夜のミレニアムサイエンススクール、校舎の一角。
廊下に銃声が響き、静寂は破られていた。
その中心で、アリスはネル――“メイド先輩”と対峙していた。
「ここで終わりです、メイド先輩」
「ハッ、やれるもんならやってみな!」
互いの銃火が交錯し、壁や床に弾痕が刻まれていく。
破片が飛び散り、空気が震える。
アリスはスーパーノヴァを構え、静かに引き金に指をかけた。
「魔力充填100パーセント……行きます!」
次の瞬間、轟音が響き渡る。
放たれた一撃は、まっすぐに床へと突き刺さった。
――崩落。
ひび割れが広がり、床が崩れ、天井までもが軋みを上げる。
コンクリートの塊が崩れ落ち、校舎そのものが揺らぎ始めた。
その場に、たまたま夜に忘れ物を取りに来ていた男子生徒がいた。
逃げる間もなく、崩れ落ちた瓦礫に巻き込まれる。
アリスは、その存在に気づかなかった。
気づく前に、すべては終わっていた。
***
翌日。
ミレニアムの校舎。
重い沈黙の中、ひとりの女子生徒がアリスの前に立つ。
その日が、初めての出会いだった。
目は赤く腫れ、涙は止まらない。
それでも、その視線はまっすぐにアリスを射抜いていた。
「……あなたがやったのよ……!」
震える声が、静かな空間に突き刺さる。
「それで人が死んだ……!」
一歩、踏み出す。
「それだけで、十分でしょ……!!」
怒りと悲しみが混ざった声が、抑えきれず溢れ出す。
「何が起きたか分かってるの……?」
「あなたが撃って……そのせいで、人が死んだのよ……!!」
「ただ忘れ物を取りに来ただけだったのに……!」
言葉が途切れ、息が乱れる。
「……どうして……」
涙がこぼれ落ちる。
「……どうしてそんなことができるの……」
アリスは、何も言えない。
目の前の現実と、突きつけられた言葉。
その重さを、ただ受け止めることしかできなかった。
「……アリスは……」
かすれた声が漏れる。
「……勇者……です」
その言葉は、相手に向けられたものではなかった。
ただ、自分自身に言い聞かせるような響きだった。
そのとき。
(――その認識でも、構いません)
静かな女性の声が、どこかから響く。
(あなたは、“魔王”です)
アリスは目を見開く。
「……魔王……?」
女子生徒の泣き声が、遠く感じられる。
「……アリスは……」
ゆっくりと、その言葉を反芻する。
「……魔王……?」
守れなかった。
壊してしまった。
取り返しのつかない結果を生んでしまった。
ならば。
「……アリスは……」
まっすぐに女子生徒を見つめる。
その瞳には、まだ揺らぎがあった。
「……魔王です」
けれど、その言葉を否定しなかった。
「……だから」
一度、深く息を吸う。
「全部……やり直します」
ケイの声は変わらない。
(その認識で問題ありません)
(“魔王”としての選択は、適切です)
女子生徒は、ただ泣き続けている。
初めて出会った相手に、すべてをぶつけたまま。
アリスは、その姿を見つめ続けていた。
スーパーノヴァを握る手だけが、静かに、強く握られている。
その日、キヴォトスは滅んだ。