ようこそ維盛さんのいる教室へ   作:維盛さん

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二話

 

 

 

のんびりと放課後を楽しみに授業を受けていると、三限目の後の休憩時間に一之瀬さんから一枚の紙を渡された。そこには昼休みに指定の場所に来て欲しい旨の内容が記されていたが、筆跡が絶妙に一之瀬さんっぽくない。似せているが、そこまで完璧に模倣しているわけではない。

 

その後四限目が終わり昼休みになった。適当にコンビニで昼食を買ってから向かうが、目的の人物はまだ到着していないらしい。そのまま買ってきた菓子パンをつまんでいると、ゆっくりと杖をつきながらこちらに向かってくる足音を感知する。恐らく、俺を呼び出した人物だろう。

 

「お久しぶりですね、伊吹くん」

 

そこに立っていたのは、パーティー以来会うことがなかった坂柳さんだった。相変わらず蠱惑的で自信が溢れた笑みを浮かべている。

 

「まさか二日目になっても、クラスメイトになった私に気付かないとは思いませんでした。」

 

少し不満げにこちらをジト目で見る坂柳さん。相変わらず可愛いね。もしかすると、俺は女の子のジト目が好きなのかもしれない。ただ弁明させてもらうと、彼女の存在には一日目から気付いていた。普通に挨拶しようとしたら、その前に白石さんで気絶したためタイミングが見つからなかっただけである。でも正直に伝えるわけにもいかないので、気絶してタイミングを逸してしまったとお詫びしておく。

 

「…まぁ、別にいいでしょう。それで、勝負に関して気は変わりましたか?」

 

「何も変わってないよ。俺は誰かとの前座に消費される気はない」

 

以前と変わらない返事をすると、目を細めた坂柳さんはため息をついて首を振った。

 

「別に前座だなんて思っていません。確かに私には、あなたと同じように戦い相手は他にもいますが、そこに優劣をつけているつもりはありません」

 

俺の思い違いだ、心外だと伝えてくる坂柳さん。でも心外なのはこちらである。めちゃくちゃ無意識に前座に据えられてんじゃねぇか俺。このロリ、自分が可愛いからって調子に乗ってるだろ。

 

「とりあえず、俺は坂柳さんとやり合う気なんて一切ないからね。いくら焚き付けても無駄だよ」

 

「…そうですか。一之瀬さんに何かをしても、乗っていただけませんか?」

 

一瞬激昂しそうになるも、坂柳さんを見てすぐに落ち着く。彼女の顔には試すような色が出ている。具体的に一之瀬さんを害する用意があるというより、俺の出方を観察している。なのでここは少し厳し目に対応する。

 

「仮にホワイトルームと無関係な人を巻き込むようなら、俺は君と綾小路の対決の妨害に徹するよ」

 

綾小路の名前が出た途端、坂柳さんは更に笑みを深める。俺に関係する話ではここまで笑みを浮かべることもないだろうに、同じように扱っていますだなんて無理がある。本人は無自覚だが。

 

「彼がこの学校に来ていること、知っていたんですね」

 

「クラス分けが貼り出されたとき、全クラスの生徒の名前は頭に入れたからね。その時に坂柳さんが同じクラスだって事にも気付いていたよ」

 

「そうですか。では本当に気が変わらないと?」

 

「変わらないよ。俺は君と戦うつもりなんて、これっぽっちもない」

 

改めて明言すると、嘆息した坂柳さんはそのまま背中を向けて歩いていく。でも帰る方向は俺も一緒なんだよな。このまま放って帰るのも違うし、とりあえず隣に並んで戻るとしよう。

 

すぐに追い付いて坂柳さんの歩幅に合わせると、彼女は意外そうな反応を示した。

 

「てっきり嫌われたものかと思いましたが、一緒に帰って下さるんですね」

 

「別に坂柳さんに対してマイナスな印象はないよ。正直相手をする事にも抵抗はないけど、今の条件で呑む気は一切ないってだけ」

 

「そうですか」

 

そこから会話が弾むことはなかったが、互いに苦にならない沈黙だったと思う。正直こうして彼女と話すのは楽しいし、天才云々への執着に目を瞑れば文句なしの人物である。今後クラス対抗で戦う際にはリーダーに名乗りを上げるだろうし、今からわざわざ対立する意味は薄い。

 

それに彼女のことは個人的に好ましく思っているし、可能であれば対立関係になるようなことは避けたい。彼女にとっては少し不満だろうけど。

 

そのまま15分ほどで教室に到着すると、間もなく昼休みが終わって午後の授業が始まった。

 

…そういえば坂柳さんは往復で三〇分かかってるけど、お昼ご飯を食べる時間なんてあったのだろうか。

 

 

 

 

待ちに待った放課後の到来である。昼休みの待ち時間に一之瀬さんに連絡して放課後の散策に誘ってみたところ、二つ返事で受け入れてくれた。雪と飛鳥馬は用事があるからと断られてしまった。

 

飛鳥馬は昨日の夕方に一週間の暇が欲しいと言われていたので、ダメ元での誘いだった。何か目的があるらしく、今日も授業が終わってすぐに教室を飛び出して行った。

 

飛鳥馬はお爺様から高育のシステムについて聞いていないはずなので、入学後にやりたい事が見つかったんだと思う。一週間後に何か話が聞けるのか、実はちょっと楽しみだ。

 

雪の方は特に何も聞いていないが「用事があるから」とだけ言われた。もしかしたら綾小路がこの学校にいることを知っているのかもしれないな。今朝も白石さんと散策していた際、Dクラスの前を流し見で確認する雪の姿を目撃している。

 

綾小路はDクラスに配属されていることは昨日確認しているので、十中八九彼目的で偵察していたと思われる。初恋が今も現役なようで微笑ましいな。だがまた綾小路関連で心が壊れる可能性はあるので、その点に関してはちょっと心配だ。ただ彼女も一度は立ち直った身、そこまで簡単に壊れることはないと信じたい。

 

あとで放課後に部活動紹介があると知ったが、確認したところ二人とも特に興味がないとのことだったので、そのまま散策に行くことが決まった。俺自身は将来的に部活に入る予定だが、具体的な入部先は既に決めているので部活動紹介には興味がわかない。

 

俺は隣の席で片付けを終えた白石さんに声をかけ、一之瀬さんも誘って教室を出る。ちなみに二限目が終わったタイミングで、白石さんから一之瀬さんを誘う承認はもらっている。

 

会話はやはり一之瀬さんを中心に進み、俺はしばらく女子二人の会話を眺めることにした。こうして並んでみると、容姿端麗な美少女の二人は非常に華がある。ちょっと自分が邪魔かもしれない、なんて思うほど二人には華がある。

 

ケヤキモールに到着すると、予想以上の広さに少し驚いてしまう。そのまま三人で散策していると、途中でカフェを見つけたので休憩も兼ねて入ることに。半信半疑だったが、敷地内の決済は本当に全部プライベートポイントで成立するらしい。

 

席について雑談を継続していると、店の奥の方で飛鳥馬の姿が見えた。どうやら二人も気付いたらしく、自然と俺達の視線はそちらに寄せられる。

 

「飛鳥馬さんですね、誰かと待ち合わせでしょうか?」

 

「そうかもね。でもトキちゃんに在校生で待ち合わせをするような知り合いなんていたかな?」

 

首を傾げながら俺を見る一之瀬さん。ホワイトルーム関係の事情を一切知らない彼女だが、幼少期から俺と飛鳥馬が同じ環境で育った事は知っている。そのため上級生に知り合いがいるか、俺に目線でに確認を取ってきた。

 

「少なくとも、俺が把握している範囲で上級生に知り合いはいないかな」

 

五分ほどが経過すると、五人の上級生と思しき生徒が飛鳥馬の座る席に合流した。男子が三名、女子が二名。パッと見ちょっと合コンみたいな雰囲気で面白いなあれ。

 

こっちから眺めていても分かるほど、今の飛鳥馬は気分がいいらしい。先輩方が合流してからは機嫌が鰻上りで、彼女達は直ぐにカフェを出て六人でどこかに向かった。一之瀬さんと白石さんは気になるようだったが、飛鳥馬にもプライベートはあるので詮索しないことで決着がついた。

 

さらに二〇分程滞在してからカフェをあとにし、再びケヤキモールの散策を再開する。途中で気になったので本屋に入ると、非常に豊富な品揃えでちょっとテンションが上がった。店員に確認すると、外部から書籍を取り寄せて購入することも可能らしい。非常に有益な情報である。

 

一之瀬さんは自炊のためか、レシピ本を一冊購入していた。古本屋通いをしていた頃、三人で夕飯を作ることもあったが、一之瀬さんは結構なお手前だった記憶だ。もしかしたら一人暮らしを機に、本格的に料理を身に着けるつもりなのだろうか?正直一之瀬さんの手料理食べてみたい。一之瀬さんが一人で作った手料理を。

 

だが俺には一点、機になることがある。白石さんである。

 

白石さんは本屋の中で俺の隣を離れなかった。三人で動いていた時は何も感じなかったが、一之瀬さんが参考書などを見に行って別行動を始めてからは少し気になり始めた。俺が本を手に取って立ち止まると、彼女も立ち止まって何故か俺を観察してくる。

 

別に俺を見ているわけではない。彼女も本を手に取っているし、一見普通にしている。だが俺が独り言を漏らすと、彼女は露骨*1に反応するのだ。一之瀬さんの健在で冷静になっているためか思い返してみると、彼女は初めて話した時から声に反応しているような素振りはあった。単なる声フェチ、みたいなものだろうか?

 

彼女が反応する理由は不明だが、距離を取ろうとはしないので強い不快感を感じているわけではなさそう。自分のバックボーンもあってか、こういった学校にいる生徒を特別視してしまうきらいが自分にはある。実際にホワイトルーム出身者も数人いるし、以前のパーティーで会った面々の中にも入学者はいた。

 

政財界との繋がりが非常に強いこの学校で、特殊な出自の生徒はいくらいても驚かない。実際、ホワイトルームに類するプロジェクトは存在しているし。今年は綾小路清隆が入学しているので、彼に関連する人員が既に学内にいても驚かない。別に白石さんがそうだ、という話ではない。ただその前提で同級生を観察すると、関わる機会も多かった影響で彼女が目についた。

 

まぁ、だから何だって話だが。特にどうもしないけど、以降は俺も彼女のことをよく観察してみよう。そう思っただけである。むしろ今はただの声フェチの可能性の方が高いわけだし。…間接的に自分の声を褒めているようだが、俺自身は現在極めて普通の声を調整してわざわざ出している。

なので彼女が声フェチの可能性は内心では否定的だが、絶対はないので一旦最有力候補である。

 

本屋を出て以降に意識して気付いたが、白石さんは決して俺の後ろに立たない。隣を歩くか、俺の前を歩くかの二択だ。うーむ、不思議なこだわりでもあるのか?そのミステリアスな雰囲気もあってか、段々と俺の中で不思議ちゃんのようなキャラ付けになっていきそうな白石さんであった。

 

後日、その印象はある同級生の存在で完全に変わるのだが。不思議ちゃん、変人の評価に相応しすぎる奴のせいである。

 

 

 

 

 

 

ケヤキモールの散策中、俺は一人の顔見知りと遭遇した。彼は男子生徒と二人で歩いていたが、こちらに気付くと少し反応したので、俺の方から関わりに行ってみる。

 

「神崎くん、でよかったかな」

 

神崎隆二、確か親が社長か何かだったような気がする。パーティーで挨拶にきた大人に連れられていて、軽く言葉を交わしたくらいの印象しかないが。

 

「ああ、久しぶりだな伊吹。大体二年ぶりか」

 

「そうだね。ここで君に会うとは思わなかったよ」

 

目が合い、反応があったから話しかけたが、どうやら神崎も自分のことを覚えていたらしい。ちょっと嬉しい。

 

「俺もかなり驚いている。そうだ、紹介しよう。俺のクラスメイトだ」

 

「一年Bクラスの葛城康平だ、よろしく頼む」

 

神埼の隣にいたスキンヘッドの青年が、落ち着いた声で自己紹介をした。失礼だが、坂柳さんと並んだ場合、2人が同い年だと当てられる人はどれくらいいるのか気になった。先に言っておくが、多分俺は無理。坂柳さんは見た目一二、一三歳だし、葛城は一八、一九と言われても驚かない。

 

そのまま二人も自己紹介を行い、少し五人で話をした。まだクラス間で争うことを知らない間、同級生達は比較的無防備な状態で情報を抜ける。今日の神崎と葛城もそうだが、これからは積極的に他クラスの面々と関わってみてもいいかもしれない。

 

だが逆にAクラスの親しい面々には、それとなく他クラスには個人的な話も含めて何でもかんでも話しすぎないように注意を促しておこう。あとから弱みとして揺さぶられても面倒だし、可能な限り他クラスが食いつく目を消しておきたい。

 

もちろん接点の一切ないクラスメイトには厳しいが、例えば飛鳥馬や一之瀬さんなんかは問題なくこんな話が出来るだろう。雪はそれ以前に学校のルールをお爺様に知らされている可能性があるし、冷静に考えて今年のAクラスは過剰なほど戦力が集められているな。

 

よっぽどお爺様が裏で大暴れしたんだろうな。いつか坂柳さん繋がりで彼女の父親に会った場合、いくらかの嫌味を言われても仕方がないと思う。そこはもう甘んじて受け入れよう。

 

しかしこういう時一之瀬さんの社交性の高さは使えるが、果たして彼女は強かに信用してくれた相手の情報をクラスのために使ってくれるか。強いストレスを感じて弱るようじゃ本末転倒だし、俺が自分で出向くのは面倒な上にコミュニケーション能力的に非現実的。

 

しかしそれ以外のクラスメイトを使うってなると、必然的に派閥みたいなものを形成してクラスを割る形になる。坂柳さんが俺の傀儡になるわけもないし、一之瀬さんをリーダーに仕立て上げて坂柳さんと派閥争いに興じさせるのもなし。手札は反則級に多いのだが、何かと十全にポテンシャルを活かすには、当初の三人での楽しい学校生活の目標を捨てる必要もあるかもしれない。

 

ただ最大の問題は、その目的を放棄するほどのモチベーションがない。どうせ性質的に坂柳さんは五月以降に派閥を形成して主導権をに入ろうとするだろう。であれば俺は特に何も介入せず任せるってのも結構アリかもしれない。

 

 

 

*1
一般的に無反応とされる程度

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