(ミカ視点)
「……どうしよう、◻️◻️……セイアちゃんが……。私、そんなつもりじゃ……」
声が震えていた。目に涙を浮かべながらそう呟くのは、パテル分派の長、聖園ミカ。その傍には、補佐官である◻️◻️が静かに立っている。
「許されたい」そんな無意識の願いが、言葉となって零れた。だが——
「どんなつもりだったかなんて、関係ありません。」
その言葉は、容赦なく断ち切られる。
「……え」
ミカの声が、かすかに掠れる。
「……はぁ」
小さく息を吐き、◻️◻️は首を横に振った。
「セイア様のお体のことを考えれば……こうなる可能性は、十分にあったはずです」
静かな指摘。優しさではなく、事実。
「……っ、そう……だよね……全部、わた——」
「ですが」
言葉を遮る。逃げ道を断つように、けれど同時に落ちきる前に支えるように。
「私は、あなたの味方です」
真っ直ぐに、一切の迷いなく言い切る。
「どんなことがあろうとも」
「……っぁ……」
その瞬間、ミカの力が抜けた。◻️◻️の体にもたれかかる。
「……本当に?」
縋るような声。
「はい」
即答だった。
「……ずっと……?」
「可能な限りは」
ほんの僅かに現実を残した答え。だからこそ、嘘ではない。
「……っ……」
噛み締めるように頷いて——
「……うわぁあぁあああ!!」
堰を切ったように感情が溢れ出した。涙が止まらない。声も、呼吸も乱れていく。それでも◻️◻️は何も言わない。ただ静かに受け止めるだけだった。
数分後、泣き疲れたミカがようやく顔を上げる。目元は赤く腫れていた。
「……ごめんね。服、汚しちゃって……」
「問題ありません」
その一言が、かろうじてミカを繋ぎ止めていた。
⸻
(ベアトリーチェ視点)
計画は——順調だった。アリウスとの和解を望むなどと宣う聖園ミカ。その甘さにつけ込み、クーデターを起こし、トリニティを傀儡とする。すべては予定通りに進んでいたはずだった。
だが。
「……妙な変数が入りましたね」
静かな声。その奥には、明確な苛立ちが滲む。
「あのヘイローを持たない生徒……」
あの存在が現れてから、計画は確実に狂い始めていた。
「……不愉快です」
細く息を吐く。
「あれがいる限り、聖園ミカを“従順な人形”に仕立て上げることはできない」
視線が冷たくなる。
「排除しましょう」
「——あの生徒、◻️◻️を捕縛しなさい」
⸻
(◻️◻️視点)
「……はぁ、やっぱりか」
乾いたため息が漏れる。視線の先には、銃を向けるアリウスの生徒たち。数も位置も——隙がない。
「俺を消しに来たんだろ」
「黙れ」
短い返答。
次の瞬間、鋭い衝撃が走る。足元が崩れ、視界が揺れる。
「……っ、ぐ……!」
耐えようとするが、続けて重い衝撃。意識が遠のいていく。
(……まぁ、だよな)
それが最後だった。
⸻
(ミカ視点)
無言で、扉が開く。足音が近づき、止まる。
「……何」
顔も上げずに呟く。
返事はない。代わりに端末が差し出される。
「見ろ」
短い一言。
ミカはゆっくりと視線を上げる。
その瞬間。
「……っ」
呼吸が止まる。
映し出されていたのは——◻️◻️。拘束され、動けないままの姿。それでも、“まだ”終わっていない。
「……なんで」
かすれる声。
沈黙。
「従わなければ、どうなるか」
それだけだった。
「……っ」
手が震える。
『可能な限りは』
その言葉がよぎる。
「……私は」
声が震える。
「……進む」
沈黙。
「……そうか」
足音が遠ざかる。残されたのは——選んだという事実だけだった。
⸻
エデン条約調印式の襲撃から、数日。混乱は収束し、すべては過去として処理され始めていた。
その中で——ミカだけが取り残されている。まだ拘束されたまま。
「……◻️◻️」
名前が零れる。
『……ずっと?』
『可能な限りは』
「……っ」
拳を振り下ろす。一度、二度、何度も。やがて壁が壊れる。
ミカは走る。カタコンベを、ただ前へ。
途中、アリウスの生徒を掴む。
「◻️◻️はどこ!?」
「答えて!!」
場所を聞き出し、すぐに走る。
別の通路では、先生がサオリたちと動いている。だが——そんなことはどうでもいい。
「……ミカ!?」
声が響く。
届かない。
止まらない。
扉の前。一瞬足が止まる
「◻️◻️!!」
叩き壊す。
静寂。
「……◻️◻️?」
一歩、踏み出す。
足音が響く。
そして——見つける。
「…………ぁ」
理解が遅れる。
それでも、近づく。
「……やだ」
震える声。
手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
「……ねぇ……起きてよ……」
声が崩れる。
「……私、来たよ……?」
返らない。
『……ずっと?』
『可能な限りは』
「……遅かった……?」
自分の言葉に、息が詰まる。
「……ごめんなさい……」
涙が落ちる。
止まらない。
「ごめんなさい……」
繰り返す。
「私が……あっちを選んだから……」
声が震える。
「助けられたかもしれないのに……」
「一緒に、いられたかもしれないのに……」
崩れ落ちる。
手を握る。
冷たいまま。
「……やだ……」
「やだよ……」
首を振る。
否定する。
それでも、何も変わらない。
「……私……」
言葉にならない。
「……ごめんなさい……」
繰り返す。
何度も。
何度も。
そして——
「……うわぁああああああああああああああああああああああ!!!」
絶叫が響く。
壊れたように。
止まらない。
「ごめんなさい……!」
それでも、繰り返す。
届かないと分かっていても。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
冷たい部屋に、謝罪だけが残り続ける。
誰にも届かないまま。
ただ、虚しく。
ずっと。