名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
ここ数日、ウイルス性胃腸炎でくたばっておりました。今年入ってからずっと体調を崩してる気がします。ちゅらい。
文才が無い自覚はありますが、どのキャラがどのセリフを喋っているのかを皆様に理解して貰える位には、きちんと書き分けられるようになりたいですね。
◇
次の日、四月三日。
ジェット先輩に会った翌日にこの店でバイトする事になるとは、なんてタイムリーな。
パティスリーチュチュのレジで精算を終えて、注文を受けたケーキを客に手渡す。
「ありがとうございましたー!」
頭を下げ、店から出ていく客の後ろ姿を見送る。
土曜とはいえ、朝の早い時間帯だけあって客入りは少ない。
俺がぼーっと虚空を眺めていると、厨房スペースから出てきた少女に声をかけられた。
「お疲れ様、工藤くん。急に入ってもらってごめんなさいね」
「気にすんなって。いつもの事だろ」
彼女の名は、
ここ、パティスリーチュチュに勤務するパティシエだ。
俺の数少ない友人のひとりでもある。
「そうね……」
帆羽の返事に覇気がないのは、俺への申し訳なさからか、それとも他に理由でもあるのか。
しばらくの沈黙のあと、彼女は恐る恐る口を開いた。
「工藤くん。その……ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「安心しろ、彼女ならいないぞ。俺はまだフリーだ」
「そんなこと聞いてませんっ! ……そうじゃなくて、あの子の様子は最近どうかなって」
「ん、あの子? ……ああ、アイツのことか。四日前に会ったけど、別に普通だったぞ。いつも通り変なやつだった」
脳裏に、アイスを食している幼馴染の姿が浮かぶ。
帆羽が彼女のことを聞いてくるのは珍しい。
「……そう。それなら良いんだけど」
「てか、なんで俺に聞くんだよ。帆羽の方がアイツと一緒にいたイメージあるけど」
「……どうしてかしらね。自分でもよくわからないんだけど、気になっちゃって……」
妙なことを言い出して、帆羽は困ったように笑う。
どう声をかけるべきか逡巡していると、客が来てしまった。
「あ、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ!」
帆羽と並び、営業スマイルを浮かべて接客する。
俺たちと同じぐらいの年頃だろうか。緑色のワンピースを着た女の子が、ショートケーキをひとつ注文する。
商品を手渡すと、彼女はぺこりと上品に頭を下げてから、テラス席に向かっていった。
「知ってる? さっきのお客様、作家だそうよ。推理小説を書いてて、コンクールで賞も取ってるんですって。高校生なのに凄いわよね」
「へぇー……綺麗な子だったな。作家とのラブロマンス……悪くない。俺と生涯をかけて恋愛小説を書き上げてみませんか? なんつって!」
「工藤くんはそればっかりね……」
鼻の下を伸ばしていると、帆羽が物言いたげな目を向けてくる。
最近はろくにガールハント出来ていなかったし、あの子に声をかけるのも吝かではない。むしろ積極的にアプローチしたい所存だ。
「ちょっくら唾つけてこようかな。紅茶のサービスと一緒に、連絡先も交換しちゃったりして! にっしっし」
「……工藤くん。わかってると思うけど、お客様においたしたら……ダメよ?」
「はい、すみませんでした」
圧に屈してしまった。
飲食店じゃなかったら、思わずその場で土下座していたかもしれない。それくらいの重圧と強制力が、満面の笑みを浮かべる帆羽から放たれていたのだ。
俺が頭を下げると、彼女はころりと顔をほころばせる。今度はごく自然の和顔だ。変わり身が早い。
涙は女の武器だとよく聞くが、笑顔も十分凶器になり得るのだと、俺は改めて知った。
「そう言えば、連絡先って言ってたけど……」
「ふっふっふ! ……ジャジャーン! 凄いだろ、最新機種だ! こいつは流行りのインターネットにだって接続できるんだぜ!」
買ったばかりの携帯を見せびらかす。
あんなの日用品や衣服を購入するついでに、市内の携帯ショップで契約したものだ。
未来では『すまほ』という名前の端末が主流だそうだが、この時代では俺の持つ機種こそが最先端だ。ナウでヤング、なおかつイカス。
うっとりしながら、白いメタリックのボディに頬擦りする。
「ちょうど良かったわ。また聞きたいことが出来るかもしれないし、あなたの連絡先を教えてくれる?」
「おっ、今日はやけに積極的だな。なんだ帆羽、お前もしかして俺に気があるのか? ふっ、モテる男は辛いぜ、ベイビー」
「……」
――にっこり。
脱兎のごとく、腰を90度に折った。
「ご、ごめんなさい。……えっと、番号は――」
観念して、番号とメールアドレスを提示する。
帆羽が自分の携帯にそれらを打ち込み、試しにと空メールを送ろうとしたのだが。
「あら……? ……おかしいわ、送れない。工藤くん、そっちはどう?」
「う〜んと……俺の方もダメ。どこにも繋がんない」
「困ったわね。こんな時に通信障害かしら」
「ええっ、マジかよ。さっきまでバリ3だったのに。タイミング最悪だなァ」
繋がらないものは仕方がない。
また時間を改めようと口約束を交わし、それぞれの業務に戻ろうとした時だった。
――カラン、カラン。
入店を知らせるドアベルの音が、再び店内に響く。
何事かと俺たちは振り向く。
「あの、私のペンを見ませんでしたか!?」
先程の少女が、血相を変えて戻ってきたのだ。
ずい、とカウンターに手をつき、今にもこちら側になだれ込んで来そうな勢い。
「ペン?」
「はい……コンクールの時に貰った大切なペンなんです! 店員さん、見かけてませんかっ!?」
「お客様、落ち着いてください。順を追って説明していただけますか」
帆羽は冷静に少女をなだめる。
どこか手馴れている様子に見えるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
騒ぎを聞きつけて、店の奥から浅井たいら――パティスリーチュチュの店長まで駆けつけてきた。
少女の名は来栖エリザ。
帆羽から聞いていた通り、新人コンクールで大賞を取ったという、言わば作家界隈における期待の新人。
「俺はエリザさんと外を探してみます。店長と帆羽は、店内を探してみてください」
「わかった。頼んだぞ、工藤くん」
「工藤くん、わかってると思うけど……」
「た、他意はないぞ! 何もしねえってば!」
帆羽の鋭い視線を受けながら、そそくさと店の外に出た。
来栖エリザが座っていたであろう席を確認する。
テーブルの上には書きかけの原稿用紙が数枚と、インクの入ったボトル、ケーキが乗っていた小皿が置かれている。
現場を見るに、紛失する直前まで執筆していたという事か。店内にペンが落ちている可能性は著しく低い。
ひとまず、テーブル周辺をくまなく探してみよう。腰を落とし、来栖エリザと手分けして捜索を続けていると。
「あの、困ったことがあるならお手伝いします!」
「ああ、助かります――って、あんな? ポチタン、それにみくるとパイセンまで!」
昨日に続いて、またバイト先で遭遇する事になるとは。
改めて、来栖エリザが事の経緯を話す。
「私のペンが無いの。店員さんにも探して貰ってるんだけど……」
「彼女、作家なんだってさ。コンクールで貰った大切なペンらしい。ちょうど良いし、お前たちも探すの手伝ってくれよ」
そう言って、再び床に目を落とそうとするが。
みくるが首を横に振って。
「その必要はありません! シンジさん、あなたがペンを盗んだ犯人ですね?」
「……はい?」
また始まった。
こいつはどう足掻いても俺を犯人扱いするのか。
「おい。今の話のどこに俺が怪しい点があったのか、じっくりと説明してもらおうか」
「シンジさんは女好きですからね。店員の立場を利用して、エリザさんをナンパしていてもおかしくありません」
「ギクッ――!? そ、そそそ、そんな事はないぞォ!」
ウソはついていない。
実際、未遂に終わったのだから。
「フラれた腹いせにペンを盗んで、意趣返しをしたのかも……」
「してねえって言ってんだろーが!」
「ペンが失くなるまで、エリザさんと接触した人はシンジさんだけなんでしょう!? 疑いの目を向けるのは当然です!」
「お釣りと商品を渡しただけだっつーの! それ以上でもそれ以下でもない!」
俺はあくまでも否定し続けるが、みくるが「ぐぬぬ……!」と唸って食い下がるのをやめようとしない。
というか、今日はやけにみくるの機嫌が悪い。普段の二割増で当たりがきついような。
俺が探偵事務所に来なかったのを気にしてるんだろうか。
喧騒に挟まれ、あたふたとしている来栖エリザ。
その様子を見かねてか、先日のやり取りを焼き直すかのように、あんなが俺たちの間に割って入る。
「みくる、シンジさんはそんな事しないよ」
「あ、あんな……! 俺の味方はお前だけだぜ!」
「昨夜もすっごく優しくしてくれたもん。ねっ?」
「言い方ァ!?」
そう、彼女もまたウソをついていない。
ありのまま起きた事実を話しているだけ。
擁護が簡潔過ぎたが故に、場の全員を誤解させてしまっただけで、決して悪気はないのだ。
「昨日わたしが帰った後、あんなと何してたんですかっ!? 説明してくださいっ!!」
弁解するより先に、みくるが俺の肩を激しく揺らしてきた。
「か、買い物行っただけだよ! 俺は何もしてないっ!」
「あんなに
「だから違うんだってェ……!」
助けを求めてジェット先輩の方を見るが、視線を逸らされてしまった。
いつの間にか店の外に出ていた帆羽すら、ゴミを見るような目を向けてくる。
「工藤くん……あなたが女好きなのは知っていたけど、まさかそんな人だったなんて……」
「
「自首しましょう。その方が罪も軽くなるわ」
「いいか、俺はあまりメンタルが強くないんだ。終いには泣くぞ。というか、もう既にベソをかいている。ううっ……!」
俺がいったい何をしたと言うのか。
ポチタンですら哀れみの表情を向け、ポチポチ鳴きながら俺の頭を撫でてくれている。
四面楚歌の中、ポチタンとあんなだけが乾いた心を潤すオアシスだ。彼女から差し出されたハンカチで、涙を拭っていると。
「あっ――!」
突然、来栖エリザが思い出したように声を上げた。
「ついさっき、お婆さんが話しかけてきて……でも気づいたら居なくなってたの。ペンを見かけなくなったのは、その後だったかも……」
「バチクソに怪しいじゃねえか! 絶対にそのババアが犯人だろ!」
「ええっ、お婆さんが!? お、お巡りさんに連絡しないと……!」
彼女は慌てて携帯を取り出して、通報しようとするが――繋がらない。
「通信障害みたいです。電波が繋がらなくて、携帯電話が使えないってニュースで……私から店長に頼みますから、店の固定電話から連絡しましょう」
「そっちは任せた、帆羽。俺は婆さんを探してくる。まだ近くにいるかもしれん」
「シンジさん、わたしも一緒に行くよ!」
「待て」
俺とあんなを静止したのは、ジェット先輩だった。
彼は、妖精姿の自分自身を象った端末を差し出してくる。
「これを持っていけ。ボクが発明したプリキットだ」
「「プリキット?」」
「探偵道具だよ。このプリキットボイスメモを使えば、互いに連絡する事ができる。通話だけじゃないぞ? 変声機能も付いてる優れものだ。二つしかないから、とりあえず片方を預けておく」
礼を言って、俺たちは店の外に飛び出した。
既に通話状態になっていたらしく、あんなの持つボイスメモから、みくるたちの鮮明なやり取りが聞こえてくる。
『エリザさん、お婆さんとはどういう会話を?』
『はい、えっと確か……』
ペンが紛失した時の状況はこうだ。
原稿を書いている来栖エリザの元に、ファンを扮した婆さんが声をかけてきた。
ファンに握手を求められたのは初めてだと舞い上がった彼女は、喜んでそれに応えたのだという。サインしようとした時には、既に婆さんもペンも消えていたんだとか。
その後の展開は知っての通りだ。
『そのお婆さんの特徴は?』
『えっと、緑の着物を着てて……髪型はお団子で……』
景色が流れていくと同時に、道行く人々とすれ違う。
正午に近づくにつれて街が活気に溢れている。
俺たちは一度足を止め、一人一人を注意深く観察していく。
「あっ……!」
そして、あんなが小さく息を漏らした。
「すみませーん! ちょっといいですかー!」
「……?」
彼女に声をかけられた婆さんが、ゆっくりと振り返る。
遅れてやってきた俺を見てか、その人は露骨に眉根を寄せた。
「――」
なんだ、この違和感は。
いくら俺が女好きだからといっても流石に婆さんには興味ないが、不自然な点が多い。
あんなが声をかけた時、まだ大分距離があったはずにも関わらず、この人は立ち止まったのだ。自分が呼ばれていると確信した上で。
そして、今しがた見せた表情――。
「……ニジー」
間違いない。
一瞬ではあったものの、見覚えのある仕草だと思い出すのに、そう時間はかからなかった。
「おいコラ、てめえっ! ペンを盗んだ犯人はお前だな!?」
「フッ、また見破られたか。バイバイ、プリキュアの片割れとビッグベイビー!」
嵐が駆け抜けたかのようだった。
婆さん――ニジーは不敵に笑うと、腰に手を回したままの体勢で走り去っていく。しかも足を動かさず、颯爽とホバー移動で。
舞い上がった煙に咳き込みそうになるが、負けじと後を追いかけて、あんなと共に走り出す。
「速ェ〜……! あのとんでもねえスピード……! 間違いない、ジェットババアだ!」
『ババアだと!? いい加減、ボクの事を変な名前で呼ぶのはやめろ!』
「パイセンのことじゃねえよ!」
プリキットボイスメモ越しに叱咤が飛んでくる。
みくるとジェット先輩も、今回の事件が怪盗団ファントムの仕業であると推理し、こちらに向かっているとの連絡が来た。
ニジーを追って行くと、市内にある大きな公園に辿り着いた。
「あんな、シンジさん!」
「みくる、ジェットさん! お婆さん見なかった?」
合流したみくるが、あんなの問いに浮かない表情で首を横に振る。
公園の入口は二箇所だけだ。俺とあんなは東口。みくるとジェット先輩は西口から入ってきた。
だというのに、ニジーの姿が見当たらないという事は。
「……ンン? どういう事だ?」
「別の場所から逃げたか、どこかに身を隠しているかですね」
「それとも、また誰かに変装してるのかも……」
「うんうん、実は俺もそう言おうと思ってた。流石みくるとあんなだぜ」
あんなは苦笑いを浮かべ、みくるは「本当かよ」とでも言いたげにこちらを見てくるが、今はじゃれている場合じゃない。
公園内を隈なく見回してみると、確かに俺たち以外にも何人かいた。
ベンチに座って欠伸をしている、くたびれたサラリーマン。
人目も憚らず白昼堂々とイチャついているアベック。
街灯を背に預け、携帯電話を片手に通話しているコギャル。
今挙げた三人。
この中に、ペンを盗んだ
記憶力に優れているだけで、基本的に新二くんはアホの子です。
ここまで好き放題やっておいて、くれあがエクレールじゃなかったら笑う。
私の中では既に、帆羽くれあ=キュアエクレールなので……。
まあ、先のことをいちいち考えてたら仕方ないですね。リアタイで追いながらやる二次創作の宿命なり。
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