「ぐ…ゲホッ!!ぶふぅ゛!?」
「ギャハハハ!!『ぶふぅ゛』だってよ!!」
「やるねー、西崎───」
一人の少年が、トイレの個室で殴られていた。よろよろと立ちあがろうとして、惨めな背中を蹴飛ばされる。こんなに好き放題されているのに目の前の少年は反撃しない。やり返したところでもう無駄だって、どうしようもないって分かっているから。
彼は泣かない、泣いたら更にいじめられると知ったから。
「お、中々持ってんじゃん、
集団の一人は、そのまま彼の財布を奪い中身を抜き取った。あれは参考書を買うためのお金だったのに。
「じゃあね三月クン、放課後もまた遊ぼうやっ!」
「…ぎゃあぁ゛!?」
倒れた彼の腹を最後に蹴り上げ、そのまま集団はトイレから立ち去った。あの口ぶりからして、放課後も暴行は続くだろう。
「………」
彼を除く全員が去った後、彼はゆっくりと起き上がり、無言のまま制服を整えてる。泣いたら更にいじめられると知っているのに、泣いても意味なんてないと分かっているのに────それなのに、目には涙が浮かんでいた。
────そんな光景を僕は、
何度もやめてと叫んだ、何度も止めようと手を伸ばした。無駄だった。
懇願の叫びは意味のない空虚な音に変わり、伸ばした手は
「なんで…どうして!?何もできないの!?」
どうにもできず、何も変えられず、私はずっと傍観していた。────その光景を前にただずっと泣き続けることしかできなかった。
「………ん、嫌な夢…」
朝の陽射しが木々を貫く中、紫乃三月は目を覚ました。
♦︎♦︎♦︎
「ギチチチチッ!!」
「ギチ───」
「ガギギギィィ゛!!」
僕が異世界に転移してからはや三日。この広大な森の中で魔物を狩っていた。初日のようにゴブリンを狩っていたのでは無く、今度は昆虫型の魔物だ。
「行けっ!【
ぐしゃりと、赤黒い触手が昆虫たちを一息に叩き潰し呑み込んでいく。あの昆虫たちも触手の糧となるのだろう。
「
僕が昆虫型の魔物を狩っている理由は、レベル上げの他に理由がある。それはMP効率と知能が高いからだ。
僕のスキルは捕食した魔物の能力や特徴をステータスとして一部引き継げるため、特定の分野を上げたいのならそれに適した魔物を捕食させるのが手っ取り早い。───そこで目を付けたのが昆虫型の魔物。
彼らは小さい体躯にも関わらず、一日に何十時間も活動するエネルギー効率。蜂や蟻といった社会性昆虫の持つ高度な知能。身を守るために発達した外骨格…まさにオーバースペックと言える特徴を持っていた。
────これしかないと思い立ち、昆虫型の魔物を捕食させてみれば大当たり。MP効率と知能を始めとしたステータスが満遍なく上がったのだ。
故に、今こうして狩っている。
(いずれ、この虫たちやゴブリンよりも強力な魔物が現れる…気がする)
ゴブリンに襲われた時から三つほどレベルアップし、今はレベル5であるが、用心するに越したことはないだろう。この異世界で生き抜くために、もっともっと強くならなければ。
『レベルアップしました』
『派生スキル【人化】、【
「──ん?」
と、そんなことを考えているうちに慣れ親しんだ電子音が頭に響く、今回はただレベルアップしただけでは無く、派生スキルなるものまで取得した。
(どんな効果なんだろ…?)
辺りの魔物を狩り尽くしたことを確認した後、僕は切り株に腰掛け【鑑定】を使用した。
────────────────────────
【人化】
・触手に人間の形を模らせる。
・遠隔操作可能。
【
・人化した触手に捕食した生物の特徴を装甲として装備可能。
────────────────────────
「おおおおお…!!」
これはすごい!
たった一人だった戦いが、二人になった!
戦いの幅がより広まったと言ってもいい。今までは触手を召喚して一人で戦っていたが、長い間展開し続けることはできなかったし、背中を守るような存在はいなかったので、多対一だとかなり不利がついていた。
そんな中で、遠隔操作可能の
「よし……そうと決まれば、今ある全てを使って最強の護衛を作ってやる」
僕はそう呟き、触手のステータスを夜通し調整するのだった。
♦︎♦︎♦︎
「ふー…良し、できた!!」
そうして完成した、今の僕が作れる最強の分身。
身長は大きく、三メートルほどの巨体。
昆虫の赤い複眼に、
これが僕の作った分身。うん、中々カッコよくできたと思う。
『名前を入力して下さい』
「…名前?そういうのもいるのか…」
うん…?名前、そうか、出来るだけカッコいい名前を付けたいけど……蜂、蜂…よし。
「───ビアス、君の名前はビアスだ、これからよろしくね、ビアス」
そう呟き、ビアスの身体に触れた。
ビアスの複眼が、一瞬輝いたような気がした。
◾︎三月ちゃん
新たな仲間を手に入れた勇者。
苗床で子供達を増やせばもっと楽に魔物を狩れるようになるよ。
◾︎ビアス
虫型の魔物の力を得た触手。
三月ちゃんの意志に従う使い魔的存在。