名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜   作:秋葉ばっこ

3 / 21

メモワール(memoir、複数形:memoirs)は、フランス語で「記憶」「思い出」を意味する名詞である。英語でも主に「回想録」「自伝」を指す言葉として使われる。
※Wikipediaより引用。


FILE02:名探偵プリキュア!

 

 

 

 

 元より逃げる算段をつけていたのだろうか。後を追うように、人気のない雑木林を奔る。

 しばらく全力疾走していると、前方にニジーの姿を捉えた。

 

「待ちやがれ――ッ!!」

「……驚いたな。もう追いついたのか」

 

 記憶が確かなら、この道を抜けた先に、ちょっとした広場のような場所があるはず。開けた場所にさえ出れば、今度こそ見失うことはない。

 奴を捕まえてティアラを取り返してみせる。そう俺が意気込んでいると。

 黄色い声が、頭上で響き渡った。

 

「わあああ〜〜〜っ!?」

「きゃ――っ!?」

 

 空を仰ぎ、俺は目を疑う。青空に似つかわしくない影法師が、ふたつも浮かんでいたからだ。

 みくるとあんなが空を飛んでいる。否、跳んでいると形容するのが正しいかもしれない。

 

「なんだアレ……? ぬいぐるみ?」

 

 あんなが肩から下げていた紐に繋がれていたモノだ。

 視覚が正常に機能しているなら、二人はあのぬいぐるみに引っ張られているように見える。

 

「はぇ〜、最近のぬいぐるみは喋って動くんだなあ。すっげェ〜……」

 

 アメリカで売ってるペットロボットみたいなものだろうか。近々、日本でも発売されるなんて噂を聞いたことがある。

 俺が立ち尽くしていると、隣にいたニジーがやれやれと言った様子で、口を挟んでくる。

 

「アレはぬいぐるみじゃない。妖精だよ。そんなことも知らないのかい?」

「へえ、そうなんだ。教えてくれてありがとう……と見せかけて、隙ありっ!」

「おっと」

 

 ――するり。

 飛びかかってはみたものの、機敏な動きで避けられてしまった。

 不意を突いたつもりだったんだが、抜け目がない。

 

「なんて手癖の悪いビッグベイビーだ」

「お前が言うな!」

 

 みくるとあんなは、空中で俺やニジーを追い越して、向かい側に着地していた。

 偶然にも、結果的にこいつを挟み撃ちにする形になったわけだ。

 

「ティアラを返して!」

「できない相談だよ。このティアラには『マコトジュエル』が宿っているんだもの」

「マコトジュエル……?」

 

 あんなの言葉に答えるように、ニジーが続ける。

 彼がティアラの前で手を握ると、手中に小ぶりのナニカが現れた。ボトルのように見えなくもない。

 エメラルドグリーンの宝石が埋め込まれ、羽のデザインが施された宝飾――話の流れから察するに、マコトジュエルと呼ばれているものだろう。

 どこか見覚えのある形状だ。スラックスのポケットに押し込んでいたペンダントに、無意識に手が伸びる。

 

「花嫁がティアラを大切にしている思いが、マコトジュエルを引き寄せたのさ。このジュエルを頂くのが、ボクたちの目的」

「ボクたち……怪盗団ファントムとか言ってたな」

「ああ、そうとも」

 

 組織ぐるみで『マコトジュエル』を集めているのか。

 何の目的があるかは知らないが、話を聞かされた以上は放っておけない。

 

「ティアラを返す代わりに、素敵なショーをお見せするよ」

 

 ニジーのマントが翻り、どこからかバラの花を取り出したかと思えば、ティアラに向かって投擲する。

 

「――ウソよ覆え! 出でよ、ハンニンダー!」

 

 茎がティアラに刺さった瞬間、奴の持っていたマコトジュエルが禍々しい闇に覆われていく。

 程なくして、ティアラの姿を象った怪物が、俺たちの前に姿を現した。

 

「ハンニンダーッ!!」

 

 付け髭、シルクハット、マント。

 本体のティアラから手足が生えているその姿は、どこか間の抜けたフォルムをしているが、俺たちの度肝を抜くには充分だった。

 大きな巨体が、みくるとあんな――そして、妖精を見下ろしている。

 驚き立ちすくんでいる彼女たちを見て、俺は迷わず走り出した。

 

「ファントムが新たに開発した、ハンニンダーさ。さあ、ショータイムだよ、ベイベーッ!」

「ハンニンダーッ!」

 

 ニジーの号令と共に、ハンニンダーとかいう化物が動く。

 奴は目を細め、大きくマントをはためかせると、紫色の閃光が飛び散った。

 まるで巨大な鎌鼬だ。冷酷無比な刃が、みくるたちを刈り取るべく迫る。

 

「間に合え――っ!!」

 

 ――届いた。

 すんでのところで、二人と一匹を突き飛ばし、ハンニンダーの猛威から救うことができた。

 爆発と見間違うほどの轟音と衝撃と共に、周囲の木々が裂け、なぎ倒されていく。もう少し遅れていたら、俺たちも今頃はああなっていたかもしれない。

 

「二人とも、立てそうか」

「はい……!」

「は、はい……」

 

 手を貸して二人を立ち上がらせるが、みくるは立ち上がるのでやっとの様子だ。

 無理もないだろう。あの怪物を目の当たりにして、恐怖を感じない方がおかしい。

 

「なんとかしないと――!」

 

 あんなの方はどうかというと、冷や汗を浮かべながらも、真っ直ぐにハンニンダーを見据えている。

 放っておいたら、すぐにでも突っ込んでいきそうな気迫だ。

 あまりにも勇猛で、あまりにも無謀。その真っ直ぐさが故に、少し力を加えれば根元から折れてしまいそうな、少女特有の危うさ。

 

 この子の勇気を、蛮勇と呼ばせはしない。

 俺が二人を護るんだ。

 

「――」

 

 しっかりしろ、工藤新二。

 誰かが何とかしないといけないのであれは、この場においては年長者の俺が適任だろう。消去法だとしてもだ。

 子供と呼ぶには穢れていて、大人と呼ぶにはひどく拙い。それでも、みくるとあんなを護るためには、他に選択肢はない。

 

「怖い、けど……やるしかねえだろ……!」

 

 恐怖を、それ以上の恐怖で支配しろ。

 善し悪しは関係なく、一度刻まれてしまった記憶は、決して色褪せない。乾く前のセメントに跡を残せば、そっくりそのまま固まるように。

 ()()()()()をするのは、もう嫌なんだ。

 

「あああ〜〜〜っ!?」

 

 決心した俺は、スラックスのポケットからペンダントを取り出すと、大袈裟に喚いてみせた。

 俺の見当違いでなければ、これは――。

 

「あれれ〜おかしいぞ〜? こんな所にもうひとつ『マコトジュエル』がある〜! 不思議だな〜! シンジくん、びっくり仰天〜!」

「なんだって……?」

 

 よし、ニジーが食いついた。

 芝居がかった言動を訝しんでいるものの、奴は俺の手にあるマコトジュエルに釘付けになっている。

 

「あれ、気づいてなかったのか? 怪盗団ファントムとか言ったっけ。お前ら、もしかして大したことないんじゃねえの?」

「……」

 

 みくるたちから距離を取り、わざとらしく注意を引きつけていく。

 

「悔しかったらここまでおいで、べろべろば〜!」

「なんて下品な。まさしくビッグベイビー……いいだろう。まんまとキミの挑発に乗ってあげようじゃないか。ハンニンダー! 彼からマコトジュエルを奪うんだ!」

 

 指示を受けたハンニンダーが巨体を活かし、俺目掛けて猛進してくる。

 咄嗟に身を翻して、回避する。

 

「ハンニンダーッ!」

「うお、危ねっ……!?」

 

 なんとか避けることができたが、そう何度も上手くいくはずがない。

 それでもやらなければ。とにかく距離を取って、みくるたちから意識を逸らすんだ。

 ふと、足元に視線を落とすと、ちょうどいいサイズの棒切れを見つけた。

 

「あちゃ〜……こんなに汚しちゃって。革靴で走り回るもんじゃないな。うえー、後で絶対に怒られるやつじゃん……」

 

 ワイシャツ、ジレ(ベスト)、スラックス、よくわからん前掛けまで、ことごとく土汚れで台無しだ。シャツに関しては、まばらに広がる草染みまで目立っている。

 洗濯が大変そうだな、なんて場違いな考えが浮かんでしまうが、頭を振って雑念を払う。

 

「……よし」

 

 俺は蝶ネクタイを外し、ベストと前掛けをおもむろに脱ぎ捨てた。窮屈感はなくなったので、先程よりかはマシに動けるだろう。

 ついでに足元の棒を拾い上げて、ハンニンダーに向き合う。

 

「へっ。こう見えても俺は武芸百般なんだ。得物さえあれば、()()()()くらいなんとでもなる」

「得物だって……? 笑わせてくれるじゃないか。そんな棒切れで何ができるって言うんだい?」

「……」

「答えられない、か……図星のようだね。邪魔者には退場してもらおう。やってしまえ、ハンニンダー!」

 

 もちろん、武芸百般なんてのはハッタリだ。

 ニジーが号令を下すと、ハンニンダーが応えるように唸りを上げる。

 

「ハンニンダーッ!!」

 

 ビリビリ、と空気が震えた。

 嫌な汗が頬を伝う。

 

 奴の予備動作を鑑みるに、また体当たりを仕掛けてくるだろう。

 木の棒を握り直し、差し迫る巨体を迎え撃つべく腰を落とす。

 

「……ブルっちまうぜ。ダンプカーに喧嘩売ってるようなもんじゃないか」

 

 踵を返し、この場を見なかったことにするのは簡単だ。

 だけど、もしも俺が逃げてしまえば、あの少女達が輪禍に遭うのはわかりきっている。であれば、ここで一歩も引くわけにはいかない。

 少し離れた地点で、みくるとあんなが固唾を呑み、こちらの様子を伺っているのが見える。

 

「シ、シンジさん……わたしたちの事はいいから、逃げてくださいっ!」

「そうだよ! このままじゃ、シンジさんがっ……!」

 

 後者に至っては、俺を助けようと今すぐにでも駆け出して来そうな勢いだ。

 そんな二人を安心させるべく、俺は歯を見せて笑い、あくまでも気丈に振舞ってみせる。

 

「だいじょうブイ! 俺がなんとか時間を稼ぐから、お前たちこそ逃げろ」

 

 再び、ハンニンダーの方へと向き直る。

 大きな図体が肉薄するまで、あと数秒もない。

 タイミングを見極めると同時に獲物を振りかぶると、渾身の力で踏み込んだ。

 

「お望み通り、見せてやるよ……!」

 

 レールの上に石ころを置けばどうなるか。

 答えは簡単だ。列車は脱線し、あらぬ方向へと激突する。俺がやろうとしているのは、まさにそれだ。

 ハンニンダーの動きは単調かつ直線的。きっかけさえ与えてやれば、軌道を逸らすのは容易い――!

 

「どりゃあああ――っ!!」

 

 裂帛の叫びと共に、横薙ぎに一閃。

 

「ハンニンダーッ!?」

 

 ずっしりとした手応え。

 思わず棒切れを握る両拳が、ひしゃげたかと錯覚するほどの反動。

 ハンニンダーが視界の端を横断し、俺のいた場所から後方へと投げ出されていった。

 巨体によって木々がなぎ倒され、土煙と礫が舞う。

 

「――うわっ!?」

 

 俺はというと、流れる巨躯に掠っただけだというのに、同じように宙に放り出されてしまった。

 視界が乱回転したかと思えば、すぐに衝撃が背中を襲ってくる。木の幹にでも打ち付けられたのだろう。

 意に反して、肺中の空気を吐き出してしまう。

 

「ガハッ――!? ゴホッ、ゴホッ……!」

「シンジさんっ!」

 

 あまりの痛みに身をよじる。

 悶え苦しんでいると、俺を心配する声が遠くから聞こえてきた。声の主はみくるか、それともあんなか。靄がかかった意識の中では、それすら不明瞭だ。

 遠目に様子を見ていたであろうニジーが、ほれみたことか、とでも言いたげにあざけ笑う。

 

「ハッ、見るも無惨な姿だ。一瞬とはいえ、このボクが驚かされるなんてね。ただの人間にしては中々やるみたいだけど、キミのやり方は美しくないな」

「うる、せえなァ……! てめーの美的感覚なんて、知ったこっちゃ、ねェよ……!」

 

 ニジーに悪態をつきながら、なんとか体を起こす。

 棒切れは粉微塵になってしまった。自分もこうなっていたのかもしれないと思うと、ゾッとする。

 

「ああ、クソ……痛ってェ……!」

 

 痛いものは痛いが、轢断されるよりずっとマシだ。

 下手をすれば死んでいた可能性だってある。

 

「身を守ると豪語していたのに関わらず、この体たらくとは。有言実行する所を見せてくれるんじゃなかったのかい? ビッグベイビー」

「……けっ。自分の身を守るなんて、俺は一言も言ってないっての」

 

 俺はそう吐き捨てるが、ニジーの余裕な態度は依然そのままだ。

 

「うぐっ……!」

 

 膝が笑っている。足腰に上手く力が入らない。

 バランスを崩して倒れそうになった所、不意に何者かの手によって肩を支えられ、体勢を立て直した。

 

「立てますか?」

 

 言うまでもない。

 ニジー以外に誰かがいるとすれば、それは――。

 

「……小林少女!? それに明智少女も! 二人とも、逃げろって言ったじゃないか……!」

「あなたを置いて逃げられるわけないじゃないですか! ……身を守るっていうのは、わたしたちの事だったんですね」

「助けてくれてありがとう、シンジさん。でも、もう一人で無茶したらダメだよ! 今度はわたしたちが、あなたを助ける番!」

「はは……」

 

 みくるとあんな。

 順繰りに、それでいて矢継ぎ早に諭され、思わず笑いが零れてしまう。

 

「格好つけてくれちゃって。俺より一回りも小さい癖に」

 

 今だって、恐怖のあまり足を震わせているのに、二人は決して逃げようとしない。

 それは想田まりのティアラと笑顔を取り戻すためか、それとも俺という存在を見捨てられないからか。いや、理由なんてどうでもいい。

 とにかく、二人のいたいけな少女――まだ幼さの残る名探偵は、恐怖に立ち向かうことを選んだのだ。

 

 ――パン、パン、パン。

 乾いた拍手が響く。

 音の出どころは、ニジーだった。

 

「泣かせてくれるじゃないか。でも、探偵ごっこはもう終わりだよ」

「ハンニンダー……!」

 

 俺が諌められている間に、ハンニンダーも戻ってきてしまったようだ。

 手負いの俺と、みくるとあんなが組んだところで、どう転んでも奴らをどうにかするビジョンが浮かばない。

 悔しさで下唇を噛んでいると、あんなが。

 

「――ごっこじゃない! 本物だよ!」

「あんなさん……!?」

「みくるちゃんは名探偵になるんだ! 絶対になれる! 誰かを助けたいっていう気持ちがあるから!」

 

 あんなの言葉に、みくるがハッと顔を上げた。

 自分でもらしくないと思ったが、今なら言える気がする。

 

「同感だな。俺が今まで出会ってきた人たちの中で、小林少女ほど負けず嫌いな奴はいなかった。……なれるよ、お前なら。立派な名探偵ってやつにさ」

「……っ!」

 

 みくるの瞳が、大きく揺れる。

 俺たちを見ながら、彼女は思い出したように語り出す。

 

「……わたしも、過去に助けられたから……今度はわたしが名探偵になって、みんなを助けたい!」

 

 どうして名探偵を志すようになったのか。

 どうして自分が今、ここに立っているのかを。

 

「ティアラを取り返して、困っているまりさんを助けたい! みくるちゃんと一緒に!」

「――ええ、でもそれだけじゃない! シンジさんのことも守ってみせる! わたしたち二人で!」

 

 (こいねが)うように、自分自身を奮い立たせるように、みくるとあんなは言い切った。

 二人の気持ちが通じ合い、手を重ねた瞬間――光が瞬いた。

 それは希望か、願いの結晶か。あるいは両方だと、確信めいた直感が告げている。

 

「えっ……!? ペンダントが勝手に!」

「わたしのと同じ……!?」

 

 それぞれの懐から微光が飛び出したかと思うと、彼女たちの首元に収束し、時計型のペンダントに変化した。

 二人がそれを手にすると、燦然と輝く光が広がり、周囲を包み込んでいく。

 みくるとあんなが中心なら、彼女たちの間にいた俺も当然のように巻き込まれるわけで。

 

「ちょ、ちょっと待て……うわあああ――っ!?」

 

 視界が白一色に染まっていく中、妖精の「ぷいきゅあ〜!」という舌っ足らずな声が聞こえてきた。

 

「「オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」

 

 俺はいったい何を見せられているんだろう。

 光明が形を成す――紫と桜、二つの光彩と共に、みくるとあんなの姿が変化していく。

 

「どんな謎でも、はなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」

「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」

「「名探偵プリキュア!」」

「わたしの答え、見せてあげる!」

 

 ポーズを決められても困る。どう反応するのが正解なんだ。

 いたたまれない気持ちで、俺はど真ん中で小さくサムズアップをした。

 

「ハンニンダーッ!」

 

 二人がプリキュアとやらへの変身を終えた途端、ハンニンダーが拳を突き出す。

 流れる星、なんて美しいものじゃない。上空から襲いかかるそれは、俺からしてみれば死を告げる鉄槌に等しい。

 

「「はあああ――っ!!」」

 

 アンサーとミスティック。

 二人は息の揃った跳躍を見せると、ただの蹴撃で拳を迎え撃ち――苦戦することなく、競り勝った。

 ハンニンダーが大きく吹き飛ばされる。

 

「ハンニッ……!?」」

 

 凄まじい威力だ。

 あの細い四肢のどこにそんなパワーが秘められているのか。

 

「わたし、プリキュアって……!?」

 

 本人たちも変化に戸惑っているようで、着地したアンサーが自分の手を見下ろしている。

 対称的に、ミスティックは自身の姿をじっくりと眺めると、それから嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「名探偵! わたしがなりたかった、名探偵プリキュア!」

「ええっ、これが!?」

 

 遠目で傍観していたニジーが、息を呑んでいるのがわかる。

 

「プリキュアだって……!? ()()とは違う……まさか、新手か……!」

 

 ミスティックがぴょんぴょんと跳ねながら、見せびらかすように俺の前へ踊り出てきた。

 よほど嬉しいのか、いつも以上に距離が近い。

 

「見てください、シンジさん! 憧れのプリキュアですよ!」

「ああ、うん。凄いぞ、小林少女」

「えへへ……!」

 

 俺はというと、却って冷静になってしまっていた。

 ミスティックの頭を優しく叩くと、彼女は頬をほころばせる。

 

「ミスティック、いこう!」

「あ、はいっ!」

 

 促されたミスティックが、アンサーと並んでハンニンダーに相対した。

 時計型のアイテム――ジュエルキュアウォッチを開き、長針を11時まで持っていくと、二人が身を屈める。

 

「「これが、わたしたちの……アンサーだあああ――っ!!」」

 

 踏み込んだ勢いで、地面がえぐれている。

 先程の蹴りが小手調べなら、全力の一撃が織り成す威力は計り知れない。

 彼女たちは同時に飛び出すと、ふたつの光が徐々にひとつに合わさっていき、勢いのままにハンニンダーの胴体を貫いた。

 

「す、すっげェ〜……!」

 

 反射的にそう呟いてしまった。

 遅れてやってきた衝撃が空気を揺らす。広がる余波がこちらにまで届き、体内が振動するかのような感覚を覚える。

 

 これが、みくるの目指していた『名探偵』なのか。

 俺の……というか、世間一般的なイメージとは乖離がありすぎる。

 理解が追いついている自信はない。だが、二人の姿とあの表情を見ていると納得せざるを得ない。彼女たちは紛れもなく、名探偵なのだと。

 

「「キュアット解決!」」

 

 彼女たちがポーズを決めると、ハンニンダーを飲み込むように、たちまち背後から光の柱が立ち上る。空まで届きそうな勢いで。

 あれだけ禍々しく闇が蠢いていたマコトジュエルが、徐々に元の輝きを取り戻し、アンサーの手に収まった。

 ハンニンダーもいつの間にか消えているし、決着がついたんだろう。

 

「くっ……! 今日は幕を下ろしておこう!」

 

 ニジーは歯噛みし、緑色の玉――煙幕を地面に叩きつける。

 緑がかった煙が晴れると、奴の姿は既に消えていた。

 アンサーとミスティックはしばらく身構えていたが、戦いが終わったことを悟ると、ゆっくりと肩の力を抜く。

 

「えっと、お疲れ様……?」

 

 俺が声をかけると、二人がこちらへと振り向く。

 そして、俺の顔を見た途端に、何故か目を丸くした。

 視線の位置が、幾分か高いような。

 

「シンジさん、おでこのそれは……? ハート型の石……? これって、まるで……」

「ポチタンと同じ? わあっ、お揃いだね!」

「はい……? 何を言ってるんだ、お前ら」

 

 ――コツン、コツン。

 額に触ってみると、確かに触り慣れない感触がある。

 ハート型の石と言われても、鏡がないのでピンと来ないが、明らかに肌の質感とは違う。

 

「うわっ!? な、何だこれっ……!? うぐぐ……取れないぞ! いったいどうなってんだ!?」

「あははっ! はなまる可愛いよ、シンジさん! すっごく似合ってる!」

「嬉しくないって! 呑気なこと言ってないで、明智少女も外すの手伝ってくれよ!」

「ええ〜……せっかく可愛いのに、もったいないよ」

 

 アンサーは不満そうだ。

 俺が「いいから!」と急かすと、彼女はしぶしぶ俺の額に手を伸ばす。

 

「……引っ張るよ? せーのっ!」

「いだだだっ……!? ちょ、待って……ギブギブギブッ! 明智少女、ストップ、ストーップ!」

 

 首根っこごと持っていかれると思った。

 騒ぎ立てている俺たちを尻目に、ミスティックが顎に手を当てて考え込む。

 ポチタンと呼ばれていた妖精と俺を交互に見比べると、突然ミスティックが声を張り上げた。

 

「わかりましたっ!」

「わかったって?」

 

 アンサーが首を傾げる。

 

「ふっふっふ……! よくぞ聞いてくれました!」

 

 ミスティックは得意げに笑い、まるで全てを見透かしたかのような表情で、俺を指差した。

 固唾を呑み、次の言葉が紡がれるのを待つ。

 

「シンジさん、あなたは人間じゃありませんね!」

「ええっ、突然の人格否定!? 小林少女、お前……そんなに俺のこと嫌いだったんだな……普通にショックだ……」

「ち、違います! 文字通りの意味です! シンジさんのことは、その……嫌いではないですから……!」

 

 ミスティックの声は徐々に尻すぼみになっていき、後半のセリフは聞き取れなかったが、冷静さを欠くには充分すぎる宣告だ。

 

「人間じゃないって……俺がか!? そんなハズは……少なくとも、親父とお袋は普通の人間なのに……!」

 

 背筋を冷たいものが走った。

 15年と362日を生きてきて、初めて味わった衝撃だ。

 間髪をいれず、トドメの一撃が放たれる。

 

「そう、あなたは――ポチタンと同じ『妖精』なんです!」

 

 ざあざあ、と頬を撫でるような風が吹いている。

 同時に、さああ、と血の気が引いていく。

 

「……うせやろ」

「ポチポチ〜!」

 

 あまりの焦燥に溢してしまった呟きは、アンサーとミスティック以外に届くことはなく、木々のざわめきによって掻き消される。

 俺たちの会話を理解しているのか、そうでないのか。呆然と佇む俺の周りを、ポチタンが上機嫌にふよふよと浮かんでいた。

 




主人公あるある。重い過去匂わせがち。
何気にフィジカルも強い新二くん。
あくまでも常人の範疇に留まっているので、戦いの場で出しゃばるのは今回だけかも……? 少なくとも今は。

更新ペースに関しては期待しないでください。
アニメ本編の様子を伺いながら、ゆっくり執筆していきます。

たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ

  • 明智あんな(キュアアンサー)
  • 小林みくる(キュアミスティック)
  • 森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
  • ???(キュアエクレール)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。