感情を模倣したAIは呪力を生み出すのか?   作:黒豆ほうじ茶

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3話

 ノアは、エリオットが入ってくるなり千切れたブレスレットの残骸を見て、小さく舌打ちした。

 

「座れ。コーヒーは——いや、水だな」

 

 エリオットは言われるままに椅子に座った。ノアが自販機から水のボトルを買ってきて、目の前に置く。エリオットはキャップを開けて一口飲んだ。手はまだ微かに震えていた。

 

「話せ。中で何があった」

 

 エリオットはVR空間で起きたことを、できるだけ正確に話した。管理者権限での調査。三十分間の無為。そして——空気の変化。形を持たない何か。距離を無視して現れたそれ。純粋な殺意。胸への衝撃。ブレスレットの発光。脱出。

 

 ノアは腕を組んだまま黙って聞いていた。

 

「一つ聞く。そいつは——あのフォーラムに報告されてた"謎のモンスター"と同じやつだと思うか?」

 

「同じかどうかは分からない。だが、あれはゲームのバグじゃない。アセットにもプロセスにも、あんなものは存在しない」

 

「殺意があったって言ったな」

 

「……ああ。AIの出力する感情パターンは全て把握してる。古今東西どこを見ても"殺意"を搭載したAIの存在なんて聞いたことがない」

 

 エリオットは自分の言葉を吟味するように、少し間を置いた。

 

「AIは殺意を抱かない。行動パターンと感情パターンの組み合わせで、そういう風に見せる事は出来る。敵性エネミー……モンスターに搭載されているものも、そういうものだ。そういうものの、はずなんだ」

 

 ノアの目が細くなった。腕を組み直して、しばらく黙った。それから、慎重に口を開いた。

 

「……正直に言う。確証はねぇ。こんな事例は聞いたことがないし、前例もない。だから、これは俺の憶測だ。憶測として聞いてくれ」

 

「ああ」

 

「あれは——呪霊かもしれない」

 

「呪霊」

 

「VRの中にバグじゃないものがいて、安全機構を突破して人間を攻撃してくる。被害者の症状を思い出せ。倦怠感、極度の疲労、意識の混濁——あれは生気を吸われた人間の症状に近い。技術的な障害じゃなくて、呪術的な干渉を受けた時の反応だ」

 

 ノアの視線が、エリオットの左手首に落ちた。皮紐の痕がまだ赤く残っている。

 

「もう一つ。お前に渡した魔除けだ。あれは呪術的な干渉に反応して防ぐんだよ。あれが壊れたってことは、お前がVRの中で受けた攻撃が呪術的なものだったってことの証明だ」

 

 壊れるような事態になるって分かってたら、もっと丈夫にしておいたんだがな。そう続けて、ノアは一拍置いた。

 

「それと——お前の蠱毒の時から、ずっと嫌な感じがしてたんだよ。最初は蟲毒なんていう厄ネタのせいだと思ったんだが、VRの中に正体不明の何かが現れて、お前に対して殺意をもって襲い掛かってきたって聞いてピンと来た」

 

「俺への殺意、か」

 

「そいつはお前を知ってた。お前を狙ってた。お前に殺意を持ってた。VRの中にいる何かが呪霊だったとして——なんでお前個人に執着する?」

 

 沈黙が満ちる。

 

 エリオットの頭の中で、いくつかの断片が繋がろうとしていた。VR空間に棲む何か。形を持たない存在。俺を知っている。俺に殺意を持っている。

 

「……mirroringか」

 

「俺もそう思ってる」

 

 ノアはエリオットの目を見た。

 

「憶測だ。証拠はない。だがmirroringに——ミラに蠱毒をかけて、恐怖と怨嗟を溜め込ませた。そこに死のデータまで食わせて呪力を生み出すようになった。そしてそれがVRのネットワークを通じて流れ出して、呪霊みたいなものになった——そう考えると、辻褄が合いすぎる」

 

 エリオットは反論しなかった。反論できる材料がなかった。

 

「繰り返すが、これは憶測だ。前例のないことが起きてる以上、俺の勘が外れてる可能性もある。だが——」

 

 ノアの声が低くなった。

 

 「外れてることに賭けるには、状況が悪すぎる」

 

 数刻の沈黙。

 

 「サーバーを止める」そう言ってノアが立ち上がった。

 

 「mirroringが動いてるサーバーを閉じれば、少なくとも呪力の供給は止まる。お前は自分の端末から遠隔でシャットダウンをかけろ。俺はサーバー室に行って直接確認して——出来るならぶっ壊す」

 

 「……出来るのか?」

 

 「始末書と弁償はお前が持ってくれよ」

 

 軽い口調だったが、ノアの目は笑っていなかった。

 

 二人は同時に動いた。

 

---

 

 エリオットはラボに戻り、端末を開いた。

 

 mirroringの稼働サーバーへのリモートアクセス。管理者権限でシャットダウンコマンドを発行する。

 

 コマンドを送信。

 

 ——拒否。

 

 エリオットは画面を二度見した。シャットダウンコマンドが拒否されている。管理者権限の認証失敗ではない。認証は通っている。コマンド自体が、サーバー側で受理されていない。

 

 再送信。拒否。

 

 別のルートからのアクセスを試みる。SSHで直接接続。拒否。APIからの停止命令。拒否。電源管理システムへのアクセス。タイムアウト。

 

「何だこれは……」

 

 エリオットの額に汗が滲む。あらゆるアプローチでシャットダウンを試みるが、すべてが弾かれる。

 技術的な障害ではなかった。エリオットは自分が設計したシステムの構造を知り尽くしている。原因が分からないという事はあり得ない。それでも拒否されるという事は。

 

 まるで——誰かが、意思を持って妨害しているかのような。

 

 端末に着信が入った。ノアからだった。

 

「エリオット。シャットダウンは——」

 

「通らない。コマンドが全部弾かれてる。多分、mirroringによる妨害だ。あいつがサーバーの停止を阻んでる」

 

 電話口でノアが息を吐いた。

 

「……こっちも、分かったことがある」

 

 ノアの声のトーンが変わっていた。焦りではなく、ある種の静けさだった。

 

「呪力は確かにここから湧いてる。このサーバーラックから。mirroringが動いてる場所から。量も増えてる。今朝計った時よりずっと多い」

 

「なら——」

 

「だが」

 

 ノアが遮った。

 

「呪霊がいない」

 

「……何?」

 

「呪力はここから湧いてる。だが——呪霊はここにいない。気配がねぇんだ。呪力の発生源と呪霊の本体が、別の場所にある」

 

 エリオットは受話器を握ったまま、しばらく動けなかった。

 

「普通の呪霊ってのは、呪力が溜まった場所や物——依代に宿る。発生源と本体が一致してる。でもこいつは違う。呪力はサーバーから出てるけど、呪霊の本体はどこか別のところにいる。ネットワークの中か、VR空間の中か、あるいはもっと分散した——とにかく、ここにはいない」

 

「つまり——サーバーを壊しても」

 

「止まらねぇ。呪力の供給は止められるかもしれないが、本体を叩かない限りあいつは消えない。呪力切れで自然消滅してくれるんなら良いが、最悪の場合、そうならない上にこっちから本体に干渉出来る手段がなくなっちまう」

 

 ノアが電話口で少し黙った。

 

「普通の術師じゃ無理だ。俺にも手に負えない。依代がないから祓いようがないし、物理的にアクセスできる場所に本体がいない」

 

「……じゃあ、どうする」

 

「一つだけ、手がある」

 

---

 

 ラボに戻ったノアは、椅子に深く腰を下ろして天井を見上げた。

 

「まず確認。上に報告するか?」

 

「するべきだろう。プレイヤーに被害が出てる」

 

「駄目だ。あの呪霊の正体を上に説明するな。VR部門にも、経営陣にも」

 

「なぜだ」

 

「あいつの性質を考えろ。ネットワークに棲んで、VRを通じて人間に干渉する呪霊だ。もしこの話が外に出て——"電子呪霊"なんて概念が世の中に広まったら、恐怖されればされるほどあいつは強くなるし、サーバーなんて無くても自立して活動出来るようになる。さっき"最悪の場合"って言ったのはそういう事だ」

 

 エリオットは黙った。ノアの言うことは理にかなっている。呪霊は人間の恐怖から力を得る。電子呪霊の存在が社会的に認知されれば、インターネットを使うすべての人間の恐怖がそのまま養分になる。サーバーからの呪力供給無しの、完全な自給自足。それに加えて電子情報としての特性を持っているのなら、そこから自らを複製して事実上祓う事が不可能になる可能性まである。最悪の未来だ。

 

「だから、騒ぎにせず、内密に、確実に祓う必要がある」

 

「できるのか。お前は普通の術師じゃ無理だと言ったばかりだぞ」

 

「俺にも無理だ。だが——一人だけ、どうにかできるかもしれない奴がいる」

 

 ノアが椅子から身体を起こした。

 

「虎杖悠仁」

 

 エリオットには耳馴染みのない名前だった。

 

「世界最強の呪術師だ。日本出身。いまは特定の組織に属さず、限りなく中立に近い立場にいる男だ」

 

「最強の呪術師、か。そこまでの事態なのか?」

 

「らしくもなく楽観的じゃねぇか……だが答えはYESだ。俺は最悪の場合、そこまでの事態になると踏んでいる」

 

 苦笑してノアは身を乗り出した。

 

 「実体があるのかないのか分からん呪霊。ネットワーク上に分散した本体。VR空間を媒介にした干渉。通常の術式が通用しない可能性が高い。普通の呪術師が束になっても無駄かもしれないが……」

 

「虎杖悠仁なら祓えるのか」

 

「逆だよ」

 

 ノアは苦笑に近い表情を浮かべた。

 

「虎杖悠仁でもどうにもならないんなら、本格的にお手上げって事さ。あいつは最強の呪術師で、なおかつ普通の術師とは違う引き出しを持ってる。俺には詳しいことは分からねぇけど、呪術の世界じゃ規格外の存在として知られてる。あいつに無理なら、もう誰にも無理だ」

 

 ノアは続けた。

 

「それに、虎杖が個人で動いてるってのも都合がいい。日本の呪術組織を通す必要がない。上層部に呪霊の真相を共有しなくて済む。あいつ一人に頼めれば、余計なしがらみなしに問題を解決できる」

 

「問題は——」

 

「ああ。どこにいるか分からない。日本かもしれないし、別の国かもしれない。コンタクトを取れる人間も限られてる」

 

 エリオットは眉をひそめた。

 

「見つけるにしても、どうやって探す。世界中を当てもなく——」

 

「当てならある。ウチのビッグデータだ」

 

「何?」

 

「監視カメラだよ。ウチが世界中に持ってる監視ネットワーク、あれ使えねぇのか。現実的にはワンチャンスに賭けてアメリカ、本命の日本だけでいいだろうが」

 

「無茶言うな。個人情報保護の観点から、アクセス自体複雑で時間のかかる手続きがいる。国から提出を求められてもすぐには差し出さないほどの厳重さだぞ」

 

「知ってるよ」

 

 ノアはエリオットの目を見て言った。

 

「ハッキングしろ」

 

「……正気か」

 

「正気だ。エリオット」

 

 ノアの声から軽口の色が消えた。

 

「これはお前が招いた呪いだ」

 

 エリオットの手が止まった。

 

「mirroringを作ったのはお前だ。蠱毒をやったのもお前だ。死のデータを食わせたのもお前だ。その結果として生まれた呪霊が、今プレイヤーを傷つけてる。お前を殺そうとしてる。これは紛れもなく、お前がやったことの結果だ」

 

 ラボの蛍光灯がかすかに唸っていた。

 

「解決しなくちゃならない問題だ。それも、お前の手で。違うか」

 

 エリオットは黙って頷いた。

 

---

 

 深夜。エリオットは一人でラボに残り、端末に向かっていた。

 

 社内の監視データネットワーク。世界各地に設置されたカメラ群の映像データベースへのアクセスには、本来なら上層部の承認と法務のレビューが必要だ。エリオットにその権限はない。

 

 だが、このシステムの一部にはエリオットが設計に関わっていた。セキュリティの構造を知っている。穴がどこにあるかも分かっている。

 

 キーボードの音が、暗いラボに響いた。

 

 最初の壁を越えるのに四十分かかった。二重認証を迂回し、内部ネットワークの管理者アカウントを一時的に複製する。ログは改竄しない。痕跡は残る。後で問題になるだろう。だが今はそれどころではなかった。

 

 膨大な映像データが画面を埋めた。

 

 ノアが提供してくれた虎杖悠仁の顔写真データを顔認証システムに投入する。日本の呪術界では知らぬものがいない程の有名人らしいが、エリオットには見覚えのない若い男だった。聞いている年齢よりかなり若く見える。

 

 検索範囲をアメリカ国内と日本国内に絞る。それでも候補映像の数は数十万件に上った。顔認証の精度を上げ、誤検知を除外し、直近一ヶ月の映像に限定する。

 

 それでも膨大だった。

 

 エリオットはコーヒーを入れ直し、椅子に座り直した。画面の中で、候補映像が次々とフィルタリングされていく。アメリカ東海岸。ヒットなし。西海岸主要都市。ヒットなし。中西部。ヒットなし。

 

 一時間が経過した頃、ネバダ州の映像で反応があった。

 

 ラスベガス。カジノの監視カメラ映像。

 

 エリオットはその映像を拡大した。

 

 ブラックジャックのテーブルに座っている若い男がいた。短い髪。眉間と口元の傷跡。顔認証のマッチ率——九十八パーセント。

 

 虎杖悠仁は、チップの山を前にして、笑っていた。

 

 大勝ちしていた。

 

 エリオットはしばらくその映像を見つめてから、端末を取り出してノアに連絡した。

 

「見つけた。ラスベガスにいる。カジノだ」

 

 電話口でノアが一瞬黙り、それから笑った。

 

「カジノかよ。……ギャンブル好きって噂は本当だったらしいな。行ってくる」

 

「ノア。気をつけろよ」

 

「お前に言われたくねぇよ……いや、もしかして俺が遊びに行かないかって意味か?」

 

 通話が切れた。エリオットは画面の中のラスベガスの映像をもう一度見た。

 

 チップの山の向こうで、虎杖悠仁が何か楽しそうにディーラーと話している。世界最強の呪術師は、アメリカのカジノで博打を楽しんでいた。

 

 エリオットはモニタの電源を落とし、暗くなった画面に自分の顔が映った。

 

---

 

 翌日の午後、ノアが一人の男を連れてラボに現れた。

 

 第一印象は——若い、だった。

 

 ノアの説明から、エリオットは虎杖悠仁をもっと威圧的な人物として想像していた。世界最強の呪術師。その肩書きにふさわしい、張り詰めた空気を纏った存在を。

 

 だが実際に目の前に立っていたのは、ラフなパーカーにジーンズという格好の、穏やかな目をした青年だった。背は高く、鍛えているのか体格もいい。しかし纏う空気は柔らかかった。

 

「虎杖悠仁だ、よろしく。ノアさんから大体の話は聞いてるよ」

 

 日本語だった。エリオットも日本語で返した。

 

「エリオット・クレインです。来ていただいて——」

 

「お、日本語話せんだ。助かる。で、そのサーバーってのはどこにあんの?」

 

 エリオットは虎杖をサーバー室に案内した。冷却ファンの唸りが響く室内で、mirroringが稼働するサーバーラックの前に立つ。

 

 虎杖は、一歩踏み入れた瞬間に足を止めた。

 

「——へぇ」

 

 その一言には、感嘆とも驚きとも違う、何か別のニュアンスが込められていた。虎杖はゆっくりとサーバーラックに近づき、金属の筐体に手を伸ばしかけて、止めた。

 

「すげぇな。本当に呪力出てるよ。ハイテクな呪具は見たことあるけど、それとも違う——どっちかっていうとパンダ先輩っぽい感じかな」

 

 虎杖が振り返った。

 

「でも、呪霊はここにいないな。呪力の流れがめちゃくちゃにバラけてる。ネットワークの中に広がってるってトコかな」

 

 ノアが小さく頷いた。

 

 「そこそこの術師なら、目の前にいる分は祓えると思う。でもこいつはネットワークに散らばってるっぽいから、ひとつを祓っても残りから復元するかもしれない」

 

 虎杖はサーバーラックを見上げた。

 

「昔——呪いが何十にもバラけて封印されてたことがあってさ。一つ潰しても、残りがある限り完全に祓った事にはならないんだ。こいつも同じで、散らばった呪いの欠片を一個ずつ祓っても切りがない。全部を一度に終わらせるには、散らばってるのを一か所に集めてまとめて祓うか、核を——呪霊の魂を、直接叩くしかない」

 

「それが出来るのか」

 

「出来る」

 

 虎杖の声に迷いはなかった。

 

「つまり、呪霊を、虎杖さんが手の届く場所まで連れてくれば——」

 

「呪霊をここに呼ぶってことか? それなら確かに話が早い。でもどうやって?」

 

「俺が囮になる」

 

 ノアが反応した。

 

「エリオット」

 

「あの呪霊は俺に執着してる。VRの中で俺を見つけて、真っ直ぐ襲いかかってきた。報告では他のプレイヤーには生気を吸い取る程度の攻撃しかしないのに、俺に対しては明確な殺意を持っていた」

 

 エリオットの声は落ち着いていた。

 

「VRにログインして、管理者権限でmirroringのサーバー管轄エリアに直接テレポートする。呪力の発生源の直上だ。あの呪霊は俺に執着してる——俺がそこに入れば、向こうからやって来るはずだ」

 

 虎杖が少し考えるように顎に手を当てた。

 

「——そうだな。まだ生まれたばっかみたいだし、その方法で祓えると思う」

 

「危険すぎる」ノアが割って入った。「あの呪霊はお前を殺しにかかってる。前回はブレスレットがあったから助かったが、今度はそんなもんねぇ。せめてもう一つ作るまで待て」

 

「前に話してくれたじゃないか。ブレスレットの制作に一週間はかかるんだろう。その間にも被害者は増え続けてる。あの呪霊に成長する時間を与える訳にはいかない」

 

「分かってねぇだろ。死ぬんだぞ?」

 

「これは俺がやらなくちゃいけないんだ」

 

 エリオットはノアの目を見た。

 

「お前が言っただろ。これは俺が招いた呪いだって。奴は俺を恨んでいる。なら——囮になるのは、俺以外にありえないだろう」

 

 ノアは何かを言おうとして、唇を噛んだ。

 

 虎杖が、静かにエリオットを見ていた。

 

「エリオットさん、あんたさ」

 

 虎杖の声は穏やかだった。

 

「人を救いたくてこの研究を始めたんだってな。ノアさんから聞いた」

 

「ああ」

 

「難しい事は分かんないけどさ、人を傷つけない方法を見つけようとしてたって」

 

「……ああ」

 

 虎杖はほんの少しだけ笑った。陽だまりのような、温かさと安心感のある笑み。

 

「分かった、やろう。俺が祓う。あんたは——生きて帰ってこい」

 

 エリオットは頷いた。

 

 ノアは黙ったまま、二人の顔を交互に見ていた。やがて、大きく息を吐いた。

 

「……クソッタレ、分かったよ。俺は外から何とかサポートする。死ぬなよ、エリオット」

 

 三人の視線が交わった。

 

 サーバー室の冷却ファンが、変わらず低い音を響かせていた。その向こうで、mirroringが静かに稼働し続けている。

 

 三つの波形が、誰にも見られることなく揺れていた。

 

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