名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
15話と温度差ありすぎて風邪引きそう。
四月頭に書いたものなので、細かい時系列とかは気にしないでね。
本編とは一切関係ありません。読み飛ばしてもらって大丈夫よ。
◆
気持ちのいい朝だった。
マットレスに沈んだ身体が動こうとしない。窓から射す朝日の心地良さに負け、思わず二度寝してしまいそうになる。
将来有望な二人の名探偵だが、どうやら今日はお休みらしい。
ただの少女達が、それそれのベッドで微睡んでいると、唐突な叫び声が事務所中に響き渡る。
「あああ〜〜〜っ!! 無いっ!?」
慟哭に近しい金切り声。
堪らず、あんなとみくるが同時に飛び起きた。
寝起きの頭を回転させ、声の主がジェットだとわかると、彼女たちは急いで部屋を出る。緊急を要すると判断したのか、寝巻きの姿のまま。
「どうしたの、ジェット先輩!?」
「何かあったの!?」
研究室の扉が勢いよく開かれた。
部屋の真ん中で、ジェットが床に手をついて項垂れている。
あんな、みくるが口々に安否を尋ねると。
「無いんだ……ボクの大切な……」
「「大切な?」」
「パティスリーチュチュで買った、一日十個限定販売の『フルーツたっぷり☆デコレーションスペシャルケーキ』がどこにも無いんだっ! 昨夜、冷蔵庫にしまっておいたはずなのに!」
ひとまず、緊急を要さない事だけは明白だった。
みくるが安堵のため息を漏らす。
「もう、朝からびっくりさせないでよぉ……事件かと思って目が覚めちゃった」
「これを事件と呼ばずしてなんて言うんだ! 立派な窃盗、あるいは不法侵入だぞ! ああ、ボクのケーキが……今朝食べようと思って、楽しみにしてたのに……」
怒鳴ったり落ち込んだりと、忙しく表情を変化させるジェットを、あんなが「まあまあ」と宥め始める。
彼の言うとおり、内部犯だけでなく外部犯による犯行の線もあるわけだ。名探偵としては見過ごすわけにはいかない。
「みくる、わたしたちで犯人を見つけよう! ジェット先輩の為にも!」
「ええ。事件かどうかは微妙だけど、放っておけないもんね!」
あんなとみくるが、顔を見合せて頷いた。
捜査開始だ。
「……ねえ、あんな。その前に着替えてこよっか。パジャマのままだと締まらないし」
「あはは……うん。また後で集合ね」
彼女たちは足早に研究室を後にすると、それぞれの自室に戻って行った。
◆
私服に着替え終わった二人が、いつものように応接間を訪れると、そこにはソファの上でいびきをかく新二の姿があった。
だらしなく腹を出し、ヨガのポーズを連想させる凄まじい寝相で、尚且つよだれを垂らし寝ている。これでは高校生というよりおっさんだ。
「まったく、だらしないんだから……」
みくるがタオルケットをかけ直そうと、彼の傍まで歩み寄る。
そして、異変に気づいた。
「……あんな、見て」
「どうしたの、みくる? ……あっ」
新二の口元に、白いクリームが付いていたのだ。
ギギギ、と機械的な音を立てて、再びあんなとみくるが向かい合う。
「見えたけど……」
「これが、答え……?」
推理する必要すらないではないか。
タネも仕掛けもへったくれもない。爽快感が何ひとつ湧いてこない、あまりにも無益な事件の幕切れである。
彼女たちの会話を聞いていたのか、遅れて部屋にやってきたジェットが、未だに夢の中にいる新二の胸ぐらを掴む。
「シンジ、お前えええっ!! よくもボクの大切なケーキを食べてくれたな!?」
「う〜ん、むにゃむにゃ……もう食べられないぜェ……」
「寝言がベタ過ぎるだろう!? さっさと起きろ、このバカッ!」
「――え、なに、うわっ!?」
脳を揺すられ、顔を真っ青にした新二が目を覚ます。
「ちょ、起きたからもうやめて! そんなに揺らさんといて! うぷっ……! き、気持ち悪っ……!」
犯行を白状するよりも先に、別のモノを吐き出してしまいそうになっているが、ジェットは気にすることなく彼に詰め寄る。
こんなに真剣なジェットを見るのは、来栖エリザのペンから生まれたハンニンダーと対峙した時以来かもしれない。
あんなとみくるはそんな事を考えながら、二人のやり取りを傍観する。
「今すぐ弁償しろ! ボクの『フルたぷ☆デコケーキ』を!」
「フルたぷ……? ああ、パティスリーチュチュで売ってるアレか。開店前から並ばないとすぐ売り切れるって、帆羽がこの前言ってたっけ」
対称的に、決定的な物証があるのにも関わらず、新二はあっけらかんとしている。
しかし、ウソをついているようにも見えない。
「そもそも食えないよ。俺、苺アレルギーだもん」
「はぁ? じゃあ、その口元のクリームはなんだ」
「フッ、よくぞ聞いてくれた……」
新二が、わざとらしく大袈裟な動作で前髪を掻き上げる。
いったい彼の口からどんな言葉が紡がれるのか。
やきもきとしながらも、ジェットは返事を待った。
「何を隠そう、パイセンの研究室からくすねたロールケーキさ」
「ボクのおやつを食べた事には変わりないじゃないかあああ――っ!!」
うがあ、とジェットが吠える。
後に別件の罪を問うのは確定事項として、今は『フルたぷ』とやらの所在を追うのに専念すべきだろう。
メモ帳を取り出したみくるが、新二に質問を投げかける。
「シンジさんが食べたロールケーキは、フルたぷと同じ冷蔵庫に入っていたはずです。あなたが研究室に入った時、ケーキはまだありましたか?」
「フルたぷで定着させんなよ……ああ、手付かずの状態で残ってたよ。確か夜中の十二時ぐらいだったかな。小腹が空いたもんで、拝借させてもらった」
「なるほど……アリバイにはたり得ませんが、ウソをつく必要性も感じませんね。シンジさんは白寄りのグレー、と……」
みくるが淡々とメモを取っていく。
その間、まだ納得していない様子のジェットが、新二の向かいのソファに腰を下ろした。
「ボクはその時間、別の部屋で新しい探偵道具のアイディアを練ってた。シンジが犯人じゃないなら、あんなかみくるのどっちかが怪しいってことになるぞ」
彼は腕を組み、焦れったく貧乏ゆすりをしながら、あんなとみくるにも疑いの目を向ける。自作自演の線が無ければ、妥当な判断だ。
それを聞いたあんなが、みくるに向かって。
「ねぇ、さっきから引っかかってたんだけど……どうしてみくるは、研究室の冷蔵庫にロールケーキがあるって知ってたの?」
「……っ!? そ、それは……!」
「言われてみりゃそうだな。みくる、お前もしかして……」
「シ、シンジさんまで! わたしは、その……!」
みくるが露骨に目を泳がせている。
緊迫した雰囲気に、彼女はもう逃げられないと察したのか、観念した様子で自供し始めた。
「ご、ごめんなさい。好物のミルフィーユがあったから、つい……あ、でも、わたしが研究室に行った時には、まだフルたぷはあったよ!」
「お前もか! どいつもこいつも、どうして勝手にボクの研究室に忍び込むんだ!? ……まさか、あんな。お前もじゃないだろうな?」
「ぎくっ!?」
図星を突かれたと言わんばかりに、あんなのアホ毛が揺れ動く。
彼女もまた、恐る恐る挙手をして。
「ご、ごめん、ジェット先輩。美味しそうなブルーベリータルトがあったから、つい魔が差して……」
「犯人の常套句じゃないか! それで、フルたぷは!?」
「わたしが見た時はまだあったよ? シンジさんとみくるよりも先に部屋に入ったはずだもん」
「くっ、振り出しか……!」
全員の証言をまとめるとこうだ。
午後十一時、あんながブルーベリータルトを。
午後十一時半、みくるがミルフィーユを。
午後十二時、新二がロールケーキを持ち去った。
その間、フルたぷは確かに冷蔵庫の中に存在していたという。
どの証言も本当なら、犯行時刻はそれ以降ということになる。同時に、第三者の犯行である線が色濃く浮かび上がった。
改めて、本格的に調査に乗り出すべきだろう。
こんな時には、あのプリキットが役に立つはずだ。
「「オープン! プリキットミラールーペ!」」
あんなとみくるが、ルーペのレンズ越しに床を覗く。
次第に部屋中の足跡が出現していき、この場にいる人物のモノはすっと消えていく。残ったのは、人一人分の痕跡のみ。
やはり、第三者による犯行の可能性が高いようだ。
そうとわかれば、やることはひとつ。
「この足跡を辿ってみよう! 犯人がどこに逃げたかわかるかもしれない!」
「ええ。行きましょう、あんな! シンジさんとジェット先輩も!」
そう言って、彼女たちがルーペを片手に部屋を出ようとした、その時だった。
どこからか飛んできたポチタンが、新二の頭の上に着地したのだ。
「ポチ〜」
「お、ポチタン。今朝は見かけないと思ってたけど、どこ行ってたんだ、お前」
「ポチポチ〜!」
――ポンッ。
すかさずポチタンが震え始めたかと思えば、異空間に収納されていたであろう、色とりどりのフルーツが添えられたホールケーキが出現した。
地面すれすれに落ちそうになるそれを、慌てて新二が受け止める。
「うおっ!? セ、セーフ……!」
「ジェット先輩、これってもしかして」
「ボクのフルたぷだ……! ポチタン、お前の仕業だったのか! はぁ……まったく人騒がせな妖精だな。フルたぷが無事で本当に良かったよ」
まだ幼いポチタンには強く出れないようで、ジェットは特に咎める事はせず、しぶしぶ嘆息を零す。
それはそれとして、彼は新二からケーキをひったくると、般若のような形相で三人を睨みつけた。おやつに対する執念が凄まじい。
新二たちは一瞬たじろいだものの、すぐに視線を逸らして、白々しく。
「……まあ、俺たち本当の事しか言ってないしなァ」
「そうですよね。ウソは言ってないはずですっ」
「う、うん。わたし、ウソつかないから」
ジェットは思った。こいつらは、良くも悪くも似た者同士だと。
一方はわざとらしく口笛を吹いて。一方はうんうんと頷き。一方は口癖を言いながら、ジェットから距離を置こうとしている。
――ブチッ。
堪忍袋の緒が切れる音がした。
「お前らなあ〜……! 特にあんなとみくる、二人ともシンジから悪い影響を受け過ぎだ! 罰として全員、しばらくおやつ抜き!」
「「「えええ――っ!?」」」
「当たり前だ! 人の物を盗ったら泥棒! 人間社会どころか、それこそ妖精社会でも常識だぞ!」
「「「ごめんなさい……」」」
ジェットの言い分は至極当然、至極真っ当だ。
流石にまずいと思ったのだろう。青筋を立てて怒鳴るジェットに、三人は息の揃った動きで頭を下げる。
「大体、お前たちはなぁ……!」
くどくど、くどくど、くどくど。
やれ名探偵としての自覚が足りない、やれ『おとも妖精』に似つかわしくない。正論の暴力に耳がちぎれてしまいそうだ。
その場に三人並んで正座させられ、大人しくジェットの説教を受けていると。
どうやら気になる事がまだあるらしく、ふと、新二が釈然としない様子で口を開いた。あんなとみくるにだけ聞こえるように、小さな声で。
「そういや結局、あの足跡って何だったんだろうな。この部屋にも誰か来てたみたいだけど、俺、寝てたから気づかんかったし」
「あ、言われてみれば確かに……フルたぷはポチタンがしまってたんだもんね。依頼で来てくれたのかな? でも、夜中だったし多分違うよね。もしかしてお化けとか? なんて……」
あんなが冗談っぽく言うと、みくるが瞬時に飛び退く。
「――っ!? オ、オオオ、オバケッ!?」
彼女は今にも泣き出しそうな勢いで、新二の影に隠れてしまった。
というか、既に子供のように泣きじゃくっている。
「幽霊いやあっ! お化け嫌いっ! ぐすっ……!」
「お、おい、みくる!? 俺の服で涙を拭うのはやめろっ!」
「コラァ! お前たち、話はまだ終わってないぞ!」
「ポチポチ〜!」
前門の
今まさに二つの災難に挟まれ、身動きすることも叶わず。
物語に書き記す程でもない、なんてことのない些細な一幕は、ひとまずこうして幕を閉じたのだった。
◆
一方、怪盗団ファントムのアジトにて。
今日も今日とて、ニジーとアゲセーヌが。あるいはニジーとゴウエモン、あるいはアゲセーヌとゴウエモンが、会合の場で口論を繰り広げている。
その様子を気にすることなく、日常の一端として静観を決め込む少女がいた。
彼らから新入りと呼ばれている、森亜るるかだ。
「そう言えば、るるか。そのアイスはどうしたの?」
彼女の腕に収まっている妖精――マシュタンが、首を傾げて言った。
どこにでも売っていそうな棒つきアイス。それらが何本も入った箱が、すぐ手が届く位置に置いてある。
るるかが持っているのは既に三本目。マシュタンも特に驚いていない辺り、これもまた何気ない日常の一コマなのだろう。
「貰ったの。シンジの寝顔を見に行くついでに」
「
マシュタンは苦言を呈するが、るるかは何事もなかったかのように。
「心配ない。ちゃんと変装してたし、鍵も開いてたから」
「そういう問題じゃ……はぁ、まったくもう。るるかも怪盗が板に付いてきたわね」
返事のつもりなのか、るるかは「ん」と小さく呟いてから、アイスをそっと口にした。
その後、冷凍庫の惨状を目にしたジェットにより、新二たちが理不尽な説教を受けたのは言うまでもない。
どうしてもギャグ調になってしまう。ちゅらい。
ちゃんとしたミステリーが書きたいよ〜。
どうでもいい補足
・10話の誕生日ケーキがチョコレートケーキだったのは、新二が苺アレルギーなのを知っていた帆羽くれあの判断によるもの。
・10話で家具が全ておじゃんになった為、新二は自室ではなく事務所のソファで寝ている。
・あんなとみくるが、新二から良くも悪くも影響を受けている。
・本編でみくるのお化け嫌いが描写できなかったので、ここで消化。小林かわいいよ小林。
たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ
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明智あんな(キュアアンサー)
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小林みくる(キュアミスティック)
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森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
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???(キュアエクレール)