いつもと同じ道。
アビドスの風は、今日も乾いていて、どこか落ち着いていた。
「……たまには、こういうのもいいな」
誰に言うでもなく、独り言をこぼす。
背後の気配には、気づけなかった。
次の瞬間、意識が大きく揺れる。
視界が歪み、足元が崩れた。
「……っ……?」
何が起きたのか分からないまま、意識が遠のいていく。
⸻
薄暗い空間。
意識がゆっくりと浮上する。
「……っ……」
体が重い。思うように動かない。
目を開けると、そこには一人の男が立っていた。
整った身なり。
静かな佇まい。
だが、その視線は鋭く、冷たい。
「……目が覚めたか」
低く、抑えた声。
ゆっくりと距離が詰まる。
「貴様は……何も分かっていない」
その言葉には、明確な敵意が宿っていた。
「アビドス……」
その名を口にした瞬間、ほんのわずかに感情が揺れる。
「私の手から、すべてを奪っていった場所だ」
静かに吐き出される言葉。
「地位も、権限も……私が築いてきたものも」
一拍置いて、目を細める。
「貴様らは、それを正当な結果だとでも思っているのか?」
重い沈黙。
そして、はっきりと告げる。
「ならば、その結果が何を生むのか——自分の体で確かめるがいい」
そこからのことはあまりに悲惨だった。
一本一本指を折られ
殴られ、蹴られ
目玉をくりだされ
最後に、縄で首を絞められ、ゆっくりと、悶え苦しみながら、死んだ。
⸻
ホシノ視点
「……◻️◻️?」
◻️◻️の連絡は、途絶えた。
胸の奥がざわつく。
「……先生」
すぐに連絡を入れる。
返ってきたのは、アビドス郊外の廃墟にあるという情報。
「……なに、それ」
嫌な予感が、確信に変わっていく。
「……行くしか、ないよね」
走る。
息が上がっても、止まれなかった。
⸻
廃墟の中。
空気は、冷たく、重い。
何も言葉が出ない。
ただ、そこに在る「現実」だけが、静かにホシノの心を押し潰していく。
「……◻️◻️」
声は、かすれていた。
近づくたびに、足が震える。
信じたくない。
認めたくない。
それでも——目の前の光景は、否定を許してくれない。
「……ねえ……」
そっと、手を伸ばす。
触れた瞬間、指先に伝わる冷たさに、呼吸が止まる。
「……うそ……でしょ……」
視界が揺れる。
「……なんで……」
喉の奥が締めつけられる。
「……どうして……」
声がうまく出ない。
胸の奥に、ずっと押し込めていたものが、崩れ始める。
「……守るって……」
小さく呟く。
その言葉が、自分自身に突き刺さる。
「……守るって、言ったのに……!」
叫びは、抑えきれなかった。
声が震え、空間に響く。
「……どうして……どうしてこんなことに……!!」
感情が、溢れる。
悔しさ。
後悔。
怒り。
無力さ。
全部が、ぐちゃぐちゃに絡み合って、胸を締めつける。
「……私が……」
言葉が途切れる。
「……私がちゃんとしていれば……!」
拳を握る。
震えが止まらない。
「……こんなの……こんなのって……!!」
もう一度、叫ぶ。
叫んでも、何も変わらない。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
崩れてしまいそうな自分を、どうにか繋ぎ止めるように。
やがて、声は途切れる。
廃墟には、再び静寂が戻る。
ただ残るのは——
どうしようもなかったという事実と、
「守れなかった」という、重く、深い痛みだけだった。
ホシノはその場に立ち尽くしたまま、
ただ、静かに震えていた。