名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
ほぼオリジナル&短め。
後の展開で使えそうな伏線を仕込んでおくゥ!
◇
――四月五日。
「シンジさん、起きてください。もう朝ですよ」
「う〜ん……」
体を揺すられ、中途半端に意識が覚醒する。
重たい瞼を持ち上げてみると、こちらを見下ろしているみくるの姿が目に入った。
欠伸をしながら、ゆっくりと体を起こす。
「ふわぁ〜あ……あぇ、何でみくるが俺の部屋に……」
「まだ寝ぼけてるんですか? 昨夜はバイトで疲れたから、そのまま探偵事務所に泊まっていくって、シンジさんが言い出したんじゃないですか」
「そうだったっけ……そうだったかも……そうかもしれん……ぐぅ」
「二度寝しない!」
船を漕いでいると、みくるに叩き起されてしまう。
彼女の言う通り、昨夜は夕食をご馳走になった後、事務所のソファを借りて寝かせて貰ったんだった。
疲れていたのも本当だが、あんなの様子をなるたけ傍で見ていたかったからだ。みくると一緒にいる時の彼女は落ち着いていたし、結局は俺の杞憂で済んだが。
「んん〜、身体中バッキバキだ。いてて……」
伸びをして身体を解す。
普段使わない筋肉を酷使したせいもあって、全身が筋肉痛だ。
そんな俺の様子を見かねてか、みくるが気遣わしげに尋ねてくる。
「シンジさん、寝ている間ずっと魘されてましたよ。亀がどうとかって」
「夢見が悪いのはいつもの事だよ。俺ってば人よりも
「自分で言いますか、それ。……一応聞いておきますけど、口から出まかせですよね?」
「おう、今思いついた。朝に弱いのはホントだけど」
みくるは心配して損したと言わんばかりに、大きく溜息を吐く。
というか、魘されるほど疲れていたのか。着ぐるみバイトがあんなにハードだったとは。しばらく、亀に纏わるものに関わるのも止めておこう。
ストレッチを終えて、改めて。
「おはよう、みくる」
「――っ、はい。おはようございます、シンジさん」
みくるが手を後ろで組み、もじもじと答えていた。
ちゃんとした朝の挨拶を彼女と交わしたのは、何気に初めてかもしれない。今までは顔を合わせる度にいがみ合うか、一方的に噛みつかれるかの二択だったからな。
お互い、どこか落ち着かない様子で黙りこくっていると、ゆったりとした動きで扉が開く。
「ふわぁ〜……おはよう、みくる、シンジさん……」
「……っ!? お、おはよう、あんな」
「よっす。おはよう、あんな」
寝巻き姿のあんなが、欠伸をしながら部屋に入ってきた。
いつもの帽子を被っていないせいか、オレンジ色の長い髪がふわふわ揺れている。あの毛量を普段どうやって封じているのか、甚だ疑問だ。
「寝癖がついてるぞ。直してやるから、先に顔洗っておいで」
「はーい……」
目を擦りながら、あんなは洗面所の方に向かっていった。
そんな俺たちのやり取りを、みくるがどこか不満そうに眺めている。
「……あの、シンジさん。少し前から気になってたんですが、わたしとあんなに対する態度が違いすぎませんか?」
「日頃の行いのせいだろう。ハッ、俺にもっと優しくしてくれるなら、よしよししてやらん事もないぞ」
「なっ……!? よ、よしよしなんて……余計なお世話です! その言葉、そっくりそのままお返ししますっ!」
朝から元気なやつだ。
いつもの如く揉めていると、今度はジェット先輩が部屋にやってきた。腕の中にスヤスヤと眠っているポチタンを抱いて。
「お前たち、朝からうるさいぞ」
「あ、ごめん。……って、ジェット先輩、凄い隈!」
ひと目でわかるほど雰囲気が刺々しいというか。
今日のジェット先輩は特に機嫌が悪そうだ。みくるの言う通り、目の下にハッキリと隈を浮かべているし。
「新しい探偵道具の開発と、
「例のアレ……?」
俺が首を捻ると、みくるが慌てて人差し指を口元に当て「しーっ!」とジェット先輩に言い聞かせていた。
どうやら俺に知られたくないらしい。仲間外れにされた感じがして寂しいが、無理に聞き出しても仕方ないので、大人しく聞かなかった事にする。
「そうだ、シンジ。これを渡しておく」
「ん」
不貞腐れていると、ジェット先輩からプリキットらしきキーホルダーを手渡される。
しかもひとつではなく、複数個。あんなやみくるが持ち歩いている物よりも多い。見たところ全て同じ種類のようだが。
「なんぞこれ?」
「荷物運搬用のプリキットだ。お前、昨夜『引越しがめんどくさい』とかどうのとか言って、ボクの所に相談しに来ただろ? ついでに作っておいたんだ」
「ジェッティ……!」
「やめろ、抱きつくな。突っ込む気力も無いんだよ」
やはり、ジェット先輩は天才だ。
文句を言いながら世話を焼いてくれるあたり、段々ネコ型ロボットみたいになってきている。妖精の姿も猫っぽいし。
ジェット先輩は俺を引っぺがすと、補足するように言う。
「そうそう、そのプリキットは使い捨てだから気をつけろよ。決して遊びに使うんじゃないぞ」
「りょーかい。ありがとな、パイセン」
俺が礼を言うと、ジェット先輩は小さく頷いて、白衣の裾を引きずりながら研究室に戻って行った。
そんな彼と入れ違うように、顔を洗い終わったあんなが戻ってくる。ついでに私服にも着替えてきたらしい。
ぱたぱたと俺の元に駆け寄ってきたかと思えば、彼女は櫛を差し出してきた。
「シンジさん、髪やって?」
「いいよ。そこ座りな」
「はーい!」
視界の端で、みくるが何とも言えない表情を浮かべているが、俺は気にせずあんなの髪を
丁寧に寝癖を直していくと、上機嫌な鼻歌が聞こえてきた。
「……なんだか手馴れてません?」
「まあ、初めてではない。久しぶりだけど」
みくるに答えながら、思い出す。
ずっと昔、ズボラな幼馴染――るるかにも、こうしてブラッシングをせがまれた事があった。
最近はめっきり会う機会も減ってしまったが、年頃の男女なので仕方があるまい。むしろ、今くらいの距離感が普通だろう。
「ねぇ、髪結って?」
「はいはい。いつもの髪型でいいんだな」
「うん。えへへ……」
というか、あんなの距離感がおかしいだけだ。
初対面のみくるとすぐに打ち解けて、その上プリキュアになったぐらいだし。元から人懐っこい性格なんだろう。
当初は唇を尖らせていたみくるも、そんな彼女の様子を見てか、徐々に子供を見守るような穏やかな顔つきになっていった。
「よし、できたぞ」
「ありがとう、シンジさん!」
あんなは満面の笑みを浮かべて、帽子を被る。
見慣れた『明智あんな』の完成だ。
「んで、二人はこれからどうするんだ?」
「改めて探偵事務所を開いた事ですし、依頼さえあれば……」
「まぁ、そんなすぐには来ないわな。実績も名声も無いわけだから」
「うっ……そうですよね……」
みくるががっくしと肩を落とす。
前任の名探偵プリキュアがどれ程の腕だったかは知らないが、これだけ立派な探偵事務所を構えているくらいだ。それに見合っただけの実力があったんだろう。
みくる、あんなの二人が目指す『名探偵』は決してお遊びなんかじゃない。俺も出来るだけのサポートはするつもりだが、依頼が無ければお手上げである。
「まっ、そう気を落とすなよ。依頼が無いって事は、それだけこの街が平和だって事だろ。何かしら異変がありゃポチタンが気づくし、探偵としての売り込み方はいくらでもある」
「そうだよ、みくる。焦らず頑張っていこう! ねっ?」
「シンジさん、あんな……! ありがとう!」
みくるが調子を持ち直した所で。
ソファから立ち上がり、リュックを肩にかける。
「……とりあえず、俺は一旦家に帰ろうかな。事務所で暮らすにしても親父とお袋の許可がいるし、必要な荷物も取りに行きたい」
「あっ、シンジさん。ちょっと待って」
部屋を出ようとすると、不意にあんなに呼び止められる。
振り返ると、あんなとみくるが並んでソワソワとしているのがわかった。
「その、遅くなってもいいけど……夕方には事務所に戻って来てくれる?」
「別に構わんが、何で夕方なんだ」
「うっ、それは……! い、言えない、けど……! どうしても来て欲しいの!」
「わ、わたしからもお願いします! 来て、くれますよね……?」
とにかく、二人が必死なのは伝わってくる。
ジェット先輩の言っていた『例のアレ』といい、何かあるのは明白なのだが、思い当たる節がこれっぽっちも無い。
「わかったわかった。夕方までには帰ってくるよ」
「う、うん。行ってらっしゃい! 良かったぁ……」
「気づかれなくて良かったね、あんな」
みくるとあんなが、ホッと胸を撫で下ろす。
そんな彼女たちの様子を訝しみながら、俺は事務所を後にする。
「――」
しばらく歩いていると、紫色のバッグを抱えた男とすれ違う。
偉く慌てている様子だったが、何かあったんだろうか。肩越しに振り返るが、既にその人の姿はなかった。
……まあ、いいか。
例年通りなら、今日は親父とお袋も家にいるはず。
外泊にとやかく言ってくるような両親ではないが、また違った意味でうるさいのは確かだ。早めに用事を済ませてしまおう。
億劫な足取りで、俺は自宅――便利屋『
◇
うちの家系は、江戸時代から便利屋をやっていると聞いた事がある。
当時は便利屋なんて呼称はなく、『御用聞き』と呼ばれていたんだったか。親父から一度話を聞いたことがあるだけなので、ぶっちゃけ眉唾ものだが。
真相はさておき、歴史が長いだけあって地元の人間からは広く慕われている。
春休みの間、俺がバイト生活に専念できたのも、ひとえに顔の広い両親のおかげというわけだ。
「……はぁ。どう話を切り出したもんかな」
古めかしい店構えの前で、立ち呆ける。
うちは店舗併用住宅。1階が便利屋の事務所で、2階が一家の居住スペース。建物横の外部階段から、直で2階玄関に上がれる仕組みになっている。
「何事も無きゃいいけど……」
そろりそろり。
玄関の扉を、恐る恐る開く。
「おかえりー。朝帰りとは良いご身分ね、シンジ」
「ゲッ、お袋……!」
仁王立ちで凄んでくるものだから、思わずたじろぐ。
30代にしては若々しくも見えるし、どこか雰囲気のある風貌は年齢以上の貫禄を感じさせなくもない、そんな妙齢の女性。
彼女の名は
「母親の顔を見るなり、第一声が『ゲッ』とは失礼な。いいから上がんなさいよ。昨夜の残りがあるから、さっさと食べちゃって」
「わーったよ。……親父は? 出かけてるみたいだけど」
「お墓参り。あの人、十三回忌を満十三年目にやるって勘違いしてるから。起きてすぐに出て行っちゃったわ」
「あほくさ」
靴を脱ぎながら、そんな会話を交わす。
リビングに向かうと、ちょうど温め直されたのであろう食事が並んでいた。予め帰ってくるタイミングを予知されていたみたいで、少しばかり怖い。
「いただきまーす」
軽く手を合わせて、朝食を食べ始める。
お袋は向かいの席に座ると、茶色い封筒をテーブルの上に置いた。
中身が何なのかはだいたい予想がつくが、念の為に聞いておく。
「何これ」
「現金よ。今日はあんたの誕生日でもあるでしょ? ありがたく受け取っておきなさい」
「うん……まぁ、うん……知ってたけどさ。ありがとさん」
欲しいものがあったらこれで買え、と言いたいんだろう。
うちの両親は決してドライではないが、やけにサバサバしているというか、昔から放任主義を一貫している。
俺の記憶にあるサンタクロースは、諭吉を一枚プレゼントしてくれる気前の良い爺さんだった。子供ながらに『うちはそういう家系なのだな』と現実を受け入れたのを、よく覚えている。
苦い幼少期を思い出し、引きつった笑みを浮かべていると。
「それで、何か言いたい事があるんじゃないの?」
「いちいち先読みしてくんなってば。エスパーかよ」
このハッキリとした物言いに、よく怒られているのではないかと錯覚したものだ。
味噌汁を飲み干してから、俺は話を切り出す。
「親父とお袋ってさ、れっきとした人間だよな?」
「……はぁ? 急にどうしたのよ。あんたまさか、変なクスリでもやってるんじゃないでしょうね」
「やってねえよ! ただの確認だよ、確認」
頓狂な質問に、呆れられるどころか心配されてしまった。
バカ正直に「妖精ですか?」なんて聞こうものなら、今度は病院に連れていかれるかもしれない。かと言って、他に聞きようもなかったし。
その場を冗談だったと誤魔化して、改めて尋ねる。
「知り合いの……店? とにかく仕事を手伝う事になってさ。住み込みで働きたいから、家を出たいなって思ってるんだけど……」
「あっそう。別にいいんじゃない」
「即答かよ」
「食費も浮くし助かるわ。そうと決まれば、今日中に身支度済ませちゃってね」
……前言撤回させてもらおう。
ドライを通り越しているにも程がある。
いや、かく言う俺もそのつもりで来たわけだが。一人息子が独り立ちするというのに、反応が淡白すぎやしないか。もう少し一悶着あって欲しかった。
「お父さんには、私の方から話しておくから。シンジも元気でやんなさいよ。あ、お店の人に迷惑かけないように」
「わーったよ。ご馳走様」
テーブルに並んでいた食器を下げ、自室に向かう。
感動の別れを期待していたわけじゃないが、ここまであっさりと話が済んでしまうと、それはそれで寂しいものだ。親父とは顔すら合わせてないし。
「そうそう。あの探偵を目指してる女の子、名前なんて言ったかしら。……あ、みくるちゃんか。彼女にもよろしくねー!」
「――っ!?」
どこまで知ってるんだ、この親は。
俺の記憶が確かなら、お袋にみくるの話はした事がないはずだが。
リビングから聞こえてきた声に、俺は返事ではなく戦慄を返す。
「……らしいと言えば、らしいか」
十年以上の年月を過ごしてきた、慣れ親しんだ自分の部屋の真ん中で。
誰に聞かせるわけでもなく、小さくそう呟いてから、俺は荷造りを始めるのだった。
ついに今日の放送でキュアアルカナ・シャドウが登場しますね!
変身バンクが見られるかどうか楽しみです!
当作品における、キュアット探偵事務所メンバー早見表
・シンジ アホ、バカ、クソボケ
・あんな アニメ本編よりも他者に依存気味
・みくる 沸々とジェラってるものの、あんなには強く出れない
・ジェット先輩 面倒見がいい
・ポチタン ポチポチ〜
次回の更新は13日0時!
るるかも少しだけ登場します。
たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ
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