あっけなく死ぬ男子生徒の話   作:とーふめんたる

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アビドス編
認識改変ってHだよね


 

朝の光が、ブラインド越しに差し込んでいた。

 

アビドス高校・対策委員会室。教室というより、簡素な会議室のような空間。

長机と椅子。その数は六つ。

 

「……あー、朝かぁ」

 

あくびを噛み殺しながら、部屋に入る。

 

書類の山。9億の借金。

見慣れた光景。

 

椅子に腰を下ろして、紙を一枚めくる。

 

……静かだねぇ。

 

そのとき。

 

遠くから、足音。砂を踏みしめる音が、少しずつ近づいてくる。

 

「……来たねぇ」

 

ヘルメット団。

 

外が騒がしくなる。やがて銃声が混じり始める。

 

ため息をひとつ。立ち上がって、銃を手に取る。

 

廊下に出ると、すでに空気が張りつめていた。外では戦闘が始まりかけている。

 

そのとき――

 

校舎の中へ、一人が駆け込んでくる。息を切らして、まっすぐこっちへ走ってくる影。

 

「――そこ、止まって」

 

軽く声をかける。

 

止まる気配はない。むしろ、必死に近づいてくる。

 

「たっ、小鳥遊先輩!ヘルメット団が――」

 

声が届く。けど、頭の中では別の形で処理される。

 

侵入者。それだけ。

 

「外に……来てて……!」

 

一歩、踏み出してくる。距離が詰まる。

 

――撃つ距離。

 

引き金を引く。

 

乾いた音。影が崩れる。

 

床に倒れ、何かが転がる音。

 

「……」

 

ゆっくり近づいて、見下ろす。

 

動かない。

 

それ以上、考えない。外の方が忙しい。

 

意識を切り替える。

 

 

銃声の中で、足音が近づく。

 

「ホシノ先輩!」

 

シロコちゃん。ノノミちゃん。アヤネちゃん。セリカちゃん。

四人が合流する。

 

「……来たんだ」

 

「外、多いです!」

 

「校舎内は大丈夫ですか?」

 

「一人、入ってきてたよぉ」

 

軽く答える。

 

「……了解」

 

「先に外、片付ける」

 

シロコちゃんが短く言う。

 

「うん、行こっか」

 

五人で外へ出る。

 

砂煙の中、銃声が重なる。いつも通りの連携。迷いはない。

 

「右、二人!」

 

「任せてください!」

 

「前、クリア!」

 

「……最後」

 

最後の一人が倒れる。銃声が止む。

 

静寂が戻る。

 

「……終わったねぇ」

 

「はい、全員撃退確認しました」

 

アヤネちゃんが答える。

 

「中、確認する」

 

シロコちゃん。

 

「そだねぇ」

 

校舎へ戻る。

 

廊下は静かだった。さっきと同じ場所。

 

――そこで、足が止まる。

 

床に、一人。倒れている。制服。血。広がっている。

 

「……なんで」

 

セリカちゃんの声。

 

ノノミちゃんが息を呑む。シロコちゃんが動かない。

 

「……うそ」

 

アヤネちゃんの声が、かすれる。

 

視線が、そこに吸い寄せられる。

 

さっき見た光景。倒れた影。撃った瞬間。

それが、ゆっくりと重なっていく。

 

「たっ、小鳥遊先輩!ヘルメット団が――」

 

声が、蘇る。

 

「……◻️◻️?」

 

名前が、口から落ちる。

 

違う。さっきのは――侵入者じゃない。

 

見慣れた顔。いつもそこにいた。隣にいた。後輩。

 

「……あ」

 

息が詰まる。

 

理解が、追いつく。全部、繋がる。

 

「……私が」

 

声が漏れる。

 

「……私が」

 

繰り返す。

 

「……撃った……?」

 

手が震える。銃が重い。

 

「……私が」

 

視界が滲む。

 

「……殺した……」

 

膝が崩れる。床に手をつく。

 

「……やだ……」

 

声が震える。

 

「……やだ、やだ……」

 

止まらない。

 

「……ごめん……」

 

言葉がこぼれる。

 

「……ごめん……」

 

「……ごめん……っ」

 

嗚咽が漏れる。肩が震える。

 

頭の奥に、焼き付いた記憶がよぎる。

 

守れなかった、あのときの先輩。

 

同じだ。

 

また、守れなかった。

 

今度は――自分の手で。

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