名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
主人公、お前人間じゃないってよ。
そのうちオリキュアになるかもしれないし、ならないかもしれない。その時の気分でフワフワ書いてます。
◇
想田まりさんの結婚式は上手くいった。
ニジーから取り返したティアラを、俺が二人――プリキュアに変身していたアンサーとミスティックの代わりに渡したのだ。
そのおかげか、借りていた服をボロボロにしてしまった件は咎められずに済んだ。
むしろ迷惑をかけてしまったと、幸野さんに謝られてしまった。
「はぁ……」
本日、十八回目の溜息が零れる。
俺の数歩先を歩いている、みくるとあんな――元の姿に戻った二人が、振り向きざまに話しかけてきた。
「良かったじゃないですか、額の石が消えて。これでいつも通りのシンジさんですね」
「あ〜あ、可愛かったのにな〜。ちょっと残念……」
彼女たちは、俺の額を見て能天気にそんなことを言ってくる。
あのハート型の石――妖精の証(?)は、彼女たちがプリキュアになっている時にだけ発現するみたいだ。
しかも、みくるによると、名探偵プリキュアのパートナーには『おとも妖精』の存在が必要不可欠だとか。彼女の話を鵜呑みにするなら、ポチと俺が該当する。
「俺のアイデンティティが……人間じゃなかったのかよ、俺……」
怪盗団ファントム、マコトジュエル、ハンニンダー、プリキュア。そして、あんなが2027年の未来からやってきたという衝撃の事実。
今日だけで色濃いイベントが盛りだくさんだったが、俺にとってはそれすら些事に等しい。
まさか自分が人外であるなどと、夢にも思わなかった。茫然自失となった俺を見かねてか、ブライダルスタッフのバイトも早退する羽目になったし。
ブツブツとぼやいていると、みくるに優しく背中を叩かれた。
「そう落ち込まないでください。あなたが人間であろうと、そうでなかろうと、わたしにとってシンジさんはシンジさんですよ」
「小林少女……」
「そうだよ! シンジさんはシンジさんだよ! えっと、わたしは今日が初対面だから、なんとも言えないけど!」
「明智少女……」
フォローになってないが、二人の気持ちは嬉しい。
べそをかいていたとはいえ、歳下の女の子に慰められている俺の姿は、なんとみっともないことだろう。
『我思う、故に我あり』。
今の俺にはピッタリの言葉だ。
自身の両頬をパン、と叩いて気合いを入れ直す。
いつまでもウジウジしてたら始まらない。最年長としてしっかりしなくては。
「で、俺たちはどこに向かってるんだ?」
「着きましたよ。……キュアット探偵事務所です。ここに名探偵プリキュアがいるはず」
プリキュアが他にもいるのか。
みくる曰く、プリキュアの存在は周囲に明るみにしてはいけないとの事。
だったら、どうして彼女がプリキュアについて詳しいのかと疑問が残るが、重要なのはそこじゃない。
俺は首から下げているペンダント――マコトジュエルに触れる。
「そのマコトジュエルについても、何かわかるかもしれません。きっと力になってくれますよ」
「なるほど、結構色々と考えてくれてたんだな。意外だ」
「心外ですね……いいから行きますよ! ほら、あんなさんも!」
「わっ、待ってよみくるちゃん!」
みくるに押される形で、探偵事務所の扉を開けた。
まだ日が傾くには早い時間帯だというのに、やけに暗い。物理的にもそうだが雰囲気もだ。
静まり返った廊下に、俺たちの足音が反響している。
「失礼しますよっと」
「「ごめんくださーい!」」
誰かいないか探していると、応接間らしき場所に辿り着いた。
ポチが好奇心のままに飛び回り、部屋の中を散策し始める。
「ポチ〜」
やけに小綺麗というか、片付いているというか。あちこちにダンボールが積み上げられていて、風情も華々しさもあったものじゃない。
みくるも似たような感想を抱いたらしく、ポツリと呟く。
「なんか、イメージと違う……」
「すみませーん! どなたか居ませんかー?」
「依頼は断ってる」
あんなが声を張り上げると、意外にもすぐに返事が帰ってきた。
思いがけず高い声音だ。女性から発されたものよりかは、まるで子供のようなソレに聞こえる。
「あの、力を貸して欲しいんです! わたし、未来からタイムスリップして来ちゃって……」
「冗談に付き合ってる暇はない。帰ってくれ」
声の主を探そうと、あんなとみくるが部屋を見回している。
俺もその場で目を凝らして周囲を伺うが、ガサガサとビニールのような音が聞こえてくるだけで、それらしい人影は見当たらない。
近くにいるのはわかるのだが……。
「冗談じゃなくて本当に……!」
「わたしたち、名探偵プリキュアなんです!」
すぐそこの机の影から、金髪の少年が飛び出してきた。
彼はそのままの勢いで机の上に飛び乗ると、しゃんと立ち上がり、みくるとあんなの二人を見下ろす。
「――」
口に咥えているのはロリポップだろうか。
金髪を後ろで束ね、頭の上にはゴーグル。パーカーの上に、オーバーサイズの白衣を羽織っている。
その特徴的な外見に、俺は見覚えがあった。
「あ、ジェットパイセンじゃん! よっす!」
「……どこかで見た顔だと思えば、便利屋の息子じゃないか。お前が尋ねてくるなんて、いったいどういう風の吹き回しだ? というか、ボクが事務所にいるのを知った上で来たのか?」
「いやあ、ちょっと込み入った事情があってさ。パイセンがいるなんて知らなんだ」
ジェット先輩は、俺が定期的にバイトさせてもらっている洋菓子店『パティスリーチュチュ』のお得意様だ。
当初は、子供がお使いで来ているものと思って対応していた。そのついでに色々とサービスしていたら、いつの間にか顔を覚えられてしまったのだ。
見た目こそ幼いが、これでも俺よりずっと歳上だと聞いたことがある。
「それより、お前たちがプリキュアだって?」
緑の瞳が、みくるとあんなを射抜く。
「……ないな」
「本当だよ! わたし、ウソつかないから!」
「どうだか……ん? そいつは――って、うわあっ!?」
あんなのペンダントに瞠目すると、ジェット先輩は驚いた拍子にバランスを崩し、背中から転倒してしまう。
やけに派手な埃が舞い上がったかと思えば、その中から現れたのはなんと、黄色い猫のような外見をした――ポチと同じ妖精だった。
「いてて……!」
「パイセン、あんたも妖精だったのか……」
「……あんた
俺の言葉に引っ掛かりを覚えたものの、ジェット先輩はすぐに顔をしかめて、再び人間の姿に変身する。
妖精としての姿を見られたことが不快なのか、彼は「ふん」と不機嫌に鼻を鳴らした。ビジュアルも相まって、拗ねた子供にしか見えない。
「ひとまず話だけは聞いてやる。そこに座れ」
案内されるがまま、俺達は部屋にあったソファに腰を落とす。
手前からみくる、俺、あんなの順。プリキュアに変身した時もそうだが、どうして俺を挟むようにして座るんだろう。
「ペンダントを見ている間、これでも舐めてろ」
お茶を切らしているからという理由で、代わりにロリポップを手渡された。
あんなはグレープ、みくるはピーチ、俺のはミルク味。
向かいのソファで、ジェット先輩はルーペを片手にあんなから借りたペンダントを観察している。
彼は眉を八の字にし、訝しげに呟いた。
「……これでプリキュアに変身しただと?」
芳しくない反応だ。見てくれはただの懐中時計なので、気持ちはよくわかる。
あんなはタイムスリップをする直前、2027年の未来にある自室の机の上で。みくるは幼少期に祖母から貰った、と話す。
一通り見て満足したのか、ジェット先輩はテーブルの上にペンダントとルーペを置くと、今度は俺の方をジロリと見てきた。
「それで、どう見ても人間にしか見えないお前が『おとも妖精』になったと」
「おう。自覚はないけどな」
そう答えつつ、ロリポップの包装を剥がし、口へと放り込む。
同じくロリポップを頬張ったみくるが。
「あなたも、プリキュアのおとも妖精なんでしょ?」
「いいや、ボクは――天才発明家のジェット! 探偵道具を発明するのが仕事だ!」
「へぇ〜、まだ小さいのにすごいね!」
あんなが手を叩いて褒めている。
純粋な厚意で言っているのだろうが、誰が見てもわかる子供扱いに、ジェット先輩が露骨に渋い顔を浮かべた。
「……小さい? そう言うお前は何歳だ」
「わたし14歳だよ」
「えーっ!? わたしももうすぐ14歳!」
「そうなの!? はなまるびっくり〜! みくるちゃん、敬語で話してるから歳下かと思っちゃった!」
「そっかー!」
俺とジェット先輩を差し置いて、みくるとあんなが完全に二人だけの世界に入ってしまった。
同い歳なら敬語はいらない、と女子同士で盛り上がっている。そんな彼女たちの様子を瞥見し、ジェット先輩が「これだから子供は……」と吐き捨てる。
「ふん。思った通り、ボクの方が歳上だな」
「そういや聞いたことなかったかも。パイセン、歳いくつなん?」
「222歳だ」
「マジか。クソジジイじゃん、ジェット老輩」
「誰がクソジジイだ! 成人してるとはいえ、ボクは妖精の中では若い方なんだぞ! 老輩もやめろ!」
怒られてしまった。
妖精の価値観は定かでないが。彼らからしてみれば、俺たちぐらいの年齢は赤子も同然だったりするんだろうか。
いつの間にか女子会が終わっていたようで、上機嫌のみくるが尋ねてくる。
「シンジさんは15歳でしたよね。誕生日はいつでしたっけ?」
「四月五日。新学期が始まる前日に、ピチピチの16歳になるんだ」
「五日って、明々後日じゃないですか。なんか意外かも……」
誕生日に意外もクソもあるか。
俺が言い返す前に、あんなが身を乗り出して。
「ねえ、みくるの誕生日っていつなの?」
「22日だよ」
「へえ、
「本当だ! はなまるすごいね!」
「あんな、感心するところじゃないから。……シンジさんもいい加減、わたしのことをキチンと名前で呼んでください」
みくるが、ジトっとした目を向けてくる。
本人が呼べと言っているのだから、断る理由はない。
「みくるたん」
「た、たん!? 子供扱いもやめてください! 普通に呼んでくれれば、それで……!」
「二人だって、ポチのことを『ポチたん』って呼んでるじゃないか」
「ポチタンはポチタンだよ?」
あんなに簡潔かつ迅速に訂正されてしまった。
ペットを可愛がって呼ぶ的なアレかと思っていたが、違うらしい。
「じゃあ、みくる」
「……っ! は、はい……!」
名前を呼んだだけだというのに、みくるがはにかむ。
その様子が面白くて、つい吹き出してしまった。
「ぷっ、なに照れてんだよ。なあ、あんな?」
「なっ――!?」
あんなの返事よりも先に、みくるが更に顔を真っ赤にして、破竹の勢いで立ち上がった。
彼女はすかさず俺を指さし、罵詈雑言と呼ぶには可愛らしい罵倒を浴びせてくる。
「あ、あんなの事はあっさり……! シンジさんのバカ! バーロー! 見た目は大人、頭脳は子供っ! 子供妖精っ!」
「な、なんだとォ!?」
しかしながら、俺の沸点も低かった。さながら液化ヘリウムのように。
負けじとソファから立ち上がり、腰に手を当て不満をあらわにした。いわゆる仁王立ちで、みくると向かい合う。
「こんにゃろ〜、トサカに来たぞ! この俺のどこが子供だって言うんだ!? 言ってみろよ!」
「その反応全部が、ですっ!」
「にゃにを〜……!? おいコラ、中坊! 年功序列って言葉を知らないのか? 歳上はもっと敬うべきだぞ!」
「ふん、大人気ない! 敬語を使ってあげてるだけ感謝して欲しいくらいです!」
俺とみくるはお互いに顔を近づけ、激しく睨み合う。
一触即発。まさに火花を散らしていると、あんながクスリと笑った。俺たちの様子を見て、心底楽しそうに。
「ふふっ。シンジさんとみくる、本当に仲良しなんだね。わたし一人っ子だから、二人の兄妹みたいな関係がちょっと羨ましいな」
「そういうもんか? あんなさえ良ければ、俺のことを『シンジお兄ちゃん』って呼んでくれてもいいぞ!」
あんなは一瞬きょとんとするが、少しだけ頬を赤らめて。
「えっと、シンジお兄ちゃん? ……あはは、なんだか恥ずかしいかも」
「おお……! これが『萌え』か……!?」
思った以上の高火力だ。
俺がデレデレしているのが気に入らないのか、みくるが頬を抓ってくる。
「もうっ……! あなたって人は、いつもいつも! あんなにまでちょっかい出さないでください!」
「いで、いででっ……! 呼び方くらいでそんなに怒るなよ、小林少女ォ!」
「『みくる』です! はい、復唱っ!」
「みくるです!」
――ギチッ!
言われたまま復唱したのに、頬を引っ張られる力がさらに強まった。
「効かないねえ、ゴムだから――って、
少々、悪ふざけが過ぎたか。
目尻に涙を浮かべて、懇願しながら名前を呼んだ。
「……ふんっ!」
みくるは指を離すと、そっぽを向いてしまった。
心なしか耳がまだ赤い気がするが、これ以上からかうと後が怖い。
真っ赤といえば、抓られた部分もそうだ。ジンジンと痛む頬を摩る。今頑張れば、リスの頬袋くらいは膨らませられるかもしれない。
一連の流れを、あんなは一貫してニコニコと眺めている。
「はなまる仲良しだね!」
「どこがだよ。いてて……」
しかし、この場にいるのは俺たちだけではない。
すっかり当初の目的と、ジェット先輩の存在を失念してしまっていた。
彼は、溶けて小さくなった飴を噛み砕いて。
「はぁ……お喋りがしたいならよそでやってくれ。まったく、お前たちがプリキュアだなんて信じられないな……」
追い出されるかもしれないと思ったが、意外と冷静だ。
それとも呆れが礼に来ているだけか。
あまりに耳の痛い一言に、俺たちは黙りこくるばかりであった。
「年長者なんだから、俺がしっかりしなきゃ!」
数刻後。
「なんだとォ!? %$○€$〒>#……!」
新二くんは基本的にガキです。
気になる子に意地悪してる小学生みたいなもん。
あんなの【お兄ちゃん】呼びは今回限りですヨ。親睦を深めるのは、まだまだこれからですからね。
るるかが作中で高校一年生という情報を聞いたので、それに合わせて急遽主人公の年齢を変更させていただきました。プロローグと2話も少しだけ手直ししてます。混乱させたらごめんよ。
書き溜めて一気に投稿するのか、日を空けてまばらに投稿するの、どっちがいいんだろうね?
次回の更新は本日18時!
たんプリで好きなキャラは? 参考程度に教えてちょ
-
明智あんな(キュアアンサー)
-
小林みくる(キュアミスティック)
-
森亜るるか(キュアアルカナ・シャドウ)
-
???(キュアエクレール)