あっけなく死ぬ男子生徒の話   作:とーふめんたる

38 / 39
連邦生徒会編
カヤってポンコツだよね


 

薄暗い部屋で、カヤは腕を組んだまま立っていた。

 

目の前には拘束された◻️◻️。

状況に反して、その視線は落ち着いていて、まっすぐこちらを見ている。

 

「……この処置、納得しているんですか」

 

「はい。必要な判断だと理解しています」

 

即答だった。

 

「あなたは危険です。能力が高すぎて、想定外を起こす可能性がある」

 

「承知しています」

 

短い返答。

 

「それでも従うんですか」

 

「従う理由がありますから」

 

わずかに微笑む。

 

「あなたが決めたことです」

 

対等な響きだった。

 

カヤは一瞬だけ言葉を選ぶ。

 

「……一時的な拘束です。状況が整い次第、解放する予定です」

 

「了解しました」

 

迷いはない。

 

「あなたの判断なら、それが最善です」

 

その言葉が静かに残る。

 

「……後悔は、しないんですか」

 

「後悔するかどうかは、結果次第です」

 

一拍置いて続ける。

 

「ですが、私はあなたの判断を否定しません。それが間違いだったとしても」

 

カヤは短く頷いた。

 

それが最後の会話だった。

 

 

扉を開ける。

 

先生はカヤから、部下である◻️◻️をカイザーに預けているから迎えに行ってほしいと聞かされ、ここに来ていた。

 

足を踏み入れた瞬間、わずかに眉が動く。

 

静かすぎる。

 

視線を巡らせる。

 

奥に、拘束されたままの◻️◻️が見える。

 

動かない。

 

数歩、近づく。

 

「……◻️◻️」

 

呼ぶ。

 

返事はない。

 

もう一歩、距離を詰める。

 

違和感が、輪郭を持ち始める。

 

さらに近づく。

 

「……◻️◻️!」

 

少し強く呼ぶ。

 

それでも、反応はない。

 

そこで足が止まる。

 

数秒、見ている。

 

動かない。

 

そのまま、ゆっくりと手を伸ばす。

 

触れる直前で、一度だけ止まる。

 

わずかに息を吸う。

 

それでも、確かめる。

 

――その瞬間。

 

呼吸が止まる。

 

「……は……?」

 

かすれた声が漏れる。

 

理解が追いつかない。

 

もう一度、確かめる。

 

結果は変わらない。

 

「……」

 

言葉が出ない。

 

視線が揺れる。

 

数秒、立ち尽くす。

 

思考が噛み合わないまま、空回りする。

 

そして、遅れて理解が落ちてくる。

 

拳が震える。

 

「……カイザー」

 

低く、絞り出す。

 

歯を噛みしめる。

 

一歩、後ろに下がる。

 

息が荒くなる。

 

「カイザーッッ!!」

 

怒声が部屋に響く。

 

「あいつら……!」

 

抑えきれない感情が漏れる。

 

それでも、次の瞬間には無理やり押し込める。

 

視線を戻す。

 

しばらく、何も言えない。

 

やがて、低く落とす。

 

「……ごめん」

 

短い言葉。

 

「迎えに来るの、遅くなった」

 

返事はない。

 

それでも、もう一度だけ見る。

 

「……すぐ、連れて帰る」

 

声は静かだった。

 

それ以上は何も言わず、先生はゆっくりと立ち上がった。

 

 

拘束されたまま、カヤは座っていた。

 

足音に気づき、顔を上げる。

 

「……どうでしたか」

 

落ち着いた声。

 

少しだけ間があって、答えが返る。

 

「……会えた」

 

その一言に、わずかに肩の力が抜ける。

 

「それで」

 

急かすように言う。

 

「……亡くなってた」

 

言葉が止まる。

 

理解が遅れる。

 

「……え」

 

小さな声。

 

「着いた時には、もう助けられる状態じゃなかった」

 

静かに続く。

 

カヤは動かない。

 

「……死亡、したのですね」

 

少しの間。

 

「……うん」

 

短い返答。

 

それだけで、現実が確定する。

 

視線がゆっくり落ちる。

 

「……あの人は、優秀でした」

 

ぽつりと零れる。

 

「私と対等に話せて、判断も早くて……」

 

言葉が細くなる。

 

「危険だと判断したのは、私です」

 

淡々と続ける。

 

「制御できない可能性があると考え、拘束を選びました」

 

呼吸がわずかに乱れる。

 

「外部に任せたのも、私の判断です」

 

声に重さが乗る。

 

「結果として、あの人は亡くなった」

 

言い切る。

 

その瞬間、内側が崩れる。

 

「……確認していませんでした」

 

小さく呟く。

 

「報告だけで安全だと判断していました」

 

視線が揺れる。

 

「任せたまま、見ていなかったんです」

 

言葉が少しずつ崩れていく。

 

「守るべき相手を、自分の手から離して……」

 

声がかすれる。

 

「管理しているつもりで、全部外に任せていました」

 

呼吸が浅くなる。

 

「信じてくれていたのに……」

 

あの言葉が浮かぶ。

 

『あなたの判断なら、それが最善です』

 

胸が締め付けられる。

 

「……その結果が、これですか」

 

声に怒りが混じる。

 

「何一つ、最善になっていません」

 

言葉が強くなる。

 

「判断も、確認も、責任も……全部足りていません」

 

一拍。

 

「いえ……足りていないどころではありません」

 

息が乱れる。

 

「全部、間違っていました」

 

はっきりと言い切る。

 

「見落としではありません」

 

「最初から、何もできていなかったんです」

 

肩が震える。

 

「分かっているつもりで……全部、任せていました」

 

声が崩れていく。

 

「どうして、確認しなかったんですか……」

 

震える声。

 

「どうして、任せたままにしたんですか……」

 

抑えきれない。

 

「どうして、あの人を……」

 

言葉が途切れる。

 

「……ごめんなさい……」

 

かすれた声。

 

「ごめんなさい……」

 

繰り返す。

 

「私が……全部……」

 

言葉が詰まる。

 

涙がこぼれる。

 

「守れる位置にいたのに……」

 

記憶が刺さる。

 

「自分で遠ざけてしまいました……」

 

声が震える。

 

「……何をしているんですか……私……」

 

怒りが自分に向く。

 

次の瞬間、体が崩れる。

 

「……っ……」

 

息がうまくできない。

 

「……ごめんなさい……!!」

 

押し出すような声。

 

拘束されたまま床に縋る。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

止まらない。

 

それしか残らない。

 

理屈も判断もすべて崩れたあとに残ったのは、

 

自分が選んだ結果と、その重さだけだった。

 

その現実から逃げることもできず、カヤは泣き崩れ続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。