名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜   作:秋葉ばっこ

10 / 21

ほぼオリジナル&短め。
後の展開で使えそうな伏線を仕込んでおくゥ!


FILE09:私を忘れないで 前編

 

 

 

 

 ――四月五日。

 

「シンジさん、起きてください。もう朝ですよ」

「う〜ん……」

 

 体を揺すられ、中途半端に意識が覚醒する。

 重たい瞼を持ち上げてみると、こちらを見下ろしているみくるの姿が目に入った。

 欠伸をしながら、ゆっくりと体を起こす。

 

「ふわぁ〜あ……あぇ、何でみくるが俺の部屋に……」

「まだ寝ぼけてるんですか? 昨夜はバイトで疲れたから、そのまま探偵事務所に泊まっていくって、シンジさんが言い出したんじゃないですか」

「そうだったっけ……そうだったかも……そうかもしれん……ぐぅ」

「二度寝しない!」

 

 船を漕いでいると、みくるに叩き起されてしまう。

 彼女の言う通り、昨夜は夕食をご馳走になった後、事務所のソファを借りて寝かせて貰ったんだった。

 疲れていたのも本当だが、あんなの様子をなるたけ傍で見ていたかったからだ。みくると一緒にいる時の彼女は落ち着いていたし、結局は俺の杞憂で済んだが。

 

「んん〜、身体中バッキバキだ。いてて……」

 

 伸びをして身体を解す。

 普段使わない筋肉を酷使したせいもあって、全身が筋肉痛だ。

 そんな俺の様子を見かねてか、みくるが気遣わしげに尋ねてくる。

 

「シンジさん、寝ている間ずっと魘されてましたよ。亀がどうとかって」

「夢見が悪いのはいつもの事だよ。俺ってば人よりも(ここ)の出来が良いからな。人間の脳は、寝ている間に記憶を整理するって言うだろ? アレだよアレ」

「自分で言いますか、それ。……一応聞いておきますけど、口から出まかせですよね?」

「おう、今思いついた。朝に弱いのはホントだけど」

 

 みくるは心配して損したと言わんばかりに、大きく溜息を吐く。

 というか、魘されるほど疲れていたのか。着ぐるみバイトがあんなにハードだったとは。しばらく、亀に纏わるものに関わるのも止めておこう。

 ストレッチを終えて、改めて。

 

「おはよう、みくる」

「――っ、はい。おはようございます、シンジさん」

 

 みくるが手を後ろで組み、もじもじと答えていた。

 ちゃんとした朝の挨拶を彼女と交わしたのは、何気に初めてかもしれない。今までは顔を合わせる度にいがみ合うか、一方的に噛みつかれるかの二択だったからな。

 お互い、どこか落ち着かない様子で黙りこくっていると、ゆったりとした動きで扉が開く。

 

「ふわぁ〜……おはよう、みくる、シンジさん……」

「……っ!? お、おはよう、あんな」

「よっす。おはよう、あんな」

 

 寝巻き姿のあんなが、欠伸をしながら部屋に入ってきた。

 いつもの帽子を被っていないせいか、オレンジ色の長い髪がふわふわ揺れている。あの毛量を普段どうやって封じているのか、甚だ疑問だ。

 

「寝癖がついてるぞ。直してやるから、先に顔洗っておいで」

「はーい……」

 

 目を擦りながら、あんなは洗面所の方に向かっていった。

 そんな俺たちのやり取りを、みくるがどこか不満そうに眺めている。

 

「……あの、シンジさん。少し前から気になってたんですが、わたしとあんなに対する態度が違いすぎませんか?」

「日頃の行いのせいだろう。ハッ、俺にもっと優しくしてくれるなら、よしよししてやらん事もないぞ」

「なっ……!? よ、よしよしなんて……余計なお世話です! その言葉、そっくりそのままお返ししますっ!」

 

 朝から元気なやつだ。

 いつもの如く揉めていると、今度はジェット先輩が部屋にやってきた。腕の中にスヤスヤと眠っているポチタンを抱いて。

 

「お前たち、朝からうるさいぞ」

「あ、ごめん。……って、ジェット先輩、凄い隈!」

 

 ひと目でわかるほど雰囲気が刺々しいというか。

 今日のジェット先輩は特に機嫌が悪そうだ。みくるの言う通り、目の下にハッキリと隈を浮かべているし。

 

「新しい探偵道具の開発と、()()()()の制作にかかりっきりで昨夜は寝られなかったんだよ。ボクとした事が、おかげで寝不足だ」

「例のアレ……?」

 

 俺が首を捻ると、みくるが慌てて人差し指を口元に当て「しーっ!」とジェット先輩に言い聞かせていた。

 どうやら俺に知られたくないらしい。仲間外れにされた感じがして寂しいが、無理に聞き出しても仕方ないので、大人しく聞かなかった事にする。

 

「そうだ、シンジ。これを渡しておく」

「ん」

 

 不貞腐れていると、ジェット先輩からプリキットらしきキーホルダーを手渡される。

 しかもひとつではなく、複数個。あんなやみくるが持ち歩いている物よりも多い。見たところ全て同じ種類のようだが。

 

「なんぞこれ?」

「荷物運搬用のプリキットだ。お前、昨夜『引越しがめんどくさい』とかどうのとか言って、ボクの所に相談しに来ただろ? ついでに作っておいたんだ」

「ジェッティ……!」

「やめろ、抱きつくな。突っ込む気力も無いんだよ」

 

 やはり、ジェット先輩は天才だ。

 文句を言いながら世話を焼いてくれるあたり、段々ネコ型ロボットみたいになってきている。妖精の姿も猫っぽいし。

 ジェット先輩は俺を引っぺがすと、補足するように言う。

 

「そうそう、そのプリキットは使い捨てだから気をつけろよ。決して遊びに使うんじゃないぞ」

「りょーかい。ありがとな、パイセン」

 

 俺が礼を言うと、ジェット先輩は小さく頷いて、白衣の裾を引きずりながら研究室に戻って行った。

 そんな彼と入れ違うように、顔を洗い終わったあんなが戻ってくる。ついでに私服にも着替えてきたらしい。

 ぱたぱたと俺の元に駆け寄ってきたかと思えば、彼女は櫛を差し出してきた。

 

「シンジさん、髪やって?」

「いいよ。そこ座りな」

「はーい!」

 

 視界の端で、みくるが何とも言えない表情を浮かべているが、俺は気にせずあんなの髪を()かし始める。

 丁寧に寝癖を直していくと、上機嫌な鼻歌が聞こえてきた。

 

「……なんだか手馴れてません?」

「まあ、初めてではない。久しぶりだけど」

 

 みくるに答えながら、思い出す。

 ずっと昔、ズボラな幼馴染――るるかにも、こうしてブラッシングをせがまれた事があった。

 最近はめっきり会う機会も減ってしまったが、年頃の男女なので仕方があるまい。むしろ、今くらいの距離感が普通だろう。

 

「ねぇ、髪結って?」

「はいはい。いつもの髪型でいいんだな」

「うん。えへへ……」

 

 というか、あんなの距離感がおかしいだけだ。

 初対面のみくるとすぐに打ち解けて、その上プリキュアになったぐらいだし。元から人懐っこい性格なんだろう。

 当初は唇を尖らせていたみくるも、そんな彼女の様子を見てか、徐々に子供を見守るような穏やかな顔つきになっていった。

 

「よし、できたぞ」

「ありがとう、シンジさん!」

 

 あんなは満面の笑みを浮かべて、帽子を被る。

 見慣れた『明智あんな』の完成だ。

 

「んで、二人はこれからどうするんだ?」

「改めて探偵事務所を開いた事ですし、依頼さえあれば……」

「まぁ、そんなすぐには来ないわな。実績も名声も無いわけだから」

「うっ……そうですよね……」

 

 みくるががっくしと肩を落とす。

 前任の名探偵プリキュアがどれ程の腕だったかは知らないが、これだけ立派な探偵事務所を構えているくらいだ。それに見合っただけの実力があったんだろう。

 みくる、あんなの二人が目指す『名探偵』は決してお遊びなんかじゃない。俺も出来るだけのサポートはするつもりだが、依頼が無ければお手上げである。

 

「まっ、そう気を落とすなよ。依頼が無いって事は、それだけこの街が平和だって事だろ。何かしら異変がありゃポチタンが気づくし、探偵としての売り込み方はいくらでもある」

「そうだよ、みくる。焦らず頑張っていこう! ねっ?」

「シンジさん、あんな……! ありがとう!」

 

 みくるが調子を持ち直した所で。

 ソファから立ち上がり、リュックを肩にかける。

 

「……とりあえず、俺は一旦家に帰ろうかな。事務所で暮らすにしても親父とお袋の許可がいるし、必要な荷物も取りに行きたい」

「あっ、シンジさん。ちょっと待って」

 

 部屋を出ようとすると、不意にあんなに呼び止められる。

 振り返ると、あんなとみくるが並んでソワソワとしているのがわかった。

 

「その、遅くなってもいいけど……夕方には事務所に戻って来てくれる?」

「別に構わんが、何で夕方なんだ」

「うっ、それは……! い、言えない、けど……! どうしても来て欲しいの!」

「わ、わたしからもお願いします! 来て、くれますよね……?」

 

 とにかく、二人が必死なのは伝わってくる。

 ジェット先輩の言っていた『例のアレ』といい、何かあるのは明白なのだが、思い当たる節がこれっぽっちも無い。

 

「わかったわかった。夕方までには帰ってくるよ」

「う、うん。行ってらっしゃい! 良かったぁ……」

「気づかれなくて良かったね、あんな」

 

 みくるとあんなが、ホッと胸を撫で下ろす。

 そんな彼女たちの様子を訝しみながら、俺は事務所を後にする。

 

「――」

 

 しばらく歩いていると、紫色のバッグを抱えた男とすれ違う。

 偉く慌てている様子だったが、何かあったんだろうか。肩越しに振り返るが、既にその人の姿はなかった。

 

 ……まあ、いいか。

 例年通りなら、今日は親父とお袋も家にいるはず。

 外泊にとやかく言ってくるような両親ではないが、また違った意味でうるさいのは確かだ。早めに用事を済ませてしまおう。

 億劫な足取りで、俺は自宅――便利屋『工藤駆動(クドクド)』に向かうのだった。

 

 

 

 

 うちの家系は、江戸時代から便利屋をやっていると聞いた事がある。

 当時は便利屋なんて呼称はなく、『御用聞き』と呼ばれていたんだったか。親父から一度話を聞いたことがあるだけなので、ぶっちゃけ眉唾ものだが。

 

 真相はさておき、歴史が長いだけあって地元の人間からは広く慕われている。

 春休みの間、俺がバイト生活に専念できたのも、ひとえに顔の広い両親のおかげというわけだ。

 

「……はぁ。どう話を切り出したもんかな」

 

 古めかしい店構えの前で、立ち呆ける。

 うちは店舗併用住宅。1階が便利屋の事務所で、2階が一家の居住スペース。建物横の外部階段から、直で2階玄関に上がれる仕組みになっている。

 

「何事も無きゃいいけど……」

 

 そろりそろり。

 玄関の扉を、恐る恐る開く。

 

「おかえりー。朝帰りとは良いご身分ね、シンジ」

「ゲッ、お袋……!」

 

 仁王立ちで凄んでくるものだから、思わずたじろぐ。

 30代にしては若々しくも見えるし、どこか雰囲気のある風貌は年齢以上の貫禄を感じさせなくもない、そんな妙齢の女性。

 彼女の名は工藤(くどう)和佳奈(わかな)。言わずもがな、俺のお袋である。

 

「母親の顔を見るなり、第一声が『ゲッ』とは失礼な。いいから上がんなさいよ。昨夜の残りがあるから、さっさと食べちゃって」

「わーったよ。……親父は? 出かけてるみたいだけど」

「お墓参り。あの人、十三回忌を満十三年目にやるって勘違いしてるから。起きてすぐに出て行っちゃったわ」

「あほくさ」

 

 靴を脱ぎながら、そんな会話を交わす。

 リビングに向かうと、ちょうど温め直されたのであろう食事が並んでいた。予め帰ってくるタイミングを予知されていたみたいで、少しばかり怖い。

 

「いただきまーす」

 

 軽く手を合わせて、朝食を食べ始める。

 お袋は向かいの席に座ると、茶色い封筒をテーブルの上に置いた。

 中身が何なのかはだいたい予想がつくが、念の為に聞いておく。

 

「何これ」

「現金よ。今日はあんたの誕生日でもあるでしょ? ありがたく受け取っておきなさい」

「うん……まぁ、うん……知ってたけどさ。ありがとさん」

 

 欲しいものがあったらこれで買え、と言いたいんだろう。

 うちの両親は決してドライではないが、やけにサバサバしているというか、昔から放任主義を一貫している。

 俺の記憶にあるサンタクロースは、諭吉を一枚プレゼントしてくれる気前の良い爺さんだった。子供ながらに『うちはそういう家系なのだな』と現実を受け入れたのを、よく覚えている。

 苦い幼少期を思い出し、引きつった笑みを浮かべていると。

 

「それで、何か言いたい事があるんじゃないの?」

「いちいち先読みしてくんなってば。エスパーかよ」

 

 このハッキリとした物言いに、よく怒られているのではないかと錯覚したものだ。

 味噌汁を飲み干してから、俺は話を切り出す。

 

「親父とお袋ってさ、れっきとした人間だよな?」

「……はぁ? 急にどうしたのよ。あんたまさか、変なクスリでもやってるんじゃないでしょうね」

「やってねえよ! ただの確認だよ、確認」

 

 頓狂な質問に、呆れられるどころか心配されてしまった。

 バカ正直に「妖精ですか?」なんて聞こうものなら、今度は病院に連れていかれるかもしれない。かと言って、他に聞きようもなかったし。

 その場を冗談だったと誤魔化して、改めて尋ねる。

 

「知り合いの……店? とにかく仕事を手伝う事になってさ。住み込みで働きたいから、家を出たいなって思ってるんだけど……」

「あっそう。別にいいんじゃない」

「即答かよ」

「食費も浮くし助かるわ。そうと決まれば、今日中に身支度済ませちゃってね」

 

 ……前言撤回させてもらおう。

 ドライを通り越しているにも程がある。

 いや、かく言う俺もそのつもりで来たわけだが。一人息子が独り立ちするというのに、反応が淡白すぎやしないか。もう少し一悶着あって欲しかった。

 

「お父さんには、私の方から話しておくから。シンジも元気でやんなさいよ。あ、お店の人に迷惑かけないように」

「わーったよ。ご馳走様」

 

 テーブルに並んでいた食器を下げ、自室に向かう。

 感動の別れを期待していたわけじゃないが、ここまであっさりと話が済んでしまうと、それはそれで寂しいものだ。親父とは顔すら合わせてないし。

 

「そうそう。あの探偵を目指してる女の子、名前なんて言ったかしら。……あ、みくるちゃんか。彼女にもよろしくねー!」

「――っ!?」

 

 どこまで知ってるんだ、この親は。

 俺の記憶が確かなら、お袋にみくるの話はした事がないはずだが。

 リビングから聞こえてきた声に、俺は返事ではなく戦慄を返す。

 

「……らしいと言えば、らしいか」

 

 十年以上の年月を過ごしてきた、慣れ親しんだ自分の部屋の真ん中で。

 誰に聞かせるわけでもなく、小さくそう呟いてから、俺は荷造りを始めるのだった。

 




ついに今日の放送でキュアアルカナ・シャドウが登場しますね!
変身バンクが見られるかどうか楽しみです!

当作品における、キュアット探偵事務所メンバー早見表
・シンジ アホ、バカ、クソボケ
・あんな アニメ本編よりも他者に依存気味
・みくる 沸々とジェラってるものの、あんなには強く出れない
・ジェット先輩 面倒見がいい
・ポチタン ポチポチ〜

次回の更新は13日0時!
るるかも少しだけ登場します。

たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ

  • 明智あんな(キュアアンサー)
  • 小林みくる(キュアミスティック)
  • 森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
  • ???(キュアエクレール)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。