名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
ちょっと駆け足気味。
もし仮に新二くんがオリキュアか何かしらになるとしても、かなり先の話になりそう。
◆
怪盗団ファントムが根城にしているアジトにて。
芝居小屋として呼ぶには荘厳で、晴れやかな舞台と呼ぶには物々しい。閑寂としたこの大きな劇場で、今まさに会合の幕が開かれようとしていた。
照明に照らされ、まばらに浮かび上がる影が五つ。
壇上の真ん中で片膝をつき、主君への敬意を示すニジー。
顔に歌舞伎風のメイクを施した、総じて和を醸し出すテイストの装いに、屈強な肉体を持つ大男――ゴウエモン。
頭にピンク色のサングラスを乗せ、ハープポニーテールにした橙の長髪を揺らす、まさにギャルと称するべきであろう風貌の女流――アゲセーヌ。
新入りの少女――森亜るるかと、彼女の腕に抱かれる、キツネのような見た目をした紫の妖精――マシュタン。
そして、それらを鳥瞰する、ひときわ大きな影があった。
トリコーンと呼ばれる黒い三角帽子を被り、ゴテゴテとした鎧は、どこか中世の騎士を思わせる造形。
素顔を隠す仮面の横からは、かつての貴族や音楽家が被っていた鬘のような巻き髪が飛び出している。
盗みは華麗で優雅に、かつ劇的であることを美学とする大怪盗。
怪盗団ファントムのメンバーを統括する、悪の親玉――首領ウソノワール。
「プリキュアの傍には、必ずマコトジュエルを携えたビッグベイビー……おとも妖精がございます。彼は見た目こそ普通の人間と変わらないが、決して侮ってはいけない」
「「――」」
ニジーの報告に真っ先に反応を示した者が、二人。
「……人間の姿をした『おとも妖精』だと?」
「誠に遺憾ながら、このニジーも三度に渡り変装を見破られ、苦杯を喫しています。……認めたくないが、奴の観察眼は本物だ」
ウソノワールとるるか。
前者は『
後者は一瞬の間、わずかに眉をひそめたものの。我関せずといった態度、次いで能面のような表情を崩さず、手に持っているアイスを口に運んだ。
「おいおい、その情報は確かなんだろォな? オレたちゃファントムは、ウソで世界を覆うのが目的だがよ……流石に信じられんな。お前さんの作り話じゃねェのかい」
「アゲも同感〜。そもそもアンタの女装、超絶下手っぴっしょ。任務ドジったからテキトー言ってんじゃね?」
「なっ……!? 黙って言わせておけば……! ボクが虚偽の報告をしていると!?」
ゴウエモンとアゲセーヌが疑うのも無理はない。
ウソノワールの持つ『
そのどれもが大雑把かつ曖昧な情報を示すものの、記述されている内容はこれまで一度も外れたことがない。
故に、不可思議。故に、不明瞭。
「未來自由の書が、新たなマコトジュエルを示している。約束の刻まであと僅か……これ以上の失態は許されん」
ウソノワールが手をかざすと、未來自由の書がひとりでに開き、彼が言うようにマコトジュエルの在処を示す。
「あっはは、今回はアゲが行くしかないっしょ! アンタは留守番ね」
「くっ……!」
挙手したアゲセーヌを、スポットライトが照らす。
その姿を、ニジーは歯がゆい思いで見送る。
いくら名探偵プリキュアが出現したとはいえ、二度に渡り任務を失敗したのは事実。ウソノワールからの信頼が揺らいでいるのだと、ニジーの焦燥が募る。
「行け、アゲセーヌ。華麗に優雅に奪ってくるのだ……ライライサー!」
「ライライサー!」
ウソノワールの号令。
了解の合図と共に、アゲセーヌは姿を消した。
◇
「ちわーっす。便利屋『
四月四日。
今日の仕事先は、街にあるアンティークショップ『カメリアインテリア』。
開店前の店内に入ると、店員である前田ちほ、仲手川卓也が出迎えてくれた。
「工藤くん、いらっしゃい。今日は一日よろしくね」
「久しぶりだね、工藤くん。またよろしく頼むよ」
「うっす。ちほさんも卓也さんも、お元気そうでなにより」
パティスリーチュチュ程ではないが、この店にも何回か依頼を受けて手伝いをした事がある。
業務内容は接客から清掃、商品の手入れなど様々だが、今日はいつもと違った作業を頼みたいと、電話を受けてやって来た次第だ。
「早速だけど、バックヤードに来てくれる? 着替えて欲しいの。卓也くんも手伝って」
「はい。行こうか、工藤くん」
「あ、はい。着替えっすか……?」
この店に決まった制服は無いはずだが。強いて言えば、スタッフ用のエプロンの着用が義務付けられているくらい。
卓也さんの手伝いが要るほど、大掛かりな着替えとはいったい何なのか。
二人に案内されてバックヤードに入ると、目当てのモノであろうそれが、部屋のスペースの真ん中で一際存在感を放っていた。
「き、着ぐるみ……?」
「うちのお店のマスコット、通称カメリアくんよ」
「へー、カメリアねぇ」
「カメリアくんよ」
「あ、はい。カメリアくん……」
様々な職種の経験があると自負しているつもりだったが、これは予想外だ。
カメリアくんの着ぐるみを着て、店先でカメリアインテリアのビラ配りをして欲しい、とちほさんから口頭で伝えられた。
内容自体はシンプルなので、特に断る理由もない。俺は了承して、早速カメリアくんを身に纏う事に。
「うお、中は結構しっかりした作りになってるんすね」
「ええ。町おこしの一環で、市が協力を申し出てくれてね。沢山の人たちの協力のお陰で、カメリアくんは生を受けたのよ」
ちほさんが熱く語っている。
そう言えば、店に入ってすぐの棚上に置かれている亀の置物も、店員のみんなに大切にされていたっけ。
亀みたいに歩みは遅くても、一歩ずつ前に進んでいこう。そしていつかもっと広くて大きなお店にしよう、なんて意味が込められていたはず。
「どうだい? 慣れるまでは大変だろうけど、僕もできる限りサポートさせてもらうよ」
「あざす、卓也さん。困った事があったら頼らせて貰いますんで」
着付けを済ませて、用意されていたチラシを脇に抱えて外に出る。
思っていたよりは動きやすい。が、着ぐるみの大きさの関係で、中にいる俺は常に中腰でいなきゃいけない。地味に膝と腰に負担がかかる作業だ。
「カメリアインテリアでーす! 買取もやってますんで、良かったら見に来てくださーい!」
「違う違う、カメリアくんはそんな喋り方しないの。それじゃただの工藤くんよ」
「ええ……」
様子を見ていたちほさんに注意されてしまった。
彼女の中には、きちんとした
「いい? 一人称は『オイラ』で、語尾には『カメ』を付けるの。声ももっと中性的で、いざという時にはドスの効いた低い声で、睨みを利かせて――」
「わ、わかりました」
「『わかったカメ』!」
「わかったカメ!」
カメリアくん、お前はいったい何者なんだ。
そして、この店はどこを目指しているんだ。
甲高い声で返事をしながら、俺は疑問を抱かずにはいられなかった。
「そうそう。わかってると思うけど、決してカメリアくんの中身が工藤くんだって事は秘密よ? みんなの夢を壊さないようにね」
「わかった……カメ」
「うんうん。その調子で頑張ってね、カメリアくん!」
「オ、オイラ頑張る……カメ」
ちほさんは満足気に頷くと、店内に戻って行く。
開店時間になったのもあり、チラホラと店の前を通りかかる人も増えてきている。物珍しさも相まってか、親を連れた子供たちが俺の元に集まってくる始末。
とても一人で捌ける量ではない。
「卓也さ――って、いねえし! あ、カメ」
サポートしてくれるって言ったのに。
せっかく集まってくれた人たちを放って置くわけにもいかないし、この場は俺がなんとかするしかない。
「き、気合いでなんとかするカメ……!」
結局、ビラ配りを終えるまでに数時間かかってしまった。
その間も忙しく動き回っていたので、全身汗だくのヘトヘトだ。春でこれなら、夏場の着ぐるみはもっと地獄なんだろう。
ちほさんに報告しようと、カメリアインテリアに入ろうとした時だった。
「わぁっ! 見て見て、みくる、ジェット先輩!」
「ゲッ――!?」
遠目から俺――カメリアくんを指さしているのは、あんなだ。みくるとジェット先輩まで一緒にいる。
今日は確か、本格的に探偵としての活動を行う為に、キュアット探偵事務所の大掃除をするとか聞いていたが。
「はなまる可愛い〜! お名前はなんて言うの?」
「カメリアくんだカメ。よろしくカメ」
「よろしくね、カメリアくん!」
俺は平静を装って、カメリアくんとしての振る舞いを心がける。
その様子を、みくるが不思議そうに見つめていた。
「カメリア……? ああ、このお店のマスコットなんだ。でも、何でリュックを背負ってるんだろう」
「カメリアくん、だカメ。子亀の嬢ちゃん、間違えたらあかんカメよ」
「え、あ、はい。ごめんなさい、カメリアくん……こ、子亀……?」
困惑しながらも、みくるはあんなとジェット先輩を連れて店内に入る。俺もその後に続く。
三人の会話を聞いてみるに、探偵事務所に飾るインテリアを探しに来たと言ったところか。
亀の置物が欲しい、とあんながジェット先輩に催促していたが、ちほさんに売り物ではないと断られていた。
彼女は卓也さんに置物を元の場所に戻すように頼むと、俺が戻ってきた事にも気づいたようで。
「カメリアくん、疲れたでしょう? そろそろ休憩に入っても大丈夫よ」
「お言葉に甘えさせてもらうカメ。卓也さん、手伝って欲しいカメ」
「え、手伝う……何をだい?」
亀の置物を持ったまま、卓也さんが首を傾げる。
着ぐるみを脱ぐのを手伝ってもらおうと考えたのだが、
「ハロー」
「あ、いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいカメ〜」
タイミング悪く、外国人の客が来てしまった。
こればっかりは仕方がない。卓也さんには客の対応を優先してもらって、俺はこのまま裏で休ませてもらおう。
そう思って、バックヤードに向かう。疲労が溜まっているせいか、先程よりも体が重いような気がする。
「しっかし、三日連続でみくるたちに出くわすとはなァ……」
すぐそこに腰かけ、独りごちる。
結婚式場、パティスリーチュチュに続いて三回目だ。ここまで縁があると、作為的なモノすら感じてしまう。今日は何事も無ければいいのだが。
そんな懸念を抱いた矢先、表から騒がしいざわめきが聞こえてきた。
「どうしたカメ!? 何があったカメ!?」
「あ、カメリアくん……! 無いの! 亀の置物が!」
慌てて現場に駆けつけると、既にあんなとみくるが捜査を始めているのか、店内にいる人間に話を聞いているのがわかった。
置物が失くなる直前、店内にいたのは五人。前田ちほ、仲手川卓也、買い物客の賀来さえこ、観光客のトム・ミラー。そして、カメリアくん――つまり俺だ。
ドアベルは鳴っていないし、家具の搬入口から人が出入りした様子もない。加えて、誰も置物を持っている様子ではない。
みくるはハッと、何かを思いついた様子で。
「結婚式のティアラの時と同じかも!」
「そっか! どこかに隠してる、とか?」
あんなも膝を打ち、置物が隠せそうな場所がないかを探すべく、店内をぐるっと見回す。
「ねえ、みくる。あの置物ってガラスで出来てたよね?」
「うん。隠すなら割れる心配がない場所……」
「……あっ!」
二人の視線が、俺が背負っているリュックに集まった。
もしかしなくても、この流れはまずい。
「「見えた! これが答えだ!」」
頼むから見ないでくれ、そんなもん。
こちらが反論する間もなく、ジェット先輩がリュックのファスナーを開ける。
「あったぞ」
「カメッ――!?」
どうりで背中が重いと思ったわけだ。
俺のリュックの中に、いつの間にかガラスの置物が放り込まれていたとは。
「「カメリアくん。亀の置物を盗んだ犯人――怪盗団ファントムは、あなたですっ!」」
「カ、カメェ……!?」
今までの冤罪とは違って、今回は決定的な物証がある。
しかし、俺も黙って濡れ衣を着せられるわけにはいかない。
「フッフッフ……面白い推理だカメ、探偵さん。でも、オイラには決して置物を盗む事は出来ないんだカメ。その証拠に――」
俺は背後のリュックに手を伸ばそうとするが、可動域と着ぐるみの構造上、ファスナーを開けることが出来ない。
リュックそのものを脱ごうとしても、誰かしらの助力が無ければ不可能。どう足掻いても、カメリアくんは犯行に及べない。これで俺の疑いは晴れるはずだ。
「見ての通りカメ。オイラの手じゃリュックに手が届かないカメ。開けることも、置物をしまう事すら不可能カメよ」
「それなら簡単です。犯人はカメリアくんだけじゃない。もう一人いるんです。リュックの中に置物を隠した、共犯者が!」
「……共犯者、カメ?」
なるほど、そう来たか。
みくるの推理は理にかなっている。
「だとしても、休憩中に逃げようと思えば、オイラはいつでも逃げられたカメ。その点についてはどう思うカメ?」
「あなたは逃げなかったんじゃない。逃げられなかったんだ」
みくると入れ替わるように、あんなのターンが始まった。
「その着ぐるみは一人じゃ脱げないんだよね? あなたは休憩に入る直前、卓也さんに声をかけてた。トムさんがお店に来ちゃったから、仕方なくそのままバックヤードに向かったの」
「……っ!」
弁解の余地がない。
筋が通っている。これでもかと言わんばかりに通ってしまっている。否定すればするほど、俺の怪しさが浮き彫りになっていく。
普段なら味方をしてくれていたかもしれない彼女だが、俺がカメリアくんであるばかりに遠慮がない。おのれカメリアくんめ。
……いや、待てよ。
みくるとあんなが言う共犯者とは、つまりは真犯人のことだ。
俺のリュックに置物を入れるチャンスがあった人間は、一人しかいない。
おもむろに挙手をして、その人物の名を明言する。
「ハイハイハイハイ! 卓也さんが怪しいと思いまーす、カメ!」
「なっ……!? な、なんてこと言うんだ、カメリアくん! 僕が共犯者だって!? 言いがかりにも程があるよ!」
「思い返せば妙だったカメ。オイラの『手伝って欲しい』って言葉にピンと来てなかったし」
「あ、あれは……その……!」
この反応はビンゴだ。
俺はすかさず、甲高い声で詰問を突きつける。
「お前が本物の卓也さんなら、オイラの中身が誰だか知っているはずカメ。今すぐフルネームで答えろカメ」
「うぐぐ……!」
「おやおや、言えないカメか? おかしいカメねぇ。本物の卓也さんなら、迷わず答えられるはずカメよ〜?」
俺はずっと店先にいたので、いつ本物の卓也さんと入れ替わったか、そこまではわからない。
少なくとも、今朝に着替えを手伝ってくれた彼とこいつは別人だ。
「ん、このふてぶてしい態度、調子の乗り方……どこか誰かに似てるような……」
「どうしたの、ジェット先輩?」
「……いや、何でもない。ボクの思い過ごしだろう」
あんなとジェット先輩のやり取りを横目に、俺は続ける。
「どっちにしろ、オイラが声をかけたのはお前しかいないカメ。仲良く二人でお縄に着くしかないカメ。ネタは上がってるカメ。観念しろカメ」
「ああ――っ! もう、カメカメうるさいしっ! マジ、チョベリバ!」
コギャルみたいな口調で憤慨を露わにすると、卓也さん――に扮していた怪盗団ファントムが、メイクブラシを取り出して変装を落としていく。
てっきり、ニジーがこれまでの反省を活かして男に変装しているのだろう。そう思っていたものだから、呆気に取られてしまった。
「――アタシは、怪盗団ファントムのアゲセーヌ!」
「え、可愛い。激マブ。普通にタイプカメ」
「亀に褒められても嬉しくないし。偶然とはいえ、あんたに疑いが向いた時は、上手くいったと思ったのに。ちょームカつく!」
不機嫌に距離を詰めてきたと思えば、アゲセーヌはリュックをひったくって逃げて行った。
怒涛の展開に言葉を失っていたのは、みくるとあんな、ジェット先輩の三人も同様だ。
「……って事は」
「カメリアくんは……」
「「犯人じゃない!?」」
「そうカメ」
アゲセーヌが自白してくれて助かった。あのまま俺を共犯者だという事にしておけば、もう少し時間を稼げたかもしれないのに。
どうしてだろう。何故か彼女にはシンパシーのようなものを感じる。
それはそれとして、亀の置物が入ったリュックを取り返さなくては。
「みくる、あんな、ジェット先輩! 急いで後を追いかけるカメよ!」
「えっ、どうしてわたしたちの名前を……」
「……いいから行くぞカメ。あのリュックは、オイラの命と甲羅の次に大事なリュックなんだカメ。取り返さないと許さないカメ」
「ぴっ――!? は、はいぃっ!」
ドスの効いた声で凄むと、みくるが聞いた事のない鳴き声を上げて、涙目で頷いた。
もちろん、カメリアくんにそんな設定は無い。というか知らない。
店を飛び出す俺たちを、ちほさんが力強く頷きながら見守っていた。どうやらお眼鏡にかなったようだ。
彼女の
「アゲセーヌとシンパシー感じるなァ〜」
オツムが残念で、死語をよく使うからじゃないですかね。
何故わざわざ新二くんに着ぐるみを着せたのかは、次回わかります。
稚拙ながら、オリ主の設定画っぽいのを書いてみました。
※3枚目はオマケです。
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【挿絵表示】
【挿絵表示】
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スタプリとヒープリは内容が酷すぎて断念。いつかリメイクしたい気もする。
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