名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜 作:秋葉ばっこ
執筆してる間、ハメドリくんが脳内に出てきてノイズ過ぎた。
実際、セリフを書いてる途中に『カメ』を2回『ハメ』と書き間違えて最悪でした。まる。
◇
「「あっ、いた!?」」
「……面倒だけど、ウソノワール様の為なら相手してやるっしょ!」
意外な事に、アゲセーヌにはすぐに追いついた。
直前まで誰かと会話していたようにも見えたが、奴以外の人影は見当たらない。
舌打ちをした後、アゲセーヌはどこからかハイビスカスを一本取り出し、リュックに入っている亀の置物へと吹きかける。
「――ウソよ覆え! チョベリグにしちゃって〜、ハンニンダ〜ッ!」
「ハンニンダーッ!」
ここまでは予想通り。
しかし、ハンニンダーの出現と共に、周囲の空気が淀んでいく。空も靄がかかったようの不鮮明になり、あっという間に人の気配が一切ない空間が出来上がった。
俺たちが狼狽えていると、アゲセーヌが得意げに鼻を鳴らす。
「フフン。ファントムの新技術。あんたたち以外いない密室の出来上がり! これで事件は迷宮入りっしょ〜!」
「「……っ!」」
みくるとあんなが顔を見合せて頷く。
プリキュアへと変身するのだろう。
「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵、キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵、キュアミスティック!」
「「名探偵プリキュア!」」
「私の答え、見せてあげる!」
彼女たちが変身を終えてすぐ、ハンニンダーが動いた。
剛腕を鞭のようにしなり、こちらに襲いかからんと迫るが、二人は跳躍して攻撃を回避する。
「はああ――っ!」
その勢いのまま、アンサーが回し蹴りを。バランスを崩したハンニンダーを、ミスティックが踏みつける。
巨体が後ろへと
「……例のおとも妖精はいないっぽい。まあ、いっか。プリキュアだけでも倒して、ウソノワール様に褒めてもらうし! ハンニンダー、やっちゃって!」
「ハンニンダーッ!」
再び、ハンニンダーの腕が猛威を振るう。
今度は片手ではなく、両腕で。
縦横無尽に跳ね回る獲物が、アンサーとミスティックを牽制する。
「ハンニン……ダダダダダッ!!」
彼女たちも負けじと上空から反撃を試みるが、ハンニンダーの発光した顔から、光の礫が無数に放たれた。
二人は腕を交差し防御の体制を取るが、無防備になった所を敵が見逃すはずもない。
「「きゃっ――!?」」
ハンニンダーから伸びた
「危ないッ――!」
咄嗟に体が動いていた。
着ぐるみを着たまま、どこにそんな跳躍力があるのかと自分でも疑問に思ったが、火事場の馬鹿力というやつだろう。
我を忘れて、語尾のカメをも忘れて、俺はアンサーとミスティックを宙で突き飛ばす。
「「カメリアくん!?」」
驚く二人の姿がひっくり返る。
違う、逆さになったのは俺の視界だ。足をそれぞれの蔓に拘束され、逆さ吊りにされてしまったのだ。
「はぁ……!? チョベリバ通り越してホワイトキック! せっかくいい所だったのに、邪魔しないで欲しいんだけど!」
「……ホ、ホワイトキック?」
「シラケるって意味だ。チョベリバと同じで、ちょっと前に流行った言い方だな」
着地し、首を傾げるアンサーに、ポチタンを抱いて隠れていたジェット先輩が答える。
それにしても、ちょっと前か。俺からしてみれば、まだまだ現役の言葉なんだけどな。宙ぶらりんの状態でそんな事を考えていると。
「アゲ的には今もブームだしっ! ハンニンダー、まずあのカメリアくんとかいう奴の身ぐるみ剥いじゃって!」
「カ、カメッ……!?」
ハンニンダーの矛先が
拘束されている両足を左右それぞれの方向へと引っ張られ、大股開きにされる。絵面も現状も、何もかもが噛み合って最悪だ。
「いだだだ……!? 裂ける裂けるッ! 裂けちゃうカメッ! オイラのデリケートゾーンが! ボディそのものが――ッ!!」
ミシミシ、と骨の軋む音が聞こえる。
可動域の限界を越えて、脚があらぬ方向へと向き始める。
筋繊維が千切れそうになっているのか、身体中のあちこちからブチブチと嫌な音が鳴っていて、冷や汗が止まらない。
「――あ、がッ、――、うぐ――ッ」
このままでは身ぐるみどころか、生皮ごと剥がされてしまう。
あまりの痛みに悶絶していると――。
「アンサーアタックッ!!」
救いの手――いや、拳が舞い込んできた。
紫色のエネルギーを纏った殴打が、ハンニンダーを殴り飛ばす。
「ハンニッ……!?」
「おわっ……!?」
流星が炸裂したかのような衝撃。
その熱烈な一撃を受け、後方へとハンニンダーが仰け反る。同時に蔓の拘束が緩み、開放された俺は空中へと放り出されてしまう。
落下していく俺を、アンサーが抱きとめる。いわゆるお姫様抱っこの形で。
「大丈夫? カメリアくん」
「キュンです」
「キュ、キュン? とにかく、大丈夫そうで良かった!」
彼女はふわりと着地すると、俺を優しく地面に下ろしてくれた。
地に足を付けたという安心感。それと同時に、拭いようのない違和感に駆られる。
「――あ、大丈夫じゃないカメ」
「えっ、どこか痛みますか!?」
ミスティックが慌てて飛んで来るが、もう遅い。
どうしようもないダメージを、俺は受けてしまったのだ。
「オイラの足が……ちぎれてるカメ……」
「あっ……」
拘束が緩んだのではなく、履いていたズボンごと持っていかれたのだろう。
露出した俺の生足を見て、ミスティックがなんとも言えない声を漏らす。
彼女は、しばし考え込んだかと思えば。
「……その、綺麗な足だと思いますよ」
「慰めになってないカメ! ……ああ、最悪カメ。絶対にちほさんに怒られるカメェ……!」
俺がその場に崩れ落ちると、ジェット先輩とポチタンが無言で背中をさすってくれる。
マコトジュエルに携わると、濡れ衣を着せられる上に衣服がボロボロになる。先日ふざけて提唱したジンクスが、真実になってしまったのだ。
インク塗れならまだしも、着ぐるみの損傷は洒落にならない。このクオリティなら、きっと修理費も高くつくはず。
「ううっ……! 酷いカメ、あんまりカメ……!」
俺は着ぐるみの中で、静かに涙を流した。
その様子を見て、アゲセーヌが腹を抱えて嗤う。
「ぷっ、あはははっ! ちょーウケるんですけど! マジ傑作〜!」
「何がおかしいの、アゲセーヌ!? ……ぷっ」
「お前も笑ってんじゃねえか! ……カメ!」
こいつ、今絶対に俺の足を見て笑いやがった。
まあ、逆の立場だったら俺もそうなると思うけど。
俺から指摘を受けたミスティックが、咳払いをして誤魔化す。
「あ、あなたには、モノに込められた思いが見えてない!」
「マコトジュエルだけじゃない。ちほさん、それにカメリアくんの大切なモノを、わたしたちが必ず取り返す!」
アンサーとミスティックがジュエルキュアウォッチを取り出し、長針を11まで持っていく。
「「これが、わたしたちの……アンサーだあああ――っ!!」」
二つの光が交わり、ひとつの閃光となってハンニンダーを浄化していく。
たちまちハンニンダーごと光の柱が聳え、遅れてやってきた衝撃が風を起こし、彼女たちの長い髪を揺らす。
亀の置物から生成されたマコトジュエルも、元の美しい輝きを取り戻した。
「「キュアット解決っ!」」
周囲を歪めていた空間が鳴りを潜め、一帯の風の流れが元に戻った。ハンニンダーが暴れ回った事で損壊した建物も、そして――カメリアくんの足も、綺麗さっぱり元通りに。
アゲセーヌが地団駄を踏み、ハイビスカスに息を吹きかける。
「ちょームカつくーっ!!」
膨れ上がった花弁が奴の姿を覆い隠すと、そのまま消えてしまった。ニジーとはまた違った、アゲセーヌなりの退散方法らしい。
マコトジュエルだけでなく、カメリアくんのリュックも無事に戻ってきた。ひとまず危機は去ったというわけだ。命の危機もそうだが、財布の危機も、だ。
「良かったカメェ〜……これでちほさんに怒られずに済むカメ」
「その言い草……やっぱりお前か、シンジ」
「ギクッ……!? な、何の事カメ? ジェット先輩が何を言っているのか、オイラにはさっぱりだカメよ〜」
「わかったわかった。二人には黙ってておいてやる」
彼の腕の中ではポチタンが「ポチポチ〜」と楽しげに鳴いているが、話を理解しているのだろうか。
俺たちの元に、遅れてアンサーとミスティックがやってくる。ハンニンダーを倒してマコトジュエルを手に入れたというのに、二人の表情はどこか曇っていた。
ミスティックが怖々とした様子で、
「あの、カメリアくん。わたしたちの正体の事だけど……」
「わかってるカメ。世の中には、謎のままにしておいた方がいい事もある……覚えておくといいカメよ、名探偵さん」
「カメリアくん……!」
「そう、オイラはただのカメリアくん。それ以上でもそれ以下でもないカメ。君たちと同じように、ね……カメ」
奇妙な友情すら感じる。お互いに正体を隠しているという、共通項があるからだろう。
しかし、俺の言葉に思うところがあったのか、アンサーだけは眉を顰めている。訝しむというよりかは、何かに気づきかけているようだった。
「あれっ? 今の言い方……」
対称的に、ミスティックは胸の前で両手を組み、感極まった様子で目を輝かせている。
「なんて懐が深い……! どこかの誰かさんにも見習って欲しいくらいです! ね、アンサー?」
「えっ!? う、うん、そうだね……あはは……」
「大体、シンジさんはいつもいつも――」
何故か、この場にいないはずの俺の愚痴が始まった。
ジェット先輩はニヤニヤとこちらを見ながら頷き、アンサーは困ったように笑う。ポチタンは相変わらずポチポチ鳴いている。
「――」
また凄んで泣かしてやろうかとも思ったが、楽しげにはしゃいでいる彼女たちを見ていたら、怒る気力も失せてしまった。
明日はバイトもないし、朝イチで探偵事務所に出向いて、みくるを一日中からかってやろう。
リュックを小脇に抱えながら、俺は「カメカメ」と怪しげに笑った。
◆
ハンニンダーとプリキュアの戦いを、すぐ近くの建物の屋上から見下ろす少女がいた。
るるかとマシュタン。彼女たちはウソノワールから授かった『プリキュアを倒し、マコトジュエルを手に入れろ』という言伝をアゲセーヌに伝えた後、傍観に徹していたのだ。
名探偵プリキュアの存在が気になったのもそうだが、何よりもニジーの報告にあった『おとも妖精』の動向を探るため。
るるかの腕の中にいるマシュタンが、
「人間の姿をした『おとも妖精』。いよいよ現れなかったわね」
「……」
「それとも、さっきの着ぐるみの中身がそうだったのかしら。こっちの監視に気づいて正体を隠していたとしたら、相手も抜け目ないわね。まぁ、るるか程じゃないけど」
「……」
マシュタンの言葉に、るるかは答えない。
彼女はじっと一点を見下ろしたまま、アイスを口に運んでいる。
最後の一口を咀嚼し、飲み込んだ後。どこか恍惚とした表情と声音で、るるかがポツリと。
「……カメリアくん、可愛い」
「るるか……あなたって子は……」
敵情視察に耽っているかと思いきや、どうやらカメリアくんに心奪われていたらしい。
怪盗団ファントムに入っても、るるかがマイペースなのは変わらないようだ。プリキュアへの興味のなさは、彼女が持つ余裕の裏返しという事だろう。
マシュタンは納得して、それ以上の追求をしなかった。
「安心して。マシュタンも可愛い」
「そういう問題じゃ……はぁ、もういいわ。アタシたちもアジトに帰還しましょう」
「うん。……またね、カメリアくん」
るるかは小さく呟くと、マシュタンを撫でながらその場を後にするのだった。
新二とるるか――二人が対立した立場で相見える日は、そう遠くない未来に訪れることだろう。
不穏な未来を示唆するように、まことみらい市に生温い風が吹き渡る。
終わりという瞬間を吹き抜けるまで。
どこまでも、どこまでも――。
◇
夕焼けに背中を押され、重たい手足を引きずってキュアット探偵事務所へと向かう。
亀の置物をカメリアインテリアに届けた後も、当然ながらバイトは続いた。数時間の労働の末、俺はようやくカメリアくんというガワから開放されたのだ。
身体には怪我ひとつないが、酷使による酷使で中身はボロボロである。
「疲れたァ〜……」
応接間のソファに倒れ込む。
カメリアインテリアで買ったクッションや、他にも様々な小物やカーテンやらで部屋中を装飾したらしいが、今の俺には眼中に無い。
「あ、シンジさん。バイト終わったの? お疲れ様!」
「よう、あんな。今日は特にハードだったぜ……」
寝そべったまま、手をひらひらと振る。
ジェット先輩とみくるは各々の部屋にいるらしい。
「着ぐるみ着て動くのって大変そうだもんね」
「そうなんだよ……って、ンンッ!? どうしてそれを!?」
「やっぱり、シンジさんだったんだ」
驚いている俺を見て、あんながくすくすと笑った。
のっそりと体を起こし、誰にも聞かれないように小声で話す。
「……いつ気づいた?」
「う〜ん、なんとなく? 台詞の言い回しとか、雰囲気とか。なにより、わたしたちを助けてくれたから。この人がシンジさんだったら良いなあって、そう思ったの」
「そっかぁ。……なんだよ〜、バレてたんなら言ってくれよ〜」
まだ会って日が浅いあんなとジェット先輩にはバレバレだったのに、そこそこ付き合いの長いみくるには気づかれなかったのは正直ショックではある。
あんなが直感で答えを導くタイプなら、あいつはロジックを組み立てた上で答えを手繰り寄せるタイプだ。
そう考えたら、仕方ないとも言える。アゲセーヌの出現で、それどころじゃなかったのもあるしな。
「あ、そうだ! 聞いて聞いて。さっきみくるとも話してたんだけど――」
「な、何だって……!?」
「まだ何も言ってないよ!」
「悪い悪い。続けて」
あんなが用意してくれた茶を飲みながら、彼女の話に耳を傾ける。
爆弾を放り投げられたのは、間もなくだった。
「シンジさんも、わたしたちと一緒に事務所で暮らさない?」
「ぶっ――!?」
思わず、吹き出しそうになるのを堪える。
そのせいでお茶が気管に入ってしまい、たまらず咳き込んでしまう。
「ゴホッ、ゴホッ……! きゅ、急に何を言い出すんだ、お前は……!」
「だって、シンジさんはわたしたちの『おとも妖精』なんだよね? 一緒にいた方が都合がいいって、ジェット先輩も言ってたよ。部屋もまだ空いてるし」
「いや、そういう問題じゃなくてだな……! 年頃の男女が、同じ屋根の下で暮らすのは色々と問題があるだろう……!?」
「そうかなぁ。シェアハウスみたいで楽しそうだと思ったんだけど」
恥ずかしげもなく、あっけらかんとした態度であんなは言った。
シェアハウスという単語に聞き馴染みがないが、字面からして彼女のいた時代では、知人同士が同じ家で暮らすのは、そこまで珍しくないという事か。
というか、重要なのはそこじゃなくて。
「あのな、仮にも嫁入り前の娘だろう。あんなは嫌じゃないのか? 俺たち、ただでさえ知り合ったばかりなのに」
「ううん、わたしは嫌じゃないよ。シンジさんなら大歓迎! 毎日がはなまる楽しそうだもん!」
「あ、あんなが良くてもみくるは――!」
「言い出しっぺはみくるだよ?」
あいつが提案したのか。
事務所のメンバーで一番嫌がりそうだと思ったんだが、わからないものだ。
俺は観念して、残りのお茶を飲み干し、テーブルの上に湯呑みを置く。
「……はぁ、わかったわかった。みんな納得してるなら、こっちから断る理由は特に無いしな。明日にでも親父とお袋に相談してみるよ」
「ほんと!? やったぁ!」
「……」
気の所為なんかじゃない。
俺が首を縦に振るまで、あんなの手が震えていた。
恐らく本人も気づいていないんだろうが、今の彼女はやけに人との繋がりに飢えているように見える。それもあって頭ごなしに否定できない。
「――」
俺やみくる、ジェット先輩と一緒に過ごす事で、多少なり寂しさを紛らわせられれば良いのだが。
楽しげに笑うあんなの横顔を見て、俺は膝の上に置いた掌を握りしめる。
――お前は独りじゃないからな。
その言葉はあんなに向けたものだったか、それとも自分に言い聞かせる為のものだったか。言いようのない不安に苛まれ、喉まで出かかった激励を飲み込んでしまう。
たったそれだけの一言を、どうしても紡ぐ事ができなかった。
はい。新二くんに着ぐるみを着せたのは、るるかにバレさせたくないからでした。
ちょっと無理矢理すぎる気もしますが、まだお互いの事情を知るには早すぎるかなって……。
誤字脱字・質問等あったら、気軽に感想やメッセージを飛ばしてくれると嬉しいです。
一週間以内に更新できるように頑張ります。
次回もはなまるっ!
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