とは違う陽の光。
「あ……何?」
パチリと目を覚まして、驚愕する。
僕の目に飛び込んできたのは、木々が生い茂り、小鳥が飛び立つ壮大な大自然。
さっきまで家に居たのに、あり得なさすぎる光景が広がっている。
どうなっている?
あのブラックホールに飲み込まれてからおかしい。いや、あんな物が突然家に湧き出た時点でおかしかった。此処は何処なんだ、何故こんなところに、分からない、何もかも理解不能だ。
とりあえずその場から動こうとして、立ち上がり足を動かした瞬間、違和感に気付く。
────僕の足、こんな細かったっけ?
肌も白い、元々引きこもりで外出もしない生活を続けていたが、この肌の白さはそれ以上だ。
それに尻もちをついていたころは気付かなかったが、身長も少し低くなっている。
「なんなの?────っ!?」
更なる、勘違いなどでは済まされない決定的な違和感。声が
「あ、あー!!……嘘」
幾ら低い声を出そうとしても、高い。どうやっても元の声より低くならない。濁っていない透き通った声、まるで女の子のような────女の子?
まさか。
「ギャ、ギャギャギャ!!」
「ギャギャ、ギィ!!」
「ギィギィ!」
「…!?」
僕以外の声が聞こえて、咄嗟に近くの茂みへと駆け込む。
茂みから少し顔をのぞかせれば、鳥の囀りの様な鳴き声を響かせながら、三人の人影が歩いてきた。身体は子供のように小柄で緑の肌をしている。それは酷く見覚えのある
「───…ゴブリン?」
ゲームとかアニメとかでよく見る、雑魚敵の代表。
それが何故、現実に?
自宅から大自然に放り出されて、身体は女の子に、挙げ句の果てにゴブリンだ。非現実的過ぎるが、嫌に見覚えのある展開。
引きこもり中、ずっとアニメとかを見ていた僕の脳みそは、なぜ自分が此処にいるのか、その解答を直ぐに出していた。
「────異世界転移…」
馬鹿みたいな話だがもう、そうとしか考えられない。
なら、もしかしてアレもあるのだろうか。
「……ステータスオープン」
そう呟くと、半透明の板が僕の前に映し出される。
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【紫乃 三月】
性別 女性
LV1
HP:32/35
MP:20/20
攻撃:5
防御:7
器用 : 8
速さ:4
魔力 : 15
【称号】
【勇者】【巻き込まれ召喚】【性転換者】
スキル
【
「じょ、せい……」
映し出された情報、それは、異世界というどうしようもない現実を僕に突きつけるものだった。
【紫乃 三月】
元主人公くん、現主人公ちゃん。
学校でえぐいイジメにあい無事不登校に、その後巻き込まれて異世界転移させられる。かわいそう。