ハイランダーってブラックだよね
ゲヘナ行きの路線は、いつも空気が重い。
窓の外に広がる景色も、どこか荒んで見える。崩れた建物、黒く焦げた地面、遠くで上がる煙。それが当たり前のように続いている。
その日、運転席にいたのは男子生徒◻️◻️だった。
本来、この便は別の担当だった。
だが前日の夜、端末に軽い通知音が鳴る。
『ねえねえ、明日さ〜サボっちゃおうかな〜?』
『そっち代わりに行ってくれる?』
送信者は、橘ノゾミと橘ヒカリ。
軽い調子のメッセージ。
からかうような、いつものノリだった。
「……またか」
◻️◻️は小さく息をつく。
呆れながらも、特に深く考えることはなかった。
これまでだって、似たようなことは何度もあった。
そのたびに引き受けてきたし、問題が起きたこともない。
「了解」
短く返し、役割を引き受ける。
それだけの、何でもないやり取り。
それが、すべての始まりだった。
⸻
電車はいつも通り走っていた。
多少荒れているが、慣れた路線だ。
一定の速度を保ち、線路をなぞるように進む。
単調だが、気を抜くことはできない。
遠くで乾いた音がする。
銃声。
「またか……」
ゲヘナでは珍しくもない。
そう思い、前を見続けた、その直後だった。
何かが、後頭部を貫いた。
一瞬だった。
流れ弾だった。
何が起きたのか理解する間もなく、意識が途切れる。
痛みを感じる暇すらない。
体から力が抜け、操作を失う。
誰もいない運転席。
制御を失った電車は、そのまま速度を保ったまま進み――
やがて、大きな事故を引き起こした。
⸻
翌日。
教室には、どこか落ち着かない空気が漂っていた。
小さなざわめきが広がり、誰もが何かを待っているようだった。
やがて教師が前に立つ。
「……訃報です」
その一言で、空気が止まった。
「昨日のゲヘナ行き電車の事故で――男子生徒◻️◻️が死亡しました」
静寂が落ちる。
誰も、すぐには反応できない。
言葉の意味が、現実として結びつかない。
だが――
「……え?」
橘ノゾミの手から、端末が滑り落ちた。
床に当たる音がやけに大きく響く。
「うそ……でしょ……?」
橘ヒカリの声は、はっきりと震えていた。
二人の頭に浮かぶのは、昨日のやり取り。
――『サボっちゃおうかな〜?』
――『代わりに行ってくれる?』
軽い気持ちだった。
深く考えていなかった。
ただの、いつも通りのサボりの連絡。
その結果が、これだった。
「……あ……」
ノゾミの呼吸が乱れる。
「わたしたちが……」
ヒカリの声が途中で止まる。
「私たちが、行ってれば……!」
叫びが教室に響く。
「違う……こんなの……!」
ノゾミはその場に崩れ落ちる。
「◻️◻️が……死ぬはずなかったのに……!」
涙が止まらない。
「私たちがサボったから……!」
ヒカリは声を上げて泣いた。
後悔の言葉が、何度も繰り返される。
だが、もう取り戻せない。
誰も、何も言えなかった。
⸻
それから。
橘ノゾミと橘ヒカリは学校に来なくなった。
サボりではない。
来られなくなったのだ。
あの日のやり取りが、頭から離れない。
何度も、同じ言葉が繰り返される。
電車。銃声。事故。
そして――◻️◻️の名前。
本来なら、自分たちが乗るはずだった。
その事実だけが、消えずに残り続ける。
時間が経っても、忘れることはできない。
ただ、それだけが、ずっと心に残り続けていた。