名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
長くなったので分割しました。
今回もくっちゃべってるだけです。
◇
「あれ、そういえばポチ――じゃなかった。ポチタンは?」
俺がそう言うと、ジェット先輩がきょろきょろと周囲を見回す。
「ポチタン……さっきも話題に上がっていたな。お前たち以外にも、誰か来てるのか?」
「ああ、妖精だよ。あんなと一緒に、未来からタイムスリップして来たって聞いたけど……」
先程から、そのポチタンの姿が見えない。
みくるとあんなが顔を見合せる。二人も話に夢中になるあまり、ポチタンの動向を見落としていたようだ。
扉を開けっ放しにしていたし、別の部屋にでも向かったんだろう。
『シンニュウシャ! シンニュウシャ!』
突然、けたたましいアラートが事務所中に鳴り響いた。
入口に鍵はかかっていなかったのに、やたら防犯設備がしっかりしている。
「研究室か!」
ジェット先輩が、真っ先に部屋を飛び出す。
俺たちも彼の後に続き、地下への階段を下っていく。
「あーっ! ボクのおやつ!」
「「凄い量!?」」
みくるとあんなの驚く声がハモる。
彼女たちの視線の先で、お菓子の袋の山が積み上がっていた。
ポテチ、チョコレート、スナック、クッキー……種類は問わず、大量に。
その上からキャンディがコトン、と降ってきた。天井の一部が開いているところを見るに、隠し収納にしまっていたのか。
「うわぁ……いくらなんでも多すぎるだろ。糖尿病になっても知らんぞ、パイセン」
「うるさい、ボクを年寄り扱いするな! 発明で頭を使うから、エネルギーが必要なんだよ!」
すぐそこに転がっているお菓子を拾い上げる。中には賞味期限が極端に短いものもあった。
短期間でこの量を平らげているとなると、流石に心配だ。パティスリーチュチュにも定期的に通っているみたいだし。
ジェット先輩が喚いていると、お菓子の山から小さなシルエットが飛び出した。
「ポチ〜!」
「あ、ポチタン。そこにいたのか」
ポチタンはふわりと浮かび上がると、あんなの腕の中に飛び込む。
その様子を見ていたジェット先輩が、目を丸くして驚いていた。
「こいつは、まさか――時空の妖精!?」
「「「時空の妖精?」」」
先程までとは打って変わり、科学者らしい精悍とした顔つきを浮かべて、ジェット先輩が語り始める。
「時間と空間をワープすると言われている、とっても珍しい妖精だ。そうか、タイムスリップの原因はお前か。この妖精を使えば元の時代に帰れるかも……いや、待て。そもそも赤ちゃんじゃなかっただろう?」
「うん。ポチタン、初めて会った時は普通に喋ってたよ」
「この時代に来たことで、力を使い切ったんだ。元の姿に戻らないとタイムスリップは出来ないだろう」
舞い上がっていたあんなだったが、その言葉を聞いて肩を落としてしまう。
「ポチタンを元の姿に戻すには、どうすればいいんだ?」
「……マコトジュエルなら。真実の力が秘められた宝石だ。それがあれば……ただ、見つけるのは難しいだろう」
「これのこと?」
「あ、俺も持ってるよ」
あんなが、想田まりさんのティアラから生まれたマコトジュエルを。俺は首に下げていたペンダントを外して、ジェット先輩に差し出した。
元々、マコトジュエルについて尋ねるために探偵事務所を訪れたんだったな。
「持ってるの――っ!?」
ジェット先輩が、両手を上げて絶叫する。
瞳孔をスリット状に収縮させ、あんぐりと開けた口からは八重歯が覗いている。驚いた子猫のようでとても可愛らしい。
怒ったり驚いたりと、コロコロと表情が変わって面白い
「よし、なら話は早い! これでポチタンは元に戻る!」
「「やった〜!」」
早速、あんながマコトジュエルをポチタンに向ける。
首元のリボン――ハート型の装飾が、彼女の持つマコトジュエルと共鳴して輝き始めた。
マコトジュエルも同じく光を放ち、リボンに吸い込まれ消えてしまった。
「ポポポポ……!」
ポチタンの体が次第に震え始める。
元の姿に戻るのか、と俺たちが身構えていると。
「ポチ――ッ!!」
――ポンッ。
眩い光が止むのと同時に、ポチタンの頭上から哺乳瓶が飛び出した。
ピンクを基調としていて、羽の装飾が生えたなんてことはない哺乳瓶。ハートが象られたガラスの部分から、中にミルクが詰まっているのがわかる。
「ポチポチ〜!」
一同の期待を斜め上……あるいは斜め下の形で裏切ったそれは、俺たちの視線を受けながら降下し、緩慢な軌道を描いてあんなの手元に収まる。
ポチタンだけは、きゃっきゃと喜び、催促するようにあんなの周りを漂っていた。ミルクが飲みたいのだろう。
彼女が元の時代に戻るには、まだまだ時間がかかりそうだ。
◇
「もっとマコトジュエルが必要なのか」
あんなの腕の中で、ミルクを飲み終え満足したらしく、目を細めて喉を鳴らすポチタンを横目に、ジェット先輩が呟いた。
彼の視線が、俺の胸元に向かっていることに気づき、俺はペンダントを持ち上げる。
これが本物のマコトジュエルなら、きっとポチタンが力を取り戻すためのピースになるはず。何も迷うことはない。
「こいつもポチタンにあげてみるか」
「その必要はない」
「え、なんで?」
「お前の持つマコトジュエル……便宜上、ブランクジュエルとでも呼ばせてもらうが、何も力を感じない。いや、力を使い果たしているのか……? とにかく中身がない。空っぽなんだ」
言われてから、ペンダント――ブランクジュエルをポチタンに翳してみるが、確かに反応がない。
「ダメか……あんなの力になれると思ったんだけどな。残念」
「シンジさん……ありがとう。わたしなら大丈夫だから」
あんなは健気に笑ってみせるが、どこかぎこちない。
その様子を見ていたジェット先輩が「それに」と付け加えて。
「常日頃から、肌身離さず持ち歩いているんだ。大事なモノなんだろう? ボクにも覚えがあるからわかる」
「ジェッティー老師……!」
「うわっ! 寄るな、抱きつくな、気持ち悪い!」
「パイセンのいけず!」
感極まって、ジェット先輩の肩を抱こうと擦り寄るが、避けられてしまった。
恥ずかしがり屋さんめ。
「そうそう。シンジさんの大事なモノを貰ってまで、元の時代に帰りたいと思わないよ。それに、マコトジュエルが足りないなら、わたしたちで探せばいいんだよ!」
「ええ。きっと見つかる! プリキュアの先輩の力を借りればね!」
あんなとみくる、二人の名探偵が意気込む。
俺も同調したいところだが、ジェット先輩の浮かない表情を見て、口をつぐんでしまう。
「この世界にもう、名探偵プリキュアはいないぞ。数ヶ月前まではここに居たらしいけど……突然、姿を消したんだ」
理由は不明らしい。
この事務所を閉めるため、彼はロンドンにあるキュアット探偵事務所から日本に渡り、まことみらい市へと赴いたそうだ。
ダンボールがあちこち積み上がっていたのは、荷物をまとめていたからだったのか。
キュアット探偵事務所が、この町から無くなる――。
淡々と告げられた事実に、あれだけ息巻いていたみくるが、青菜を湯に漬けたように萎縮してしまった。
「ここでプリキュアの先輩と、事件の調査をするのが夢だったのに……」
――知っている。
彼女がどういう思いで、探偵を志してきたのかを。夢に向かって奔走する姿を、この数ヶ月間、俺はすぐ近くで見続けてきた。
「みくる」
かける言葉はすぐに見つかった。
座ったまま項垂れるみくるの背中を、バシッと叩く。
顔を上げ、こちらを真っ直ぐ見つめる彼女に。
「やれよ、ここで。みくるはもう一人じゃない。あんなっていう立派なパートナーがいるじゃないか。……立派な名探偵になるんだろ?」
「シンジさん……」
「ほら、あんなもその気みたいだぞ」
俺の言葉に、あんなが力強く頷く。
彼女は、隣に座っていたみくるの手を取って。
「そうだよ。先輩がいなくても、わたしたちがいる! やろうよ名探偵! ねっ、みくる!」
「……うん! あ、でもあんなは、元の時代に戻らないと――」
「勝手に決めるなよ。ボクはお前たちがプリキュアだって認めてない。ボクはこの目で見たものしか信じないからな! 便利屋の息子、お前もだぞ!」
ジェット先輩に横槍を入れられてしまった。
みくるが頬を膨らませ、言い返そうとするが。
「むうっ……! だったら、わたしたちがプリキュアだっていう証拠を見せて――!」
――ゴーン、ゴーン、ゴーン。
十七時を告げる時計の鐘の音が、事務所内に響き渡った。
窓から射す光には、すっかり日暮れを感じさせる朱が混じっている。
「――と思ったけど帰る! 学校の寮、門限だから!」
「あ、みくる……!」
「証拠は明日、見せてあげるから!」
みくるは椅子から立ち上がると、あんなの静止も聞かず、足早に部屋を出ていってしまう。
かと思えば、言い残したことがあるようで、扉の隙間から顔を覗かせて、一方的にまくし立ててきた。
「あんなとポチタンを泊めてあげて! シンジさんもまた明日! ちゃんと事務所まで来てくださいね!」
「え、俺、明日も普通にバイトあるんだけど――って、行っちゃったよ」
静寂が訪れた部屋の中。
取り残されてしまったあんな、困惑している様子のジェット先輩。
俺は溜息をひとつ零すと、二人と顔を見合わせる。
「悪いな、ジェット先輩。そういうわけだから、今晩はあんなとポチタンを泊めてやってくれ」
「……それは構わないけど、もてなしには期待するなよ。寝る場所だって、そのソファぐらいしか空いてないからな」
「あ、うん……ありがとう。わたしなら大丈夫だから、気にしないで」
「よし、じゃあ行こうぜ、あんな」
俺が立ち上がるように促すと、あんなが目をぱちくりとさせる。
彼女の腕の中では、ポチタンがすやすやと寝息を立てていた。
「行くって、どこに?」
「買い物だよ。しばらくこの時代で過ごすなら、色々と入り用だろ。着替えとか日用品とか。あとは夕飯と朝食の買い出しも。パイセンに任せたら、お菓子しかあげなさそうだし」
「うっ……!」
図星だったようで、ジェット先輩が言葉を詰まらせる。
あんなを連れて外に出たが、彼女はあまり乗り気ではなさそうだ。
「あの、シンジさん……わたし、お金持ってない」
「知ってるよ。その靴もみくるに立て替えて貰ったんだろ? 金のことなら気にすんな。家なき子の方がよっぽど問題だ」
「でも……! わたし、あなたに助けてもらってばっかりで、何もお返しできてないっ……!」
何を言い出したかと思えば。
つい数時間前、ハンニンダーから助けてもらったばかりだというのに。
事務所の前で俯くあんなを見て、熟考する。
初めて会った時から感じていたことだが、いざという時に頑固になるところ。困っている人がいたら見過ごせないところ。どこまでも真っ直ぐなところ。
そのどれもが、探偵になる為に一生懸命だった少女に、通ずる部分がある。
――あんなは、みくるに似ているのだ。
目の前にいる女の子を放っておけないと思ってしまうのは、きっとそのせいだろう。
俺は頭を搔いて、折り合いをつけるべく話を切り出す。
お互いが納得いく着地点を探すために。
「ああ、もう……そんなに気に病むんだったら、いつか直接返してくれよ。未来に戻ったら、その時代にいる俺でもいいから」
「未来のシンジさんに?」
「うん。……28年後だから、43歳か。うわあ、おっさんじゃん、俺……」
43歳の中年男性が、14歳の女の子から金を受け取る。
その最悪な絵面を想像するだけで、居た堪れなくなってしまう。
「まあ、とにかく返せる時に返してくれれば、それでいいよ」
「……うん、わかった。絶対だからね!」
「はいはい。俺、ウソつかないから」
「それ、わたしのセリフ! ……もうっ、約束だよ?」
あんなは頬を膨らませた後、真剣な面持ちで小指を立ててきた。
それに応えるべく、同じように小指を差し出す。
俺の無骨な指と、あんなの細くしなやかな指が絡み合う。
「約束のお
「あはは、そうだね。……シンジさんの指、ゴツゴツしてて男の人って感じがする。でも、とっても暖かい……なんだか安心しちゃう……」
「や、やるならはよしろって。恥ずいだろ」
あんなの顔が赤くなっているのは、夕日に照らされているせいだろうか。
俺は悪態をつきながらも、彼女から目が離せなかった。
こちらも妙な雰囲気に当てられてしまいそうだ。
2027年では車が空を飛んでいるのか、ゲームハード戦争はどうなったのか、趣味娯楽はどうなっているのか、ノストラダムスの予言は当たったのか、2000年問題は本当に起きたのか。
気になること、聞きたいことが沢山あったはずなのに。
今この瞬間だけは、どうでもいいとさえ思う。
「指切りげんまん、ウソついたら針千本飲〜ます! 指切った!」
「指切った。……あんながみくると名探偵として名を馳せれば、そのうちガッポガッポ稼げるようになれるかもしれんしな。期待してるぜ」
「ふふっ、なにそれ。変なの!」
花が咲いたような笑顔。
ぎこちなさは鳴りを潜め、相好を崩して笑う彼女には、年相応の無邪気さと華やかさがあった。
そっと指を離し、自分の腰に手を回したあんなが、上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
「……シンジさん、やっぱりお兄ちゃんみたい。一緒にいるみくるが、楽しそうにしてるのが伝わってくるもん」
「そうか? ちょっかいかけられて、怒ってるだけに見えるけど」
「ううん、そんな事ないよ。わたしも女の子だから、よくわかるんだ」
「ふーん。そういうもんか……」
上機嫌になったあんなと並んで歩き出す。
俺も一人っ子なので、みくるに慕われて悪い気はしない。
隣で鼻歌を歌いながら歩く彼女とも、そういう関係を築くことができればいいな、と切実に思う。
「――」
知らない時代で、知らない土地で、知らない場所で。
まだまだ甘えたい年頃だろうに、親元から引き離され、友達や知り合いにも決して会うことが叶わない――絶対的な孤独。
1999年という、あんなからしてみれば過去の世界に、着の身着のまま放り出されて。どういう気持ちで自身を奮い立たせ、誰かを勇気づけてきたのか。
慮ることはできても、あんなの苦しみはあんなだけのモノだ。気持ちがわかるなんて口が裂けても言えないし、言ってはいけない。
「はは、おとも妖精も楽じゃないな」
健気に振る舞う彼女の寂しさを、少しでも和らげられるように。
俺があんなを――そして、みくるを傍で支えるんだ。
彼女たちの『おとも妖精』として。
「悪いな、ジェット先輩」
真面目な時はちゃんと呼ぶみたいです。
どうでもいいですが、
いや、本当にどうでもいいけど。後の展開に役立てそうなフラグをばら蒔いてるだけで、他意はないです。回収するかもわからんし。マジで。
書き溜めていた分のストックが尽きました。
次回はエクレール疑惑のある、あの子が登場します。
一週間以内に更新できたらいいね。
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