名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜   作:秋葉ばっこ

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めっちゃ感想来てて笑った。軽い気持ちでアンケート取っただけなのに、まさかこうなるとは思わなんだ。

自認承太郎より自認ベジータ票が多くて一安心。
親身に考えてくださった皆様、ありがとナァス(ねっとり)。
追記:投稿する前に地震来てビビった。


FILE25:リコレクション・ザ・モーメント

 

 

 

 

「えー、今晩帰ったら見たいテレビあんだけど。返事はまた今度じゃダメ?」

「ダメ」

「だよなぁ」

 

 バッサリ切り捨てられてしまった。

 まあ、当然と言えば当然か。

 

「危ない目がどうとか言ってたけどさ、今まで上手くやってきたんだぜ? これからもなんとかなると思うけどな、俺は。今の生活に不満もないし」

「……それは、私と一緒にいるのが不満だということ?」

 

 ぎゅ、と。俺の手を包み込むるるかの手に、少しばかり力が入る。

 こちらを見つめる迷子の子供のような眼差しと、微かに震えている声が、これでもかと言うほど不安を訴えかけてきている。俺に断られるのを恐れているというより、別の何かに怯えているみたいに。

 そんな彼女を安心させるべく、首を振って。

 

「んなことない。さっきも言っただろ? るるかがファントムの一員だからって、俺たちの関係が変わるわけじゃないって」

「なあなあで済ませないで。あの子たちと一緒にいる以上、シンジと私は敵対関係にある」

「う〜ん、お前と戦う気なんてないけどなぁ。そりゃあ、やってる事がやってる事だから肯定はしてやれないけど……頭ごなしに否定するつもりもないぞ。何か理由があるんだろうし」

 

 その言葉に、るるかの肩が小さく跳ねた。

 普段と変わらぬトーンで、俺は続ける。

 

「ほら、あの二人にゃ悪いけど、俺ってば探偵じゃないし。ファントムの野望を食い止めようだとか、正義感みたいなもんで動いてるわけじゃないんだ」

「……尚更わからない。あなたは何のために戦っているというの?」

「知り合いが危険な目に遭ってたら、流石に見て見ぬふりは出来んだろ。たまたまその相手が、みくるとあんなだったってだけだよ」

 

 実際、るるかがファントムの一員だと知った時は驚いたが、わざわざ「捕まえよう」だなんて気分にはならなかった。

 一般人に危害を加えているわけでも、知り合いの誰かを不幸にしている様子もなかった。だとすれば、俺が動く理由にはなり得ない。

 他人が聞いたらドライと評されるかもしれないが、俺は基本的に身近な人間以外はどうでもいいと思っている。顔馴染みならまだしも、顔も名前も知らない赤の他人がどうなろうと、俺の知ったことじゃない。

 

『お前の場合、顔馴染みの範囲が広すぎると思うけどな』

『そうかぁ? 俺も相手は選んでるつもりだぞ。誰彼構わず優しくせんだろ、フツー。男の前で良い顔してもなんの得にもならんし』

『お人好しなのかそうじゃないのか、相変わらずよくわからない奴め』

『あ、ジェット先輩は例外ね。なんだかんだ言って、いつも相手してくれるから好きだぜ』

『懐く懐かないの基準が、完全に犬だな……』

 

 なんてお小言をジェット先輩から貰った事はあるけれど、日頃からこのスタンスを貫いてきたつもりだし、きっと今後も変わらないだろう。

 しばらくの沈黙のあと、るるかがゆっくり口を開く。

 

「じゃあ、もし私が危険な目に遭っているとしたら――」

「力になるに決まってんだろ、そんなの」

「……っ」

 

 俺が間髪入れずに答えると、彼女は潤んだ瞳を大きく揺らし、それから目を伏せてしまった。

 落胆、歓喜、慄然……様々な感情が入り交じった、複雑怪奇とした憂い。それでいて、どこか納得したように呟く。

 

「……やっぱり、そう答えると思ってた。あなたは変わらないのね」

「んん……? 変わるもなにも、俺は俺だろ」

「ええ。だからこそ私はシンジを守りたいの。このままだと、あなたは()()――」

 

 言いかけたところで、背後から階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

 振り返った先には、るるかを追いかけてきたであろう探偵の少女が二人――みくるとあんなが立っている。

 後者は俺を見つけた途端「ああ〜っ!」と声を上げながら、こちらを指さして。

 

「いくら綺麗な女の人だからって、怪しい人に着いて行ったらダメだよ、シンジさん! その人は首飾りを盗んだ犯人なんだから!」

「……もしかして、ナンパしてると思われてる?」

「違うの?」

「いや、むしろ逆ナンされてたところだ。フッ……モテる男は辛いぜ、ベイビーチェケラッチョ」

 

 嘘は言っていないと思う、多分。

 あんながアホ毛を逆立てて威嚇。みくるもみくるで、俺の気取った態度が鼻につくようで、冷徹かつ軽蔑の眼差しを浴びせてくる。

 

「やっぱりっ!」

「……スケベ、ジゴロ、スケコマシ」

 

 俺をなんだと思ってるんだ、こいつらは?

 るるかの反応はどうかというと、彼女たちに聞こえないような声量で「おじゃま虫……」とボヤき、そっと俺の手を離した。

 直後、あんながキーホルダーのひとつを取り出し、すかさず元のサイズに展開すべく。

 

「オープン、プリキットライト! 輪投げっ!」

 

 くるりと円が描かれ、捕縛用に生成したであろう光の輪が、こちら目掛けて投げられる。

 るるかは特に慌てるわけでもなく、おもむろに俺の首根っこを捕まえると、あろうことか輪の軌道上に突き飛ばした。

 

「――はあっ!? ちょ、巻かれるるるるる〜っ!!」

「「シ、シンジさん!?」」

「ぐ、ぐえええっ……! どぼじでごうなるの……!?」

 

 ギチ、ギチッ……!

 光の簀巻き状態になった俺の元へ、みくるとあんなが足早に駆けつけてくる。なんだか手巻き寿司が嫌いになりそうだ。

 視界の隅で、るるかとマシュっとした感じのおとも妖精が距離を取っている様子が確認できたが、それどころではない。

 

「ううっ……あんな、みくる……たちゅけて……くるちい……」

「ご、ごめんね! すぐ楽にしてあげるから!」

「トドメを刺す時とエロ漫画でしか聞いたことないぞ、そのセリフ……いいから早く解放してくれ。く、苦しい……! でもこの苦しさがむしろ心地良い……!」

「「危ない方向に目覚めかけてる!?」」

 

 そんなやり取りを繰り広げていると。

 二人の意識をわざとらしく自分の元に向けようと、るるかが。

 

「――それでは私を止められない。プリキュアになりなさい。じゃないと、変装して街に溶け込み、逃げちゃうけど?」

「「プリキットグロス!?」」

 

 何故るるかがグロス持っているのか分からないが、警備員に変装したのはアレの効力だったのか。

 緊急性を要すると判断したみくるとあんなが、彼女のいる方へ向き直り、ジュエルキュアウォッチを構える。

 え、もしかして、俺はこのまま放置ですか……?

 

「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」

「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」

「「名探偵プリキュア!」」

「わたしの答え、見せてあげる!」

 

 プリキュアに変身したアンサー、ミスティックが口々に疑問を尋ねる。

 

「あなた、いったい誰っ!?」

「どうしてプリキットグロスを持っているの!?」

 

 屋上の塀を越えた先、大きく屹立した(ひさし)と呼ばれる高所から、るるかと妖精がこちらを見下ろしている。

 俺と話していた時が嘘のように、彼女の眼差しは冷淡だった。余裕と自信に溢れたその表情は、ミスティックとアンサーの二人を嘲り笑っているようにも見えなくない。

 

「推理するのが探偵でしょう?」

「答えを聞くなんて、オシャレじゃないわね」

「マシュタン、預かってて。それと、シンジのこともお願い……

 

 マシュタンと呼ばれた妖精が、るるかから受け取った『月明かりのプリンセス』を光の膜のようなもので覆い、宙に待機させる。

 風向きが変わりゆく。まるで、これから起こる事態を予兆させるかのように、ひときわ冷たい夜風が巻き上がった。

 

「……いいわ、今日は特別。答えを教えてあげる」

 

 星が転々と煌めく夜空。月明かりを背に受けたまま、るるかは怪しく微笑むと、首から下げているネックレスに触れた。

 そうして、ミスティックとアンサーの求めていた答え(アンサー)を、俺たちはすぐに目の当たりにする事になる。

 

「――オープン。ティアアルカナロッド」

 

 その言葉に反応し、ネックレスの装飾がそのまま大きくなったかのような紫の長杖が現れ、るるかは流れるような動作でそれを手に取る。

 同時に、彼女が身を包んでいた衣装が、光の粒子に覆われ切り替わった。オフショルダーのワンピースとでも形容すべきか。

 マコトジュエルをセットした杖を回転しながら振るい、るるかの足元を中心に魔法陣のような物が広がる。

 「シャッフル」という文言のあと、リング状になっている杖の先端――その中心に配置されたカードを器用に回した。

 

「リバース」

 

 くすんだベージュの髪が、艶やかな金色に。セミロングヘアは膝下まで届くほどの長さとボリュームに。

 杖の先端が描く軌跡は、煌びやかな黒紫のヴェールとなって、彼女の装いをノースリーブワンピースへと変えていく。

 ティアアルカナロッドで軽く地面を小突くと、指先から太ももを染め上げるように、光がサイハイソックスに。そしてハイヒールと化した。

 両手首にフリル、ネイル、黒いダイヤ型が並んだ髪飾り、イヤリング、黒い蝶のようなリボン、そこから生える薄紫のレース。順々に換装を済ませ、最後に黒いケープを羽織ってから。

 

「神秘と秘密で包み込む、キュアアルカナ・シャドウ」

 

 こちらに差し伸べるように手を伸ばしてから、悠々と名乗り出る。

 

「さあ、迷宮へ誘いましょう――」

 

 黒衣の少女が、月明かりの下に馳せ参じた。

 ミスティックとアンサーが、口々に驚きの声を上げる。

 

「キュアアルカナ・シャドウ……!?」

「プリキュアなの!?」

 

 ……何故だろう。驚くのが普通だろうに、一片たりともそんな気分にならないのは。

 まるで最初から知っていたかのように、目の前にある光景を見せられても「ああ、そうか」と思うだけ。不思議と感情が揺らがないのだ。

 

「さあ、来なさい」

 

 目を細めたアルカナが、ロッドを手に言い放った。

 驚きたじろぐ二人であったが、すぐに顔を見合せて地面を蹴る。

 

「「はあああ――っ!!」」

 

 息の揃った跳躍。タイミングの合った拳。それらをもってしても、残念ながら標的にダメージを与えることは叶わなかった。

 何故なら、彼女たちの攻撃は空を切ったから。手応えだけでなく、いつの間にかアルカナの姿もない。ミスティックとアンサーは慌てて周囲を見渡すが、敵の姿を捉えることが出来ずにいる。

 

「……?」

 

 あいつら、アルカナの動きが見えていないのか。

 依然として簀巻きにされたまま、俺は少しでも助言を飛ばそうと声を張り上げる。

 

「ミスティック、後ろだ!」

「えっ――んむっ!?」

 

 ミスティックが肩越しに振り返った先には、余裕の笑みを浮かべて頬を突くアルカナの姿があった。

 すかさずアンサーが拳を振るうが、またしても攻撃は空振るばかり。すれ違いざまに、アルカナが。

 

「動きが単純すぎ。次の一手――答えが透けて見える」

「くっ……! ミスティック!」

「ええ!」

「はあああ――っ!!」

 

 アンサーは歯噛みをしたあと、ミスティックと共に夜空に舞い上がった。

 重力による落下を利用した、鋭利な蹴撃をアルカナ目掛けて落とす。衝撃と余波により粉塵が巻き起こり、次第に風に飛ばされ散っていく。

 やはりというべきか、そこにアルカナの姿はない。直前で跳躍し攻撃から脱したであろう彼女は、冷ややかな瞳で二人を見下ろしていた。

 

「動きが多くてワンパターン」

 

 言いながら、アルカナはロッドの先端にあるカードを回す。

 杖を反時計回りに大きく円を描くと、軌道に沿って七つの光が。更にそれらを囲うように十二個の光が、アルカナを中心に現れた。

 まるで時計の文字盤のようだ。なんて感想を抱いていると、合計十九の星々が輝かんと瞬く。

 

「――アルカナスターレイン」

 

 一斉に放たれた流星が、ミスティックとアンサーの足元を穿つ。

 狙って撃ったのか、それともわざと的をずらしたのか。直撃は免れたはずなのに、二人は余波だけで後方へと吹き飛ばされてしまう。

 アルカナは、地面に手をつき立ち上がれずにいる彼女たちへと向けて。

 

「随分と一生懸命なのね。あの首飾り、偽物なのに」

「「えっ……!?」」

「偽物の――嘘の首飾りが人を惹きつけ、マコトジュエルも宿るなんて。嘘も満更悪いものじゃない。そう思わない? 名探偵さん」

「で、でも……」

 

 言い返すことができず、ミスティックは目を伏せてしまう。

 そんな彼女を激励するように、自分を鼓舞するように、アンサーが力強く立ち上がった。

 

「――違うっ! 嘘をついて人の物を盗るなんて、許されることじゃないっ!」

「本当にそうかしら。あなたたちの身近にもいるんじゃない? 平気で嘘をつくような人間が」

「「――」」

 

 アルカナの流し目に釣られるように、アンサーとミスティックの視線がこちらに向いた。

 彼女たちは少しだけ言葉を詰まらせたあと、すぐにアルカナへと向き直り。

 

「そうかも。確かにシンジさんは、はなまる嘘つきだよ。でもね――」

「あの人の嘘は……わたしたちを傷つけたくないから、悲しませたくないからって……いつだって誰かのことを想う、そんな優しい嘘!」

「誰かを傷つける為の嘘だけは、絶対につかなかった!」

「「怪盗団ファントム(あなたたち)と一緒にしないでっ!!」」

 

 二人の必死の叫びを受けてなお、アルカナは動じなかった。

 それどころか、眉をひそめて不快感を露わにする。

 

「……知った風な口を聞くのね。まぁいいわ……あなたたちが彼を信頼しているのはよくわかった」

 

 けど、とアルカナは付け足して。

 

「探偵でもない人間を戦いに巻き込むなんて、いったいどういうつもり?」

「「――!?」」

「彼は元々無関係の一般人だったはず。少しだけ不思議な能力(チカラ)を持っているようだけれど、そんなの関係ない。シンジを危険に晒しているのは、他でもないあなたたちでしょう?」

 

 だからあいつ、俺がこうして身動きできないように誘導したのか。

 そこまでして俺を守ろうと……?

 

「これ以上、彼に干渉するのはやめなさい」

「「……っ」」

 

 ミスティックとアンサーは、今度こそ反論することが出来ずに、こうべを垂れて俯いてしまった。

 そんな彼女たちへと、アルカナは容赦なく杖を構える。先程の技を再び放つつもりなんだろう。

 すぐにでも止めなければと、俺のすぐ近くに浮かんでいるマシュタンへと声をかける。

 

「マシュ公!」

「気安く呼ばないでくれる? あなたがあの子の提案を飲まない限り、アタシたちは敵同士なんだから」

「いや、だからさ、いがみ合うつもりは――」

「仮に動けるようになったとしましょう。あなたはプリキュアを助けるの? それとも、アルカナの味方をするの?」

「それ、は……」

 

 食い気味に捲し立てられ尻込みしてしまう。

 マシュタンの青緑かかった瞳。明確な嫌悪のこもった眼差しが、真っ直ぐこちらを捉えている。

 

「……わからない、けど。でも、でも……止めないと」

「止めてどうするつもり?」

「……」

「どっちつかずもいい加減になさい。何もかもチグハグなのよ、あなた。その中途半端な態度が、結果的に誰かを傷つけている事にすら気づいてない……ホント、軽薄な男ね」

 

 顔を背けて押し黙っていると、頭上からマシュタンの「あっ!」と驚く声が聞こえてくる。

 顎を上げてみれば、そこにはなんと『星明かりのプリンセス』を手にしたアゲセーヌが立っているではないか。

 

「……何この状況? まあいいし。アゲが決めてあげる!」

 

 そう言って、アゲセーヌはどこからか取り出したハイビスカスの花を、首飾りに宿るマコトジュエルへと吹きかける。

 

「――ウソよ覆え! チョベリグにしちゃって、ハンニンダ〜!」

 

 汚染されたマコトジュエルから、翡翠のボディを持ち、首飾りの紐を鞭に見立てたハンニンダーが、戦場に姿を現した。

 キュアアルカナ・シャドウ。そして、ハンニンダー。

 ひとりと一体に取り囲まれ、アンサーとミスティックは挟み撃ちの形になってしまう。

 

「マシュ公、頼むからこの拘束をなんとかしてくれ! その後だったら、なんだって言うこと聞いてやるから! 早くっ!」

「そ、そんなこと言ったって……! アタシの手じゃどうしようも出来ないわ!」

「おめーの肉球は飾りか!? チックショー、こうなったら後生だ! アゲちゃん助けて! 俺のイケメンスマイルに免じて!」

「ハァ? なんでアゲが、アンタ……を……」

 

 目が合った瞬間、アゲセーヌが固まった。

 かと思えば手を合わせ、黄色い声を上げて何度も兎のようにピョンピョン跳ね回る。

 

「ちょっと待って、誰この男!? 超イケメンじゃんっ! キャーッ、マジチョベリグ! アゲのタイプだし〜!」

「はいィ……?」

 

 そういえば、変装していない姿でアゲセーヌと顔を合わせるのは、何気に今回が初めてかもしれない。

 初めて会った時はぬいぐるみを着ていたし、この前も中学生の姿になっていたからな。素の状態が受けるなんて夢にも思わなかった。

 

「ま、まあ? ウソノワール様の方がずっとアゲアゲだけど、アンタも悪くはないみたいな?」

「トゥンク……アゲちゃん……! お眼鏡にかなったようで何よりだカメ〜!」

「チョベリバタートルやめて」

「はい」

 

 突然のことで驚いてしまったが、こうして好意を持たれるのは素直に喜ばしい。こいつ普通に可愛いし。連絡先とか交換しちゃおうかなぁ!?

 

「急にモテ期来た。でへへ」

……は?

 

 遠くにいるアルカナが、普段の様子からは想像のつかない低い声を出した。こっちのやり取り聞いてんのかよ。

 締まりのない顔を浮かべる俺の姿に、マシュタンは「おじゃま虫って、そういうことね……」と呆れるように呟いている。アルカナも言ってたけど流行ってるのか、それ?

 

「シンジさん、あなたって人は……」

「あはは……」

 

 あまりの緊張感の無さに、苦笑するミスティックとアンサー。

 唯一、間の抜けた空気に飲まなかったハンニンダーが、宝石のボディから光を放ち始める。

 

「ハンニン……!!」

 

 その刹那、身構えるミスティックやアンサーよりも早く、弾き出されるように動いた人影があった。キュアアルカナ・シャドウである。

 とんでもないスピードだ。彼女は高台から降り立つと、目の前のプリキュア二人には目もくれず、真っ直ぐハンニンダーへ肉薄し、渾身の回し蹴りをお見舞いした。

 

「――えっ!?」

 

 アンサーが振り返った時には、既にハンニンダーが美術館を揺らす勢いで転倒していた。

 アゲセーヌの前に着地したアルカナが、虫を追い払うべく一言。

 

邪魔しないで、アゲセーヌ

「ひっ――!?」

 

 あまりの気迫に気圧されたアゲセーヌが、芋虫のように転がっている俺の影に隠れる。

 正直、俺もチビるかと思ったのは内緒だ。

 

「あ、ありえないんだけど〜っ!? チョベリバタートル、なんとかしてよ〜!」

「ばっかお前、俺の後ろに隠れんなって! ご機嫌取りくらい自分でなんとかしろや!」

「ひっど! アゲみたいなか弱い女の子を見捨てるとか、アンタそれでも男なの!?」

「うっせえ、都合のいい時だけ性別を主張すんじゃねェ! レディファーストだレディファースト!」

 

 ――ギロッ。

 アゲセーヌの動きに付随して、冷たい眼差しがこちらを射抜かんと放たれた。

 

「――有罪(ギルティ)。私の前で堂々と浮気だなんて、いい度胸ね」

「う、浮気ってなんだよ!? 俺はお前と付き合った覚えなんて……ひ、ひいいっ、ごめんなさ〜いっ!! 杖こっちに向けるのやめてえええ〜っ!?」

 

 つん、つん、つん。

 ティアアルカナロッドで頬を小突かれている俺を横目に、ミスティックとアンサーはミラールーペをオープンさせている。

 そこからはもはや見慣れた光景だ。フライング・スペクトルがハンニンダーを穿ち、マコトジュエルを浄化していき、周囲を覆っていた亜空間も消え失せていく。

 

「アルカナ・シャドウ、マジチョベリバ〜!」

「ガチで何しに来たんだよ、お前ェ!?」

 

 アゲセーヌは捨て台詞を残して退散した。屋上には、自ずと俺たちだけが残される。

 マコトジュエルの回収が終わり、なお身構えているミスティックとアンサーへと向けて、当てが外れたと言わんばかりにアルカナが。

 

「……はっきりわかった。今のあなたたちではファントムに勝てないし、シンジを守ることも出来ない」

 

 そう言って、アルカナは振り向きざまにティアアルカナロッドを振り抜く。すると、俺を縛っていたプリキットライトの光が途端に解けた。

 へっぴり腰のまま、こわごわ立ち上がる俺の元へと彼女はやってきて。ミスティックやアンサーに聞かれないように、そっと耳元で囁く。

 

「もう少しだけ時間をあげる。今度会ったら、その時に返事を聞かせて」

「――」

「またね、シンジ」

 

 俺の手を取っていた時のように、まるで聖母のような微笑みを湛えて、アルカナはマシュタンを連れて闇夜に消えていった。

 毅然とした後ろ姿を縫い留めるための言葉を、俺は持ち合わせておらず。ただその場に立ち惚けて、黙ったまま見送ることしか出来ない。

 

「……アルカナ、スターレイン」

 

 あの技には見覚えがある――。

 かつて、虹ケ浜の戦いで俺をハンニンダーから救った光と酷似していた。いや違う。似ているのではなくそのものだ。

 線と線が繋がっていく。るるかが変身した時と同じように驚きは少なかったものの、余計に心の中がぐちゃぐちゃになっていくような、そんな感覚。

 

『このままファントムと敵対していても、危険な目に遭うだけ。だったら私の傍にいて欲しい。すぐ近くで、あなたを守らせて欲しいの』

『危ない目がどうとか言ってたけどさ、今まで上手くやってきたんだぜ? これからもなんとかなると思うけどな、俺は。今の生活に不満もないし』

 

 上手くやってきた? なんとかなる? 不満もない?

 ふざけるな。ふざけるなよ。何を余裕こいてるんだ。

 あの時に助けて貰ってなかったら、俺は今頃……。

 

「……くそったれ」

 

 あいつは。アルカナは。るるかは、いったいどういう気持ちで俺の言葉を聞いていたんだろう。どういう気持ちで、俺の手を優しく握っていたのか。

 浅ましい言動を酷く後悔するのと同時に、心底自分に嫌気が差す。

 

「シンジさん、大丈夫ですか?」

「なんだか顔色が悪いよ?」

「ポチ〜」

 

 つい考えに耽ってしまっていたらしい。

 変身を解いて元の姿に戻ったみくる、あんな、そしてポチタンが心配そうにこちらを窺っている。

 

「もしかして、アルカナ・シャドウに何か言われたとか?」

「……いいや? 別に大したことじゃない。長いこと縛られてたから血の流れが悪くってな。ちょいと立ちくらみがしただけさ」

「そっか……うん。それならよかった」

 

 俺の嘘に気づいているのか、それとも鵜呑みにしているのか。どちらにせよ、それ以上あんなが追求してくることはなかった。

 二人の表情が曇っているのは、俺と同じように、るるかから言われたことを気にしているからだろう。このまま気まずい空気で帰るのはごめんだ。

 

「巻き込まれただなんて思ってない」

「「――えっ?」」

 

 不意に放たれた俺の言葉に、あんなとみくるが顔を上げた。

 少しでも不安を和らげてやりたいと、それぞれの頭に手を置いてやる。

 

「俺は俺自身の意思で、お前たちの傍にいる。今まで戦いに出しゃばってきたのだってそうだ。二人が気にする必要なんてねえよ」

「……うん、ありがとう。えへへ……やっぱり優しいね、シンジさんは」

他人(ひと)の心配ばかりしちゃって。そういう所ですよ、ホントにもう……」

 

 そういう所、か……。

 マシュタンが言ってた『どっちつかずな態度』ってのは、まさにこれなんだろうな。

 

「――」

 

 人知れず誰かを傷つけていると聞かされてなお、俺は中途半端をやめられない。この手の中の温もりが、惜しくて惜しくて仕方がない。

 次にるるか――キュアアルカナ・シャドウと対峙した時、それはきっと新たなマコトジュエルが現れた時だろう。それまでに結論を出さねばならない。

 これからも、みくるやあんなと行動を共にするのか。るるかの提案に従って怪盗団ファントムに身を置くのか。どっちを選んでも、一方を捨て去ることになってしまう。

 

「……選べるわけないだろ、バカ」

 

 悩んでいるということは、少なからず揺らいでいるということ。

 俺にとって、どちらもそれだけ大切な存在だということ。

 そこに優先順位なんて付けられるわけがない。

 

「長い夜になりそうだな……」

 

 ぽつり、と。夜空を仰ぎながら心情をこぼす。

 こんな日に限って、嫌になるくらい星が綺麗な夜だった。

 




マシュタン「ん? 今何でもするって言ったよね?」
シンジ「えっ、それは……」
ニコニコの公式チャンネルにアップされてるたんプリ本編、毎週の事ながらコメント汚すぎて笑ってしまう。やりマシュねぇ!

前回も含めて、実はもっとコミカルな路線に全振りする予定でした。今後やろうとしてる展開を踏まえると、ちょっとね……って感じ。うちのるるかさんが勝手に動いたんや。
アンケートの結果はさておき、主人公くんもそのうち変身するとだけ明言しておきます。後になってガッカリされたくないのでね。タグも追加しておきました。

活動報告に質問コーナーを設けました。気になることがあれば何でもござれ。一件も来なかったらそっと消すぜ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=341537&uid=154486

一週間以内に更新できるように頑張ります。
次回もはなまるっ!

主人公をプリキュアにするべきかどうか

  • このままでいい。花京院の魂も賭けよう
  • 好きにしろ。フィニッシュを決めるのは俺だ
  • 自認・栗花落カナヲだから決められないの
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