あべこべ奇天烈平安京⛤   作:白石基山

2 / 6
其の弐

 陰陽寮に所属する陰陽師の主な仕事。

 

 一つは暦の作成と配布。暦の作成や日付ごとの吉凶、禁忌の方角・時間、行事の日取りを記載。それは帝や貴族に配布され、日常生活や政治の指針になるものでとても大切な仕事だ。

 一つは占いと吉凶判断。 日時・方位の吉凶を占う。建築・遷都・旅行・行事を行うべき日付を占う。風水で土地の良し悪しを判断。

 一つは天文観測と予知。 星・月・日食・月食・彗星などの観測し、異常現象を国家の異変の前兆として報告する。

 一つは祭祀・祈祷・まじない。疫病・災厄・悪霊を鎮めること。国家儀礼や個人の病除け。

 

 陰陽師は貴族の相談対応も行い、今では民間にて占いや祓いを生業とする者もいる。

 

 日々、陰陽寮の陰陽師達はそれらの仕事をこなし夜が更けても働いているものも多い。悪霊祓いが終わった俺は、綱と別れて内裏にあるそんな陰陽寮に帰る。

 綱から「頼光様の所へ寄っていかないか?」と聞かれたが、今日はなんとなく気分じゃなかったので断った。

 というか頼光さんとこの人達と組むと毎回寄らないかと言われるのはなんでなんだろう。

 

 

「あら、雨陰おかえりー。こっち手伝えー」

「報告した後なー」

 

 

 とてとてと、陰陽寮を歩く。外廊下の軋む音が小気味良く鳴る。

 仕事をこなす陰陽師達から次々と声が掛かるが適当に流しながら、直属の上司である晴明ちゃんの元へ、とてとてと歩く。

 

 

「ういーっす」

「うん、お帰り雨陰」

 

 

 晴明ちゃんに与えられている部屋に俺が来た、と同時に晴明ちゃんが筆を置いた。書き物をする為に夜空に輝く月と同じ色の長い髪を後ろに束ねている。そう。すでに、晴明ちゃんは俺の報告書を書き終えていた。

 

 

「報告、いらなそうだね。どうせ見てたんでしょ?」

「そんなことはない。雨陰から直接聞くのが大切なんじゃないか」

「へいへい」

 

 

 とりあえず羅城門へ行っていつも通り祓ってきたと報告。どうせ全部見てただろうに、ニッコニコで俺の話を聞く晴明ちゃん。

 

 

「……っと、まあいつも通り向こうからきて祓われ逝っただけなんだけどね」

「うんうん。そのいつも通りが起こるのは雨陰だけなんだけどね」

「そこはほら、綱が睨みを利かせてくれてたから」

「チッ」

 

 ん? 舌打ちした?

 

「だいたい頼光んとこの連中距離近過ぎ。私の雨陰に色目使ってんじゃないっつーの。今回もなんだかんだ雨陰の胸元ガン見しやがってウンヌンカンヌン」

 

 晴明ちゃんが明後日の方向を見つめながらブツブツと呟き始める。これが一般人なら放っておくところだが、晴明ちゃんだとマズイ。下手すると呪となり相手が呪われたりする。

 

「くそっ。やっぱり遣唐使として一年も離れたのが間違いだったわ。私の雨陰私の雨陰私の雨陰」

「晴明ちゃん晴明ちゃん」

「ん……。コホン。どうしたのかな雨陰」

 

 わざとらしく晴明ちゃんは咳込み誤魔化す。まったく誤魔化せてないところは可愛い。

 

「悪霊祓いして疲れたなー」

「ああ、気が利かなかったね! 今日は椿餅があるんだ。良かったら一緒に食べないかい?」

「わーい晴明お姉ちゃん大好きー」

「!?!? よ、よしすぐ持ってくるからね!」

 

 晴明ちゃんが勢いよく部屋を飛び出した。

 いつもなら式神に持って来させるのに。チョロくて可愛い。と、思ってたら式神、朱雀に抱えられて帰ってきた。抱えられている晴明ちゃんの手元の皿の上に椿餅。多分すでに式神に運ばせていたのを忘れたのだろう。

 朱雀はデカい。背も体もなんか全部デカい。白い短髪に褐色の肌。あと眼が黒く瞳孔が赤い。

 晴明ちゃんの式神は十二天将と呼ばれ、まあそれはそれはとんでもない存在なのだが、晴明ちゃんは家事やら仕事やら普通に手伝わせている。と、いっても十一神は帝の警護に就かせているので普段は手元に置いているのは一神だけ。今日は朱雀の番らしい。

 

「晴明、雨陰が来てるからと言って浮かれ過ぎだ」

「はーい……」

 

 式神に怒られる陰陽師もそうはいない、というかこんなに自立している式神自体がほとんどいないので、多分こんな現象が起こるのは晴明ちゃんくらいのものだろう。

 そんなことを考えながら、差し出された椿餅をひとくち。つぶつぶもちもち。うましうまし。

 

「ふふ、おかわりもあるからね」

「頼光さんのとこ寄らずにまっすぐ帰って良かった」

「そ、そうだよ!? あの人危険が危ない(?)からね!」

「そう? 真面目でカッコいい素敵な人だと思うけど?」

「それは雨陰の前だけ!」

「そうかなあ? そんなことないんじゃない? 武士団の頭領だよ?」

「そうなの! 危ないの!」

 

 椿餅うめえ。頼光さんとこに寄ると大体甘味を出してくれるので寄ろうかと思ったけど、今日は寄らずに正解だったなと思いながら晴明ちゃんの話を聞き流すのであった。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 上座に座る源氏武士団頭領である源頼光の前で座した渡辺綱は任務を無事に達成し、報告をしに来たのに何故か頼光から威圧を掛けられていた。

 

「綱」

「はい」

「雨陰は?」

「まっすぐに陰陽寮に帰りました」

 

 頼光の眼光が鋭く光る。そんなの見れば分かるだろうに。綱は頭が痛くなってきた。

 

「……何故?」

「仕事だからではないでしょうか。私も報告を」

「そんなことはどうでもいいんです! どうせいつも通りでしょう!」

「それはそうなんですが」

「雨陰に! 『うちに寄らないか?』とは言わなかったんですか!」

 

 頼光がついに怒り出した。脇に控える同じ頼光四天王と言われる碓井貞光、卜部秀武、坂田金時も「あーあ、始まっちゃった」とため息を吐いた。

 しかしである。たかが任務報告に全員が同席することなど普通はない。雨陰が絡んでいるときのみである。つまりこいつらも同じ穴の狢である。

 

「言いましたけど『今日はまっすぐ帰るわ』と言われたので」

「そこで引くのが綱の悪いところです! 金時なら毎回連れてきてくれます!」

 

 金時は一人、幼い。というか本来なら成人前である。本人が成人だと主張し無理矢理成人の儀を行いここに名を連ねているが、まだ街中をきゃっきゃと駆け回っていてもおかしくない年頃である。

 それ故か、金時のわがままを雨陰は「金時は弟みたい」とわりと聞いてくれるので、金時と一緒にされても困ると綱は思う。

 

「どうせまた綱だけ雨陰の肌を見せつけられたりして興奮したりしていたんでしょう!」

「うっ……」

「その反応は図星ですね! このむっつりスケベ! どうして! いつも綱ばかり!」

 

 ついに頼光が畳の上でゴロゴロ転がりダダを捏ね始めた。誰にも見せられない姿である。絶対に雨陰に見せない姿でもある。

 

「いやでも雨陰が勝手に」

 

 と、綱も抗議をしようとするも、外野(同じ頼光四天王)から「綱ばっかりズルいぞー」「むっつりのくせに真面目ぶるなー」「次任務当たったら変われー」と、ガヤが飛んでくる。綱も「お前らも一緒だろうが」と文句を言いたくなるもこれ以上面倒にするのも嫌なのでぐっと堪えた。

 

「はっ! そうだ。次は私が同行すれば!」

「いや頭が同行はマズいでしょう」

「頭は控えてください」

「頭はダメだと思う」

「金時にさえ言われるとか少しは考えたほうが良いのでは?」

「ぐっ……」

 

 四天王の総ツッコミに頼光は黙った。……一瞬だけ。

 

「じゃあ雨陰を連れてきなさいよお! 今頃どうせ晴明が雨陰を独り占めしてるんです! ズルいじゃないですか!」

「いや晴明殿は帝付の陰陽師として忙しくされていますしそれは」

「帝付なのに! 何故か雨陰の上役を兼ねて! 独占しようとしてるんです! 地位を利用して好き勝手してるんです!」

「はあ……」

 

 駄目だ。今日の頭の駄々は長くなりそうだと、綱は早く帰ることを諦めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。