人の流れが途切れないショッピングモールの一角。ガラス越しに差し込む光が床に淡く反射し、買い物客の足音や笑い声、店員の呼び込みが重なっている。休日のざわめきは心地よく、どこか緩やかで、危機とは無縁の空気が広がっていた。
“これ、似合うと思うんだけど”
先生は、小さなアクセサリーを手に取りながら、自然な声でそう言った。
隣に立つ◻️◻️へ、さりげなく差し出す。
「ん?」
◻️◻️は少しだけ首をかしげる。
すぐに拒むでもなく、受け取るでもない、その曖昧な間。
ほんの数秒の沈黙が流れる。
そのとき――
乾いた破裂音。
空気を切り裂くような鋭い音が、突如として喧騒の中に混じった。
次の瞬間、遠くで悲鳴が上がる。
何かが倒れる音、人々が慌てて走り出す足音。
穏やかだった空気が、一気に張り詰める。
そして、その瞬間に反応するように。
見えない“何か”が、先生の周囲に広がった。
それは形を持たない。光るわけでもない。
ただ確かに存在し、すべてを拒む力――シッテムの箱。
本来なら、先生へ向かっていた弾丸。
それが、その見えない防御に触れた瞬間、軌道を変える。
弾は弾かれるように逸れ、ほんのわずかな角度で方向を変えた。
そして――
その先にいたのは、◻️◻️だった。
「……っ」
乾いた衝撃音。
時間が止まったように感じられる。
◻️◻️の体が、その場で崩れ落ちた。
周囲のざわめきが、一瞬遠のく。
先生の手が、宙で止まる。
持っていたアクセサリーが床に落ち、硬い音を響かせた。
“……”
理解が追いつかない。
目の前で起きたことが、現実として受け止められない。
先生はゆっくりと視線を下ろす。
そこにあるのは――動かなくなった◻️◻️の姿。
“……◻️◻️?”
声が震える。
「……」
返事はない。
周囲の音が、遠くへ引いていく。
先生はその場に膝をついた。
“……起きて……”
手が震えながら、肩に触れる。
冷たい。
その事実が、静かに突きつけられる。
“……なんで……”
喉が詰まる。
“なんで……こんな……”
言葉が続かない。
先生の呼吸が乱れる。
“違う……”
小さく首を振る。
“違う……こんなの……”
視線が定まらない。
現実を受け入れたくない。けれど、目の前の事実は揺るがない。
あの弾は、自分を狙っていた。
それを防いだのは、シッテムの箱。
防ぐはずだった。守るはずだった。
だが、その結果――
“……私が……”
声がかすれる。
“……守ろうとして……”
言葉が途切れる。
“……そのせいで……”
息が震える。
“……あなたを……”
視線が、◻️◻️の姿に縫い付けられる。
“……私が……”
その言葉を口にした瞬間、何かが崩れる。
“私のせいで、生徒を……”
掠れた声が、現実を突きつける。
“……失わせてしまった……”
静かに、絞り出すように続ける。
周囲のざわめきは、もう届かない。
先生の世界には、ただ一つ。
取り返しのつかない現実だけが残っていた。
“……どうして……”
涙が溢れる。
“どうして……こんなことに……!”
感情が抑えきれない。
崩れるように、先生は◻️◻️に縋りつく。
“違うの……!”
“こんなの……!”
“こんなはずじゃ……!”
叫びは空間に吸い込まれていく。
返事はない。
ただ、◻️◻️の体だけが、静かにそこに横たわっていた。
先生はその現実を抱きしめるしかなかった。
けれど、温もりは戻らない。
時間は止まらない。
そして、取り返しのつかない結果だけが、静かに残されていた。