名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
R-15ってどこまでがセーフで、どこまでがアウトなんだ……?
そこら辺の線引き難しい。怒られたら『ごめんなさい』するから許して。
◇
ニジーは、良くも悪くも怪盗過ぎる。
今までの言動から、恐らく完璧主義者に近い思想を持っているのだと思う。
奴の言う『美しさ』とやらは俺に理解できないが、奴の『粗』を捜すことなら出来るつもりだ。根拠の欠片もない山勘のような物だが。
「――」
俺は探偵でも何でもない。
それはそれとして、平穏を脅かす者がいるのなら話は別だ。
自分を聖人君子だと
否、既に
「ニジーくん、見ーつけた!」
「……フン、またキミか」
俺に指摘されたコギャル――ニジーは、特に驚くことなく鼻を鳴らす。
迷いなく正体を言い当てた俺を見て、ジェット先輩が珍しく好意的な反応を示した。
「凄いじゃないか、見直したぞ! 便利屋の息子、どうしてこいつが『ファントム』の変装だってわかったんだ?」
「え、見ればわかるじゃん。こいつ女装めっちゃ下手くそだし」
「そんな理由で!? ……ボクはまったく気づかなかったぞ。お前、勘が良いのか悪いのかどっちなんだ」
コホン、とみくるが咳払いして。
「電話は使えるはずない。通信障害だから」
「あなたは逃げてたから気づかなかったんだ」
「「ペンを盗んだ犯人ファントムは、あなたですっ!」」
場を仕切り直すように、みくるとあんながニジーを指差す。
かく言う俺も、冤罪を晴らそうとするのに夢中で、すっかり通信障害の事は頭から抜け落ちていた。
俺が出しゃばらなくても、二人ならすぐにニジーの正体に気づいただろう。
「そう、これだよこれ……! ロジックも無しに追い詰められるなんてロマンの欠片もない。キミたちがいてくれて怪盗冥利に尽きるよ、ベイビー」
見るからに嬉しそうだ。
こいつ、そこまで悪い奴じゃないのでは?
「ボクの変装を二度も……いや、三度も見破るなんてね。ご褒美をあげようじゃないか」
早着替えの後。
ウィンクしながら、ニジーがガラス製のペンを見せびらかす。
「「あれは!?」」
「――ウソよ覆え! 出でよ、ハンニンダーッ!」
この前と同じだ。
ニジーが投げたバラにより、ガラスペンの中に眠るマコトジュエルが忽ち汚染されていく。あっという間にペン型の怪物が喚び出され、俺たちの前に姿を現した。
「ハンニンダーッ!!」
プレッシャーに圧倒され、後ずさるジェット先輩。
そうか、彼はハンニンダーを見るのは初めてなのか。
「なんだコイツは!?」
「ハンニンダー。怪盗団ファントムが開発したバケモンらしい」
「お前、よく落ち着いていられるな……!?」
「問題ないだろ。だって、この場には――」
あえて先の言葉を口に出さず、怪物を前に一歩も引かない少女たちへと、俺は眼差しを向けた。
「「ペンはわたしたちが、取り返す!」」
「ポチ〜!」
みくるとあんなが、首から下げていたペンダントをハンニンダーへと向けて掲げる。
奇跡――あるいは希望の煌めきが、この場で再演されようとしていた。
「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵キュアミスティック!」
「「名探偵プリキュア!」」
「わたしの答え、見せてあげます!」
――名探偵プリキュア。
奇しくも、彼女たちの存在を証明することが叶ったわけだ。
「あれが、名探偵プリキュア……!? 自分の心にあるマコトジュエルで変身するとは聞いてたけど、本当だったんだ……!」
「見て見て、パイセン。俺のおでこ」
「ああ、うん。お前も妖精になってるみたいだな」
俺の時だけ露骨にテンション低いじゃん。
額に浮き出たハート型の石を擦りながら、アンサーとミスティックの戦いを見守る。
「行け、ハンニンダー! まずはビッグベイビーから狙うんだ!」
「ハンニンダーッ!」
「えっ」
ハンニンダーの頭――ペン先から放たれたインクが、真っ直ぐ俺に飛んできた。
突然のことに固まってしまい、避けることもできずに被弾してしまう。しかも、顔面からまともに。
「ぐぼぉ、えあッ――!? に、苦え、まじぃ……! ぺっぺっ、つーか何も見えねえ!? ここはどこ、私はだあれ〜!?」
口に入ったインクを吐き出しながら、おぼつかない足取りで動き回る。
視界が完全に封じられてしまった。
「この前も服をボロボロにしたばっかだってのに、今度はインク塗れかよ……!」
あとで店長に怒られるだろうし、クリーニング代がかさむしで最悪だ。
マコトジュエルが関わる事件に携わると、問答無用で濡れ衣を着せられる上に、着ている服が汚れるジンクスでもあるのか。
「アッハッハ!
俺が狼狽えていると、どこからかニジーの笑い声が響き渡る。
「最低な気分に決まってるだろ、こんの女装癖野郎が! ぶっ飛ばしてやる!」
「フッ、いったい誰に話しかけているのやら。それはボクじゃなくて、ただの木だよ」
「クッソ〜……向かっ腹が立つぜ! 目が見えてたらこんな奴……!」
「そう、それだ。キミは少しばかり目が良すぎる――」
ニジーの言い分はこうだ。
想田まりのティアラが盗まれた時も、逃走したニジーを追いかけている時も、初めてハンニンダーと対峙した時も。
俺はこの目で、それらを当たり前のように観測し、そして立ち向かってきたと。ハンニンダーに関しては一時的にとはいえ、退けることにも成功している。
自分で意識したことはなかったが、かなり厄介視されているようだ。
「プリキュア程ではないとはいえ、君にウロチョロされると、こちらとしては迷惑なのさ。だから視界を封じさせてもらった。理解してもらえたかな? ビッグベイビー」
「ぐう……!」
「……ぐうの音は出るのか。シニカルも行き過ぎると尊敬するよ。ボクとキミは、とことん肌が合わないらしい」
おのれニジー、真っ先に俺を狙うとは卑怯な。
こうなったら最終手段だ。
「た、たちゅけて……ぷいきゅあ……」
「ポチタンの真似して遊んでる場合ですかっ!? ほら、こっちです! わたしの声がする方に!」
遊んでるつもりは毛頭ないのだが。
よろよろと、ミスティックの声の方へと向かう。
牛の歩みで進んでいくと、徐々にアンサーの楽しげな声が近づいてきた。
「シンジさん、こっち! あ、もう少し右だよ。その調子その調子! はなまる上手〜!」
「見てないで助けろよ!? スイカ割りしてるんじゃねえんだぞ!」
「うわあっ、バカ! ボクの方に来るんじゃない! 白衣が汚れるだろう!」
ジェット先輩に怒鳴られてしまった。理不尽すぎる。
そうは言われても仕方ないので、このまま手探りで歩く。
コツン、と何か平たいモノに手が触れた。ほんのりと人肌の温もりを感じる。
「ひゃんっ……!?」
「ん、なんだこれ……」
スベスベしていて、とても触り心地がいい。
ずっと触っていても飽きないかもしれない。
「ど、どどどっ……どこ触ってるんですかっ、みんなが見てる前で!! 立派なセクハラですよっ!?」
「え、俺今どこ触ってんの!? 平たい感触しかしないんだけど……」
「〜〜〜っ!! シンジさんのバカ――ッ!!」
怒りと羞恥が入り交じった、ミスティックのそんな声が聞こえる。
文字通り忌諱に触れた気配がした。
慌てて手を引くと、またもや知らない手触りを感じてしまう。
「んあっ、そこはボクの大事なっ……!? 便利屋の息子、お前えええーっ!!」
「パイセンまで変な声出すな! ゴーグルに触ったんだよな、今!? そうだと言ってくれェ!」
見えないのでわからないが、ミスティックとジェット先輩の
二人とも手を出してこない辺り、俺がわざとやってるわけではないのを察してるんだろうが、後が怖いな……。
「強力なマコトジュエルをウソで覆えば、誰にも止められない強力なチカラになるんだ! 欲しいものはな〜んでもウソで手に入る!」
「ハンニンダー!」
「「――っ!」」
アンサーとミスティックの息を呑む声。
直ちに、戦闘が再開されたのだと気配で悟る。
「クソッ――!」
その場で佇むことしか出来ないのか、俺は。
血が出るくらい拳を握りしめようが、奥歯が砕けるくらい歯を食いしばろうが、工藤新二が無力である事実は揺らがない。
唯一まともに機能している聴覚が、そんな俺をあざけ笑うニジーの声だけをはっきりと捉えている。
「ボクらファントムは、ウソで溢れ覆われた素晴らしい世界を作る! その為には、たくさんのマコトジュエルが必要なのさ!」
「好き勝手に言ってくれるじゃんか」
「パイセン……?」
「ボクもひとつ教えてやる。キュアット探偵事務所の使命は、ウソを暴いて止めること」
ジェット先輩は一瞬の間を置いて、宣言するように。
「――ファントムッ!! お前たちからマコトジュエルを守ることだっ!!」
「随分と威勢の良いベイビーだ。無論、キミたちの使命は心得ている。でもこの状況でウソを――ハンニンダーをどう止める?」
「プリキュアがいる! 歴史上、数人しかいなかったという名探偵プリキュアが! ここには二人もいる!」
――そうだ。
俺はそんなプリキュアの『おとも妖精』なんだ。
傍で彼女たちを支えると、誓ったばかりじゃないか。
「――」
考えろ、考えろ、考えろ。
足りない頭を回せ。
観えないからこそ、きっと視えてくるモノもあるはず。
目には目を、歯には歯を、ウソにはウソを。
「ジェット先輩。さっきのプリキット、まだ持ってるよな? 貸してくれ」
「それはいいが……おい、いったい何をするつもりだ?」
「見ての――いや、聞いてのお楽しみさ」
ニヤリと口角を上げて、ジェット先輩からプリキットボイスメモを受け取る。
そう、彼は言っていた。こいつには通話機能だけでなく、変声機能も備わっていると。
「あーあー、テステス。マイクチェックワンツー、よし」
手探りで声のトーンを調節し、上手く機能している事を確認する。
スウウ、と大きく息を吸い込んで、
「『ハンニンダー! プリキュアではなくボクを狙うんだ!』」
「ハ、ハンニンダー!?」
「なっ……!? 今のはボクの声か……!」
現在、俺とジェット先輩は木陰に身を隠している。
陽動が出来ないのなら、ハンニンダーの意識を撹乱させるまで。狙い通りにいかずとも、一瞬の隙さえ作れればそれで構わない。
「『ボクは獲物を奪うよりも、物理的に痛めつけられる方が興奮するのさ、ベイビー!』」
「勝手に人の趣味を捏造するのはやめたまえ! キミはキュアット探偵事務所側の人間だろう!? それがウソをつくなんて……!」
「ハッ、人聞きの悪いこと言うなよ。俺はただモノマネして遊んでいるだけだぜ、ニジー」
そうとも、使えるものは何だって使う。
褒められたものではないのもわかっている。
綺麗事を実践するのが
「彼の言葉に耳を貸すな、ハンニンダー!」
「『ボクの命令を聞くな、ハンニンダー!』」
「ハ、ハンニンダー……!?」
ほぼ同時に指示を飛ばされ、ハンニンダーが狼狽えている。
思惑通り、時間を稼ぐのに成功したらしい。
「ウソをつかれて、ペンを盗られたエリザさんは悲しんでる……!」
「人を悲しませるウソなんて……!」
「「プリキュアがウソを終わらせる――!!」」
さあ、後はお前たちの役目だ。
見なくとも結果はわかる。
「「これが、わたしたちの……アンサーだあああ――っ!!」」
ハンニンダーが撃破されたのを引き金に、マコトジュエルもまた浄化されていく。
「「キュアット解決っ!」」
「……次のショーでまた会おう!」
ニジーはそう言い残して、煙幕と共に退散した。
それと同時に、闇に包まれていた視界がウソだったかのように元通りになった。
パティスリーチュチュの制服にもシミひとつ残っていない。
プリキュアの力によるものか、証拠を残さずに消えるという怪盗の矜恃によるものかはわからないが、どちらにせよ。
「良かったァ〜。クリーニング代、払わずにすんで」
「……締まらない奴だな。少しは見直したのに」
ジェット先輩とそんなやり取りを交わしていると、アンサーとミスティックが駆け寄ってきた。
「……」
ミスティックが、ぷりぷりと怒っている。
プリキュアにかけた洒落ではない。
「まったくもうっ……! シャーロック・ホームズの紳士ぶりを見習って欲しいです」
「それはちょっと。ホームズは女嫌いで有名じゃないか」
「そうかもしれませんけど……」
「実は男色家だったんじゃないかって説もあるくらいだし。助手のワトソンが結婚した時も『彼は妻のために私を捨てた』なんて抜かしてもんな」
皮肉を交えて言い返すと。
すぐ近くで話を聞いていたジェット先輩が、自身の体を抱きしめて、俺から距離をとった。
「男色家だって? 便利屋の息子、お前……まさかボクをそういう目で……!?」
「待て、何故そうなる!? ホームズの話だって言ってるだろ!」
頬を赤らめるのはやめて欲しい。
確かに彼はそういった嗜好の人間にウケが良さそうな容姿をしていると思うが、俺は至ってノーマルだ。
俺の名誉の為にも、この場できちんと訂正させてもらおう。
「男は全員アウト・オブ・眼中。女体にしか興味がないんだ、俺は。わかったら人を変態扱いするのはやめてくれ」
「その発言も十分に変態的だぞ。……どうしてこんな奴が『おとも妖精』になったんだか。お前たちも大変だな、プリキュア」
アンサーとミスティックが苦笑いを浮かべる。
なんだかんだ言いつつも、ジェット先輩は俺たちを認めてくれたようだ。
◇
パティスリーチュチュへの道を歩く。
元の姿に戻ったミスティック――みくるは、相変わらず不機嫌なままだ。
「なあなあー、みくるってば。俺が悪かったからさあ。そろそろ口利いてくれよー。相手してくれないと寂しいだろォー」
「……」
「ごめんって! 何でもひとつ言うこと聞くからさァ!」
俺がそう言った途端、みくるの足が止まる。
彼女はゆっくりと振り向いたかと思えば、今日一番の笑顔を浮かべ、プリキットボイスメモを掲げた。
「……何でも? 本当に何でもひとつ、わたしの言うことを聞いてくれるんですね? 言質取りましたよ」
凶器というより、狂気。
先程の発言を録音されていたらしい。
貰ったばかりなのに使いこなしすぎだろ。
「ヒェッ……!?」
光のない眼差しに射抜かれ、たまらず背筋が震えた。
どんな要求をされるのか、固唾を呑んで身構えていると。
「今度、わたしとも一緒に出かけてください。買い物でも遊びにでもいいですから。……もちろん、二人きりで!」
「――えっ? そんな事でいいわけ?」
てっきり、もっととんでもないお願いをされるかと思ったのに。
みくるが頬を膨らませ、俺の言葉を否定する。
「そんな事じゃありません。わたしにとっては重要なんです!」
「みくるがいいなら、まあ……わかったよ。約束な」
「――っ、はいっ!」
俺が頷いた途端、みくるは総合を崩して笑った。
彼女は俺たちを追い越すと、軽い足取りで歩み出す。
「――」
あんな顔されたら、こっちも悪い気はしない。
屈託のない笑顔に当てられ、思わず胸が高鳴るのを感じていた。
それを悟られないように、頬を掻いて誤魔化していると、あんながみくるの横に並んで。
「みくる、ちょっといい?」
「改まってどうしたの、あんな」
「えっとね、こしょこしょ……」
あんながみくるに耳打ちする。
二人はチラチラとこちらの様子を窺っているかと思えば、顔を見合せたあと、いたずらっぽく笑った。
「それ、すっごく楽しそう!」
「でしょ? 明後日がはなまる楽しみ〜!」
ケーキの予約がどうとか、パーティをやろうとか小さく聞こえてきたが、また二人で女子会でもするつもりなんだろうか。
世の中には十段+五段アイスをぺろりと平らげる少女もいるし、彼女たちがホールケーキをおつまみ感覚で捕食していても不思議ではない。それこそ鬼一口で。
頭の中に、奇妙奇天烈な映像が浮かんでいく。
『ホ、ホールケーキを一口で食べた! バケモノめ……!』
『シンイチ……じゃなかった。シンジ……一番初めにキミに出会って、キミのマコトジュエルを奪わなくて良かったよ……』
『ニジ――ッ!! クソ、お前の犠牲は無駄にしないからな……俺の右手にかけて……!!』
冗談はともかく。
今後とも世話になるという意味も込めて、ジェット先輩への差し入れを買おうとしているのかもしれない。パーティも親睦会と考えれば妥当だ。
俺がひとり納得していると、隣を歩いていたジェット先輩がボソッと。
「……お前、本当に気づいてないのか」
「ん。気づいてないって、何が?」
「つい昨日、事務所で話してたばかりだろ」
「だから何がだよ。言ってくれなきゃわかんないっての」
ジェット先輩が呆れ返っている。
勿体ぶらずに教えてくれればいいのに。
「はぁ……やれやれ、先が思いやられるな。ボクは一足先に探偵事務所に帰らせてもらう。あの二人に渡したい物ができたからな」
「んだそりゃ、モヤモヤするなァ……わかったよ」
「後のことはよろしく頼んだぞ。シンジ」
「おう、またな」
軽く手を振って、ジェット先輩は帰路に着いた。
しばらくその様子を眺め、そして気づく。
「……ん? パイセン、今、俺のこと初めて名前で呼んだ……?」
素直じゃない
いつの間にか、すっかり遠くを歩いている二人の少女の元へと、追い風に吹かれ走り出す。
取り返したガラスペンが陽の光を受け、俺の手中で小さく光沢を放っていた。
「シンイチ……キミのマコトジュエルを奪わなくて良かったよ……」
右手に寄生したアレとニジーの名前、語呂が似てるなって。個人的にニジーが好きなので、そのうち味方陣営に来て欲しい想いもあって……。
モチベーションが続き次第、一週間以内に更新できるように頑張ります。
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