あべこべ奇天烈平安京⛤   作:白石基山

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其の捨、蘆屋道満

 陰陽寮に属しておらず、市井の陰陽師として放蕩の日々を過ごす一人の陰陽師がいた。

 かの高野山で修行をし、高野山一の天才と言われた蘆屋道満である。

 蘆屋道満の特異な点は髪色に出ている。

 彼女の髪色は濃い紫色。陰陽師の青系でもなく、武士の赤系でもなく紫。彼女はその両方を限りなく高い能力を持って産まれた。

 彼女にとって修行はつまらなかった。

 人が一年掛かるものを一週間で習得した。高野山に一年も入れば能力的には師を超えた。されど知識はどんよくに吸収し、高野山内で誰しもが一番は蘆屋道満だと言った。

 結果、体よく追い出された。興味がある仕事しかしない、自由が好きな天才蘆屋道満は邪魔になったのだ。

 まあそれはそうだろうなと道満自身も納得はした。ちょっとした意趣返しで高野山に呪いを仕掛けもしたが、まあ許容範囲だろうと道満は思った。気が済んだら解こうと思っていた、その意趣返しを解いたのが高野山の陰陽師ではなく平安京の陰陽寮に所属している安倍晴明だというのだから、道満が興味をもつのも当然で道満の足を平安京に運ばせるには充分な理由だった。

 が、いざ来てみたら面倒になり適当に都会の男を漁りながらその日暮らしを始めてしまったのだ。

 

 少し時が経つ。道満は平安京には来ていたが、たまーに仕事をして稼ぐくらいで後は九十九人の恋人の家を、日によって変えながらろくでもない生活していた。

 ある日、そのうち一人から道満は質問を受けた。

 

 

「道満様は加茂雨陰とは寝たの?」

「いや?」

「そう、道満様はモテるから意外だね。あ、誰とでも寝る男は嫌か」

 

 

 くすくすと笑うその男に「そうだね」と笑顔で返しながら、お前もそうだろと道満は内心で毒づいた。

 加茂雨陰のことは道満も聞いたことがあった。

 たしか一時期高野山でも話題になった、男陰陽師だ。

 そうか、そういうのがいた。面白そうだと思った。まず道満は加茂雨陰について調べることにした。

 

 調べると、加茂雨陰は悪い噂のとても多い男だった。

 誰とでも寝ると聞いた。

 偉い女と寝て陰陽寮に入ったと聞いた。

 源氏武士団全員と寝たとも聞いた。

 あの安倍晴明が入れ込んでいると聞いた。

 安倍晴明と源頼光の愛人だとも聞いた。

 他にもだいたい悪口が多かった。

 

 妙な話である。

 

 まず誰とでも寝ている男と、寝た女がまるで見つからなかった。

 加茂雨陰は顔が良く、一晩相手をしてみたいという女は多かった。流石に安倍晴明や源氏武士団まで直接調べてはいないが、噂通りならすぐに見つかっても良いはずだった。

 加茂雨陰は貴族子男である。姿も顔を隠さないまでは変わり者の範囲で収まる。だが貴族である加茂家が色々な噂に対して火消しをしている様子がまるでない。諦めているのだろうか。いや違う。

 源氏武士団の頭領、源頼光は清和源氏の三代目。その頼光が、自身も関わる醜聞を放置している。頼光自身が気にせずとも周りが許さないだろうはずのその醜聞を放置している。

 安倍晴明、源頼光ともに婿を迎えていてもおかしくない年齢である。どちらかの家に入っていてもおかしくはない。というか二人とも婚姻をしていないのに愛人とはどういうことか。二人が入れ込んでいる、というだけは間違いないらしいのでここはややこしいところ。

 偉い人と寝て陰陽寮に入った。ありえない。陰陽寮は国家直属の機密の塊である。入りたくて入れるものではない。高野山で修行した幾人もの陰陽師がその門の前で弾き飛ばされている。あそこに所属出来る陰陽師は、須く化け物なのだ。

 噂の出所を探せばだいたいは一人の男にたどり着いた。

 紫式部。

 国婿様の世話係である男だ。

 しかもその紫式部と加茂雨陰は友人らしい。加茂雨陰は自身の悪い噂を流す男と友人でいるらしい。

 ということは、だ。

 なんらかの理由で加茂雨陰は自身の悪い噂を紫式部を通じて流し、安倍晴明や源氏武士団の連中もそれに噛んでいる、と見れば一つの線が繋がるというもの。

 

 理由がさっぱりわからない。

 

 面白い。道満は直接探りを入れることにした。

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

「そこの立派な武士さんや。……あ、ちょっと。待ってくれよ源氏武士団のお人」

 

 

 家を出て内裏へ向かう途中の渡辺綱に、山伏の様相をした道満が声を掛けた。源氏武士団の人間は着物や羽織の背中に大きな源氏武士団を表す紋様が入っており、源氏武士団と声を掛けられるのは珍しいことではない。

 綱は自分単体が呼ばれているようなら無視をするつもりだったが、源氏武士団と言われれば立ち止まるしかなかった。

 

 

「……何用か? 依頼なら詰所のほうにお願いする」

「あーいや、ちょっと聞きたいことがあってね」

 

 ヘラヘラと話す山伏に、綱は立ち止まったことを後悔する。

 

「……なんだ?」

「いえね。ほら、加茂雨陰ってさ、アッチの具合はどうなんだろうってさ。アンタなら知ってるんだろ?」

 

 道満はそんなことを言いながら、片手で輪を作りもう片手でその輪を突き刺し往復する。なんとも卑猥な動作をした。

 

「……? ……ぁ」

 

 数秒、間を置いて話を理解した綱が顔を赤くし、会話を返さずその場から立ち去った。その様子を見た道満は、渡辺綱はモテそうな容姿のくせに未貫通女のようだと感じた。

 

「勿体無い奴。しっかしアタシの説、意外と当たってるのかもねえ」

 

 当たっているとしたら、尚更意味が分からない。

 加茂雨陰とは何者なのだろう。

 まあすぐに会えるだろう。どうせその辺をうろうろしているらしいから。

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