名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜   作:秋葉ばっこ

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当作品を書き始めるにあたって、今回・次回のお話が一番やりたかったまである。
前もって念を押しておきますが、あんなとみくるの事は大好きです。勘違いしないでよねっ。


FILE12:ゴー・ダウン・ザ・ドレーン

 

 

 

 

「……どこにもいないな」

 

 始業式を終えて、中庭を散策しているものの、目当ての人物である幼なじみ――るるかの姿が見当たらない。

 言いようのない不安が、まるで今の空模様のように心中に立ち込めていく。

 昨日会った彼女は「またね」と確かに言っていた。だというのに、このまま二度と会えないのではないかという焦燥に駆られている。

 

「あいつの事だから、さっさと帰ってアイスでも食ってんだろうな。多分」

 

 そういう事にしておこう。

 雨が降り出す前に、俺も探偵事務所に帰ろう。

 

「――ん?」

 

 ふと、見慣れたオレンジ色の髪が目に入った。

 あんながうちの制服――しかも高等部のそれを着て、しきりに生徒たちに声をかけている。

 背丈もいつもより数センチほど高い。恐らく、プリキットか何かを使って変装しているのだろう。

 

「ヘーイ、そこの可愛いお嬢さん(マドモアゼル)。ちょっといいかな」

「ふぇっ!? か、可愛いって……わたしのこと!?」

 

 俺が後ろから声をかけると、あんなが肩を跳ね上げて慎重に振り返る。

 

「良かったら俺とお茶でもしない? おすすみの喫茶店があるんだ。今なら漏れなく、シンジくんの奢りつき! ベイビーチェケラッチョ!」

「シ、シンジさん!? びっくりしたぁ……! 誰かと思っちゃった」

 

 あんなは胸に手を当てて、大きく安堵の息を吐いた。

 ポチポチ鳴いているポチタンの頭を撫でながら。

 

「……で、何やってんだ、こんなとこで。お前のことだからイタズラってわけじゃないだろ?」

「あ、うん……その、北村真理子さんって人から依頼を受けて、ここで調査してたんだ」

「ふーん。だったら俺も手伝うよ」

「……怒らないの? ひとりで勝手に依頼を引き受けたこと」

 

 罰が悪そうに、あんなが上目遣いでこちらを見上げてきた。

 迷子だった子供が親を見つけたような、安心と申し訳なさが入り交じった瞳が、気持ち潤んで揺れている。今の大人びた容姿とのギャップもあり、少しだけ言葉に詰まる。

 

「あー、うん……俺とみくるも学校があるし、しょうがないだろ。俺たちに気を使ってくれたんだろ? 褒めるならともかく、怒る理由がないって」

「シンジさん……」

 

 眩しいものを見た時のように、あんなが目を細める。

 しばしの沈黙の後、彼女は悪戯そうに笑って。

 

「ねぇ、シンジさんって、いつもあんな風に女の人に話しかけてるの?」

「ああ。最近はみくるが怖いから、めっきりナンパなんてしてないけどな。高等部に上がって監視網から外れた今が、彼女を作るチャンス……って、何を言わせるんだ」

「……彼女」

 

 あんなは俺の言葉をポツリと反芻すると、自分の腕に手を回して、独りごちながら長考を始めた。

 

「そっか、最初からそうすれば良かったんだね。こうすれば、シンジさんともっと一緒に……」

「……あんな?」

 

 何故か背筋に冷たいものが走る。

 納得のいく結論に達したようで、あんなはおもむろに顔を上げると、とんでもない事を言い出した。

 

「いいよ。わたし、シンジさんの彼女になる」

「――ひょ?」

 

 あまりにも唐突過ぎる提案に、変な声が出てしまった。

 

「あなたの彼女になれば、ずっと一緒にいてくれるんだよね? もうどこにも行ったりしないよね? ……わたしのこと、独りにしたりしないよね?」

「……っ!」

 

 俺が後退ると、それを許さないとでも言わんばかりに、あんなが距離を詰めてくる。

 知らなかった。こんな事態になるまで、あんなは孤独に怯えていたなんて。

 獲物を決して逃さないという執念。俺を自分だけのものにしたい、誰にも渡したくないという独占欲が、彼女の瞳を真っ黒に染め上げていく。

 

 ――ピコン、ピコン。

 俺のプリキットプレーヤーと、あんなのプリキットボイスメモから、同時に電子音が鳴った。

 

「み、みくるからの着信だ。何かあったのかもしれない。早く出ないと」

「ダメだよ。今はわたしのことだけ見て。ね、お願い……」

 

 あんなは何がなんでも、俺を引き留めようとしてくる。

 まるで、鏡を見ているかのような気分だった。

 

「――」

 

 ようやく合点がいった。

 あんなはみくるに似ているのと同時に、俺にそっくりなんだ。

 彼女を放っておけないと思ったのは、慈愛ではなく自愛。同情や慈しみでもなんでもなく、自分自身を蔑ろにしたくないという感情を抱いたからだろう。

 だとすれば、俺はあんなの想いに応えることは出来ない。

 

「……無理だな。お前とは付き合えないよ、俺は」

「どうして? わたし、シンジさんの為ならどんな事だってするよ? 大人の女性(ひと)が好きなら、プリキットグロスで――」

「そういう問題じゃない」

 

 俺たちは、人との繋がりに飢えている。

 似ているからこそ、わかる。

 

「だってお前、俺のこと好きじゃないだろ」

「――っ」

 

 俺の言葉に弾かれたように、あんなの肩が跳ねた。

 彼女は首を横に振り、必死の形相で語りかけてくる。

 

「そ、そんな事ないよ! 出会ったばかりかもしれないけど、わたしは……シンジさんのこと……!」

「ウソは()かないんじゃなかったか?」

 

 その姿があまりにも痛々しくて、視線を逸らしそうになってしまう。

 仁愛、敬愛、友愛、親愛……あんなが俺に抱いている感情に当てはめるとすれば、これらの二文字が妥当だろう。

 少なくとも、彼女が言おうとした『好き』は、決して恋愛感情には結びつかないものだと、そう断言できる。

 

「わたし、は……!」

「少なくとも俺は、自分の心にウソをつく奴は嫌いだ」

 

 息を呑む音。

 あんなは肩を竦めて、まるで追い詰められた犯人の如く、独白を語り始めた。

 

「……はなまる凄いね、シンジさんは。思ってる事なんでも言っちゃうんだもん」

「……」

「みくるやジェット先輩ともすぐに仲良くなって、顔も広くて、困ってる時に助けてくれて……わたしに無いモノをたくさん持ってる。それこそ、羨ましいくらいに」

 

 知らなかった。

 気を使っていたつもりが、彼女を一番に傷つけていたのは、他でもない俺だったなんて。

 

「あなたには、わからないよね。わたしの気持ちなんて……」

 

 責め立てるような言い方ではない。

 乾いた笑いを浮かべて、あんなは閑静とした自棄に身を任せている。

 

「わかるって言ったら、あんなは満足してくれるのか? そうじゃないだろ。こんな事しなくったって、俺は――」

「もういいよ。シンジさんは誰にでも優しいもんね。……変なこと言ってごめんなさい。わたし、真理子さんの依頼を解決しないと。もう行くね」

「――待てよ、あんな!」

 

 一瞬の躊躇の後、あんなの腕を掴もうとするが、タイミングが遅かったせいか空を切ってしまう。

 彼女は振り返らず、すたすたと早歩きで場を去ろうとするが――不意に、その歩みを止めた。

 

「あんな、シンジさん。二人共ここにいたんだ」

「みくる……」

「……よう、みくる」

 

 最悪なタイミングだ。

 いや、今の空気を壊すには絶好の機会かもしれない。俺にとって、みくるの出現は救いの手のようにすら感じられた。

 

「どうして連絡に出てくれなかったの、あんな。心配したんだよ」

「それは……調査中だったから。真理子さんの依頼で」

「真理子さんって……? もしかして、ひとりで依頼を引き受けた……? なんで相談してくれなかったの。もし失敗したら――」

「ま、まあまあ、落ち着けよ。あんなも悪気があったんじゃない。俺たちに気を使ってくれたんだって。……そうだよな?」

 

 あんなは不貞腐れたまま、そっぽを向いている。

 不本意ながらも、みくるが引き下がるが。

 

「……それで、シンジさんは? どうして連絡に出てくれなかったんですか」

「いやぁ〜悪い悪い。ほら、せっかく高等部に上がったからさ。気になってる女を引っ掛けようとブラブラしてて、出ようと思っても出られなかったんだよ」

 

 ウソは言っていない。

 が、選択を間違えたと直感した。

 

「――ぁ、――」

 

 あんなが一瞬、何かを言いかけようとしていたが、すぐに口を結び直す。

 いつもの調子で茶化せば、みくるもいつもの調子で噛みついてくるだろう。そう思っていたのだが――。

 

「ふざけないでください」

 

 静かな怒気を孕んだ、咎め立てる声。

 予期せぬ返答に、一瞬にして体が強張る。

 

「くだらない。たったそれだけの理由で、今朝の言葉を反故にしたんですね。……今度ばかりは本当に見損ないました」

「お、おい、みくる……今のは……」

「……嘘つき。力になってくれるって言ったのに」

「……っ!」

 

 言葉が出てこなかった。

 あんなにも、ジェット先輩にも、これまでの依頼人にも。ましてや怪盗団ファントムにさえ向けた事のない表情を、みくるが浮かべていたからだ。

 

「……やっぱり。やっぱりシンジさんにとって、わたしは……探偵としての活動なんて、どうでもよかったんだ」

 

 怒りを堪えるような、涙を流さずに泣いているような、そんな悲哀に満ちた面持ち。

 

「そう……ですよね。……あなたはただ、巻き込まれただけなんだもの。今まで『おとも妖精』として、仕方なく付き合ってくれてただけで……」

 

 吐露されていく心情には、俺に対する失望だけでなく、彼女自身に向けた自嘲が込められているように思える。

 

「……馬鹿みたい。勝手に期待して、勝手に舞い上がって。裏切られるくらいなら、最初から信じるんじゃなかった」

「みくる……」

 

 みくるの名を呼んだのは、あんなだ。

 俺たちにかける言葉が見つからないのか、彼女はこちらの様子を交互に窺うものの、先程から戸惑うことしか出来ていない。

 

「――いい加減にしろよ。さっきから聞いてりゃ、二人して好き勝手言いやがって」

 

 意に反して、俺から出てきたのは低く唸るような声だった。

 それは違うと、真っ向から否定したかったはずなのに。

 

「何をするにしても、いの一番に突っかかって来て、口を開けばいつも犯人扱いだ。推理もヘッタクレもねえじゃねえか、笑わせんなよ」

「……っ!」

「仮に俺が他の女とつるんでたとして、どうしてお前にいちいち口出しされなきゃいけねえんだよ。……お前は俺の何なんだ? 彼女にでもなったつもりか? それとも保護者気取りか?」

 

 こんな事、言いたかったはずじゃないのに。

 ドロドロとした悪感情が、堰を切ったように胸の奥から溢れて止まらない。

 

「賢いみくるさんからしてみれば、俺はバカ丸出しだもんな。……ハッ、上手く丸め込んで顎で使うにはピッタリじゃないか」

「そんなつもりじゃ――!」

「好き勝手に懐柔しといて、そんで都合が悪くなったらポイか。何様のつもりだよ。お前の目指してる名探偵ってのは、随分と偉いんだな」

 

 俺もみくるも、振り上げた凶器(ことば)の収め方を知らないまま。

 

「言わせておけば……! 思わせぶりな態度ばかりしているのは、シンジさんも同じでしょう!?」

「ハァ? 勘違いする方が悪いだろ、そんなの。ガキがいっちょまえに色気づいてんじゃねえよ」

「その台詞、あんなにも同じことが言えますか!? この子が……どれだけあなたを信用してるか……!」

「違うね。こいつは身近な人間に依存しているだけだ。……そうでなきゃ、俺なんかに懐いたりしないだろ」

 

 曲がりなりにも、それは嘘偽りのない本心だった。

 あんなは否定するわけでもなく、俺を糾弾するわけでもなく、黙って目を伏せてしまう。

 

「――」

 

 無知な子供が、純粋な好奇心から羽虫の命を弄ぶのとはわけが違う。

 俺たちは意識的に、それでいて恣意的にお互いの心を抉るようにして、越えてはならない一線を踏み越えてしまった。

 

「……もういいです。そこまで言うなら、もうシンジさんの邪魔はしません。どこにでも好きな所へ行けばいいじゃないですか」

「おう、そうさせてもらうわ。短い間だけど世話になったな」

 

 ガラガラと、俺の中でナニカが瓦解していくような音が聞こえてきた。

 ここまで積み上げるのに苦労してきたはずなのに、崩れる時はほんの一瞬。なんて呆気ないんだろう。

 その場で踵を返し、お互いに捨て台詞を吐き散らかす。

 

「さようなら。あなたの顔はもう見たくありません」

「俺のことが嫌いなら最初からそう言えよ。じゃあな、()()()()()()()()

 

 ――嗚呼、知らなかった。

 人と人の繋がりってものは、こんな些細なことで切れてしまうのか。

 

「……行こう、あんな」

「みくる……で、でも……」

「いいから」

 

 二人分の足音が遠ざかっていく。

 それが聞こえなくなるまで、俺は何をするわけでもなく、ただ自己嫌悪に耽っていた。

 

「……」

 

 ふらふらとした足取りで、近くにあった壁に手を突いて寄りかかる。

 行き場を失った感情を引き金に、思い切り頭突きをかます。

 

「クソッ――!」

 

 ――ガンッ。

 頭に上った血が溢れても、気分はちっとも晴れなかった。むしろ余計に鬱憤が溜まっていっている。

 額を伝り、顎からポタリと垂れた赤い雫が、地面に生々しい染みを広げていく。

 

「何をやってんだ、俺は……()()()からちっとも変われてないじゃないか……」

 

 また間違えてしまった。

 あの時、あんなの手を掴み損なった時点で、俺たちの関係は終わっていたんだ。上辺だけで取り繕われた、中身のない歪な関係が。

 

「……痛い」

 

 未だ出血している患部ではなく、胸に手を当てる。

 わかっている。あんなが道を踏み外しかけたのも、みくるが業を煮やしパンクしたのも、間違いなく俺のせいだと。

 俺と関わりさえしなければ、二人は順風満帆な生活を――探偵としての活動に専念できていたのかもしれない。

 彼女たちにとって、俺はノイズでしかなかったのだ。

 

「不要なもんがなくなって、元通りになった。それだけの話だ」

 

 これで良かったんだ。

 これで――。

 

「痛っ――!?」

 

 突然、額に鋭い痛みが走る。

 手を当ててみれば、そこには『おとも妖精』の証が浮かび上がっていた。

 

「なんでこんな時に……!」

 

 なんとなくだが、これが警戒心号(アラート)だとわかった。

 あんなとみくるは、これからプリキュアに変身するんだろう。

 あっという間に周囲の空気が淀み、いかなる人間も立ち入ることが出来ない亜空間が形成されていく。即ち、すぐ近くでハンニンダーが出現したということ。

 

「……」

 

 俺にはもう関係のない話だ。

 そもそも、俺がいなくても二人ならなんとかしてくれるだろうし、わざわざ出向いた所でだ。どうせ俺には何も出来やしないんだから。

 自分から放棄した責務に固執するほど、俺は間抜けじゃない。

 

 ……そう思ったのに。

 自分の心にウソはつけなかった。

 

「ハッ、出しゃばりが。てめえに心底嫌気が差すぜ……!」

 

 自分自身に悪態をついて、走り出す。

 向かう先は決まっていた。

 




選択肢次第で、あんなとの共依存ルートに入ります。ウソです。
誰にだってヒューマンエラーは起こりえます。子供だったら尚更ね。
序盤から仲良しごっこをさせていたのは、それぞれの感情をこの回で爆発させたかったからです。
余談ですが7割くらい実話だったりする。書いてて楽しかった……!

go down the drain
(計画・努力などが)お流れになる、水泡に帰する、水の泡となる、失敗に終わる、無駄(駄目)になる。

次回の更新は19日20時。

たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ

  • 明智あんな(キュアアンサー)
  • 小林みくる(キュアミスティック)
  • 森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
  • ???(キュアエクレール)
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