名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
FILE01:濡れ衣を着せられました
◇
人は不快な記憶を忘れることによって防衛する。
有名な心理学者の言葉だ。
だとすれば、不快な記憶を忘れることが出来ない人間は、とうの昔に壊れているのだろう。
忘れるな。
忘れるな。
忘れるな。
狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。
悪人の真似とて人を殺さば、即ち悪人なり。
ならば常道を踏み外さぬよう、不安定な足場で生きるモノがいたとして、人々の目にはどう映るのか。
時を結び、時を編み、時を綴じ。
すべてを織り成したその先に、救いがあると信じて。
望む答えを探すため、ただ今日という日を刻み続ける。
忘れるな。
忘れるな。
忘れるな――。
◇
――1999年、四月二日。
満開の桜が立ち並ぶ街道を歩く。
二十四節気で言うところの春分が過ぎ、清明が差し迫る今日この頃。
別れを惜しむ時期はとうに過ぎ去り、学生の大多数にとっては準備期間と言っても差し支えない、貴重な春休みも終わりに近づいている。
朝の日差しの心地良さに目を細めていると、一陣の風が吹き、桃色の花弁がふわりと舞い、なんとも言えない香りが鼻腔をくすぐった。
ソメイヨシノ等の一般的な桜の花は、そのほとんどが無臭らしい。つらつら考えてみるに、春と聞いてイメージできるような匂いは確かにない。ながらも、春独特の空気を感じるのもまた事実だ。
なんて物思いにふけながら、ゆっくりと歩を運んでいると、目的地が見えてきた。
一度足を止め、額に手をかざしそれを見上げる。
「ほー、ここが今日の仕事場か」
アンティーク調の門を抜けた先には、どこか荘厳な雰囲気の建物が建っている。
まことみらい市で一番大きな結婚式場。
仕事なんて偉そうに言ってはみたが、要するにただの単発アルバイトだ。
両親が営む家業――便利屋『
社会勉強の一環と言えば聞こえはいいし、小遣いも増えるしで一石二鳥。
普段関わらないような職種の人間と携わることで、新しい発見をすることもある。それに、新しい出会い――俺にとってはこちらがメイン――もあるのだ。
「おっはよーございます! 清掃・荷物の運搬・雑用から家電の修理まで、なんでもござれ! 便利屋『工藤駆動』です!」
「あら、キミは確か……」
「
「ええ、こちらこそよろしくね。人手が足りなくて助かったわ。私はウェディングプランナーの幸野さちよです。わからない事があったら何でも聞いてね」
「……あ、はい!」
綺麗な人だ。思わず見とれてしまった。
スーツ姿もバシッと決まってるし、まさしく大人の女性って感じがする。
幸野さんに案内されながら、業務内容を軽く教わった。
ブライダルスタッフは、会場の準備やセッティング、料理やドリンクの提供、ゲストの案内から片付けまでと、てんてこまいらしい。忙しくなりそうだ。
「ここがスタッフ用のフィッティングルーム。中に着替えが用意してあるから、それを着たらバンケットルームに向かってね。……えっと、場所はわかる?」
「はい。見取り図なら貰ったので、昨夜のうちに覚えてきました」
「説明が省けて助かるわ。それじゃあ、私はこれで。
「いえ、ありがとうございました!」
軽く会釈をすると、幸野さんはブライズルーム……花嫁のメイクやお色直しをする専用の控え室の方へと向かって行った。
俺もフィッティングルームで着替えを済ませて、バンケットルームへと向かう。
さて、今日も一日労働に勤しみますか。
◇
「いや〜、助かるよ! 工藤くんだっけ? やけに手馴れてるね」
「いえいえ、伊達にバイト漬けの生活は送ってないんで」
「高校生だったよね? 彼女さんとかいないのかい?」
「残念ながらいないんすよ。絶賛募集中……というか、嫁探しならぬ彼女探しもかねて、いろんな所を回ってるっす!」
会場設営の傍ら、そんな会話を交わす。
俺がテキパキと働きながら、真面目な顔で語るものだから、同じブライダルスタッフの男性が「あっはっは! 行動派だね!」と、腹を抱えて笑っていた。
「……おっと、もうこんな時間か」
言われて腕時計に目をやると、時刻は正午を指し示していた。
働いていると、時間が流れるのがあっという間だ。
「ここはもういいから、休憩に入ってもいいよ。ついでにこれも持っておいき」
「なんすかこれ。料理?」
「メインディッシュの肉料理さ。一品余分に作っちゃったみたいだから、賄いとして食べていいよ。あ、念の為に幸野さんにも確認とっておいてね」
「了解でーす」
レストランなどで見かける銀色の丸い蓋――クロッシュが被さっているトレンチを片手に、ブライズルームへと向かう。
空いた手でノックをすると、すぐに返事が返って来た。
「すんませーん。休憩入ろうと思って、声かけたんすけど……って、なんかやけに人が多いな」
幸野さんの他に、カメラマンの男性、女性が一人、花嫁さん、そして二人の少女――中学生ぐらいだろうか? 俺を含めると、ひとつの部屋に七人も集まっている。
十三時に式を挙げるとは聞いていた。
いざ花嫁衣装に身を包んだ女性を目の前にすると、少し緊張してしまう。
こんな美人を嫁に貰える新郎が羨ましい。俺もいつかは……なんて考えていると。
「「あーっ!」」
チェック柄のケープを羽織り、ハンチング帽を被った女の子。そしてもう一人、小豆色のベレー帽を被った女の子が、俺を見た途端に声を上げた。
正確には、俺の持つクロッシュを見て。
気づくのに時間がかかったが、前者には見覚えがある。
「……って、小林少女じゃないか。こんな所で何してるんだ?」
「そういうシンジさんこそ! ティアラを盗んだ犯人はあなたですね!?」
「はあっ……!? 待て待て、いったいなんの話をしてるんだよ!?」
「犯人は現場に戻ってくる……まさにセオリー通り! 観念してお縄についてください! 話は署で聞きますから!」
「そりゃ警察のセリフだろうが。カツ丼でも食わされるのか、俺は」
話がまったく見えてこない。
俺がたじろいでいると、もう一人の少女がおずおずと。
「あの、みくるちゃん……この人は?」
「あ、はい。彼は工藤新二さん。えっと……ただの知り合いです。他に言いようがないですね。特記事項もありません」
「ひっでー! つい三日前に、迷い猫探しを手伝ってやったばかりなのに!」
俺を犯人扱いしている少女の名は、小林みくる。
なんでも名探偵を目指しているんだとか。
半年前ぐらいだったか。彼女が道に迷っていたところに、たまたま俺が出くわし、道案内をしてあげた。
それから何かと街中で鉢合わせるようになり、次第に会話をするようになったのだが……。
「クドウ、シンジ……? えっと、シンイチじゃなくって?」
俺の名前を聞いたもう一人の少女が、首を傾げて言った。
よく見ると、頭頂部から生えたアホ毛も『?』の形にしなっている。どういう原理で動いてるんだ、それは。
「おっと、その手のいじりは今年に入ってから42回目だぜ。悪いがどこぞの高校生探偵じゃないぞ、俺は」
「そうなんですね! わたしは明智あんなって言います!」
「あ、これはどうもご丁寧に……じゃなくて! さっきからティアラがどうとか、俺が犯人だとか、どういうことだよ?」
困惑していると、幸野さんが「私が説明します」と申し出てくれた。
簡潔に述べると、花嫁――想田まりさんのティアラが紛失してしまったらしい。部屋に置いてある金色のティアラは、式に間に合うように、スタッフが代わりに用意したもの。
彼女の母親も、無くなってしまったティアラを付けて式を挙げたんだそうだ。
「へえ、なるほどね。要約すると、小林少女と明智少女は、困っているまりさんを放っておけず、犯人探しをしていると」
容疑者は三人。
幸野さちよ、想田まりの友人である藤井ともか、カメラマンの宇都見将太。
まりさんが最後にティアラを見てから、部屋を出入りしたという人間を集めた、と。
「……で、何で俺が疑われるんだよ」
「うっ……! そ、それは……クロッシュの中なら、ティアラを隠して運ぶのに丁度いいサイズかもって……」
みくるは指と指を合わせ、バツが悪そうに呟いた。
早とちりした理由はわかったが。
「発想が飛躍しすぎだ。そもそも、この部屋に来たのだって今が初めてなんだからな。俺を疑ったら、容疑者を絞った意味もなくなるだろ」
「でもシンジさん、お金に困ってるからバイトしてるって、随分前に言ってたじゃないですか! 動機としては充分です!」
「この流れで食ってかかるか、普通!? ……あのなあ、俺は将来の嫁さんと子供の為に貯金してるって言ったんだ! 金欠なわけではないっ!」
ヒートアップしたみくるが、更に言い返そうと勇み立つが、二の句が継がれることはなかった。
あんなと名乗った少女が、俺たちの間に割って入ったからだ。
「二人とも、喧嘩してる場合じゃないよ! まりさんのティアラを見つけないと……!」
「あ、すみません。ついムキになっちゃって……その、シンジさんもごめんなさい」
素直に謝るあたり、根は真っ直ぐなんだよな。
ちょっと俺に対する当たりが強くて、俺が絡むと調子が狂うのか途端にポンコツ気味になるだけで。そこいらの中学生と比べたら、ずっと賢いのに勿体ない。
俺は頭を掻いて、みくるの謝罪を受け入れる。
「別にいいよ、わかってくれれば。……よし、せっかくだし、俺も協力させてもらう。幸野さん、いいですよね?」
犯人扱いされるのも癪だからな。
許可を求めると、幸野さんが答えるよりも先に、まりさんが口を開いた。
「ありがとう。でも、もう本当にいいんです。ティアラのことは――諦めますから」
「「……っ!」」
諦観に等しい言葉に、みくるとあんなが固まる。
二人はしばし考え込むような素振りを見せたが、次第に目を伏せてしまった。かける言葉が出てこないのだろう。
まりさんは笑っているが、それが本音でないのは俺にだってわかる。
誰よりも晴れ舞台を迎えるのを楽しみにしていた彼女が、もういいと匙を投げたのだ。すべてが台無しとまではいかずとも、その心中は計り知れない。
重苦しい空気の中、俺はとある人物を一瞥する。
一瞬。されど、藤井ともかの口元が三日月のように歪んだのを、俺は見逃さなかった。
「――」
――ああ、そうか。
彼女の一挙手一投足を注視していれば、すぐに気づけただろうに。
みくるに問い詰められ面食らっていたのもあるが、こんな簡単なことに気づけなかったなんて。
部屋に入ってから、どうも違和感を感じると思っていたが、ようやく合点がいった。
「犯人がわかった」
空気が一変し、部屋中の人間の視線が俺に集まる。
間髪入れず、俺は
「藤井ともかさん、あんたがティアラを隠した犯人だ」
「なっ……!?」
図星だったらしく、座っていた藤井ともかが、勢いよく立ち上がる。
「どうしてわかったの……!? ブーケの中に隠したティアラは、誰にも見つかってないハズなのに!」
「あ、そこに隠してたんだ。全然わからんかったわ」
「ええっ!? てっきり、気づいているのかと……!」
すぐ隣で、ずっこけそうになっているみくるを、あんなが慌てて支えている。
俺は咳払いをしてから。
「……あー、とにかく。あんたが自白してくれて助かったぜ。違ってたらどうしようかと思った」
ハッタリではないが、犯人である確証もなかった。
俺が藤井ともかを疑ってかかったのには、ちゃんとした理由がある。
「ともかさん……それとも、ともかさんを名乗る別人ってところかな。あんた男だろ。姿形は真似できても、動き方が女性のそれとは違う。詰めが甘かったな。お前の女装は三流以下だ!」
「……っ!?」
「なにより、お前が本当に女性なら、俺が見とれないはずがない! シンジくんの審美眼を舐めるなよ、盗人め! もっと女体を研究してから出直してこい!」
「そ、そんなくだらない理由でボクの変装を見抜いたというのか……!?」
心持ち、俺に集まっている視線に、呆れや軽蔑といった感情が加わった気がした。
特にみくるは「また出し抜かれた……!」と悔しそうにこちらを
彼女のように探偵を目指しているつもりはないが、こういうことは初めてではない。俺にとっては、もはや見慣れた光景のひとつである。
みくるが対抗心を剥き出しにして、俺に噛みついてくる理由は言わずもがな。
「くっ、バレたなら仕方がない……!」
藤井ともか――犯人は観念するどころか、不敵に笑って見せた。
服を捲りあげたかと思ったら、一瞬で変装が解かれた姿があらわになる。
ものすごい早着替えだ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「ボクはニジー。怪盗団ファントムの怪盗さ」
バラを片手に、ニジーがキザったらしく名乗った。
マントが翻り、薄い緑色の長髪が揺れる。
片目が隠れるドミノマスクに、シルクハット。まさに怪盗らしい王道なファッションだ。
「怪盗団? このご時世に……?」
呆気にとられている隙をついて、ニジーがこちらに肉薄する。
咄嗟に身構えるが、奴はそのまま俺たちを通り過ぎ、ブーケの中のティアラを回収し、窓から逃げ去ってしまった。
怪盗を名乗るだけはある。優雅に名乗りを上げてから逃走に転じるまで、数秒もかかっていない。
「待てコラ、女装癖野郎っ!」
後を追うべく、すかさず俺も窓から飛び出す。
……が、この部屋が二階にあるのを忘れていた。
「どわあああ〜〜〜っ!?」
情けない声と共に宙をもがくが、手足は空を切るばかり。
地面に激突する寸前、みくるとあんなが窓から身を乗り出しているのが見えた。
「「シンジさんっ!?」」
視界いっぱいに緑と桜色の花びらが埋め尽くす。
そのまま落下して、植え込みに頭から突き刺さったらしい。
「いてて……! 今日はろくな目に遭わねえな、ホント……!」
濡れ衣を着せられたり、不審者を見るような目を向けられたり、植え込みに落ちたり。
いやまあ、最初以外は自業自得だ。
否、これもすべてニジーのせいだ! そういう事にしよう!
「こなくそーっ! 逃がしてたまるかあっ!」
溢れ出る怒りのままに、植え込みから這い上がった。
「良かった。怪我はしてないみたいです……」
「みくるちゃん、わたしたちも行こう!」
「は、はいっ!」
窓辺でそんなやり取りが交わされるものの、頭に血が登っている俺の耳には届かなかった。
きりが悪い気もしますが、長くなりすぎてもアレなので分割。
しょうもない理由で目の敵にされてるニジーくん可哀想。
たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ
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明智あんな(キュアアンサー)
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小林みくる(キュアミスティック)
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森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
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