そして、敗北は街の未来すら奪う。
ビルドリーグ最上位――
そこからマイナーへ昇格できる者は、数年に一人。
ジェイドはその舞台に立つ。
ただ勝つためではない。
街を救うために。
仲間の未来を守るために。
そして、自分の居場所を二度と失わないために。
これは、ジムリーダーとしての最初の戦いであり、
彼の物語の始まりである。
第一話プロット兼本文
遠くから眩い光が差し込む暗い通路で俺は自分が呼ばれるのをじっと待っている。
光の向こうからは、待ちわびる観客たちの声が届く。
今日もスタジアムは満員御礼のようだ。
『さあ、ポケモンリーグジムリーダーマッチ1stDay。今宵も美しい月がスタジアムでの戦いを静かに見守る中、観客の熱狂は最高潮となっております!!』
ポケモンリーグ、そのジムリーダーは世界中のポケモントレーナーの目標であり憧れ。
多くのトレーナーたちの目標であり、よき指導者であり、そして街の守護者でもある。
しかし、そこもただ栄光だけがあるわけではない。
『この場におられる紳士淑女の皆々様はご存じのこととは思いますがご説明させていただきます。ポケモンリーグのジムは最も有名なメジャー、それに続くマイナー・ビルドと合計3つの区分に分かれております』
メジャー、マイナー、ビルドではリーグ運営からの補助や優遇措置のレベルが違う。
世間一般への露出度も天と地ほどの差がある。
『これから行われるのはビルドリーグトップジムリーダーがマイナーリーグ移籍をかけて今シーズンのマイナーリーグ下位ジムリーダーとのチェンジバトル!!互いの今後が掛かった、厳しくも熱いバトルが今!始まろうとしています!!』
そう、これからだ。
ここで勝って初めてスタートに立てる。
カタカタっと腰に下げているボールが揺れた。
そこで初めて全身に力が入っていたことに気付く。
『まずはマイナーリーグ側、今シーズンは対戦カードの不利に悩まされて敗北を重ねてきたが、はがねタイプのもつ鉄壁の防御は1級品!!メジャーにも通用する防御力と噂されるはがねタイプのジムリーダー!!』
どうやら思った以上に気が高ぶっていたようだ。
一度目を瞑って深呼吸し、手の力を抜く。
「ありがとな、教えてくれて」
気づかせてくれた仲間に声を掛ける。
まだ入口の前なのだ。到達してもいないのに通過してからどうしようなんて、意味のないことを考えてもしょうがない。
『《メタルマッスル》テツジ!!』
アナウンサーの声に合わせて、向かいのコート入口にスポットライトがあたり、奥から2mはあろうかという大男が現れ、右腕を高らかに天に掲げた。
色々調整したり小物つけたりと変化にとんだ他のジムリーダーとは違いオーソドックスなユニフォームがはち切れそうな筋肉で盛り上がっている。
これでかくとうタイプではなくはがねタイプのジムリーダーなのだからある意味詐欺だろう。
『続きまして挑戦するのは!!』
待機場所の左右足元から光のレールが走り、入口までのコースを彩る。
その色は緑。
自分の“ジム属性“に合わせた光の間を愛用のトレンチコートの裾を翻しながらゆっくりと歩んでいく。
仄暗い通路を抜けた瞬間、まばゆいスポットライトに照らされた。
『今シーズンよりシンセンジムリーダーに就任したにも関わらずの大躍進!!そして登録した8体のポケモンのうちまだ3体しか見せずに勝ち上がったその実力は計り知れない!!』
会場の熱気と声援が胸を打つ。
それを飲み込み会場の観客、そして対戦相手のテツジにむかって一礼する。
『《アンノウングラス》ジェイド!!』
自分の名が読み上げられるのに合わせて頭を上げる。
視線はまっすぐにテツジへ。
意識をこれからの対戦だけに向ける。
相手の登録ポケモンはハガネール、ドリュウズ、ジュラルドン、エアームド、タテドプス、ドドゲザン、エンペルト、レアコイル
今シーズン含めた過去の戦績からはがねタイプによる頑強な受け、ドリュウズやドドゲザンによる攻めが特徴。
しかし安易に有利タイプで攻めようとしてもエンペルトやレアコイル、エアームドでケアされる。
順当に強い編成だが、今シーズンは連続してタイプ相性不利のジムとあたり、相性補完用ポケモンを積極的に狙い打たれてそのまま押し切られている。
たしかにメジャーに匹敵する防御力は確かにあるのだろうが、タイプ相性で押し切られるのを見る限りポケモンの育成が追いついていない印象だ。
メジャーに勝ち上がるのは厳しいとも評価できるだろう。
実際マイナーとメジャーのチェンジマッチに出場した際、タイプ相性で有利なくさタイプのヤローと対戦するも敗北を喫している。
集めた情報を元に思考しながらスタジアムの中央へと歩く。
「お前が最近入れ替わったっていう新しいジムリーダーか。こっちでも噂になっているぜ。今日のところはマイナーとビルドの差を肌で感じるんだな」
「それはどうも。今日は胸をお借りしますよ」
「……ふんっ」
外見に違わず獰猛な笑みを浮かべるテツジ。
それを受け流し、にこやかに返す。
威圧による緊張を狙っていたのだろうか。
あてが外れたように鼻を鳴らすとテツジは踵を返し、自分の立ち位置へと戻っていく。
俺もそれに合わせて自分の初期位置へと移動する。
テツジの言い分もわからなくはない。
タイプ相性だけでは測れないほどにメジャーとマイナー、そしてマイナーとビルドの差は大きい。
普通にやれば相性不利でも下位リーグ相手なら10戦中9勝できるのが普通だ。
勝ち上がれるのが稀なのだ。本来それほどの差がある。
ガラルはジムチャレンジという他地方とは違う形態で運営しているため、メジャーとマイナー・ビルドの差が一層大きい。
ガラルのマイナーリーグのレベルは他地方ならメジャーを十分張れるレベルだ。
実際にシンオウやジョウトリーグを見てきたからこそそれを強く感じる。
事実キバナジムリーダーは他地方ではチャンピオンレベルといわれているがそれは誇張でもなんでもないだろう。
だからこそ勝ち上がる意味がある。
圧倒的不利な状況下から勝利を得ることこそが必要なのだ。
「頼むぞ、お前たち」
腰につけたボールに声を掛け、今日の先発に選んだ手に持つボールをしっかりと握りこむ。
使用ポケモンとして登録したものとは別に常に持っている3個のモンスターボールが、俺を鼓舞するようにカタリと揺れた。
『さて、今一度ルールを説明します。ビルドマイナーチェンジバトルは互いに8体までのポケモンをエントリーしており、その情報は共有されています。レベル制限はなし。持ち物重複もなし。そして、その中から6体まで選出してバトルを行い、相手のポケモン3体を戦闘不能にしたら勝利です。3体戦闘不能になるまでは交代は自由です』
互いに位置についたのを確認した審判が審判台に移動する。
「互いに準備はよろしいですね?」
「おう」
「はい」
審判が手を高く掲げるのに合わせてシンっとスタジアムが静まり返る。
張り詰める緊張感。
観客一同もごくりと息をのむ。
テツジの視線はこちらを探るようで、しかしどこか火がともっていないのも感じる。
明らかになめられている。
対して俺は深く、静かに呼吸し、表情を消す。
侮りはない。驕りもない。
ただ勝利に向けて集中を高める。
「それでは……ジムリーダーカップ ビルドマイナーチェンジバトル、始め!!」
審判の宣言と振り下ろされる手。
それを視界に収めながら同時にボールを投げる。
勝利のための関門は2つ。
それをクリアできるかがカギだ。
『エッル!!』
こちらの初手はエルフーンのフーナ。今シーズンずっと先発で出し続けてきた。
対してテツジが繰り出したのはエアームド。
予想通りの展開だ。
今シーズンの情報から俺の先発ポケモンをフーナとあたりをつけると思っていた。
フーナとエアームドが互いを睨みあう。
『さあ、ジェイド選手は今シーズン一貫して先発採用し続けてきたエルフーン、対してテツジ選手はエアームド。相性面ではテツジ選手がやや有利か!?』
「今シーズン、ずっとお前はそいつを出してきたからな、さすがに対策するさ。といっても、くさではがねタイプに対抗できそうなのだとスコヴィランくらいだから過剰かもだけどな!!」
「さあ、どうでしょうね?意外と手があるのかもしれませんよ?フーナ!!日本晴れ!!」
俺の指示とほぼ同時にフーナが日本晴れを展開する。
それはひこうタイプをもつエアームドより早い。
月光がより強く、激しくスタジアムを照らす。
それも今までよく見せていた戦法。
晴天による恩恵を活かし戦う、所謂晴れパ戦法である。
俺は今シーズン、ここからやどりぎやコットンガード、メガドレインなどで削りつつ、タルップルで受けたりリーフィアで速攻をかけてきたのが従来の戦法。
「それくらい計算の内だぜ!!アームド!!はがねのつばさだ!!斬り裂け!!」
「ムーーーーーードァ!!」
指示を受けたエアームドがその翼を銀色に輝かせてフーナを強襲する。
はがねタイプの力を帯びたそれはくさフェアリータイプ複合のフーナには抜群だ。
強かに打ち付けられて、フーナの体がくの字に折れる。
速攻でフーナを落とす腹積もりだろう。
そう上手くはいかせないが。
「フーナ!!続いて追い風!!」
「なに?!……タスキか!!」
タスキを持たせているため瀕死にならなかったフーナが吹き飛ばされながらも追い風を発動する。
もちものは電子情報としてポケモンに効果が付与されているので一見するだけでは判別できないから初見では判断できない。
まずは一手上回った。
フィールドにこちらの動きを加速させる風が吹きすさぶ。
まずは素早さで一つ優位を得た。
「フーナ、ひかりのかべだ!!」
「アームド、エアスラッシュだ!!」
追い風のおかげでさらに加速し、ひかりのかべを展開。
その直後にエアームドから放たれた風の刃がフーナを襲い戦闘不能になる。
ここまでは想定通り。
『お〜っと、ここでジェイド選手のエルフーンがダウン!!だが後続に繋げる布石は十分に張られている!!さて、今シーズンの傾向から次に出るのはリーフィアの可能性が高いですが……』
「ありがとう、フーナ。さて……」
ボールに戻したフーナに礼をいうと、次のボールに手をかけて放った。
俺が今シーズンのトーナメントに選出し、そして実際に戦わせたポケモンはエルフーン、タルップル、リーフィアのみ。
だから、これが初お見え。
「行け!!バーナ!!」
「バナア!!!!」
『リーフィアではなく、フシギバナ!!登録はされていましたが今シーズン通して初の選出だ!!』
ボールから飛び出したバーナが日本晴れで強まった月光により力を得て急加速し、エアームドの周りを旋回する。
俺のバーナは他のフシギバナと違い若干体が小さい分、スピードに自信がある。
ツタを束ね太くして地面を叩き、ときには突き刺してブレーキにしながら軌道を不規則にすることで狙いを定めさせない。
フシギバナは鈍足と思われがちだがこんなこともできる。
声を出すことなくバーナと心を通わせ、移動しながら”成長”でバフを積んでいく。
「フシギバナだと!?しかも早い?!“葉緑素”か!!アームド、エアスラ……」
「遅い!!ウェザーボールだ!!」
テツジとエアームドが動揺している隙に真後ろへと回ったバーナがウェザーボールを打ち込んだ。
晴天下であるため火球となった、そして“成長”バフ込みのウェザーボールが直撃し、爆炎が舞い上がった。
エアームドが勢いよく地面に叩きつけられ、相性不利のしかも特殊技を受けて倒れ伏す。
まずは一体。そして厄介なのを仕留められた。
エアームドだけはタイプ相性の問題でネックだったから油断しているうちに倒せてラッキーだ。
第1関門クリア。
『エアームド、たまらずダウン!!さすがに晴れ下でのウェザーボールは耐えきれなかったか!?』
「ちっ?!ならいけ、レアル!!」
繰り出されるのはレアコイル。
集中し、レアコイルの動きを観察する。
不自然に滑らかな浮かび方……電磁浮遊が自動で出せるよう鍛えているようだ。
レアコイルの特性は頑丈。磁力。アナライズ。
俺が草タイプがメインなのは把握しているだろうから磁力はない。
であれば頑丈、もしくは頑丈とアナライズを両方持たせている可能性もある……が、育成具合からおそらく頑丈のみ。
それでも厄介な特性に変わりはない。
ここで一旦流れを変えに来るか。
レアコイルは硬い上に通りの良い技が少ない。
ウェザーボールで攻めてもいいんだが、晴れの持続時間もある。
ここは1枚切り札を切ろう。
「戻れバーナ。獲物だ、レディ!!」
「レ~ディ!!」
バーナを戻し、かべとおいかぜ、晴れ効果が残っているうちにペースを握るべく隠し玉を出す。
出るのはドレディアのレディ。
場に出た瞬間からくるくると“勝利の舞”で積み始める。
『お〜っと!?これは、なんだ?!ドレディア、なのでしょうか?顔立ちはドレディアですが見たことのない姿です!!頭の花は小さく、すらりとした長い足がまるでバレリーナのようです!!まさかこんな隠し玉があるとは、ジェイド選手、侮れません』
それはそうだろう。レディは”ヒスイ生まれの“ドレディアなのだから。
このあたりではもうお目にかかれないだろう。
パルデアの巣に入り運良く出会うか、キタカミの里で探すしかない。
峠クイーンの娘として努力し、しかしその立場を捨ててまで俺についてきてくれた大事なポケモンだ。
「さすが今シーズン就任したばかりなのに入れ替え戦に来るだけはある!!だがまだまだこれからだ!!レアル、でんじはと一緒にほうでんだ!!」
テツジの指示でレアコイルが激しく周囲へと電気を放ち始めた。
相手を麻痺にするでんじはと合わせて攻撃するとは、まさしく攻防一体の技だ。
麻痺するとどうしても行動に制限が出てしまうため、積極的に相手にそれを押し付けていく戦術は素晴らしい。
レディが相手じゃないのなら。
「レディ、まわしげりだ!!」
「レ~~~~~ディッ!!!!」
3回ほど舞いながら様子を見ていたレディがすっと腰を落とし、構えた。
次の瞬間、地面に亀裂が残る勢いでレアコイルへの懐へ飛び込む。
ほうでんにより体表を少し焼かれながら、しかしでんじはを無視して。
そのまま鋭く回転し、その細くしなやかな脚から放たれた渾身の回し蹴りがレアコイルへと叩きこまれた。
だが倒れない。頑丈のせいで耐えられる。
「なっ?!」
明らかにマヒした様子を見せないレディにうろたえるテツジ。
レアコイルにとっても予想外だったのだろう。
双方明らかにひるんでいるし、動揺している。
このまま一気に押し切る。
「そのままかかとおとしだ!!」
「レディッ!!」
流れるようにレディが跳躍し、ひるんで動けないレアコイルへと縦に空気を切り裂きながらかかとおとしを叩き込んだ。
勢いよく地面へとぶつかり、そのまま三つの目を回すレアコイル。
これで2体戦闘不能。リーチだ。
「……そうか、リーフガードか!!」
「ご明察」
レアコイルを戻しながら、テツジが理由に気付き、悔しそうにする。
正確には育成で”葉緑素”も持たせているのだが、そこまで言うつもりはない。
無駄に手の内をさらす必要もなく、ジムリーダーならば育成で特性が追加されている可能性も把握しているだろう。
実際一部のトップジムリーダーや四天王などは複数特性持ちのポケモンを何体も所持していると聞くし、トップブリーダーでそういうことが可能な人を何人か知っている。
しかし、一向に固有戦術を出してこない。
まだ俺がビルドリーグだから油断しているのか。
それならそれで好都合。バトルの場で手を抜かれている間はこちらも手の内を晒さずに済む。
とはいえ、おそらく相性的にエンペルトは選出しないだろう。
後がない状況、ここで出すなら最も信頼のおける相棒を出すはず。
「まだだ!!まだこれからだ!!いけ!!ゲイザー!!」
飛び出てくるのはドドゲザン。
過去の映像を見てあたりはつけていたが、実際に見るとよくわかる。
特性:”総大将”、”適応力”持ちの火力特化かつ効果が永続する最後の砦仕様。
過去の戦績を見る限り追い込まれたときにこの状態のドゲザンで相手を沈めて、倒すことで更に攻撃力を上げてペースを取り戻してダイマックスに繋げている。
過去のデータから最も所持率の高いのはタスキ。
第2関門、テツジのエースだ。
ここからが本番と集中力を上げていく。
「ゲイザー!!ドゲザン!!」
「イザッ!!!!」
一瞬だった。
テツジが指示を出すやいなやドドゲザンがレディの目の前へ移動しており、既にドゲザンのモーションに入っていた。
早い。
これはすばやさの問題ではない。
ドゲザンを“追い込まれた状況でのみ必ず先制を取る”技に進化させているのか。
それに気づくも既にドドゲザンの頭部の刃が振り下ろされる寸前。
「レディ!!!!」
炸裂した。
響き渡る激突音、巻き上がる粉塵。
『テツジ選手のエース、ドドゲザンのドゲザン炸裂!!ジェイド選手のドレディアは耐えられるか〜!?!?』
次第に土煙が晴れていき、浮かび上がるのは2体が交差する姿。
ドドゲザンの頭の刃は確実にドレディアの肩を捉えている。
『決まった〜!!ドゲザンが明らかにドレディアに突き刺さっています!!これで勝負はイー……ぇっ?』
実況が興奮した様子で叫ぶ中、2体の体がゆらりと動いた。
レディがそのまま膝をつき、ドドゲザンが崩れるように倒れ伏す形で。
『な、なんだ?!何が起こったのか〜!?!?明らかにドゲザンの直撃したドレディアが残りドドゲザンが倒れている?!?!一瞬の交差の間で状況が一変してしまった!!映像!!他に映像ないの?!ある?早く出して!!』
「ゲ、ゲイザー……」
あまりの展開に実況も大きく混乱し、そして手持ちのステータスが確認できるテツジも呆然と立ち尽くしている。
『今フーディンによる土煙を透視した画像が入手できたので表示します!!……おぉぉぉおっとこれは!!』
そこに写っていたのは、ドゲザンが当たる寸前ドドゲザンの腹部にレディの放ったにどげりが深々と突き刺さる映像だった。
寸分の狂いなく同じ箇所に二発目深々と食い込んでいる。
ドゲザンの直撃こそ二発目の蹴りと同時だったが、レディはドゲザンに耐えたということだ。
『にどけり、にどげりです!!あまりに素早く、そして正確なそれがドドゲザンに当たっていた~!!』
その実況の言葉で審判も我に返り、手元のポケモンのステータスバーを確認し、旗を持った腕を高く振り上げる。
「ドドゲザン戦闘不能、およびテツジ選手の手持ち3体の戦闘不能を確認!!よって勝者、ジェイド選手!!」
決着を告げる宣言が高らかになされた。
レディが自身の手による勝利に喜び、まるで花のように舞い踊る。
それはクイーンになるときに踊るはずの舞で、彼女もここでの勝利に特別なものを感じてくれていることに感謝した。
同時に会場が割れんばかりに響く拍手。
下馬評を覆す大勝利に爆発する観客の喝采。
肌をうつ祝福の音に、勝利の実感がふつふつと湧き上がる。
『決着〜!!!!実に5年ぶりとなるビルドからマイナーリーグへの昇格者がここに現れました!!その名はジェイド!!手持ちを登録ポケモン8体中5体のみで勝ち上がった彼の今後に注目されます!!』
実況の言葉を聞きながらレディをボールへ戻し、中央へと歩いていく。
同じように歩いてきたテツジと向かい合い、互いに手を差し出し握手した。
「負けたよ、完敗だ。まさかダイマックスする前に決着をつけられるとは思わなかった」
「こちらこそ、いいバトルでした。まさか隠し玉のレディを出させられるとは思いませんでした」
「そう言ってもらえると幾らか救われる。……一つ尋ねたい。君のドレディアはあのドゲザンをどうやって耐えたんだ?タスキはエルフーンに使っていたはず。あのドゲザンはみがわりやまもる貫通、タスキ、ハチマキ貫通の効果も持つよう育成していたんだが」
みがまも貫通にタスキハチマキ貫通とか出禁ではなかろうか。
いや上位ジムリーダーのポケモンは意地で食いしばるものもいるからそれほどではないか。
「知らないのも無理はないですが、うちのレディ……ドレディアはくさとかくとうの複合タイプです。あと出したとき、そして相手撃破後に積み技である勝利の舞が自動で発動するよう育成しているので防御も上がっていました」
「かくとうタイプだったのかあのドレディアは。それに積み技まで。だから耐えられて……」
「あなたのドドゲザンが出たときから初手ダイマがないことは確信していましたからね。ドレディアが耐えられるかは五分五分でしたが、上手くいって良かったです」
「なるほど、こちらも研究していたがそちらも研究していた、ということか。俺もまだまだ精進が……、いや慢心していたということか」
そう呟くとテツジは振り返り、自分のゲートへと向かって歩いていく。
これで彼はビルドリーグへと降格。色々思うところがあるのだろう。その後姿はどこか寂し気だ。
だがそれを気に病んでいる暇はない。
俺はその場で手を挙げ、応援してくれた観客へとアピールする。
俺が手を振るのに合わせて拍手が鳴り響いた。
それを確認してから観客席それぞれに向かって一礼し、自分のゲートへと向かう。
『5年ぶりの快挙のなか、場内の興奮もシビルドン登りです!!続きましては……』
後ろで実況が進行する声を聞きながら通路を歩いて控室に向かう。
まずはスタートラインに立てた。
そう考えながら扉をくぐる。瞬間、軽快な破裂音と紙吹雪が舞い散った。
「ジェイド~お疲れ~」
まず飛び込んできたのは灰眼で鮮やかな紅髪を首元で括っている少女ヴァイス。
白のパーカーと紺のジーンズに黒のチョーカー、そして俺が昔あげた翆のトレンチコートを羽織っている。
喜色満面の笑みを浮かべ、その手には音の原因であるクラッカーが握られていた。
こんな場所にクラッカーを持ち込むあたり、彼女らしいなと感じてしまう。
その足元でチャーミィがチョロチョロと掃除をしているのがシュールだが。
「ジェイドさん、おめでとうございます」
彼女の後ろで穏やかに笑みを浮かべている翆色のスーツを着こなす眼鏡をかけた女性ラシル。
まるで陽光のように輝く三つ編みに束ねた金髪が揺れるほどに手を叩いており、普段おとなしい彼女にしては意外な一面を見せている。
それほど俺の勝利を喜んでくれているのだと思うと胸が熱くなる。
「これでまずは目標の第一段階はクリアだな」
形はどうあれ祝福の言葉を投げてくれる二人に対しタブレットを叩いて何やら作業をしながらやってくる灰髪で白衣をまとった男性、リアン。
しかし、いつもは気怠げな藍色の瞳は優し気に細められ、皮肉がよく飛び出すその口元も微笑みで緩やかに弧を描いている。
なんだかんだ言いながら祝福はしてくれているのがよくわかった。
「ま、私は問題ないって信じてたけどね~」
ヴァイスがまるで自分のことのようにふふんとドヤ顔をしながら胸を張る。
紅いポニーテールがぴょこんと揺れた。
「あのドレディアを出したのは想定外だったが、そこは相手が流石だったというべきだろうな。だが、あれはあれで話題性が出て悪くなかった」
リアンはヴァイスとは対照的にあくまでも冷静に先の試合を評価する。
だがいつもより口調が柔らかい。
それだけ俺の勝利を期待し、それに応えられたということだろう。
「も~リアンったら捻くれてるんだから。今日くらい素直に褒めればいいのに」
「馬鹿言え。今後の展開を見据えておくことは重要だ。特にこれから忙しくなるし、こいつには色々学んでもらわないといけないことがたくさんある。言えるときに言っておかずにどうする」
淡々としている様子を不満に思ったのか、ヴァイスがリアンをジト目で咎めるように見つめる。
対するリアンは気にした風もなく加えたハーバルシガレットに火をつけようとポケットからジッポを取り出す。
「まあまあ、2人とも」
2人の視線を遮るようにラシルが立ち、2人の方へ振り向く。
その手にはいつの間にかリアンの持つジッポが握られている。
「ヴァイス?リアンさんも別にジェイドさんを悪く言ってるわけじゃないのよ?そんな目で見ないの」
「は、は~い」
「あとリアンさん?これからの展開を指摘するのは構いませんが、時と場合は選んでくださいね。あと、ここは禁煙ですよ?」
「あ、はい。すみません」
ラシルの静かな指摘に2人とも素直に返事をする。
ラシルの表情は見えないが、ヴァイスとリアンのひきつった表情を見る限りいいものではなさそうだ。
「さて、ジェイドさん」
「は、はい!!」
ラシルがリアンへジッポを返すとこちらへと振り向いた。
思わずビクッと反応し、姿勢を正してしまった。
そんな俺の反応にラシルは不思議そうに首をかしげている。
「改めて、本日の勝利、おめでとうございます。ここからジェイドさんの、そして私たち皆の夢が始まります」
ラシルが俺の右手へとその両手を伸ばし、優しく包み込む。
「精一杯尽くしていきますので、幾久しくお願いしますね」
「……ああ、こちらこそ」
花が綻ぶような笑みを浮かべるラシルにどぎまぎしつつも、しっかりと答える。
ここまでの信頼を向けられることに軽いプレッシャーと、それ以上の喜びを覚える。
「ああ~!?!?!ラシルずるい!!あたしも!!あたしもずっと一緒だからね!!」
ヴァイスが競うように空いている左腕へと抱き着いてきた。
まるで飼い主を取られそうなワンパチみたいで少しかわいい。
「まだまだ興味深い研究材料は残っているからな。せいぜい楽しませてくれよ?」
リアンが皮肉下に、しかし楽し気に笑みを浮かべる。
ああ、言われなくてもだ。
あの事故で異郷の地に相棒のポケモンと共に飛ばされた。
かの地で仲間と出会い、大事なポケモンが増え、新しい居場所もできた。
だけど再び、しかも大事なポケモンと理不尽な別れを強制され。
次に流れ着いたのは命が安い世界。
新たな仲間も得て、相棒たちとも協力して泥を啜りながらも生きながらえて。
そして、ようやく戻ってこれた。
その時にリアンと出会い、自分の居場所がなくなっていることを知り。
それからは流浪の旅。
俺の知識と経験を活かすためにリアンが同行し、別れざるを得なくなったポケモンに再び会うことができた。
その後、宛もない旅路でラシルに、そしてヴァイスに出会って。
その中で理不尽に居場所を奪われ、大切な仲間を失う人たち、ポケモンたちを見た。
理不尽に誰かの居場所を奪い、大切な仲間を害するものたちに怒りを覚えた。
だから俺は思った。
何にも怯えない、誰からも奪われない、あらゆる理不尽にあらがう場所が欲しいと。
そんな場所を作ると。
そのためにメジャーリーグに上り詰める。
誰にも何にも侵されない、俺の理想を体現する街を、ここガラルに作って見せる。