名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜   作:秋葉ばっこ

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執筆してる間、脳内でコナンの『キミがいれば』がずっと流れてた。
コメディな芸風かと思わせて、突然のシリアスで読者の皆様をぶん殴るのが大好きです。
評価・お気に入り・感想、ありがとうございますやでほんま……。


FILE15:どうでもいい 後編

 

 

 

 

「ハァ……せっかく来てもらったところ悪いけど、もうすぐ片がつくんだ。邪魔しないで貰えるかな?」

「まあそう言うなよ。他人がやってるゲームを眺めるほど、つまらんものはないだろ。ワンサイドゲームなら余計にな」

 

 言いながら、俺は砂浜に倒れているアンサーとミスティックに目をやる。

 二人の眼差しが「どうして来たのか」と訴えてきていた。

 

「……口の減らないビッグベイビーめ」

 

 俺の言葉に顔を顰めたものの、ニジーはすぐに落ち着きを取り戻す。

 

「いいだろう。彼女たちを倒すのはいつでも出来るからね。まずは目障りなキミから退場して貰うよ」

「よし来た。ポチタン、しっかり捕まっておけよ」

「ポチ!」

 

 ポチタンがギュッと、俺の頭を握りしめる。

 こちらを警戒しているのか、ニジーを乗せたハンニンダーは動こうとせず、その場でエネルギーを充填し始めた。

 

「ゲッ……! 遠距離攻撃かよ!?」

 

 有無を言わさず飛んでくる、無数のエネルギーの礫。

 鳥そのもののシルエットにも見えるし、向きによっては錨にも見えなくもない。ひとつでも被弾すれば致命傷になり得るだろう。

 四の五の言っていられない。俺は、咄嗟に右手を前に突き出す。

 

「ちぇっ、本当は引きつけてから使うつもりだったのに……!」

 

 あの時は、自分の意志によるものではなかった。

 けれど、目に映る景色を知覚し、そして記憶していたのは本当だ。

 即ち――覚えているというのなら、いつでも思い出せるということ。

 

追想顕現(リコール・プレイバック)――」

 

 行き着くまでの過程を。

 出力されるであろう結果を。

 それらを記憶という名の海から拾い上げ、どちらも寸分違わずに模倣し、今この瞬間へと導いてみせよう。

 

「ミスティックリフレクションッ!!」

 

 即座に展開されたバリアが、怒涛の猛攻を防ぐ。

 とりあえず上手く発動できたのはいいが、そう何度も使える技ではないのだと、直感ではなく痛みで理解した。

 

「――っ、――()ってえ!」

 

 ポチタンから力を借りていた時とは違う。

 亀裂が走った。バリアにではなく、脳そのものがひび割れそうな痛み。

 雷にでも撃たれたかのような衝撃が全身を駆け抜け、思わず膝をつきそうになってしまう。

 俺が苦痛に悶えているのを、ニジーは見逃さなかった。

 

「なるほど。さっきは驚かされたけど、その様子だと多用は出来ないみたいだね。……ハンニンダー」

「ハンニンダーッ!!」

 

 砲撃をやめたハンニンダーが、真っ直ぐこちらに向かってくる。

 

「うおっ、危ねェ……!?」

 

 バリンッ。

 かろうじて軌道を逸らすことは出来たが、せっかく再現したミスティックリフレクションが、バラバラに砕け散ってしまった。

 息をつく暇もなく、宙を引き返してきたハンニンダーが、再び肉薄する。

 追撃から身を守るには、また同じようにミスティックの技を再現するか、物理的に避ける他ない。

 

「クッソ、間に合わねぇ……!」

 

 なんとか前転して一撃を凌いだ。

 が、奴らは攻撃の手を緩めようとしない。その動きを予測していた上で、砂浜を転げまわりながらも詠唱を始める。

 

追想顕現(リプレイ)、ミスティックリフレクションッ!」

「残念。今のはフェイントだ」

「なっ――!?」

 

 ハンニンダーは軌道を翻し、バリアの死角である背後から体当たりをぶちかましてきた。

 身を捩るも間に合わず、間一髪のところで被弾してしまう。

 

「ぐあああ――ッ!!」

 

 咄嗟にポチタンと右腕を庇うように動いたが、よりにもよって海の方へと投げ出されてしまった。

 狙っていたのか、はたまた偶然か。どちらにせよ、砂浜よりも水場の方が足を取られて動きづらい。幸いなのは、ここが浅瀬だということだけ。

 頭上からポチタンの「ポチ」という、俺の身を案じているだろう鳴き声が聞こえてくる。

 

「ハァ、ハァ……! あんなとみくるは、こんな攻撃を何発も喰らってきたんだ……! 一発や二発で、おねんねしてられねえんだよ……ッ!」

 

 無事な左腕を使って、息も絶え絶えの状態で立ち上がる。

 痩せ我慢が効くのは今回だけだ。もしまた同じような攻撃を喰らえば、今度は立ち上がれない。今だって意識を保っているだけでやっとだ。

 俺が睨みつけると、ニジーは余裕の仮面を貼りつけていた表情を、大きく歪めて。

 

「……何なんだ、キミは? 何度も、何度も、何度も。何度も何度も何度も何度も、ボクの邪魔をして……! キミはいったい何がしたいんだッ!?」

『どうして来たんですか。あんなに酷い事たくさん言ったのに。……どうして。どうしてあなたは、いつも困った時に助けてくれるんですかっ……!』

 

 ニジーの言葉と、ミスティックに投げられた問いかけが、脳内でリフレインする。

 それと同時に、探偵事務所で交わしたジェット先輩とのやり取りを思い出した。

 

「俺は……みくるみたいに夢や目標なんて大それたもんは持ってないし、あんなみたいに困ってる人がいたら誰にでも手を差し伸べられるような、心根が真っ直ぐな人間でもない。どれも中途半端だ……」

 

 でも、と付け足して。

 

「こんな俺にも、決して譲れないモノってのがあるんだよ」

 

 自分自身の在り方を誇示するのに、くだらない自尊心(プライド)なんて必要ない。そんな瑣末な物はそこいらに捨て置けばいい。

 俺が欲してやまないモノ。喉から手が出るくらいに求めているモノ。もう二度と喪いたくないモノがあるとすれば、それは――。

 

「繋がりだ」

 

 遠くから、アンサーとミスティックが息を呑む気配がした。

 ザザン、と波が寄せては引いてを繰り返す。

 水面に反射した自分の顔が、波紋に揺れて歪な輪郭を写している。

 ありふれた情景を眺めながら、淡々と続ける。

 

「俺はただ、良い思い出を作ろうと必死になってるだけだ。誰かの為なんかじゃない」

 

 戦う理由があるとするなら、たったひとつだけ。

 そんな理由で、と周りに言われたらそれまでだが、少なくとも俺にとってはそれだけの価値がある。

 

「みくる、あんなみたいには無理かもしれないけど……せめて身近にいる人たちには、笑っていて欲しいんだ。俺自身が嫌な思いをしない為にも」

 

 バイト先を転々としていたのも、可愛い女の子に声をかけるのも、他者との繋がりに飢えていたから。

 たくさんの人たちと関わりを持つことで、自分は孤独ではないと証明したかった。

 俺という人間の存在意義を――幸福を見出して、胸に空いた穴を埋めたくて仕方がなかったんだ。

 

「今が楽しければ、それ以外は()()()()()()。後の事なんて、その時になったら考えたらいい。……俺にとっては、ようやく出来た『大事な繋がり』なんだ」

 

 あんなに迫られた時も、みくると言い合いになった時も。臆せずに最初から伝えておけば良かった。

 どうしようもなく独りよがりで、どうしようもなく幼気な、この独白を。

 

「誰かに頼まれたからでも、おとも妖精だからでもない。工藤新二っていう、ひとりの人間――かどうかは怪しいけど。他でもない俺自身の意思で、あいつらの傍にいたいんだよ」

 

 彼女たちと共に在るべきかどうかなんて、正直わからない。良い結果になろうと、悪い結果になろうと、所詮は結果論でしかない。

 不確かな未来に思いを馳せるくらいなら、その時その瞬間を愛おしいと思えるように。後にも先にも後悔を立たせないように、自分の心に従って生きていたい。

 例え、周囲から何を言われようとも――。

 

「そこが、俺の居たいと思う場所だから」

 

 その為なら、傷つくことだって厭わない。

 俺は、あんなとみくるの可能性を摘み取ったんじゃない。

 二人との可能性を、この手に掴み取ったんだ。

 

「……てなわけだ。俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。せいぜい記憶しとけよ、ニジー」

「フッフッフ……! アッハッハ――!」

 

 大人しく聞いていたかと思えば、突然ニジーが狂ったように笑い出した。

 

「なんてくだらないッ! 口を開けば綺麗事! そうでなくとも陳腐な台詞ばかり……! キミたちの名探偵(ヒーロー)ごっこには飽き飽きだ!」

 

 奴は大袈裟に笑ったまま続けるが、台詞の節々と声の抑揚から、明らかに隠しきれていない苛立ちが読み取れる。

 

「違うね。二人はともかく、俺は名探偵でもなんでもない。ちょいと記憶力が良いだけのナイスガイさ」

「細かい事はどうでもいいさ……ボクにはもう後がないんだ。いい加減、キミには舞台裏に引っ込んでもらおうか」

「やってみろ。その前に、俺が一発そいつをぶん殴る」

 

 俺がそう言うと、ニジーは鼻で笑う。

 

「フン、何を言い出すかと思えば。……キミは逃げるので精一杯だったじゃないか! わかっているとも。先程から右腕を庇っていたのは。その腕じゃ、まともに攻撃を放つことも出来ないんだろう?」

「……」

「図星のようだね。……さあ行け、ハンニンダーッ!」

 

 差し迫るハンニンダーを目の前にして、俺は防御を諦めて脱力した。

 アンサーとミスティックが、俺の名を叫んでいる。

 

「「――シンジさんっ!!」」

 

 ミスティックリフレクションを展開したとて、また虚を突かれたら終わりだ。

 よしんば攻撃を防げたとしても、追想顕現(リプレイ)の反動による消耗で、そこから反撃に転ずるのは難しいかもしれない。

 だとすれば、残された手段はひとつだけ。

 

「ハンニンダーッ!!」

 

 正面から迎え撃つのみ。

 俺は身を屈めて腰を捻ると、右拳に全エネルギーを集中し始めた。

 

「なっ――!? まさか――!?」

「気づくのが遅かったな。(ブラフ)だよ、バーカ」

 

 ニジーの言う通り、今まで右腕を庇うように動いていたのは本当だし、どうしてもこの技だけは使いたくなかった。

 だが、俺は「攻撃できない」なんて一言も言っていない。切り札のジョーカーは最後まで取っておくものだ。

 

追想顕現(リプレイ)

 

 ハンニンダーが慌てて進路を切り替えようとするが、もう遅い。

 

「――アンサーアタックッ!!」

 

 ミシ、ミシ、ミシ。

 右腕がひしゃげるような音と共に、拳撃が紫色の軌跡を描いて、真正面からハンニンダーを捉える。相手からしてみれば、自ら壁に激突したようなものだろう。

 裂帛の気合と共に、思い切り拳を振り抜く。

 

「こいつが俺のアンサーだッ!! いっけえええ――ッ!!」

「――!?」

 

 単純な殴打では済まされない衝撃に、ハンニンダーはいつもの鳴き声も出すこともままならず、そのまま吹っ飛んでいった。

 頭痛と右腕の損傷。やにわに走る疼痛に、神経という神経が悲鳴を上げる。

 

「――う、っぐ――、うぁああ……ッ!!」

 

 今の一撃で、精も根も尽き果ててしまった。

 割に合ってない気もするが、当初の目的は完遂したので良しとする。

 

「……行け、ポチタン……! 今のうちに、アンサーとミスティックの所へ……!」

「ポ、ポチ……!?」

「いいから早くしろ! 今のでハンニンダーが倒せるわけないだろ!? 俺のことはいいから急ぐんだ!」

 

 ポチタンは力強く頷くと、二つのプリキットを亜空間にしまって、アンサーとミスティックの元へ目掛けて飛んで行った。

 それを見届けた途端、一気に張り詰めていた緊張が解れ、両膝をついて崩れ落ちてしまう。

 余韻に浸る間もなく、巨大な影が広がった。

 

「クドウシンジィィィ――ッ!!」

 

 体勢を立て直したハンニンダーの背の上で、完全に我を失っているであろうニジーが、血走った目でこちらを睨めつけている。

 先程とは違って、付け入る隙も無さそうだ。俺を包囲するかのように、エネルギーの塊の数々が周囲に立ち込める。

 

「……ま、俺にしては上出来だな。後はアンサーとミスティックがどうにかしてくれるだろ」

 

 肩を竦めようにも、右腕はピクリとも動かない。

 観念して、そっと瞼を閉じようとした瞬間。

 

アルカナスターレイン

 

 一閃。

 紫色の閃光が駆けたかと思えば、一瞬にしてエネルギー弾のひとつを撃ち抜いた。

 呆気に取られているうちに、数多もの光が伸びてきて、同じようにすべての砲弾を無力化していく。

 すぐに出処を探るべく振り返るが、そこには誰もいない。正確には、誰かがいたのであろう痕跡だけが砂浜に残されているのみ。

 ……聞き間違いでなければ、先程の声には覚えがある。

 

「いや、まさかな……」

 

 カチ、カチ、と頭の中で何かが組み上げられていく。

 新たなパズルのピースが、記憶に刻まれた瞬間だった。

 

 

 

 

「誰かに頼まれたからでも、おとも妖精だからでもない。工藤新二っていう、ひとりの人間――かどうかは怪しいけど。他でもない俺自身の意思で、あいつらの傍にいたいんだ」

 

 ――ドクン。

 新二の口から語られた、嘘偽りのない文字通りの真情を聞いた瞬間。

 

「「――」」

 

 湿った砂によって冷えきっていた筈の体温が。折れかけていた身と心が、急に火照り始めるのを感じて、アンサーとミスティックが顔を上げた。

 

「そこが、俺の居たいと思う場所だから」

 

 嗚呼、これだ――。

 いつもはデリカシーの欠片もない癖に。ここぞいう時、こちらが切実に望んでいる言葉を、一直線に投げかけてくれる。

 一緒にいて欲しい時、ピンチに陥った時。いの一番に駆けつけてきて、ずかずかと隣までやってきては、苦痛も喜びも分かち合おうとする。まるで自分のことのように。

 これこそが、二人にとっての工藤新二という人物像なのだ。

 

「「……っ!」」

 

 じわり、と二人の目元に暖かいものが滲んでいく。

 なんて甘い毒だろう。ミスティックが彼に惹かれているであろう理由を、この時アンサーは心底理解した。

 短い間ながら、彼女の脳裏には新二の存在が焼きついて離れなくなっている。

 以前から関わりのあるミスティックであれば、ひとしお焦がれていてもおかしくない。この調子で振り回されていれば、自分もきっと……。

 

「そっか……あの時、シンジさんが言おうとしてたのは……」

 

 ――あなたには、わからないよね。わたしの気持ちなんて。

 

『わかるって言ったら、あんなは満足してくれるのか? そうじゃないだろ。こんな事しなくったって、俺は――』

 

 今なら理解できる。

 彼が、自分に寄り添おうとしてくれていたのだと。

 

「あはは……ジェット先輩の言う通りだ……」

 

 工藤新二という存在は、自分たちにとって切っても切れない繋がりになっている。

 こちらが手を払い除けても、どれだけ酷い言葉をぶつけようと。飄々とした態度の彼が当たり前のように現れて、自分勝手な振る舞いをするんだろう。

 

「「――シンジさんっ!!」」

 

 今だって、心配している自分たちの気も知らずに、ハンニンダーと戦っているのだから。

 

「こいつが俺のアンサーだッ!! いっけえええ――ッ!!」

 

 どれだけ傷ついても折れない新二の姿を見て、アンサーとミスティックが手を取り合い、負けじと立ち上がる。

 手を握りしめたまま、アンサーがミスティックへと語りかける。

 

「ミスティック。さっき、1999年に……この時代に来て心細い、不安でしょって言ってくれたけど……わたし、もう平気だよ」

「アンサー……」

「だって、わたしの中には……みくるとシンジさんがいるから!」

「……うん! わたしの中にも、いつだって二人がいてくれた!」

 

 今までがそうであったように、これからもきっと。

 

「「わたしたちは、独りじゃない!」」

「ポチ〜!」

 

 彼女たちの想いに応えるかのように、ポチタンが飛び出してきた。

 亜空間から現れたプリキットを手に取り、アンサーとミスティックは口を揃えて。

 

「「オープン! プリキットミラールーペ!」」

「ポチ〜!」

 

 ポチタンの胸元のリボンから、新たなマコトジュエルが二つ顕現する。

 二人はそれぞれをミラールーペへと装着し、カバー部分を展開した。

 

「見て!」

「感じて!」

「「ナゾを解く!」」

 

 交互にレンズの下部にあるジュエルを回していく。

 覆われたウソを払うような光。マコトジュエルを浄化する為のエネルギーがみるみる溜まっていき、今まさに解き放たれようとしていた。

 

「「これがわたしたちの、アンサーだあっ!!」」

 

 それは、まさに羽ばたきを感じさせる輝き。

 ルーペから飛び立った一対の閃光が、螺旋を描いてひとつとなり、大きな鳥影となって羽ばたく。

 

「「プリキュア!! フライング・スペクトル――!!」」

 

 相対するは、対照的な漆黒。

 新たな希望が、眩い羽を散らしてハンニンダーを貫いた。

 

「「キュアット解決っ!」」

 

 汚染されたマコトジュエルが、元の輝きを取り戻すのと同時に、空を覆っていた雲も散り散りになっていく。

 永遠にも感じられた春霖はすっかり終わりを告げ、暖かな日差しが虹ヶ浜に広がる海を、どこまでも夕焼け色に染め上げていた。

 

「みくる、あんな」

 

 変身を解いたあんなとみくるの元へと、ひとりの少年が歩いてくる。

 言わずもがな、新二だ。

 険しい表情を浮かべた彼が、ふらふらとした足取りで、二人のすぐ近くまでやって来ると。

 

「ごめん」

「「ごめんなさい」」

 

 新二、あんな、みくるの謝罪が重なった。

 三人は呆気に取られるが、すぐに顔を見交わしてはにかむ。

 

「俺の顔はもう見たくないんじゃなかったっけか」

「そっちこそ、どこにでも好きな所へ行くんじゃありませんでしたっけ」

 

 悪態をつきながらも、新二とみくるはどこか楽しそうだ。

 前者は、あっけらかんとした態度で。

 

「ああ、だからこうして来たんだよ。お前たちのいる()()にさ」

「……っ、またサラッとそういうこと……! まったくもう!」

 

 恥ずかしさのあまり、まともに顔も見れないのか、みくるが明後日の方向を向いてしまった。

 そんな彼女の後ろ姿を。真っ赤になった耳を一目してから、新二は得意げに口角を上げる。

 

「にっしっし」

 

 彼の場合、天然ではなく狙って言っている節があるので、余計に性質(タチ)が悪い。

 人たらしとは、彼のような人間の為にある言葉かもしれない。

 

「ふふっ」

「ポチ、ポチポチ〜!」

 

 二人のやり取りを見ていたあんなが、くすりと笑う。

 そんな彼女の周りを、ポチタンが上機嫌で飛び回っている。

 

「帰ろうぜ。ジェット先輩が、ご馳走を用意して待ってる。フッフッフ……実は事務所を出る前に頼んでおいたんだ。シンジくんの名采配に感謝したまえ」

「ご馳走!? はなまる楽しみ〜! シンジさん、みくる、ポチタン、早く帰ろう?」

「待ってよ、あんな! ……ご馳走って言っても、ジェット先輩のことだから、またお菓子ばっかりなんじゃ……」

「ポチポチ〜!」

 

 傍から見れば、以前となんら代わりのない光景。

 けれど、完全に元通りではない。彼らの中で確実に何かが変わり始めていた。

 

「……えっと、その……シンジさん。事務所に戻るまでの間、肩を貸してあげます。どうぞ」

「あっ、みくるずるい! わたしもわたしも!」

「別にひとりで歩けるって……おい、二人して腕を引っ張るなよ! あ、そっちは折れてるかもしれない――いでででっ……!? 新手の拷問か!?」

 

 春空に架かる虹が、まるで彼らを祝福するように浮かんでいた。

 彼らの様子を遠目に眺めていたるるかが、水晶玉に手をかざしているマシュタンに尋ねる。

 

「……どう、マシュタン?」

「マシュマシュマシュマシュ……マシュ〜! ……見えたわ。でも、これは……」

 

 占いの結果を見て、マシュタンは絶句してしまった。

 伝えるべきか迷ったものの、るるかの無言の圧に促され、しぶしぶ打ち明けるマシュタン。

 

「……このままだと、あの子は大切なモノを喪うことになるわ」

 

 思い出の品か、本人が言っていたような他者との繋がりか。はたまた新二自身の命か。

 パッと思いつくだけでも、それらは最低最悪の結末を否応なく想起させた。

 

「――」

 

 るるかの顔が青ざめていく。

 というのも、マシュタンの占いはよく当たる。まさしく百発百中と言っていいくらいには、確実に的中させてしまうのだ。

 

「……ううん、当たらない。絶対に当たったりしない」

 

 るるかにとって、工藤新二は平穏を象徴する存在――彼女という月を照らす太陽だ。

 敵対する立場にあろうとも、その事実は揺るがない。すべからく地平線の向こうに沈もうとも、何度だって時が巡り、その度に日は昇りゆく。

 そうあらねばならないと、強迫観念にも似た想いが、るるかの胸中に募っていく。

 

「彼女とシンジの為なら、私は何だってするもの」

 

 そんな未来は訪れさせない。

 例え、どんな手段を使おうとも。

 

「あの子たちのせいで、シンジが傷つくというのなら、私は……相手がプリキュアであろうと容赦しない」

 

 真剣な面持ちで、首から下げているペンダントを握りしめる。

 彼女はそっとマシュタンを抱き寄せると、浜辺で倒れているニジーの元へと向かい始めた。

 

「……帰りましょう」

 

 逢魔が時が近づいている。

 天翔ける虹霓は、とうに消え失せていた。

 

 




シンジ「俺は俺の好きにさせてもらうぜ! それと、今日の晩飯は豪勢にいこう! 後はよろしく!」
ジェット先輩&ポチタン「?????」

このタイミングで新二くんをオリキュアに変身させるかどうか迷いましたが、素の状態じゃないと説得力ないな……と思って先送り。他者との繋がりに固執する理由もそのうち書きたいね。
主人公を活躍させたいのではなく、覚悟ガンギマリな部分を描きたくてこうなりました。必要な描写ではない限り、今後とも俺TUEEEさせる気はないです。
新二くんは基本的に、身内以外はどうでもいいスタンスを取っています……が、寂しんぼなので知り合いを沢山作りたがる。なので結果的にお人好しになっている訳です。どうしようもないエゴイストですね。

現在のヒロインズ
・みくる
本編が始まる前から、新二に脳を焼かれ続けている。
今後は少しだけ丸くなるかもしれない。
・あんな
脳を焼かれ始めている。
親愛から恋愛の情に変わる日も近い……?
・るるか
攻略済みと言っても差し支えない。
出番が少ないだけで、胸の内にはクソデカ感情を抱えている。
あなたは死なないわ。私が守るもの。

番外編を30日20時に投稿します。
本編の方ですが、一週間以内に更新できるように頑張ります。
次回もはなまるっ!

たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ

  • 明智あんな(キュアアンサー)
  • 小林みくる(キュアミスティック)
  • 森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
  • ???(キュアエクレール)
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