名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
めちゃくちゃ今更ですが、描写してないとこでは基本的にアニメ本編と似たようなやり取りが交わされていると思ってください。
よっぽど大事なシーンではない限りはドンドン端折っていきます。
◆
「ミルクも飲んでるし、ポチタンの方はもう大丈夫だ。……ほら、お前たちも飲みな。体を冷やすといけないからな」
暖かいカフェラテが入った二つのマグカップをテーブルに置いて、ジェットが促す。
あんなの腕の中では、先程よりも顔色の良さそうなポチタンが寝息を立てていた。
その様子を見て、あんなとみくるがホッとする。が、彼女たちの表情は未だに暗いままだ。
それもそのはず。二人の視線の先には、ソファに横たわり眠っている新二の姿があった。
「気絶したシンジとポチタンを二人が連れて帰ってきた時は、流石のボクもビックリしたぞ。……何があったのか聞いてもいいか?」
ジェットの質問に、あんなとみくるが肩をピクリと震わせる。
しばらく顔を伏せた後、重苦しい空気の中、先に前者が口を開いた。
「……わたしのせいだ。わたしが勝手に依頼を引き受けて、それで……プリキットもみくるに渡せなかったし……」
「違うよ、あんなのせいじゃない。わたしがニジーにヒントを与えちゃったせいで、ツバメ像のマコトジュエルが……」
「二人とも落ち着け。ゆっくりでいいから、順を追って話してくれ」
自責の念に押しつぶされそうになっている彼女たちを、ジェットが宥める。
あんなは北村真理子の依頼を受け、まことみらい学園に潜り込んだ。
そこで鉢合わせた新二に迫り、みくるからの連絡を蔑ろにしてしまったこと。彼が自分を庇ったせいで、結果的にみくるの怒りに触れてしまったことを、あんなは包み隠さず話した。
「わたしが……わたしが悪いの! シンジさんとみくるが喧嘩したのは、わたしのせいなのっ……!」
「あんな……」
その話が事実だとしても、みくるがあんなを責めることはなかった。
彼女からすぐに連絡を貰っていれば、真理子が駅で見かけたという恵子が偽物であることにすぐに気づけたかもしれない。みくるが理事長から引き受けた幽霊騒ぎの依頼も、結果的には同じ。
だとしても、ハンニンダーが誕生する引き金を引いたのは、他でもない自分自身。そう思ったからこそ、みくるは不甲斐なさを感じているのだ。
「……それで、危ないところをシンジが助けてくれたんだったな。ポチタンが力を貸したから……? いや、プリキュアの技を使う『おとも妖精』なんて聞いたことがない……」
ジェットは基本的に、自分自身の目で見たもの以外は信じていない。
しかし、あんなとみくるが嘘をつくような性格ではないという事もよく知っている。
現に右腕に大怪我を負った新二が、こうして目の前にいる。懐疑的ではあるものの、彼なりに話を咀嚼し納得しているようだ。
「「……」」
新二に目をやると、再びあんなとみくるが押し黙ってしまう。
きっかけはどうあれ、戦うはずのない人間が自分たちの代わりに戦い、そして傷ついてしまった。
もう顔を合わせることがないと思っていたのに。二度と言葉を交わすことがないとさえ思っていたのに、新二は危険を顧みず戦いの場に現れたのだ。
『
光を失った虚ろな瞳を浮かべ、機械的な言動と仕草で、一方的に敵を排除しようとする姿に、思わず恐怖さえ抱いてしまった。
なにより彼に手を煩わせてしまったのは、他でもない自分たちのせいだと。取り返しのつかない現状が、彼女たちの心に深い爪痕を残している。
「……シンジさんはいつもそう。わたしが困っている時、どこからともなく現れて、いつも助けようとしてくれるんだ」
あの時の新二に意識が有ろうと無かろうと、きっとこうなっていただろうと、みくるは思い至った。
こくりと頷き、同意を示すあんな。
「会ったばかりのわたしの事も、必死に守ろうとしてくれた。わたしたちがプリキュアになってからも、ずっとそう……」
単純な戦力という意味では、新二はそれに数えることは出来ない……少なくとも、以前までは。けれど、その場に居るのと居ないのとでは大きな違いがあった。
実際、本調子でなかったとはいえ、二羽のハンニンダーを前にして、あんなとみくるは手も足も出なかった。それどころか折れかけてすらいたのだから。
もしも、新二とポチタンが現れていなかったら、今頃――。
「やっぱり似た者同士だな、お前たちは」
不意に、ジェットがそんな事を言い出した。
あんなとみくるが揃って顔を上げる。
「出会ったばかりにも関わらず、ほんとビックリするくらい。短い間だけど、お前たちを見てきたボクにはわかる。お前たちは運命の……いや、奇跡の二人だ」
「「奇跡の二人……」」
彼女たちは顔を見合わせて反芻すると、改めて新二に目を向ける。
「……ねえ、ジェット先輩にとってのシンジさんって、どんな人?」
みくるの問いに、ジェットは顎に手を当てて考えながら。
「そうだな……良い奴だなって思う時もあるけど、たまにファントム顔負けの悪知恵を働かせたりするし、正義の味方って感じじゃないな。でも、やっぱり悪い奴でもない。……ボクが今まで見てきた中では、一番変わってる人間なのは確かだ」
「「――」」
「何があったか詳しく知らないけど、お前たちはシンジを過大評価しすぎなんじゃないのか? こいつは二人が思ってるほど立派なヤツじゃない」
そうだった。彼はいつだって当たり前の事しかしてこなかったではないか。
恐怖に慄き、己の無力さを嘆いて、痛みにのたうち回り、逃げ惑った先で助けを乞い、なにより平気でウソ――本人は詭弁だと言い張るだろうが――を吐く。
普通とは程遠い。けれども人格者と形容するにも相応しくない。いずれにしても、不思議と目を離せない魅力のようなものがある。
「ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うだろ。少なくとも、お前たちにはもう切っても切れない繋がりがあるんだって、ボクはそう思う」
「「切っても切れない繋がり……?」」
「ああ。シンジの場合、運命や奇跡なんかじゃなくて、腐れ縁って言葉がピッタリだけど。……ボクも、こいつのいない事務所はもう想像できないし」
ジェットは尻すぼみに呟くと、照れ隠しのつもりか飴を口に放り込む。
「「……」」
何度目かの沈黙が続く。
忸怩たる思いに満ちていた今までとは違う。それは陰鬱とかけ離れた、決意を新たにする為の時間。
もう二度と、新二を危険な目に遭わせたりしない。
あんなとみくるは立ち上がると、テーブルに置かれたマグカップを手にし、勢いよく飲み干した。
「……行こう、みくる! マコトジュエルを取り返そう!」
「ええ、あんな! わたしたちの手で必ず!」
「ジェット先輩、ポチタンとシンジさんをお願い!」
そう言うと、彼女たちは事務所を後にする。
空模様は相変わらずのままだが、雨はすっかり降り止んでいた。
「まったく、世話が焼けるな……ん?」
テーブルの上には、ルーペ型のプリキットが残されたままであった。
話を聞いた限りでは、ハンニンダーとの戦いで使うことが出来なかったという。設計図通りに仕上げたので、不備はないはずだが……。
「あんな、みくる……」
今の二人には必要ないと信じたいものの、妙な胸騒ぎがしてならない。
そんな矢先、意識を失っていた新二が目を覚ました。
彼はゆっくりと上体を起こし、周囲の様子を一瞥している。
「ここは……?
「起きたか、シンジ。あまり動かさない方がいい。応急処置はしておいたけど、その様子だと骨にヒビが入ってるかもしれない」
「……だろうな。アレだけ派手に暴れたんだ。折れてないだけ凄えよ」
「その言い草だと、覚えてるみたいだな。自分が何をしていたのか」
新二は右腕を摩り、静かに首肯する。
「まあな……意識も感覚もハッキリしてるのに、自分じゃない誰かが身体を動かしてるみたいな、変な感じだった……」
例えるなら、ガラス一枚で隔てられた空間の中、一方的に主観の映像を見せつけられているような感覚だったと、新二は語った。
自分にあんな力があったのか、と戦いの最中に考えていたのをよく覚えている。
ごく自然な動作で、新二はアンサーアタックとミスティックリフレクションを再現してみせた。まるで最初から出来るのが当たり前だったかのように。
戸惑っているのは、他でもない彼自身も同じらしい。
その様子を見かねたジェットが、向かいのソファに座って。
「名探偵プリキュアには、それを支える『おとも妖精』がいる。名探偵の身近にある者となり、いつも傍で見守る存在……お前の力はきっと、あんなとみくるを助ける為のものだ」
「……」
「おい。聞いてるのか?」
「……またそれか。どいつもこいつも、口を開けば『おとも妖精』だのなんだの」
声音は震えておらず、怒りを内包している気配はない。
強いのは語気だけで、表情も気絶している時とは違い、打って変わって穏やかそのもの。
「シンジ……?」
いつもの調子で吐き捨てるものだから、逆にそれがジェットを身構えさせた。
その矢先、彼の腕の中で大人しくしていたポチタンが、癇癪を起こすように泣き始める。
「ポチ〜!」
「うわっ――!? マコトジュエルに反応したのか!?」
「ポチポチ〜!」
「コラ、まだ動いちゃダメだろう!」
ジタバタと暴れ抱擁から抜け出すと、そのままポチタンは部屋を出ていこうとする。
慌ててジェットが抱き抱える。目尻に大粒の涙を浮かべたポチタンが、小さく「ポチ……」と鳴いて何かを訴えていた。
つぶらな瞳の先には、新二がいる。
「知るか。お前たちの都合に俺を巻き込むな」
「ポチ……!?」
明確な拒絶。
はっきりとした物言いに、ポチタンとジェットが凍りつく。
「マコトジュエルがどうとか、ファントムの野望を止める為だとか、んな事はどうでもいい。ウソに覆われた世界になろうが知ったこっちゃねえよ。俺には関係ないね」
「シンジ、お前っ……! あんなとみくるが、どういう気持ちで……!」
激昂したジェットが新二の胸ぐらに掴みかかるが、すぐに手を離した。
あんなとみくるが工藤新二を過大評価しすぎているという、自分の発言を思い出したからだ。
「……偉そうに言える立場じゃないな、ボクは」
あの二人がプリキュアとして戦っているのは、困っている人々を助ける為であって、戦闘を楽しんでいるからではない。考えるまでもなく当然だろう。
誰しもが好き好んで戦いに身を投じているわけがない。ただでさえ常に危険が付き纏うのだ。プリキュアですらない新二にとっては尚更。
「あ〜あ、最初からこうしてりゃ良かったぜ。まどろっこしい事ばっかしてるから後悔することになるんだ。今回の件でそれがよ〜くわかった」
飄々とした態度は、やはり普段のそれと変わらない。
制服を脱ぎ捨て、いつも着ている上着を羽織ると、新二はその場を後にしようとする。
「じゃあな。俺は俺の好きにさせてもらう」
それと、と付け足して。
「――――――」
彼が去り際に放った一言は、再度ポチタンとジェットを絶句させるのだった。
◆
「アンサーアタック!!」
場面は移り、虹ヶ浜にて。
プリキュアに変身したあんな――アンサーの拳が、ハンニンダーを殴り飛ばす。
もう一羽がその隙に乗じてアンサーに迫るが、ミスティックが展開したバリアがそれを許さない。
「はあああ――っ!!」
「ハンニンダーッ!?」
攻撃を跳ね返されたハンニンダーが、飛沫を上げて海に沈んでいく。
プリキットライトで描かれた足場に降り立ち、アンサーとミスティックが堤防に佇む人影を見下ろす。
「マコトジュエルを返して!」
「ツバメの象を返しなさい!」
他でもない、彼女たちを虹ヶ浜へと帯寄せたニジーが不敵に笑う。
「ハハハ、まだ幕は上がったばかりさ」
彼が指を鳴らした瞬間、二羽のハンニンダーが大きく飛び上がった。
太陽と見間違える程の輝き。眩くも禍々しい光と共に、二つのシルエットが重なっていく。
「ハンニンダーッ!!」
合体したハンニンダーの背に、ニジーが飛び乗った。
「力を合わせるとは、こういうことさ!」
一羽となったハンニンダーが大きく弧を描き、方向を転換し始めた。
真っ直ぐアンサーとミスティック目掛けて飛んで来ているがわかる。動き自体は単調なものだが、あまりのスピードに判断が追いつかない。
二人は不自由な足場で、避けるのに精一杯だった。
「「……っ!」」
「ハンニンダ――ッ!!」
間もなく追撃がやってくる。
大きく広がった二対の翼から、禍々しい漆黒のエネルギーが、無数の礫となってアンサーとミスティックを襲う。
次々にプリキットライトで生成した足場が壊されていき、彼女たちは抵抗むなしく砂浜へと投げ出されてしまった。
先の戦いの傷が癒えていないのもあり、二人は仰向けのまま立ち上がることが出来ない。
かろうじて目を開けるも、酷く濁った空だけが視界に広がっていた。
「ハハハ……! また一雨来そうだね。この空はまるでキミたちの心を写しているかのようだ」
勝利を確信したニジーが、無様だと言わんばかりに、口元を大きく歪めている。
「みくるとシンジさんに、傘を届けに行ったんだ」
「えっ――?」
雨垂れが静かに落ちるように、アンサーが呟いた。
「そしたら、友達といたみくるを見て……邪魔しちゃダメだって。でも何よりも思ったの……この時代で、この世界で、わたしは独りぼっちなんだって……!」
ポツリ、ポツリ、ポツリ。
ついに堪えきれなくなり、アンサーの目尻に涙が溢れた。
激しい慟哭。推し留めていた感情を発露させ、腕を交差し目元を隠そうとする彼女の姿を見て、ミスティックの瞳が大きく揺れる。
「わたし、二人に頼ってばかりで、このままじゃダメだって思って……ひとりで調査しようって……でも、やっぱりダメだったの。シンジさんと会ったら、わたし……! ごめんねっ……!」
「……っ!」
――知らなかった。
いつも健気に振舞っていた彼女が抱えていたものを、自分はちっとも理解できていなかった。
新二が言っていたように、身近な存在に依存するのも無理はない。
「そうだよね……1999年に、この時代に来て……心細かったよね。不安だったよね。なのに、わたし……!」
倒れたまま、掌を握りしめるミスティック。
なんとか地面に手をつき、アンサーの元へと手を伸ばそうとするが、やはりその場に倒れ込んでしまう。
「……あの人は……シンジさんは『おとも妖精』だから、仕方なくわたしたちを手伝ってくれてるんだって。そう思うと怖かったの……」
「ミスティック……」
「あなたが苦しんでるのに、わたし……自分のことばっかりで……! 二人のこと、何も考えてあげられなかった……! ごめんっ……!」
あんなが暴走してしまったのも、みくるが憤懣をぶつけてしまったのも、新二がそれらを受け止めきれずに逆上したのも。
彼女たちが日頃から抱えていた悪感情が溜まりに溜まり、形を成してしまったから。それと同時に、お互いを思いやる気持ちがすれ違いを産んでしまったから。
小さな失敗が積み重なって、後戻り出来ない所まで来てしまった。
「さて、そろそろショーも終わりの時間だよ。プリキュア……!」
懺悔、もしくは後悔する時間さえ与えまいと。
無慈悲な宣告が、空から舞い降りてきた。
「今度こそキミたちを倒して、マコトジュエルを持ち帰らせてもらう!」
そう言って、ニジーがハンニンダーに指示を飛ばそうとした瞬間。
「ポチ〜!」
「――っ!?」
学園での一幕を焼き直ししているかのような光景に、ニジーが息を呑む。
声をした方に振り向いてみれば、今まで姿を見せなかったポチタンが、そこに存在していたからだ。それも、工藤新二の頭の上で。
「ここで登場か、ベイビー妖精。アンド・ビッグベイビー……!」
「「シンジさん……!?」」
歯噛みするニジーのマントを、周囲に立ち込める風が大きく靡かせる。
分厚い雲に覆われた天蓋が、より一層陰りを濃くしていく。
「楽しそうなことやってるじゃねえか。俺も仲間に入れてくれよ、ニジー」
悠然と佇む新二の遥か上空では、一波乱を予兆させるような稲光が奔り、明滅を繰り返していた。
薄日が差し照らすのはニジーか、それともプリキュアか。今この瞬間からの雲行きは、もはや誰にもわからない。
トモコレでお人形遊びしてたら遅くなっちゃった。
anemoiも発売されたしで、やりたい事が多すぎる! 本当に書いてる時間がない!
次回の更新は29日20時!
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