名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
ネタバレ るるかが出ます。
前々から考えてた展開のひとつですが、よそ様と大分被ってて横転。許し亭許して。
(追記)タグ【ヒロイン未定】を【メインヒロインはるるか】に変更致しました。欲望に抗えなかった……。
他のヒロインとイチャつかせないとは言ってない。
◆
落ち着きのない様子で、あんなとみくるが事の成り行きを見守っている。
あれから新二は意識を失ったまま、目を覚ます様子がない。
ジェットが下した診断は、二人の予想を大きく裏切るものだった。
「ただの知恵熱だ」
「「知恵熱!?」」
安心したような、肩透かしを食らったような。
彼女たちは緊張が解けたらしく、へたりとソファに座り込む。
「いや、ただのって言っていいかはわかんないけど。身体のダメージは無くなっても、精神的な問題は別ってことかな。こいつ、昨夜も腕の痛みで寝れなかったみたいだし」
「うう、助けて……ムスカイボリタンテスの大群に襲われる……」
「どういう魘され方をしたら、そうなるんだよ……」
新二の個性的なうわごとは放っておくとして、とにかく今は休ませておけば良いと、最終的にジェットはそう判断した。
右腕を治療した代償だろうか……?
それとも、今までの負担が溜まりに溜まっていたのか……?
ひとつわかる事があるとすれば、新二がこれまで平然な顔をしていたのは、きっと彼女たちを心配させない為だろう。
馬鹿は風邪を引かないという言葉があるが、例え風邪を引こうとも、その症状を自覚しない程の楽観的な人間を指すもの。
新二の場合、症状を自覚した上で正常を装っていた。言わば
「そういえば……」
以前も新二が魘されていた事があった。
その時の会話を、みくるは朧気ながら思い出す。
『夢見が悪いのはいつもの事だよ。俺ってば人よりも
少なくとも、当時の彼は口から出まかせを言っているだけのつもりだったんだろう。
嘘から出た
お通夜のような重苦しい空気を察したジェットが、あんなとみくるを言い含めようとする。
「二人が気負う必要はない。シンジに能力の活用法を考えるように言ったのは、他でもないボクだ。お前たちは、こいつがいつ目を覚ましてもいいように、文句の一つや二つを考えておけばいい」
ジェットもまた、あんなとみくると同じように責任を感じているらしい。
彼女たちは軽く微笑むと、その言葉に応えるように頷いた。
「……そうだよね。うん、わたしたちはあくまでも普段通りに振る舞おっか。きっとシンジさんも、それを望んでるはずだから」
「うん。体調が良くなったら、三人一緒で学校に行こうね! はなまる楽しみ〜!」
「その為にも、こいつには早く元気になってもらわないとな」
「ポチ!」
彼女たちが盛り上がっていると。
あんなの腕に抱かれているポチタンが、ひときわ大きく鳴いた。
「ポチタンもお手伝いがしたいの?」
「ポチ、ポチポチ〜!」
「そっか! じゃあ、まずは――」
あんな、みくる、ポチタンの微笑ましいやり取りを横目に、ジェットが考え込む。
「初対面の頃から馴れ馴れしい奴かと思ったけど、まさかボクと同じ妖精だなんてな。あの不思議な能力といい、力を喪ったマコトジュエル――ブランクジュエルといい、お前はいったい何者なんだ? シンジ……」
本人が聞いたら「こっちが知りてえよ」なんて、ぶっきらぼうに返してくるかもしれないが、疑問を抱かずにはいられない。
あんなとみくるの出会いが運命――奇跡なら、彼女たちと新二の出会いは何だったのか。
偶然にしては、あまりにも道筋が出来すぎている。必然という言葉を当てはめるのが、しっくりくる位には。
「……」
以前、ジェットはあんなとみくるの二人に、初めてプリキュアに変身するまでの経緯を聞いたことがある。
結婚式会場、パティスリーチュチュ、カメリアインテリア。
ジェットの経験も踏まえて考えるに、どの場所も新二が務めていたバイト先であり、マコトジュエルが眠っていた現場でもある。
誰よりも先に――それこそ、マコトジュエルの気配を察知することが出来るポチタンよりも早く、彼は当然のような顔をして
もしも無意識のうちに、マコトジュエルの出現を予期しているのだとしたら。
「
くだらない考えを打ち消すように、頭を左右に振るジェット。
出揃っている情報だけではさっぱりだ。これ以上の考察は意味がないと、眠っている新二に視線を落とす。
「ボクは探偵じゃないからな。謎を解き明かすのは、あいつらか……お前自身の仕事だぞ、シンジ」
ジェットの言葉に反応したのか、新二の瞼がぴくりと動く。
「……な、ぞ……」
「――っ!?」
「う、ううっ……! れ……れ……! れき……!」
「どうした、シンジ! れき……? まさか『歴史』!? それとも、ボクに伝えたい事でもあるのか!?」
苦しそうに呻き出した新二の元へ、慌ててジェットが駆け寄る。
不鮮明な寝言を聞き取るべく、彼の口元に耳を寄せてみると。
「……歴史的建造物と、高級キャバクラと説きます……」
「こ、こいつ……何を言い出すかと思えば……! 心配して損した……!」
これでは謎解きではなく謎掛けだ。
新二の額にあるタオルを取り替えながら、ジェットが「その心は?」と、呆れ混じりに聞いてみると。
「どちらも
「おお……」
思わず、少しだけ感心してしまった。
彼の好意的な反応によるものか、心做しか新二の表情が和らいだ気がする。こんな時にまで芸人魂を発揮しなくていいものを。
……というか、本当に眠っているのだろうか。
試しに頬を軽く叩いてみると、新二は「へぶっ」と小さく発して、そのまま動かなくなった。
「――」
この世に未練も悔いもないと言わんばかりの、心底満足そうな微笑みを
一部始終を見ていたみくるが、手にしていたマグカップを落とす。
彼女は震えた指でジェットを差し、血の気の引いた真っ青な顔で言い放つ。
「ジェ、ジェット先輩……普段からシンジさんに鬱憤が溜まっているからって、最後のトドメを……!?」
「はあっ――!? ま、待ってくれ、みくる! ボクは何もしてない……事もないけど、誤解なんだ! これには訳が……!」
鬱憤が溜まっている点については否定しないのか。
そうした指摘をしてきそうな少年は、今や穏やかな眠りについている。
「……そんなぁ……!? 三人で一緒に学校に行くって、さっき話したばかりなのに……こんなのってあんまりだよ……! はなまる酷いよぉ……!」
「あ、あんなまで!?」
両手で顔を覆い、声を上げて咽び泣くあんなの肩を、みくるが優しく抱きしめていた。
とんだ茶番だ。なんだこの安っぽいドラマは。
なんて口に出してしまえば、女性陣を敵に回してしまうのは明らかだ。
「ぐうっ……!」
苦虫を噛み潰したような顔で、ジェットが押し黙る。
「あんな……大丈夫、大丈夫だよ……! あなたにはわたしが着いてるから……もう絶対に、あなたを独りになんてしないから……!」
「う、ふっ……ぐすっ……! みくるぅ……! うわあああ〜んっ……!」
「ポチ……」
辺りを漂っていたポチタンまでもが、冷ややかな視線をジェットに送っている。
新二の口角が先程よりも歪んでいるように見えるのは、気のせいだと思いたい。
「くっ……! こいつの意識がない間、損な役回りは全部ボクに回ってくるのか……!? 恨むぞ、シンジ……おやつを奢ってもらうだけじゃ、割に合わないんだからな……!」
そんな彼へと毒づいて、ジェットは口の中のキャンディを噛み砕いた。
◆
すっかり夜も
事務所の扉が、ゆっくりと開かれた。
コツ、コツ、とハイヒール特有の足音を立てて部屋に入ってきたのは、森亜るるかがプリキュアに変身した姿――キュアアルカナ・シャドウ。
すぐ傍には、彼女の『おとも妖精』であるマシュタンもいる。
「アタシの占い通りだったわね。能力を使いすぎて倒れるなんて、おとも妖精が聞いて呆れるわ。すぐ調子に乗るからそうなるのよ」
アルカナの意向もあり、マシュタンは毎日のように工藤新二について占っている。
従って、以前に占ったものとは違う、新たな結果――彼が容態を悪くして倒れたという事実を知り、こうして馳せ参じたわけだ。
「あまり責めないであげて、マシュタン。シンジはまだ、自分の力に振り回されているだけなの」
「アルカナがそう言うなら……ホント、罪作りな男の子ですこと」
マシュタンを撫でてから、ソファに横たわる新二の元へと歩み寄ると。
寝顔を覗くようにして、アルカナがその場にしゃがみ込む。
「その力は、あまり使わない方がいい……と言っても、あなたは聞かないのでしょう?」
手の甲で、そっと新二の頬を撫でる。
割れ物を扱うように、我が子を慈しむかのように、大切な宝物に触れるように。
「昔から変なところで頑固だったものね。自分の為だと偽って、身の回りの人たちを大切にする余り、巡り巡って自分自身を蔑ろにする。……シンジはそういう人」
心配をかけさせまいとしている無茶が、却って周囲の不安を煽っていると、何故気づけないのか。
時々、彼の愚鈍な振る舞いを恨めしく思うのと同時に、愛おしいとさえ思ってしまう。何があっても、根っこの部分は変わらないのだと。
「……」
寵愛を受けていると言うには、少し大袈裟かもしれない。
だが、新二と行動を共にしている少女たちを思うと、少しだけ――いや、かなり面白くない。包み隠さずに明言すると、妬いている。
『誰かに頼まれたからでも、おとも妖精だからでもない。工藤新二っていう、ひとりの人間――かどうかは怪しいけど。他でもない俺自身の意思で、あいつらの傍にいたいんだよ』
『そこが、俺の居たいと思う場所だから』
その言葉は、自分に向けたものであって欲しかった。
叶うのであれば、彼を傍で支えるのは自分でありたかったと、筆舌に尽くし難い感情に浸ってしまう。
己に課した使命さえなければ、こうして誰にも気づかれないよう、一方的な逢瀬などしていない。
遠くから見守る。たったそれだけの事が、こんなにも苦痛だったとは。
「……私の力を、少しだけ分けてあげる。これで多少は痛みも和らぐはずだから」
そう言うと、アルカナは持っている杖――ティアアルカナロッドを、躊躇いなく新二へと向けた。
虹ヶ浜の戦いにて、ハンニンダーの猛攻から彼を救った時とは違う。清く暖かな光が、その身体を
本当なら、こうして干渉するつもりもなかったのに。目の前で苦しんでいる少年を、彼女はどうしても放っておけなかった。
「大丈夫。この症状は一時的な筋肉痛のようなもの。次に目を覚ました時、あなたは――いいえ、言わなくても既に知っているはず。……そうだよね?」
「……」
もちろん返事はない。
何故だろうか。彼女は新二に語りかけているはずなのに、その時だけは別の誰かに語りかけているようだと、マシュタンは思った。
暫しの沈黙が流れ、突然、眠っている新二の表情が苦悶に歪む。
「う、ぐ……」
「……っ、シンジ……」
アルカナは咄嗟に手を取り、甲斐甲斐しく握りしめる。
人肌の温もりに触れたお陰か、彼の顔つきがすぐに穏やかなものに変わっていく。
――トクン、トクン、トクン。
緩やかに上下している胸に耳を当ててみると、
「生きてる……」
安堵の息を吐き、新二の体温を確かめるように、ぴったりと寄り添う。
寝顔を眺めるだけでは飽き足らず、徐々に、それでいて無意識に、気づけば息が触れ合う距離にいた。
だというのに、彼と自分の間にどこか壁のような物があるのはではないか。見えない隔たりに遮られているのではないかと、そう錯覚してしまう。
「……普段からこんな風に、すぐ側であなたを見守ってあげたいけれど、今の私には無理みたい。だから、せめて……とっておきのお
そんな短いようで遠い距離を、アルカナは自らの意思でゼロにする――。
「ん――」
ふたつの影が、ひとつに重なった。
垂れ下がった髪が金色のカーテンとなって、二人だけの世界を形作る。
それは夜の帳が霞んで見えるほど美しく、儚く、拙く。
込められているのは、ただ透き通るように真っ直ぐで一途な想い。
「まあ! アルカナったら、大胆っ……!」
事を察したマシュタンが飛び跳ねるようにして、手で顔を覆い隠した。
「――」
月夜の光がまるでスポットライトのように、新二とアルカナの二人を淡く照らし出す。
愛月撤灯、屋梁落月、花天月地。どれも今の心境を言い表すには足りない。
物静かでいて、叙情的な旋律だけが彼女の脳内でこだましている。
さしずめ月下で
今この瞬間だけは、ただひとりの男を恋い慕う、普通の少女でいたいと。
「――ハァ」
微かな湿りを帯びた柔らかな感触が、静かに離れた。
熱い吐息を漏らし、人差し指で唇をなぞりながら、アルカナが。
「このまま、時間が止まればいいのに」
ゲーテの劇詩である『ファウスト』の劇中に、似たような台詞があったなと、彼女は思い出す。
時よ止まれ、お前は美しい――。
外の世界が色づくまで、ずっとこうしていたいと思った。
けれども、色事に現を抜かしている場合ではないのも理解している。
「行きましょう、マシュタン」
「もういいのね?」
「……うん」
自分にはやらねばならない事があるのだから。
己を律するべく、乱れた髪を整えて、アルカナが徐ろに立ち上がる。
彼女の後を、ただ黙って着いていくマシュタン。
「おやすみなさい、私のシンジ……良い夢を。月が綺麗な夜にでも、また会いましょう」
部屋を出る直前、アルカナは新二の方を振り向いて、名残惜しそうに呟くと、そのままキュアット探偵事務所を後にする。
ほのかに上気した頬を冷ますように、夜風がさああ、と彼女を撫でていった。
金色の髪がまばらに揺れ広がり、月の光に濡れる。
街の明かりが消えるまでもうすぐだと、春吹く風が教えてくれている気がした。
事務所のドアから キュアット(キュアット)
アルカナ嬢ちゃん登場〜♪
前回に引き続き、現状の整理も兼ねた主人公についての掘り下げでした。謎が深まっただけかもしれんね。
主人公の過去や設定について、ある程度の構想は纏まってますけど、アニメの展開次第で全然パーになり得るのが怖いところ。
ヒロインレースは今のところ、るるかがぶっちぎり。最推しなのでつい出番をねじ込んでしまう。
タグでヒロイン未定と銘打ってましたが、ぶっちゃけると彼女と主人公をイチャつかせる為だけに書き始めたとこある。あんみくも大好きだけどね。
アニメ7話のお話は、かなり駆け足な内容になるかと思います。
一週間以内に更新できるように頑張るぞい。
次回もはなまるっ!