その日は雨が降っていた。
「大丈夫?」
カヨコは、路地裏の野良猫にそう問いかける。
雨に濡れた野良猫は、カヨコの傘の下に入るように近づいてくる。
しかし、このままずっとここにいるわけにもいかない。
そう考えたカヨコは、自分の傘を地面に置き、その場を離れようとした時――
「……おい」
不意に声がかかる。
「お前、傘なしで帰るつもりか?」
「だったら悪い?」
振り返った先にいたのは、見知らぬ男子生徒だった。
「んなことはどうでもいいだろ。予備の傘貸してやるから、それで帰りな」
そう言うと男子生徒は、折りたたみ傘を取り出してカヨコに押しつけるように渡す。
「は?ちょっと待っ……」
止める間もなく、彼は走り去っていった。
数日後。
カヨコは、彼の家の前に立っていた。
「ここが彼の……」
手には、あの日の折りたたみ傘。
インターホンを押すと、すぐにドアが開く。
「あんたはあの時の……あぁ、傘か。別にそのままでもよかったのに」
「そういうわけにもいかない」
傘を差し出す。
「ありがと。せっかくだし上がっていきな」
「いや――」
断ろうとした、その時。
「ニャ〜オ」
奥から猫の鳴き声。
「……猫、飼ってるの?」
「ああ。好きなんだろ?」
少しだけ迷って、
「……お邪魔します」
結局、上がることにした。
猫はすぐに懐き、カヨコの足元にすり寄る。
「ふふっ」
思わず笑う。
「本当に好きなんだな」
その一言に、少しだけ視線を逸らす。
「……なんでこんなことするの」
「猫好きの同類っぽかったのと……」
一瞬間を置いて、
「優しいやつには優しくしてやりたいだろ」
そう言って笑った。
「……ねぇ、たまに来てもいい?」
気づけば、そう口にしていた。
「ああ、いつでも来な」
あっさりとした返事だった。
それから。
カヨコは時々、彼の家に通うようになった。
世間話をして、猫と遊ぶ。
それだけの関係。
男子生徒の名前は◻️◻️。
好物はラーメン。
どうでもいいことを、少しずつ知っていく。
あくまで、猫のために。
――何度も、何度も。
その関係は、カヨコが便利屋に入り、指名手配された後も続いた。
それどころか、彼は差し入れを持ってくるようになった。
―――――
「……◻️◻️」
「悪いな、迎えにきてもらって」
アビドス自治区。
目的地は、柴関ラーメン。
「社長たちを待たせてる。急ごう」
「おう」
少し足早に進む。
「……うまいな」
一口食べて、◻️◻️が呟く。
「今までで一番かもしれない」
その言葉に、店主が笑う。
それを見て、カヨコは思う。
(連れてきてよかった)
――次の瞬間。
景色が爆ぜた。
―――――
「……◻️◻️!」
瓦礫を押しのけ、立ち上がる。
視界の先に、倒れている姿。
駆け寄ろうとして、止まる。
「……え?」
それは、瓦礫に隠れているのではなかった。
――潰されていた。
力が抜ける。
記憶がよぎる。
雨の日。
どうでもいい会話。
さっきまで笑っていた顔。
(私、あいつのこと……)
気づく。
(好きだったんだ)
遅すぎた。
もう、どうにもならない。
「……ぁ」
涙が落ちる。
「出てこい!規則違反者どもめ!!」
その声で、何かが切れた。
「……は?」
ゆっくり立ち上がる。
風紀委員の方へ歩く。
「何するつもりなの?」
「……あいつらを、潰す」
銃声が響く。
弾丸が掠める。
それでも止まらない。
撃たれても、前に出る。
ただ、それだけで十分だった。
気づけば、全員倒れていた。
最後に残ったのは、銀鏡イオリ。
逃げる間もなく、押し倒す。
拳を振り下ろす。
何度も。
何度も。
止まらない。
「カヨコ!!」
声が飛ぶ。
「社長……?」
「……やめなさい。手、ボロボロよ」
その言葉で、ようやく止まる。
血の滲んだ拳を見る。
震えている。
「……なんで」
力なく呟く。
「なんで、あいつが死ななきゃいけなかったの……」
ふらつきながら歩く。
瓦礫の前へ。
膝をつく。
「……ごめん」
小さく。
「気づくの、遅くて」
手を伸ばす。
「……好きだった」
届かない言葉。
「ちゃんと、言えばよかった」
後悔だけが残る。
顔を上げる。
空を見る。
あの日のように雨が降り始めていた。
頬を伝うそれが、雨か涙かも分からない。
ただ――
カヨコは動かない。
静かに。
ただ静かに、涙を流し続けていた。
こういう曇らせをAIに書かせていると、曇らせ作者様は本当にすごいと思います。
あと、やっぱり曇らせは一話だけじゃなくて幸せとの落差、詰まるところ下ごしらえがあるとより美味しいことに気づいてしまいました。
まぁ、書けないんですけどね……