ようこそ維盛さんのいる教室へ 作:維盛さん
誤字報告本当に助かってます。ありがとうございます。
そしてこれ以降本編では三年生編の内容も含まれるので、ネタバレを好まない方はブラウザバックを推奨します。
一話
眠い目を擦りながら、通学のバスに揺られる。結局一之瀬さんと、飛鳥馬と同じクラスになれるか、それが気になり過ぎて眠れなかった。飛鳥馬もその点は同じだったようで、昨日は電源のついていない炬燵の中で落ち着かない夜を過ごした。深夜テンションもあってか、飛鳥馬に結構恥ずかしいことを言ったが、彼女がそれを茶化してくることはなかった。
ちなみにバスには俺、飛鳥馬、一之瀬さん、雪の四人が乗っている。雪は普段生活の拠点が違うが、今日は朝から一緒に行きたいと俺からお願いして来てもらった。飛鳥馬や一之瀬さんも問題なく受け入れてくれたし、とりあえず四人で周囲の迷惑にならない程度の声量で話をしている。
俺は緊張しすぎて半分以上話が入ってこなかったが、なんとか平静を装っている。雪から見ればかなり滑稽な状態だろうが、一之瀬さんはその点怪しんではいないと思う。いや、そう思いたい。
気付けばバスは高育前に到着し、俺は重い足取りでバスを降りる。しかし飛鳥馬よ、なんでお前はそこまで割り切ってんだ。昨日一緒に緊張して眠れなかったはずなのに…。
学校の敷地内に入ると、担当者からボードに貼り出されている配属クラスに向かうようにとを指示される。どうやら五十音順に張り出されているようで、Aクラスの一番目の名前に飛鳥馬が並んでいる。隣に目をやると、俺に向け真顔のダブルピースを披露する飛鳥馬がいる。
そして間も無く一之瀬さん、俺、雪の名前がAクラスに示されていた。四人ともAクラス…。緊張が切れて脱力仕掛けた俺は、飛鳥馬の膝かっくんで呆気なく倒れた。周囲の生徒が驚く中、飛鳥馬は俺の顔を覗き込んでくる。
「一歩目、上手くいきましたね」
そう宣いながら手を差し出す飛鳥馬。心なしか笑っている気がするが、間も無く俺達の視線は一之瀬さんに注がれることになる。自分で精一杯で見えていなかったが、彼女の方も相当緊張していたらしい。俺達から少し遅れてクラス表を見た彼女は、跳ねるように駆け出し俺達を抱き締めた。
満面の笑みを浮かべる一之瀬さん。しかし目立つことこの上ない。周囲の視線はがっつり俺達に固定され、様々な感情が入り混じった好奇の視線を感じる。未来の友人に無限にイジられること間違いなしの瞬間である。
しかし周囲の視線で冷静になると、四人が同じ学校出身で同じクラスになることなんてあるだろうか。お爺様が裏工作で何を使ったのか皆目検討がつかない。素直に喜んでいたのに、大きな借りを作ってしまった気がして寒気がする。何も頼んでいないし、何か言われても踏み倒そう。うん、俺は借りなんて知らない。
とりあえず同級生やクラスメイトの名前を一通り記憶していく。中には見覚えのある名前もいくつかあるが、その点に関しては後日確認するとしよう。
※
その後も入学式は恙無く進み、俺たちは自分たちのクラスへ向かう。教室の入り口には席順の張り紙がしてあり、確認すると残念ながら周囲に三人の名前はなかった。
お互いに分かれて席に座ると、前方で女子三人組が喜びを分かち合っていた。雪はすっかり一之瀬さんと友人になっているし、飛鳥馬とも徐々に距離を詰めている。しかし周囲がはじめましてだらけで足踏みする中、あそこまで話が盛り上がるのは目立つ。
俺の隣人になった少女も目についたようで、三人を眺める俺に話しかけてくれた。
「朝、彼女達と一緒にいましたよね」
最初は俺に話しかけられたとは思わず、声のする方に振り向くのに数秒かかってしまった。声の主は、左目の下にあるほくろが印象的な少女だった。とんでもない美少女である。彼女の質問に答え、そのままの流れで会話を続ける。不思議な雰囲気の少女で、その空気にちょっとあてられて心拍数が上がる。彼女も喋る度にわずかに反応しているので、初対面で緊張しているのかもしれない。そう思うと、こちらは少し冷静になってくる。
だが彼女の名前を聞き、俺は頭が沸騰することになった。
「白石飛鳥です、自己紹介が遅れてすみません」
丁寧に名乗られ、俺も自己紹介をしようとした時だった。白石、飛鳥…?飛鳥だと!?
そこで俺の脳内を駆け巡る、無人島ブートキャンプでの飛鳥=サンの記憶。俺を精神崩壊から幾度も救った名前。体が当時の地獄と狂気*1を鮮明によみがえらせる。呼吸が乱れ、上手く言葉を紡げない。
そんな俺の異変を察知した彼女は、心配したのか席を立ってこちらの様子を探る。
「大丈夫ですか?かなり苦しそうですよ」
正直、声を聞くだけで気が狂いそうになる。存在しないはずの飛鳥=サンが俺の中で受肉していく。徐々に無人島で見たプロフィールが彼女と合致していき、遂に飛鳥=サンの実体が俺に触れた。汗が滲む額に冷たい手が当てられ、脳がパンクした俺はそのまま意識を手放した。
最後に俺の眼が捉えたのは、霞む視界の中で輝く白石さんの顔だった。
※
次に目が覚めた時、俺はベッドで寝かされていた。何故かわからないが、心が無性に求めた言葉があった。
「知らない天井だ…」
「起き抜けで何を言っているんですか」
声のした方を見ると、そこには飛鳥馬がいた。ジト目で。うちの従者まじ可愛いね。
「ふふっ、伊吹くんは不思議な人なんですね」
だが次に聞こえた声で、思わず飛び起きる。そこには飛鳥=サンと勝手に脳内で同化させられた白石飛鳥さんがいた。可愛らしく微笑む彼女に、自分の頬が上気するのを感じる。まずいぞ、非常に恥ずかしい。
白石さんに関して脳内で一人騒いだことに対し、俺は強い自己嫌悪を感じる。普通に考えたら精神病院案件である。だが何故か、今も彼女を強く意識してしまう。頭が混乱しているのも大きいだろうが、彼女と同じ空間にいるだけでどんどん感情が強まるのを感じる。
とにかく今は感情を無理やり押し込めるため、無人島の記憶を封印する。ようやく自分の不調の原因を封印し、俺は不思議そうに首を傾げる白石さんに向き直った。
「遅れてしまったけど、俺は伊吹維盛。よろしくね、白石さん」
教室で出来なかった自己紹介。それを果たした直後、立ち上がった白石さんに握手を求められた。何故か心拍数が上昇したが、それを悟られないように応じて握手をした。めっちゃいい匂いするし、手も柔らかい…。もはや女神やん。
「はい、お隣同士よろしくお願いします」
何故か彼女と触れ合うと、俺は感慨に浸るらしい。この不思議な感覚の原因はわからないが、自分の封印した記憶に関係していると思われる。今すぐ封印を解いて詳細を確かめたいが、直感が全力で静止して来たので素直に応じる。余計なことはしない方がいいらしい。
その後一之瀬さんや雪も保健室を訪れ、ホームルームの内容の説明など色んなことを教えてもらった。一〇万prなどについては把握していなかったので、起きたてで驚くことが連発した。ちなみに二時間くらい寝ていたらしい。
とりあえず携帯端末の設定などを保健室の先生である星之宮先生の助けを借りて行い、同級生に対する遅れを取り戻す。俺の担任は立て込んでいて中々現れなかったが、設定が終わった頃に訪問して自己紹介をしてくれた。
幸先の悪い学校生活になったが、なんとか耐えていると思う。とにかく明日からの生活が楽しみだなぁ。
※
教室に戻ると、既に多くの同級生は教室を後にしていた。残念ながらクラスメイト同士の自己紹介の機会を逃したらしい。
残っていた数人のうち、何人かが俺に視線を向けた。その中のひとりが、こっちに向かって歩みを進める。
「急に倒れてしまいましたけど、大丈夫でしたか?」
俺を心配したのは、メガネをかけた青年だった。名前は残念ながら把握できていない。だがその目には心配の色が浮かんでいるので、本心で俺の心配してくれているのが窺える。
「ありがとう、今は何ともないから大丈夫だよ。あの後、教室の雰囲気は大丈夫だったかな?」
「皆さん心配していましたが、特に悪い空気にはなっていませんでしたよ。」
「そっか。ありがとう。俺は伊吹維盛、よろしく」
どうやら俺が気を失ったあと、教室の空気が地獄になることは避けられたらしい。さっきの保健室での様子も鑑みると、もしかしたら一之瀬さん達が盛り上げてくれたのかもしれない。
「僕は真田康生です。こちらこそ、よろしくお願いします」
敬語で丁寧に接してくれる好青年、それが真田康生の第一印象だ。その後教室に一之瀬さんと飛鳥馬、そして白石さんが来て、一緒に帰らないかと提案してくれた。
ありがたい提案だったので、そのまま真田も誘って帰ることに。道中で学内の施設を軽く見ながら帰り、新生活について、また一〇万という破格のポイントについてまで、道中は様々な話題が飛び交った。
話の中心には基本一之瀬さんがいるのだが、改めて彼女の並外れたコミュニケーション能力には脱帽するしかない。俺も初対面の相手と話すことに苦はないが、それにしたって場のペースを完全に掌握した一之瀬さんの匠の技は別格であると感じた。
既に出来上がった中学とは違い、新たな環境でも遺憾なく強みを発揮する一之瀬さん。学校の仕組みを理解した上で見ると、彼女のような生徒の重要性は更に高まるんだろうなと予想出来る。
ただ、それを抜きにしても、あそこまでスムーズに会話を進められるのは結構羨ましい…。流れでみんなで連絡先を交換する提案もしてくれるし、棚ぼたに近い形で白石さんの連絡先をゲットしてしまった。やはり大天使ホナミエルは大悪魔に負けていなかったな。
ご機嫌な俺は明日祝勝会を開くため、唐揚げの準備をしに買い物に出掛けた。ちなみに行きも帰りもスキップで移動した。
※
入学式の翌日。早めに自室を出た俺は、校舎の開門と同時に中に入る。意外なことに、開門を待つ生徒の中に白石さんの姿があった。
「おはよう、白石さん」
「おはようございます、伊吹くん」
「早いんだね。正直初日から人がいるとは思ってなくて、ちょっと驚いてる」
「楽しみで中々寝れなくて。そのまま来てしまいました」
微笑みながら雑談に付き合ってくれる白石さん。自意識過剰ではなければ、彼女は俺との会話に抵抗を持っていないと思う。てかそう思いたい。なので一旦会話を止めず、色んな話題を振りながら教室へと向かう。
「伊吹くんはこんなに早く来て、何か校舎内でしたいことでもあったんですか?」
「昨日はゆっくり見て回る時間なんて無かったし、施設の確認も含めて校舎を散策しようかなって。」
祖父からは手厚い監視が行われていると言われている。ただ監視カメラのない場所では、違反行為に該当する暴力行為も証拠不十分で見逃されるケースも考えられる。一之瀬さんのような生徒が狙われて乱暴される可能性もあるし、事前に監視カメラの位置を確認して用心するべき場所の確認したい。
真意を隠して説明すると、少し白石さんが考え込んでいる。
「お邪魔でなければ、私もご一緒していいですか?」
熟考の末、白石さんが嬉しい提案をしてくれる。
「お邪魔なんてとんでもない。むしろ一緒に見て回れるなら嬉しいよ」
そのまま教室に鞄を置き、二人で一年Aクラスの周辺から散策を開始する。途中で白石さんが携帯のアプリを起動し、学校内の敷地が細かく明示されているのを教えてくれた。二人でアプリを確認し、向かう方向を決めていく。
移動中も会話が途切れる事はなかった。最初は内心少し緊張していたが、会話を重ねるごとにそれも薄れ始める。
「伊吹くんは、なんでこの学校に進学しようと思ったんですか?」
「んー、中学の同級生と同じ学校に行きたいなって話し合って決めたかな。あと学費が無料だし」
「その同級生さんは入学出来たんですか?」
「うん。同級生ってのは、一之瀬さんと飛鳥馬、それと義妹の雪のことなんだ」
三人の名前を出すと、白石さんは得心がいったように肯いた。可愛い。昨日は説明しそびれた三人との関係性について改めて話した。昨日はその点を説明する前に倒れてしまったし。
「だから昨日はあんなに打ち解けていたんですね」
「そうだね。昨日は中々言い出すタイミングがなくてさ」
特に気にした様子もなく、それ以降も会話が重ねながら校舎を見て回る。だがさすがに一時間も二人で歩いていると、周囲には登校してきた同級生で溢れ始める。あと数十分でホームルームも始まるし、今日は切り上げてそのまま教室に戻る。
「一時間も付き合わせちゃってごめんね、白石さん」
「いいえ、楽しかったので大丈夫です。伊吹くんさえよければ、放課後も一緒に学校の敷地内を見学しませんか?」
はじめは気を遣われているなと思っていたら、予想外の提案を白石さんから受けて動揺してしまった。とにかく、努めて平静を装う。
「いいね。ショッピングモールも含めて色々あるし、そっちを回ってみる?」
「はい。生活必需品も買いたいんですけど、大丈夫でしょうか?」
「荷物持ちでも何でもやるよ」
今すぐスキップでもしたいが、とりあえず心を落ち着かせる。こんな場面を飛鳥馬にでも見られると失笑ものである。そんなに動揺しているんですか?とか言って小馬鹿にされる画が見える。
教室に入ると、九割ほどのクラスメイトが既に到着していた。その中には昨日一緒に帰った真田や、一之瀬さん、飛鳥馬、雪の姿なんかもある。一之瀬さんは俺達を見つけると、そのまま駆け寄って元気よく挨拶してくれる。中学では一緒に通学していたので、こんな風に教室で挨拶を受けるのは新鮮だ。
そのままお互いの席につくと、何人かの同級生が昨日の件を心配して声をかけてくれた。お礼を言いながら自己紹介を繰り返し、この一〇分強の短時間で五人のクラスメイトの名前を聞けた。ちなみに全員男子である。
朝のホームルームが終わると、小休止を挟んで一限目が始まる。授業態度は全員が真面目で、静かに授業を受けている。クラスポイントの量でクラスの序列が決まるが、このまま行けば大きな傷を負う事なく五月を迎えられそうだ。
同級生の真面目さに感謝しながら、俺の思考は放課後のことで埋まっている。せっかくだし一之瀬さんや飛鳥馬、雪も誘っていくか。
一話毎の文字数ってどのくらいが読みやすいですか
-
1000〜2500
-
2500〜4000
-
4000〜5500
-
5500〜7000
-
7000〜8500
-
8500〜10000
-
10000〜