名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜   作:秋葉ばっこ

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さあ、始まるドン!
ちょい短め。


FILE11:能天気/NO天気

 

 

 

 

 ――四月六日。

 今日から新学期の始まりだ。

 今年度から、みくるは二年生に進級。俺は高等部に在籍する事になる。

 

 やや灰色みを帯びた、淡い青色のブレザーに袖を通す。中に着ているワイシャツや紺色のズボンも含めて、どれも下ろし立ての新品である。

 新しい服から香る、染料や糊。あるいは防虫剤や油が混ざったような、形容しがたい独特な匂い。不快ではない。むしろ身が引き締まる。

 

 この感じも久しぶりだ。

 肩を回し、変なところがないかを確認する。

 

「よし、こんなもんかな」

 

 プリキットプレーヤーをポケットに押し込む。

 着替えを終えて部屋を出ると、既に集まっているのか、みくるたちの声が廊下の奥から聞こえてきた。

 事務所の応接間に移動し、見せびらかすようにその場でくるりと一回転。

 

「どうだ、新しい制服を着た俺は。今日からピチピチの高校生だぞォ」

「馬子にも衣装だな」「馬子にも衣装ですね」

「二人してハモってんじゃねーよ!」

 

 最近、ジェット先輩とみくるの息が合うようになってきた気がする。

 歳上にも歳下にも舐められるって、俺がいったい何をしたというのか。脳内でブツブツと文句を垂れていると。

 

「わあっ、素敵〜! はなまる似合ってるよ、シンジさん! スラッとしてて格好いいし、いつもと別人かも!」

「ポチポチ〜!」

「うんうん、あんなとポチタンは良い子だな〜! おーよしよし、頭撫でてあげようねぇ〜!」

「あっ――、えへへ」

 

 軽く頭をポンポンと叩いてやると、あんながはにかむ。ポチタンも嬉しそうだ。

 ジェット先輩がいつものように飴を口に咥え、呆れたように言う。

 

「あんなが遠回しに言ってるだけで、ボクたちと同じ感想に聞こえるが」

「ほほう? 要するに俺が格好いいって事か。んもォ〜、パイセンもみくるも素直じゃないんだからァ〜ん」

「都合の良い耳だな、まったく」

 

 口の中の飴を転がし、ジェット先輩がそっぽを向く。

 みくるの反応はどうかと言うと、意外にも肯定的だった。

 

「ええ、わたしも黙ってたら格好いいと思います。黙ってたらね」

「失礼な! 俺はいつも格好いいだろうが!」

「そういう所ですって」

 

 言いながら、彼女は俺のすぐ側まで近づいてきた。

 いつもの経験から、咄嗟に身構えてしまいそうになる。

 

「ネクタイが曲がってますよ。相変わらずだらしのない人。……ほら、直してあげますから。動かないで」

「あ、うん。首締められるかと思った」

「わたしを何だと思ってるんですかっ!?」

「そ、それはっ……! 本人の前で言えるわけないだろ。いやん、恥ずかしい」

 

 俺がわざとらしく頬を赤らめ、腰をくねらせてそう言うと、みくるは押し黙ってしまった。

 

「……」

 

 いつものノリでふざけたつもりだったのだが、どういう解釈をしたのやら。

 彼女はジト目のまま、呆れと照れの入り交じった複雑そうな面持ちで、黙々とネクタイを直してくれている。

 しばらくその様子を眺めていると、やがて俺の首元から手が離れた。

 

「……はい、終わりましたよ」

「サンキュー、おかん」

「誰がおかんですか!」

 

 一連のやり取りを、黙って聞いていたジェット先輩であったが。

 

「おい、そろそろ事務所を出ないと遅刻するんじゃないか? 二人とも、車には気をつけるんだぞ」

「サンキュー、おとん」

「誰がおとんだ!」

 

 二人ともなにかと世話を焼きたがるから、そう思っただけなのに。

 叱咤を背中に受けながら、スクールバッグを肩にかける。

 

「じゃあ行ってくる。なんかあったら、ボイスメモで連絡してくれ」

「あ、うん……」

「そんな顔すんなよ、あんな。今日は始業式だけだから、午後には帰ってくるって」

 

 俺がそう言うと、あんなはこくりと頷いた。

 彼女たちに見送られながら、みくると共に事務所を出る。

 

「大丈夫ですかね。あんなを独りにしちゃって」

「パイセンもポチタンもいるし、まぁ大丈夫だろ」

「だといいんですが……」

 

 みくるの気持ちもわからない事はないが、学校を休むわけにもいかない。

 その後も何てことのない会話を交わしながら、通学路を歩んでいく。

 俺たちと同様、学園の生徒であろう姿がチラホラと増えてきた。彼らの手にある傘を見て、そういえば天気予報を見ていなかったな、なんて思いながら空を見上げる。

 

「――」

 

 隣を歩くみくるは、憂いを帯びた表情を浮かべたままだ。

 不意に、彼女が立ち止まって。

 

「この前、あんなと約束したんです。『あなたを元の時代に帰す』って。あの子の事件を解決するためにも、頑張って立派な名探偵にならないと」

「そっか。じゃ、俺も頑張らないとな」

「……シンジさんも協力してくれるんですか?」

「何を今更。俺はお前たちの『おとも妖精』なんだろ? 力になってやるよ」

 

 みくるは頬を緩めて笑ったものの、また何かを考え込む仕草を見せた。

 気のせいか、俺の言った『おとも妖精』というワードに引っ掛かりを覚えているかのような気配がした。何か思うところでもあるんだろうか。

 耳にかかっている髪の一房を指先で弄りながら、みくるが。

 

「シンジさんにとって、わたしは――いえ、やっぱり何でもないです。気にしないでください」

「ええっ!? それ一番気になるやつ! 最後まで言ってくれよ、モヤモヤするだろォ〜!」

「なんでもありませんってば! ほら、早く行かないと遅刻しますよ!」

 

 みくるは話を切り上げて、さくさくと早歩きで遠ざかっていく。

 ……俺にとってのみくる、か。言われてみれば、考えたことすら無かったかもしれない。

 あんなより付き合いは長いものの、お互いに知らない事はまだまだ多い。名探偵を目指しているのは前々から知っていたが、それ以外に関してはさっぱりだ。

 

「どうでもいいか、別に」

 

 ネガティブな意味合いではない。

 なあなあの状態で今まで絡んできたのだから、これからも同じように付き合いが続いていくんだろう。その過程でお互いを知る機会はいくらでもあるはず。

 意図的に隠し事をしているならまだしも、全てを(さら)け出すのが友好の証明とは限らない。そう思っただけの話だ。

 

「待てよ、みくる! 置いていくなって!」

 

 軽くスクールバッグを背負い直し、俺はみくるの後を追いかけるべく走った。

 

 

 

 

「静かだね、ポチタン」

「ポチ〜」

 

 窓辺にあるチェアに腰掛け、花瓶に入ったワスレナグサを眺めていたあんなが、ポツリと呟く。

 ジェットは「新しい探偵道具の開発で忙しい」と言って、研究室にこもりきりだ。

 新二とみくるのいない事務所は、驚くほど静寂に包まれている。ホールクロックと呼ばれる大きな置時計。それが秒針を刻む音が、この部屋まで聞こえてくる位には。

 

「――」

 

 サイドテーブルに乗っている地球儀を、なんとなく回してみる。

 その様子を見ていたポチタンが、宝物を見つけた子供のように目を輝かせた。

 

「ポチ〜!」

「わっ、ポチタン!?」

 

 ポップな音と共に、地球儀が消えてしまった。

 今まで集めたマコトジュエルのエネルギーによって、ポチタンは日々成長している。力を取り戻していくのに比例して、小さな小物をいくつか異空間に収納できるようになっていたのだ。

 最初は楽しげにしていたポチタンであったが、徐々にプルプルと震えだして。

 

「ポ、ポチ〜……!」

 

 ――ポン、ポン、ポンッ。

 容量制限(キャパオーバー)を迎えたポチタンから、収納されていた物が弾けんばかりに溢れ出す。

 先程の地球儀だけでなく、メモ帳とボールペン、鉛筆や消しゴム、テレビのリモコン、マグカップ。はたまた、誰のものかも分からない眼鏡まで。

 

「こら、無理して入れるから」

「ポチ〜……」

 

 優しく叱るあんなの腕の中で、ポチタンが大人しくなる。

 散らかったそれらを片付けていると、電灯が切れたように室内が暗くなった。

 

「――?」

 

 窓の外に目をやると、太陽を大きな雲が覆い隠していた。

 今にも崩れそうな天気を見て、あんなは新二とみくるに傘を届けてあげようと思いつく。

 出かける準備を終えて、彼女が事務所を出ようとすると、階段をかけ上る音が聞こえてきた。

 

「できたっ! ついに完成したぞ!」

「ジェット先輩。それなに?」

「古い本にあった伝説のプリキット! 詳しいことはわからないけど、名探偵プリキュアの危機を救ってくれるらしい!」

「すご〜い!」

 

 ジェットの手には、二つのプリキットが握られている。

 虫眼鏡(ルーペ)だろうか。探偵と言えば探偵らしいかもしれない。

 

「出かけるのか? だったら、ついでにみくるにも渡しておいてくれ」

「わかった。ありがとう、ジェット先輩!」

 

 探偵の証であるプリキットブック。その他のプリキットと同様、みくるとお揃いのアイテムだ。

 あんなは二本の傘を握り直すと、上機嫌のまま事務所を出て行った。

 

「ここが、二人が通ってる学校みたいだね――あっ、みくるだ!」

 

 校門越しに、みくるの姿が見えた。

 校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下で立ち止まり、眉を八の字にして、雲行きの怪しい空を見上げている。

 あんなが大きく手を振って、みくるの名を呼ぼうとした瞬間。

 

「みく――」

「み〜くるっ!」

「きゃっ、ちょっとりえ!」

 

 みくるの友人である浅間りえが、後ろから彼女に抱きついた。

 すぐ隣では、依田ゆみが愉快そうに笑っている。

 

「また同じクラスになれるなんてね〜」

「嬉しいよ〜!」

「ええ、今年もよろしくね」

 

 中学生らしい当たり障りのない会話を交わしながら、みくるたちが向かいの校舎に入っていく。

 あんなは掲げた手を収め、背中を丸めて俯いた。

 

「――」

 

 わかっている。

 みくるにはみくるの――そして、新二には新二の日常があるのだ。

 ただ、あそこに自分の居場所はないのだと、一目見ただけでわかった。嫌でも理解してしまった。

 考えてみれば当然だ。今だって、二人に傘を届けたらすぐに事務所に戻ろうと思っていたのだから。

 

 わかっていた。

 わかっている気になっていた。

 それだけの事だった。

 

 ――ズキン。

 言いようのない痛みが、あんなの心に降りかかる。

 一度では止むことなく、何度も。

 何度も、何度も、何度も――。

 

「――」

 

 これからの天候をそれとなく示唆する空には、未だに雲が架かっているだけ。

 だと言うのに――それは雨よりもずっと冷たく、それは雨よりもずっと鋭かった。

 曇懸かりなんて生ぬるい。雨垂れが石を穿つように。この時代に来てから常に抱えていた懊悩が、胸の内で荒れ狂うのを感じる。

 曇天の下、自分の感情に答えを出せないまま、あんなは校門の前で立ち尽くす。

 

「……帰ろっか、ポチタン」

「ポチ……?」

 

 そっとポチタンの頭を撫でて、あんなは来た道を引き返そうとする。

 足元を見つめながら歩いていたのもあり、向かいから来ていた人影に気づけなかった。

 一人の女性とぶつかってしまい、彼女の手からはらりと一枚の写真が落ちる。

 

「あ、ごめんなさい!」

「い、いえ、こちらこそボーッとしてて……」

 

 彼女の名前は、北村真理子というらしい。

 話を聞いてみると、写真に写っている妹――ロンドンに留学しているはずの北村恵子を、駅前で見かけたのだという。そんな彼女の後を追いかけていたら、気づけば『まことみらい学園』まで来ていたとのこと。

 

「学校に聞いても恵子は居ないって言うし、ロンドンの恵子にも電話したんですが、出てくれないし。なんだか心配で……」

「わたしに任せてもらえませんか!」

 

 困っている真理子を放っておけず、あんなは依頼を引き受けた。

 みくると新二にも伝えるべく、プリキットボイスメモを取り出すが。

 

「……二人の邪魔しちゃ、悪いもんね」

 

 この依頼は自分の力で解決しよう。

 そっとボイスメモをしまい込み、あんなは学園の敷居を跨いだ。

 同じ敷地内に中等部、高等部が併設されているらしい。高等部二年生の恵子について聞き込みをしようと、中庭まで来たはいいが。

 

「な、なんか浮いてるかも……」

 

 入校許可証を首から提げているとはいえ、私服の少女が中庭の真ん中にポツンと立っていれば、周りからの注目が集まるのも仕方がない。

 そそくさと校舎の陰に向かうと、とあるプリキットを手に取るあんな。

 

「オープン! プリキットグロス!」

 

 グロスを唇に塗ると、あんなが光に包まれていき、少し大人びた年齢の姿へと変貌した。明智あんな、女子高生バージョンの完成だ。

 

「よし、調査開始〜!」

「ポチ〜!」

 

 同じ制服を着ていれば、奇異の目で見られることもなくなるだろう。

 早速と、あんなとポチタンは聞き込みへと乗り出すのだった。

 





次回の更新は17日20時。
今の投稿ペースだと過労死する自信しかない!!!!!!
ネタを考える時間も欲しいし、書き溜めがあっても二日〜三日毎に投下させてください。

たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ

  • 明智あんな(キュアアンサー)
  • 小林みくる(キュアミスティック)
  • 森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
  • ???(キュアエクレール)
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