名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
good-for-nothing
怠け者、役立たず、甲斐性がない、能なし、ろくでなし、穀潰し。
◇
「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵、キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵、キュアミスティック!」
「「名探偵プリキュア!」」
「わたしの答え、見せてあげますっ!」
戦いは既に始まっていた。
すぐ近くにいたポチタンと同じように、物陰に隠れて二人の戦いを見守る。
何かがおかしい。ハンニンダーが二体いるのもそうだが、アンサーとミスティックの動きが、いつもと比べてどこかぎこちない。
「どうしたんだ……? 具合でも悪いのか、あいつら」
「ポチ〜……」
ポチタンも違和感を覚えているらしく、先程からそわそわと落ち着かない様子だ。
ちぐはぐな連携。ぎくしゃくとした挙動。噛み合わない歯車というよりは、錆びついて動けなくなっていると言い表した方が的確か。
全体的なリズムがワンテンポ遅れているせいで、タイミングが合っていないように見える。
戦いの最中、ニジーが傍観しながら言う。
「一気にマコトジュエルが二つも手に入るとは、まさに一石二鳥」
「……渡さない! 幸せを運ぶと言われるツバメは、学校のシンボルなの。生徒と先生たちの想いが籠った像なの!」
「フッ。このボクにも幸せを運んでくれたようだね――ハンニンダー!」
ミスティックの怒号に、ニジーは皮肉を込めて言い返すと、二羽のハンニンダーへと指示を飛ばした。
アンサーとミスティックは、次の行動に出るべく各々走り出すが、タイミング悪く激突してしまう。
「「……っ!?」」
「「ハンニンダーッ!!」」
飛翔による加速。そこから繰り出される蹴りが、彼女たちを交互に襲う。
二人は咄嗟に腕をクロスさせ防御の姿勢を取ったが、威力を殺し切ることができず、ごむまりのように弾んで地面に打ち付けられてしまう。
「見事だろう? 息の合ったハンニンダーの攻撃。それに比べて惨めだねぇ。君たちはまるで足並みが揃ってない」
勝利を確信しているのか、ニジーは余裕の表情で言い放った。
舞い上がる砂塵の中、負けじとアンサーとミスティックが立ち上がろうとする。
しかし、ハンニンダーはその隙を見逃さない。余裕があっても、まかり間違っても慢心はしない。目の前の獲物が動かなくなるまで、猛威を振るわんと差し迫る。
二羽の拳が、無防備を晒す二人を打ち抜いた。
「……ううっ!」
「うぐっ……!」
苦悶に顔を引きつらせ、再びアンサーとミスティックが地べたに叩きつけられてしまう。
「全くもって相手にならない。今のキミたちからならば、逃げ去ることは容易だろう。だが、名探偵プリキュアを倒すことが出来れば――」
両手を大きく広げ、空を仰ぐようにして語りかけるニジー。
「――ウソノワール様もお喜びになる! ご覧になられていますか!? ウソノワール様ッ!!」
ニジーの期待に応えるようにして、ハンニンダーたちが翼を広げて飛び立つ。
「象を取り返すっ……!」
「……マコトジュエルを、取り返すっ!」
アンサーとミスティックは、まだ諦めていなかった。
今度こそ二羽を迎え撃つため、ジュエルキュアウォッチを構え、長針を『11』まで回していく二人。
「――あ」
勝負を焦っているからか。
いつもより踏み込みが浅い。
「「これがわたしたちの……!」」
このままでは負ける。
直感でも確信でもなく、見たままにそう思った。
「「アンサーだあああ――っ!!」」
二つの閃光が交わり、二羽へと肉薄する。
だが、彼女たちの拳が届くことはなかった。
「「――っ!?」」
何故なら、ハンニンダーに受け止められていたからだ。
まるで風に煽られた花火のように、アンサーとミスティックが纏っていた輝きが散っていく。
仕返しだと言わんばかりの反撃が、彼女たちを元いた方向へと切り返した。
度重なるダメージで、すぐに立ち上がることが出来ないのか。息も絶え絶えのミスティックが膝を着く。
「どう、しよう……このままじゃ……」
俺はその時、初めて
プリキュアになってから、決して音を上げることのなかったアイツが、立ちはだかる絶望の前で揺らいでいる。
「こんな時、シンジさんなら……!」
アンサーはそう言うと、決死の覚悟で立ち上がり、見たことのないプリキットを掲げる。
「――オープンッ!」
返ってくるのは静寂のみ。
アンサーが握っているルーペのようなそれは、彼女の必死な呼びかけに対して、うんともすんとも反応しない。
「あれ……? オープン! オープン、オープン、オープン! そ、そんな……どうして……!?」
頼みの綱であるプリキットが機能しない。それどころか、そのものに拒まれているとさえ感じる。
あのジェット先輩が不良品を掴ませるとは思えないので、原因があるとすれば、それはきっとアンサーの方にあるんだと思う。
「――」
ミスティックと同様、アンサーの心を打ちひしがせるには充分だったんだろう。
彼女は力なく崩れ落ち、敵がいるにも関わらず地面に手をついてしまった。
さっきのやり取りが、二人の中で尾を引いているのだとしたら……。
「俺のせいじゃねぇかよ……!」
二人が諦めるなんて、よっぽどのことがない限り有り得ないと思っていたのに。
失念していた。どれだけ中身が大人びていても、いくらプリキュアに変身できても、彼女たちはまだ14歳と13歳の少女なのだ。
「同じ台詞を言わせないで欲しいなぁ。足並みが揃っていないんだよ。……さて、そろそろ舞台から降りてもらおうか」
ニジーの言葉すらすら聞こえていないのか、アンサーとミスティックは項垂れたままだ。
ぽつり、と冷たいものが俺の頬を叩く。彼女たちの心情を表すかのように、間もなく雨が降り注ぎ始める。
「やべぇ……! このままだと、アンサーとミスティックがやられちまう……!」
すぐにでも行動を起こさなければ、彼女たちは敗北する。
再起不能のダメージを負うか、はたまた二度とプリキュアに変身できなくなるような目に遭うか。最悪の場合は、命すら奪われるのではないか。俺の足りない頭でも、おおよそ見当がつく。
……だと言うのに。
「畜生ォ……! 動け、動けよッ! 何の為にここまで来たんだ、俺は!?」
どれだけ拳を叩きつけても、恐怖にすくんだ足が一歩も動こうとしない。
お前に何が出来るんだと、自分自身が語りかけてくるかのように、身体中の震えが止まらなかった。
動悸が収まらず、呼吸も荒い。視界がチカチカする。頭痛が波のように襲ってくる。たった独り、世界に取り残されたかのような感覚。
「――」
運命や奇跡なんてものが本当にあるとして、俺はいつだって蚊帳の外にいる。
当然だろう。ただの人間に――ましてや俺のような人間が、星を掴むなど到底許されない。唯一できる事といえば、星を観測し記録するくらいだ。
「ポチ」
ポチタンはふわりと浮き上がると、俺の目の前で止まった。
赤子のものとは思えない、力強い眼差し。それが真っ直ぐこちらを射抜き、鏡のように俺の姿を映し出している。
自分の惨めさを見せつけられ、堪らず目を逸らしてしまう。
「……無理だよ、ポチタン。俺には二人を助けられない。俺なんかじゃあ、アイツらみたいになれないよ……」
「ポチッ!」
――ぽふっ。
頬に肉球の跡すら残さない、あまりにも弱々しい平手打ち。
「ポチ、タン……?」
その時その瞬間だけは、こいつが何を言っているのかが手に取るようにわかった。
「ポチポチ、ポチ〜!」
アンサーとミスティックが折れても、俺が怖気を震っていても、まだポチタンは諦めていない。
どうしてかは分からないが、発破をかけられている。背中を押されている。
ひとりでは無理でも、二人で力を合わせれば、と。
「ポチタン、頼む。俺に力を貸してくれ……!」
「ポチ!」
ポチタンが力強く頷いた瞬間、俺たちの額――ハート型の石が大きく輝き始めた。
その光は一帯の雨粒を打ち払い、大きく広がっていったかと思えば、徐々に集約していく。俺の身体という身体へ、凛とした煌が呑み込まれ始める。
「――あ、がァ――、――ッ!?」
意識が染まる。
白く、白く、白く。
「ぅ――、あああッ――、――!!」
すべてが虚ろに向かう。
白く、白く、白く――。
「――」
塗り潰されていく。
工藤新二という存在が、“
◆
真っ先に異変に気づいたのは、勝利を確信していたニジーであった。
校舎の陰から眩い光が溢れたと思いきや、それはすぐに収まっていく。
彼の動揺に釣られて、アンサーとミスティックが振り返る。そして、すぐに絶念によって細めていた目を見開く。
「「シンジさん……!?」」
新二が、真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
その腕の中に、力を使い果たしぐったりとしたポチタンを抱えたまま。
ニジーはすぐに平静を取り戻し、肩を竦めて。
「今さら誰が来たかと思えば、またキミか……ビッグベイビー。プリキュアのピンチに駆けつけたんだろうけど、遅かったね。彼女たちには、これから退場してもらうつもりさ」
「……」
「そういえば、キミもマコトジュエルを持っているんだったか。彼女たちを倒した後で、じっくりと頂いてあげよう」
何かがおかしいと、アンサーはすぐに気づいた。
ニジーの煽りに反応することなく、新二は控えめな動作で歩き続けている。気のせいでなければ、彼の碧眼に光が宿っていないような。
「どうして来たんですか。あんなに酷い事たくさん言ったのに。……どうして。どうしてあなたは、いつも困った時に助けてくれるんですかっ……!」
「待って、ミスティック。シンジさん、なんだか様子が変だよ」
違和感を覚えていると、新二はそっと彼女たちの前にポチタンを下ろし、再度とある方向へと進み始めた。
さもそれが当たり前かのように。趨勢に導かれるがままに、ニジー……正しくは、ハンニンダーが待ち構えている方へと。
「やるなら自分を先に、とでも言いたいのかい? 似合わないね。キミにしては随分と紳士じゃないか。……望み通りやってしまえ、ハンニンダー」
「「ハンニンダーッ!!」」
無慈悲な指示が、二羽を駆り立てた。
アンサーとミスティックの顔が青ざめる。名前を呼ぼうにも、助けに入ろうにも、すべてが遅い。瞬きをする内に、工藤新二は凄惨な結末を迎えるだろう。
誰もがそう思っていた――はずだった。
「
襲いかかる疾風を前にして、ようやく新二が口を開いた。
重苦しい空気を吹き飛ばすような、透き通った声音が耳朶を打つ。
次の瞬間、場にいる全員が自身の目を、あるいは耳を疑うことになる。新二は右掌を突き出すと、続けて信じられないワードを呟いたからだ。
「ミスティックリフレクション」
「ハンニンダーッ!?」
宝石状のバリアが展開され、攻撃を退ける。
突然現れた障壁に激突してしまい、一羽のハンニンダーが大きくよろめく。
「ウソでしょ……!? さっきのって……!」
「ミスティックの技、だよね……?」
驚く隙さえ与えず、新二は迅速に次の一手に移るべく、身をかがめて腰を捻った。
右拳に紫色のエネルギーが纏われていき、エンジンがノッキングするような音と共に、細かな火花を散らす。
「
「ハンニ――ッ!?」
紫電一閃。
技名を口にしたかと思えば、よろめいていたハンニンダーが、校舎に突っ込むようにして吹き飛ばされた。
とても生身の人間とは思えない膂力。いつ拳を振り抜いたのかさえ、その場にいる誰もが捉えることが出来なかった。
今のアンサーとミスティックが普段の50パーセント以下の実力しか出せていないのに対して、新二はベストコンディション時の各技を模倣してみせたのだ。
「アンサーアタック」
「ダアア……ッ!?」
二撃目を放ったあと、彼の右腕が力なく垂れ下がる。
骨が折れているのか、それとも肩が外れているのか。制服の袖から除く掌は、見るも痛々しい青紫色に変色し、瞭然たるダメージを蓄積させていた。
「――」
無事な左手から、アンサーアタックが放たれることはなかった。
恐らく、放つことすら不可能なのだろう。彼はあくまでも、アンサーとミスティックの技を再現しているだけなのだから。モーションから発動に至るまで、淀みなく。
「は……?」
俯瞰に徹していたニジーが、意図せず間の抜けた声を漏らした。
以前から邪魔だとは思っていた。プリキュアの周りをうろちょろとし、こちらの神経を逆撫でしてくる道化。
邪魔者であることに変わりないが、間違っても脅威にはなり得ない。それが、ニジーが新二に対して抱いていた評価。
「何なんだ……何なんだ、お前は……!? ただの『おとも妖精』じゃないのか……!? こんな、こんな事が……!」
にも関わらず、今はどうだ。
本調子でなかったとはいえ、プリキュアがあれだけ苦戦していたハンニンダーを、あの少年は一方的に嬲っているではないか。
ファントムの一員であるニジーが、
「……
倒れ込むハンニンダーを虚ろな瞳で見下ろし、新二が拳を振り上げる。
後ろから、アンサーとミスティックが彼にしがみついた。
「ダメですっ! やめてください! それ以上やったら、シンジさんの腕が……!」
「もういい、もういいよっ……! もういいから、やめてよぉ……!」
雨垂れが目尻に落ち、流れゆく。
懸命に懇願する表情も相まって、二人がまるで涙を流しているかのようだ。
「――」
アンサーとミスティックの制止によって、ようやく新二の動きが止まった。
息を呑む彼の瞳に、小さいながらも確かな光が灯る。
「このままでは……! くっ、ハンニンダー!」
「ハッ……!」
多少のラグはあったが、ニジーの判断は早かった。
慌ててボロボロの片割れを回収したハンニンダーが、ニジーを乗せて飛び立った。
「チッ……! マコトジュエルは二つも手に入れた。良しとしよう……さらばだ、名探偵の諸君!」
負け惜しみを言い残して、彼らは空の彼方へと消えていく。
周囲の空間が元に戻った途端、糸が切れたように脱力した新二を、ミスティックが即座に受け止める。
アンサーの腕の中では、同じようにポチタンが苦しそうに呻いていた。
「シンジさん!」
「ポチタン!」
……返事は無い。
ざあざあと、依然として雨が降り注いでいる。
ポチタンも、新二の身体も、驚くほど冷たかった。まるで、物言わぬ屍のようだと錯覚してしまうぐらいには。
その一方。
彼らの名を呼んだのは、アンサーとミスティックだけではない。
怪盗団ファントムのアジトにて。劇場の舞台幕には、プリキュアとハンニンダーの戦いが、投影機によって映し出されていた。
「時空の妖精め……! アレが報告にあった『おとも妖精』か……! おのれ……揃って我々の邪魔をしおって……!」
忌々しそうに唸ると、オペラグラスのハンドルを握りしめるウソノワール。
スポットライトに照らされている人影は、彼の他にもうひとつあった。
「――」
惚けたようにニジーの活躍を眺めていた筈のるるかが、信じられないものを見た様子で、吐息を漏らした。
彼女の膝の上に乗っていたマシュタンが、やはりこうなってしまったと、今後を憂いて首を垂れる。
「シンジ……?」
ねちっこい湿り気が、るるかの瞳を潤わせ揺らす。投影されていた映像が消えても、彼女の中には今もなお新二の姿だけが映っていた。
傷だらけになっても戦おうとする姿が、いつかの記憶と重なる。不思議と、驚きよりも先に納得してしまっている自分がいた。
「……そう。あなたはやっぱり、こちら側に来てしまうのね」
るるかは思い出に耽るようにして、そっと瞼を閉じる。
「
動き始めた歯車が、着々と物語に影を落としていく。
過去を洗い流そうとする春霖は、まだ止みそうになかった。
ポチタン「やれ」
シンジ「はい」
ようやく主人公の力の片鱗を描けて満足です。
オリキュアになるかはまだ未定ですが、これで戦闘面もサポートさせやすくなったぜ。ブイ。
追想顕現(リコール・プレイバック。略してリプレイ)
一度見た、喰らった技を再現することが出来る。あくまでも再現するだけなので、現時点で応用は効かない。
どの技も例外なく、覚えている中での最大火力を叩き込む。生身で発動している為、アンサーアタックのような攻撃技は諸刃の剣。
今回はポチタンの力を借りて発動したが……?
リアルが忙しくなってきたので、投稿ペース落ちるかもしれん。
一週間以内に更新できるように頑張ります。
次回もはなまるっ!
たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ
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明智あんな(キュアアンサー)
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小林みくる(キュアミスティック)
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森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
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???(キュアエクレール)