ホシノside
夢を見ていた。
私が◻️◻️の胸ぐらを掴んで、責め立てて、そのまま、◻️◻️が崩れ落ちる夢。
夢を見ていた。
廃墟の奥。
誰も来ない場所で、◻️◻️がひとり、倒れている夢。
夢を見ていた。
私が、見間違えて。
敵だと決めつけて。
引き金を引く夢。
夢を見ていた。
限界まで働かせて。
壊して。
最後には、動かなくなる夢。
夢を見ていた。
言葉で追い詰めて。
心を壊して。
何も残らなくなる夢。
ゆめを、みていた。
何度も。
何度も何度も何度も。
繰り返される。
同じ結末。
違う過程。
けれど、最後は必ず――
失う。
まるで現実のように、鮮明に。
逃げ場なんて、どこにもなかった。
「……先輩!起きてください、ホシノ先輩!」
「……んぅ……」
意識が浮かび上がる。
目を開けると、すぐ近くに後輩たちの顔があった。
覗き込むように、不安そうに。
「大丈夫ですか?ホシノ先輩、とっても苦しそうでしたよ?」
ノノミちゃんの声が、やけに遠く感じる。
「おじさん、ちょっと怖い夢を見ちゃっただけだよ〜」
口は、いつも通りに動く。
軽く、誤魔化すように。
でも。
胸の奥に残った感覚だけは、消えない。
――あれは、本当に夢だったのか。
そんな疑問が、こびりついて離れない。
「◻️◻️は?」
気づけば、口に出ていた。
「ん、知らない」
シロコちゃんの短い返事。
その瞬間。
頭の奥で、何かが弾ける。
廃墟。
冷たい床。
動かない身体。
「……っ!!」
息が詰まる。
反射的に通信端末を掴み、連絡を入れる。
『もしもし、どうしたホシノ?』
声。
生きている声。
その事実だけで、胸が強く締め付けられる。
「◻️◻️は銃弾一発で死ぬんだから迎えに行くね〜」
『いきなりだな!?』
困惑した声。
いつもの調子。
それが、逆に怖い。
「場所教えて〜」
『はぁ……今DU地区のショッピングモールにいる』
遠い。
でも――
嫌な予感だけが、はっきりと残る。
「うへ〜、おじさんが行くまで待っててね〜」
切る。
それ以上、聞いていられなかった。
◻️◻️side
「……おい、って切るのかよ」
呆れたように呟く。
手には、大きな鯨のぬいぐるみ。
ふと、それを見る。
「なんであんな焦ってるんだ……」
軽く笑おうとして、やめる。
『銃弾一発で死ぬ』
その言葉だけが、妙に残っていた。
(……まあ、間違ってはないけどな)
小さく息を吐く。
とりあえず、時間を潰そうと、近くの喫茶店へ向かった。
ホシノside
「おーい!ホシノー」
声が聞こえる。
顔を上げる。
横断歩道の向こう。
そこに、◻️◻️がいた。
無傷で。
普通に立っていて。
その手には――
鯨のぬいぐるみ。
「……よかった」
思わず、声が漏れる。
全身から力が抜ける。
安堵。
それと同時に、気づく。
(あれ、この前私がほしいって言った……)
視線が、自然と引き寄せられる。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
(もしかして、私に……?)
そんな考えが浮かぶ。
ほんの一瞬。
本当に、ほんの一瞬だけ。
――夢のことを、忘れた。
信号が青になる。
◻️◻️が、歩き出す。
こちらに向かって。
一歩。
また一歩。
その瞬間。
視界の端で、何かが動いた。
理解するより、早く。
身体が動くより、遅く。
衝撃音。
◻️◻️の身体が、宙に浮いた。
「…………は?」
思考が止まる。
音が消える。
世界が、遠くなる。
目の前にあるのは――
動かない身体。
広がる赤。
ぬいぐるみが、転がっている。
夢と、同じ光景。
「……また、守れなかった?」
言葉が、勝手に零れる。
足元が揺れる。
現実が、崩れていく。
「……私は、何のために……?」
ゆっくりと近づく。
逃げることもできずに。
足を止めることもできずに。
すぐそばに、鯨のぬいぐるみ。
赤の中に沈みながら、静かに揺れている。
「……私の、せいだ」
膝が崩れる。
そのまま、身体を預ける。
冷たい感触。
動かない。
何も返ってこない。
「……ぁあああああああああ!!」
叫ぶ。
けれど。
涙は出なかった。
何も感じられない。
ただ一つだけ。
確かに残っている感情。
――絶望だけが、そこにあった。