ある日のゲヘナ、その中枢、万魔殿。
「◻️◻️!!」
ゲヘナ学園のトップにして、万魔殿の議長――羽沼マコトの怒声が室内に響き渡る。
「どうしましたか?」
落ち着いた声で問い返すのは、名を呼ばれた当の◻️◻️だ。
「どうしましたか、ではない!! なぜ貴様の机に、風紀委員会へ渡してこいと命じた書類がそのまま残っている!!」
万魔殿の頂点に立つ者の怒号。
普通であれば、部下である◻️◻️が即座に謝罪すべき場面だった。
だが、返ってきたのは――
「はぁ……」
呆れたような、ため息だった。
「なんだその態度は――」
言いかけたマコトの言葉を、◻️◻️が静かに遮る。
「マコト様」
その一言で、空気がわずかに変わる。
「僕は、あなたに拾ってもらったことに感謝していますし、尊敬もしています。ですが……」
一度、言葉を区切る。
「銃弾一発で死ぬ身としては、ゲヘナの治安を守る風紀委員会に、嫌がらせはできません」
万魔殿に、張り詰めた沈黙が落ちる。
先に口を開いたのは、マコトだった。
「キキキッ……そうか。ならば、貴様に風紀委員会への嫌がらせは任せん」
「分かってくれましたか」
「だが!」
マコトは勢いよく立ち上がる。
「私の命令に逆らった罰として、買い出しに行ってもらう!」
「……まあ、それくらいならいいですよ」
先ほどまでの緊張は消え去り、万魔殿にはいつものどこか緩い空気が戻っていた。
⸻
「さてと、マコト様に言われたものはこれで全部――」
パァン。
乾いた銃声が響く。
買い出しの途中。
その場に居合わせただけの一人の男子生徒が、流れ弾に倒れた。
――ただ、それだけのことだった。
⸻
放課後、万魔殿。
報告を受けたマコトは、しばらく言葉を失っていた。
「……は?」
状況を理解しきれないまま、間の抜けた声が漏れる。
やがて、その顔が歪む。
「何をしている!! なぜこんなことになった!!」
怒りが爆発する。
机を叩き、声を荒げる。
だが、報告の内容を聞くほどに、その勢いは鈍っていった。
「……買い出しは、私が命じた……?」
ぽつりと、呟く。
怒りは次第に形を失い、代わりに重い何かが胸に沈んでいく。
「……違う、私は……そんなつもりでは……」
言い訳のような言葉が、空しく消える。
やがて、視線が落ちる。
「……私の、せいか……」
誰に向けるでもない言葉。
そして――
「……キキッ……」
笑おうとして、失敗する。
「……はは……」
乾いた声が、静かな万魔殿に響いた。
その日、万魔殿の空気はいつもとは違っていた。
まだまだ残弾はあるぜ。
それはそれとして、曇らせ案くれ〜