エンジニア部の作業場には、いつも通り機械の音が響いていた。
部長である白石ウタハは、端末の前で静かにログを確認している。
無駄のない動きで全体を見渡し、状況を把握していた。
「ここ、もう少し固定を見直しましょう。大丈夫、いけます」
一年生の豊見コトリが明るく声をかける。
その言葉に、場の空気が少しだけ和らぐ。
「了解!いい感じに仕上がってきてるよ!」
同じく一年生の猫塚ヒビキも元気よく応じる。
「油断はするなよ」
ウタハが短く言う。
部長として、全体を引き締める一言だった。
◻️◻️は吊り下げられた発明品の近くで、最終確認を進めていた。
機材は安定しているように見え、作業は順調に進んでいた。
そのとき——
「……待って」
ウタハの声がわずかに変わる。
「ログに異常。制御系が不安定だ」
「え……?」
コトリの動きが止まる。
「自爆シーケンスに干渉してる。誤作動の可能性がある」
「ちょ、待って、それ今——」
ヒビキが慌てた声を上げる。
警告音が鳴り響いた。
赤いランプが点滅し、装置がわずかに揺れる。
「全員離れろ!」
ウタハの指示が飛ぶ。
「急いで、離れて下さい!」
コトリが周囲に呼びかける。
だが——
間に合わなかった。
支えを失った発明品が落下する。
グチャッという音が響き、作業場は一瞬で静まり返った。
⸻
しばらく、誰も動けなかった。
ヒビキは言葉を失い、その場に立ち尽くしている。
「……ねえ……これ……どうなってるの……」
かすれた声が漏れる。
コトリもまた、すぐには状況を受け止められなかった。
ウタハもまた、わずかに言葉を失っていた。
三人の視線は、ただ目の前の現実を見つめることしかできない。
その場に残ったのは、重く沈んだ空気だけだった。
⸻
事故があった日から、時間が経ったある日。
セミナー会計の早瀬ユウカが、エンジニア部の部室を訪れていた。
いつものように事務的なやり取りが進む中、ユウカが何気なく口にする。
「……それと、さすがに自爆装置を取りつけるのはやめてください」
その一言が、空気を変えた。
「自爆装置」
その言葉が耳に入った瞬間——
ヒビキの動きが止まる。
「……っ」
手が震え、呼吸が浅くなる。
コトリも同様に、言葉を失い、胸のあたりを押さえる。
「ど、どうしたの……?」
ユウカが戸惑う。
その場の異変に、状況を理解できずにいた。
「……ユウカ」
ウタハが静かに声をかける。
顔色は青く、呼吸もわずかに乱れている。
それでも、部長として言葉を紡ぐ。
「この先、私たちの前で、その言葉は使わないでくれ」
それは切実な願いだった。
彼女たちには、消えることのない記憶が残っている。
そしてその記憶は、まだ癒えることなく、今も彼女たちの中に存在し続けていた。