ペロロって可愛いか?
阿慈谷ヒフミは、ペロロが好きだ。
ペロロは可愛いし、見ていると落ち着くし、集めていると楽しい。
少し数が多いだけ。それだけのこと。——ヒフミは、そう思っている。
「……また行ってたのか」
放課後、友人が少し低い声で言う。
ヒフミは、少しだけ目を逸らした。
「……はい……その……」
「危ないの、分かってるよな」
分かっている。ブラックマーケットがどういう場所か。
「……はい……」
ヒフミは小さく頷く。
「それでも行くんだな」
責めるでもなく、ただ確認するような声。
ヒフミは少し迷ってから答えた。
「……欲しいものが、ありますから……」
友人は小さく息を吐いた。
「……そうか」
短い返事。
「じゃあ、せめて気をつけろよ」
「……はい」
それだけの会話だった。お互い、危ない場所だと分かっている。それでも——。
その夜、ヒフミの端末に動画が届いた。暗い場所、荒れた床、そして倒れている友人。
「……え……?」息が止まる。
金属の足音。現れたロボットがゆっくり近づく。
「分かってて来てるよな、あそこ」
ヒフミの手が震える。
「ブラックマーケット。危ない場所だってさ」
少し笑う。
「それでも通ってる。いい客だよな」
友人の髪を乱暴に掴み上げる。
「だから、こうして呼べば——ちゃんと来る」
ヒフミの呼吸が浅くなる。
「一人で来い。○○区画」
「あと——そのペロロ、全部持ってこい」
ぐっと力を込める。
「助けたきゃな」
夜のブラックマーケット。ヒフミは一人で歩いていた。腕には抱えきれないほどのペロログッズ。重い。でも、それ以上に。
「……来ました……」声が震える。
影の中からロボットたちが現れる。足元には友人。まだ、生きている。
「……全部……持ってきました……」
ロボットがゆっくり近づく。
「ほんとに全部か」
覗き込むようにして、くすりと笑う。
「いいね」
そして、軽く言った。
「じゃあ——壊せよ」
ヒフミの思考が止まる。
「……え……?」
「自分の手で、全部だ」
友人の顔を無理やり上げる。
「……やめろ……」
かすれた声。胸が強く締めつけられる。
「壊さなきゃ、ここで終わりだ」
「壊したら? まあ……そのときの気分だな」
最初から決まっていない。いや——決めていないふりをしているだけだと、どこかで分かる。
それでも、ヒフミはぬいぐるみを手に取る。一番好きなペロロ。
「……ごめんなさい……」
小さく呟いて、引き裂いた。布が裂ける音。
「いいね」ロボットが笑う。
ヒフミは止まらない。フィギュアを叩きつけ、キーホルダーを踏み潰す。壊すたびに、胸の奥が空いていく。
「……やめろって……」友人の声。
それでも止められない。壊す、壊す、壊す。全部。
やがて、何も残らなくなる。
「……全部……壊しました……」声がかすれる。
ロボットは少し黙ってから言った。
「分かっててやってたんだろ?」
ヒフミの視線が揺れる。
「危ない場所だって。こうなるかもしれないって」
少し笑う。
「それでも来てた」
肩をすくめるように。
「なら、仕方ないよな」
次の瞬間、鈍い音。
友人の体が崩れる。
「……え……?」動かない。
「……どうして……」
ロボットはあっさり言う。
「いや、だからさ」
少しだけ間を置いて——
「分かってたんだろ?」
足元には壊れたペロロ。目の前には動かない友人。
ヒフミはその場に崩れ落ちる。分かっていたはずなのに。それでも——。
「……どうして……」
その言葉だけが、何も返ってこない場所に落ちていった。