名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
さあ、始まるドン!
ちょい短め。
◇
――四月六日。
今日から新学期の始まりだ。
今年度から、みくるは二年生に進級。俺は高等部に在籍する事になる。
やや灰色みを帯びた、淡い青色のブレザーに袖を通す。中に着ているワイシャツや紺色のズボンも含めて、どれも下ろし立ての新品である。
新しい服から香る、染料や糊。あるいは防虫剤や油が混ざったような、形容しがたい独特な匂い。不快ではない。むしろ身が引き締まる。
この感じも久しぶりだ。
肩を回し、変なところがないかを確認する。
「よし、こんなもんかな」
プリキットプレーヤーをポケットに押し込む。
着替えを終えて部屋を出ると、既に集まっているのか、みくるたちの声が廊下の奥から聞こえてきた。
事務所の応接間に移動し、見せびらかすようにその場でくるりと一回転。
「どうだ、新しい制服を着た俺は。今日からピチピチの高校生だぞォ」
「馬子にも衣装だな」「馬子にも衣装ですね」
「二人してハモってんじゃねーよ!」
最近、ジェット先輩とみくるの息が合うようになってきた気がする。
歳上にも歳下にも舐められるって、俺がいったい何をしたというのか。脳内でブツブツと文句を垂れていると。
「わあっ、素敵〜! はなまる似合ってるよ、シンジさん! スラッとしてて格好いいし、いつもと別人かも!」
「ポチポチ〜!」
「うんうん、あんなとポチタンは良い子だな〜! おーよしよし、頭撫でてあげようねぇ〜!」
「あっ――、えへへ」
軽く頭をポンポンと叩いてやると、あんながはにかむ。ポチタンも嬉しそうだ。
ジェット先輩がいつものように飴を口に咥え、呆れたように言う。
「あんなが遠回しに言ってるだけで、ボクたちと同じ感想に聞こえるが」
「ほほう? 要するに俺が格好いいって事か。んもォ〜、パイセンもみくるも素直じゃないんだからァ〜ん」
「都合の良い耳だな、まったく」
口の中の飴を転がし、ジェット先輩がそっぽを向く。
みくるの反応はどうかと言うと、意外にも肯定的だった。
「ええ、わたしも黙ってたら格好いいと思います。黙ってたらね」
「失礼な! 俺はいつも格好いいだろうが!」
「そういう所ですって」
言いながら、彼女は俺のすぐ側まで近づいてきた。
いつもの経験から、咄嗟に身構えてしまいそうになる。
「ネクタイが曲がってますよ。相変わらずだらしのない人。……ほら、直してあげますから。動かないで」
「あ、うん。首締められるかと思った」
「わたしを何だと思ってるんですかっ!?」
「そ、それはっ……! 本人の前で言えるわけないだろ。いやん、恥ずかしい」
俺がわざとらしく頬を赤らめ、腰をくねらせてそう言うと、みくるは押し黙ってしまった。
「……」
いつものノリでふざけたつもりだったのだが、どういう解釈をしたのやら。
彼女はジト目のまま、呆れと照れの入り交じった複雑そうな面持ちで、黙々とネクタイを直してくれている。
しばらくその様子を眺めていると、やがて俺の首元から手が離れた。
「……はい、終わりましたよ」
「サンキュー、おかん」
「誰がおかんですか!」
一連のやり取りを、黙って聞いていたジェット先輩であったが。
「おい、そろそろ事務所を出ないと遅刻するんじゃないか? 二人とも、車には気をつけるんだぞ」
「サンキュー、おとん」
「誰がおとんだ!」
二人ともなにかと世話を焼きたがるから、そう思っただけなのに。
叱咤を背中に受けながら、スクールバッグを肩にかける。
「じゃあ行ってくる。なんかあったら、ボイスメモで連絡してくれ」
「あ、うん……」
「そんな顔すんなよ、あんな。今日は始業式だけだから、午後には帰ってくるって」
俺がそう言うと、あんなはこくりと頷いた。
彼女たちに見送られながら、みくると共に事務所を出る。
「大丈夫ですかね。あんなを独りにしちゃって」
「パイセンもポチタンもいるし、まぁ大丈夫だろ」
「だといいんですが……」
みくるの気持ちもわからない事はないが、学校を休むわけにもいかない。
その後も何てことのない会話を交わしながら、通学路を歩んでいく。
俺たちと同様、学園の生徒であろう姿がチラホラと増えてきた。彼らの手にある傘を見て、そういえば天気予報を見ていなかったな、なんて思いながら空を見上げる。
「――」
隣を歩くみくるは、憂いを帯びた表情を浮かべたままだ。
不意に、彼女が立ち止まって。
「この前、あんなと約束したんです。『あなたを元の時代に帰す』って。あの子の事件を解決するためにも、頑張って立派な名探偵にならないと」
「そっか。じゃ、俺も頑張らないとな」
「……シンジさんも協力してくれるんですか?」
「何を今更。俺はお前たちの『おとも妖精』なんだろ? 力になってやるよ」
みくるは頬を緩めて笑ったものの、また何かを考え込む仕草を見せた。
気のせいか、俺の言った『おとも妖精』というワードに引っ掛かりを覚えているかのような気配がした。何か思うところでもあるんだろうか。
耳にかかっている髪の一房を指先で弄りながら、みくるが。
「シンジさんにとって、わたしは――いえ、やっぱり何でもないです。気にしないでください」
「ええっ!? それ一番気になるやつ! 最後まで言ってくれよ、モヤモヤするだろォ〜!」
「なんでもありませんってば! ほら、早く行かないと遅刻しますよ!」
みくるは話を切り上げて、さくさくと早歩きで遠ざかっていく。
……俺にとってのみくる、か。言われてみれば、考えたことすら無かったかもしれない。
あんなより付き合いは長いものの、お互いに知らない事はまだまだ多い。名探偵を目指しているのは前々から知っていたが、それ以外に関してはさっぱりだ。
「どうでもいいか、別に」
ネガティブな意味合いではない。
なあなあの状態で今まで絡んできたのだから、これからも同じように付き合いが続いていくんだろう。その過程でお互いを知る機会はいくらでもあるはず。
意図的に隠し事をしているならまだしも、全てを
「待てよ、みくる! 置いていくなって!」
軽くスクールバッグを背負い直し、俺はみくるの後を追いかけるべく走った。
◆
「静かだね、ポチタン」
「ポチ〜」
窓辺にあるチェアに腰掛け、花瓶に入ったワスレナグサを眺めていたあんなが、ポツリと呟く。
ジェットは「新しい探偵道具の開発で忙しい」と言って、研究室にこもりきりだ。
新二とみくるのいない事務所は、驚くほど静寂に包まれている。ホールクロックと呼ばれる大きな置時計。それが秒針を刻む音が、この部屋まで聞こえてくる位には。
「――」
サイドテーブルに乗っている地球儀を、なんとなく回してみる。
その様子を見ていたポチタンが、宝物を見つけた子供のように目を輝かせた。
「ポチ〜!」
「わっ、ポチタン!?」
ポップな音と共に、地球儀が消えてしまった。
今まで集めたマコトジュエルのエネルギーによって、ポチタンは日々成長している。力を取り戻していくのに比例して、小さな小物をいくつか異空間に収納できるようになっていたのだ。
最初は楽しげにしていたポチタンであったが、徐々にプルプルと震えだして。
「ポ、ポチ〜……!」
――ポン、ポン、ポンッ。
先程の地球儀だけでなく、メモ帳とボールペン、鉛筆や消しゴム、テレビのリモコン、マグカップ。はたまた、誰のものかも分からない眼鏡まで。
「こら、無理して入れるから」
「ポチ〜……」
優しく叱るあんなの腕の中で、ポチタンが大人しくなる。
散らかったそれらを片付けていると、電灯が切れたように室内が暗くなった。
「――?」
窓の外に目をやると、太陽を大きな雲が覆い隠していた。
今にも崩れそうな天気を見て、あんなは新二とみくるに傘を届けてあげようと思いつく。
出かける準備を終えて、彼女が事務所を出ようとすると、階段をかけ上る音が聞こえてきた。
「できたっ! ついに完成したぞ!」
「ジェット先輩。それなに?」
「古い本にあった伝説のプリキット! 詳しいことはわからないけど、名探偵プリキュアの危機を救ってくれるらしい!」
「すご〜い!」
ジェットの手には、二つのプリキットが握られている。
「出かけるのか? だったら、ついでにみくるにも渡しておいてくれ」
「わかった。ありがとう、ジェット先輩!」
探偵の証であるプリキットブック。その他のプリキットと同様、みくるとお揃いのアイテムだ。
あんなは二本の傘を握り直すと、上機嫌のまま事務所を出て行った。
「ここが、二人が通ってる学校みたいだね――あっ、みくるだ!」
校門越しに、みくるの姿が見えた。
校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下で立ち止まり、眉を八の字にして、雲行きの怪しい空を見上げている。
あんなが大きく手を振って、みくるの名を呼ぼうとした瞬間。
「みく――」
「み〜くるっ!」
「きゃっ、ちょっとりえ!」
みくるの友人である浅間りえが、後ろから彼女に抱きついた。
すぐ隣では、依田ゆみが愉快そうに笑っている。
「また同じクラスになれるなんてね〜」
「嬉しいよ〜!」
「ええ、今年もよろしくね」
中学生らしい当たり障りのない会話を交わしながら、みくるたちが向かいの校舎に入っていく。
あんなは掲げた手を収め、背中を丸めて俯いた。
「――」
わかっている。
みくるにはみくるの――そして、新二には新二の日常があるのだ。
ただ、あそこに自分の居場所はないのだと、一目見ただけでわかった。嫌でも理解してしまった。
考えてみれば当然だ。今だって、二人に傘を届けたらすぐに事務所に戻ろうと思っていたのだから。
わかっていた。
わかっている気になっていた。
それだけの事だった。
――ズキン。
言いようのない痛みが、あんなの心に降りかかる。
一度では止むことなく、何度も。
何度も、何度も、何度も――。
「――」
これからの天候をそれとなく示唆する空には、未だに雲が架かっているだけ。
だと言うのに――それは雨よりもずっと冷たく、それは雨よりもずっと鋭かった。
曇懸かりなんて生ぬるい。雨垂れが石を穿つように。この時代に来てから常に抱えていた懊悩が、胸の内で荒れ狂うのを感じる。
曇天の下、自分の感情に答えを出せないまま、あんなは校門の前で立ち尽くす。
「……帰ろっか、ポチタン」
「ポチ……?」
そっとポチタンの頭を撫でて、あんなは来た道を引き返そうとする。
足元を見つめながら歩いていたのもあり、向かいから来ていた人影に気づけなかった。
一人の女性とぶつかってしまい、彼女の手からはらりと一枚の写真が落ちる。
「あ、ごめんなさい!」
「い、いえ、こちらこそボーッとしてて……」
彼女の名前は、北村真理子というらしい。
話を聞いてみると、写真に写っている妹――ロンドンに留学しているはずの北村恵子を、駅前で見かけたのだという。そんな彼女の後を追いかけていたら、気づけば『まことみらい学園』まで来ていたとのこと。
「学校に聞いても恵子は居ないって言うし、ロンドンの恵子にも電話したんですが、出てくれないし。なんだか心配で……」
「わたしに任せてもらえませんか!」
困っている真理子を放っておけず、あんなは依頼を引き受けた。
みくると新二にも伝えるべく、プリキットボイスメモを取り出すが。
「……二人の邪魔しちゃ、悪いもんね」
この依頼は自分の力で解決しよう。
そっとボイスメモをしまい込み、あんなは学園の敷居を跨いだ。
同じ敷地内に中等部、高等部が併設されているらしい。高等部二年生の恵子について聞き込みをしようと、中庭まで来たはいいが。
「な、なんか浮いてるかも……」
入校許可証を首から提げているとはいえ、私服の少女が中庭の真ん中にポツンと立っていれば、周りからの注目が集まるのも仕方がない。
そそくさと校舎の陰に向かうと、とあるプリキットを手に取るあんな。
「オープン! プリキットグロス!」
グロスを唇に塗ると、あんなが光に包まれていき、少し大人びた年齢の姿へと変貌した。明智あんな、女子高生バージョンの完成だ。
「よし、調査開始〜!」
「ポチ〜!」
同じ制服を着ていれば、奇異の目で見られることもなくなるだろう。
早速と、あんなとポチタンは聞き込みへと乗り出すのだった。
次回の更新は17日20時。
今の投稿ペースだと過労死する自信しかない!!!!!!
ネタを考える時間も欲しいし、書き溜めがあっても二日〜三日毎に投下させてください。
たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ
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明智あんな(キュアアンサー)
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