カヤってポンコツだよね
薄暗い部屋で、カヤは腕を組んだまま立っていた。
目の前には拘束された◻️◻️。
状況に反して、その視線は落ち着いていて、まっすぐこちらを見ている。
「……この処置、納得しているんですか」
「はい。必要な判断だと理解しています」
即答だった。
「あなたは危険です。能力が高すぎて、想定外を起こす可能性がある」
「承知しています」
短い返答。
「それでも従うんですか」
「従う理由がありますから」
わずかに微笑む。
「あなたが決めたことです」
対等な響きだった。
カヤは一瞬だけ言葉を選ぶ。
「……一時的な拘束です。状況が整い次第、解放する予定です」
「了解しました」
迷いはない。
「あなたの判断なら、それが最善です」
その言葉が静かに残る。
「……後悔は、しないんですか」
「後悔するかどうかは、結果次第です」
一拍置いて続ける。
「ですが、私はあなたの判断を否定しません。それが間違いだったとしても」
カヤは短く頷いた。
それが最後の会話だった。
⸻
扉を開ける。
先生はカヤから、部下である◻️◻️をカイザーに預けているから迎えに行ってほしいと聞かされ、ここに来ていた。
足を踏み入れた瞬間、わずかに眉が動く。
静かすぎる。
視線を巡らせる。
奥に、拘束されたままの◻️◻️が見える。
動かない。
数歩、近づく。
「……◻️◻️」
呼ぶ。
返事はない。
もう一歩、距離を詰める。
違和感が、輪郭を持ち始める。
さらに近づく。
「……◻️◻️!」
少し強く呼ぶ。
それでも、反応はない。
そこで足が止まる。
数秒、見ている。
動かない。
そのまま、ゆっくりと手を伸ばす。
触れる直前で、一度だけ止まる。
わずかに息を吸う。
それでも、確かめる。
――その瞬間。
呼吸が止まる。
「……は……?」
かすれた声が漏れる。
理解が追いつかない。
もう一度、確かめる。
結果は変わらない。
「……」
言葉が出ない。
視線が揺れる。
数秒、立ち尽くす。
思考が噛み合わないまま、空回りする。
そして、遅れて理解が落ちてくる。
拳が震える。
「……カイザー」
低く、絞り出す。
歯を噛みしめる。
一歩、後ろに下がる。
息が荒くなる。
「カイザーッッ!!」
怒声が部屋に響く。
「あいつら……!」
抑えきれない感情が漏れる。
それでも、次の瞬間には無理やり押し込める。
視線を戻す。
しばらく、何も言えない。
やがて、低く落とす。
「……ごめん」
短い言葉。
「迎えに来るの、遅くなった」
返事はない。
それでも、もう一度だけ見る。
「……すぐ、連れて帰る」
声は静かだった。
それ以上は何も言わず、先生はゆっくりと立ち上がった。
⸻
拘束されたまま、カヤは座っていた。
足音に気づき、顔を上げる。
「……どうでしたか」
落ち着いた声。
少しだけ間があって、答えが返る。
「……会えた」
その一言に、わずかに肩の力が抜ける。
「それで」
急かすように言う。
「……亡くなってた」
言葉が止まる。
理解が遅れる。
「……え」
小さな声。
「着いた時には、もう助けられる状態じゃなかった」
静かに続く。
カヤは動かない。
「……死亡、したのですね」
少しの間。
「……うん」
短い返答。
それだけで、現実が確定する。
視線がゆっくり落ちる。
「……あの人は、優秀でした」
ぽつりと零れる。
「私と対等に話せて、判断も早くて……」
言葉が細くなる。
「危険だと判断したのは、私です」
淡々と続ける。
「制御できない可能性があると考え、拘束を選びました」
呼吸がわずかに乱れる。
「外部に任せたのも、私の判断です」
声に重さが乗る。
「結果として、あの人は亡くなった」
言い切る。
その瞬間、内側が崩れる。
「……確認していませんでした」
小さく呟く。
「報告だけで安全だと判断していました」
視線が揺れる。
「任せたまま、見ていなかったんです」
言葉が少しずつ崩れていく。
「守るべき相手を、自分の手から離して……」
声がかすれる。
「管理しているつもりで、全部外に任せていました」
呼吸が浅くなる。
「信じてくれていたのに……」
あの言葉が浮かぶ。
『あなたの判断なら、それが最善です』
胸が締め付けられる。
「……その結果が、これですか」
声に怒りが混じる。
「何一つ、最善になっていません」
言葉が強くなる。
「判断も、確認も、責任も……全部足りていません」
一拍。
「いえ……足りていないどころではありません」
息が乱れる。
「全部、間違っていました」
はっきりと言い切る。
「見落としではありません」
「最初から、何もできていなかったんです」
肩が震える。
「分かっているつもりで……全部、任せていました」
声が崩れていく。
「どうして、確認しなかったんですか……」
震える声。
「どうして、任せたままにしたんですか……」
抑えきれない。
「どうして、あの人を……」
言葉が途切れる。
「……ごめんなさい……」
かすれた声。
「ごめんなさい……」
繰り返す。
「私が……全部……」
言葉が詰まる。
涙がこぼれる。
「守れる位置にいたのに……」
記憶が刺さる。
「自分で遠ざけてしまいました……」
声が震える。
「……何をしているんですか……私……」
怒りが自分に向く。
次の瞬間、体が崩れる。
「……っ……」
息がうまくできない。
「……ごめんなさい……!!」
押し出すような声。
拘束されたまま床に縋る。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
止まらない。
それしか残らない。
理屈も判断もすべて崩れたあとに残ったのは、
自分が選んだ結果と、その重さだけだった。
その現実から逃げることもできず、カヤは泣き崩れ続けていた。