あべこべ奇天烈平安京⛤   作:白石基山

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其の肆

 後宮。

 ここは文化の最先端が集う場所。女子禁制、といった訳ではないが、当然貴族のみが入ることを許されている場所。詩に楽器、蹴鞠など人々は楽しんでいるようで実に争いが絶えない場所でもある。

 俺が通ると、皆袖で口元を隠しヒソヒソと話す。毎度のことながらうざったらしい。源氏武士団の屋敷なんか「おー雨陰やらせろー」「雨陰子供産んでやるぞー」「たまには四天王以外もお相手させろー」とかそこかしこから品もクソもない言葉が飛んでくるが、陰でグチャグチャやってるここよりはそれでもマシだと思う。だいたいそう言った声を上げると、頼光さんらが刀の鯉口を切って黙らせるんだけど。

 

「お! 雨陰相変わらず不機嫌そうな顔だな!」

 

 国婿様の世話役の男房として後宮に勤める紫式部に会う。

 

「半分くらいお前のせいだけどなむっきー」

「はあ? なんで俺なんだよ」

「俺のあだ名、だいたいの名付けお前じゃん。諸悪の原因だ」

 

 そう。悪ふざけで俺のひっどいあだ名をたくさん付けたのはコイツだ。なんで俺コイツの友人やってるんだろうね。

 

「親しみやすいほうが仲良くしやすいだろう?」

「元々珍獣扱いだったのが更にひどくなっただけなんだけど?」

「皆お前が羨ましいんだよ」

「そんなこともないと思うけどね」

 

 実際、ここにいる貴族子男は外にいるより詩を好むだろう。後、噂話大好き。俺なんて格好の餌だもんね。

 

「で、どうだった今回のは」

「うん、そうね。……逆に聞きたいんだけど男の脚を袴からチラッと見せるみたいに書いてあったけど、それで興奮する相手いる?」

「ばっかだな。普段見えないからこそ、少ーしだけチラッと見えるのが興奮するんじゃないか」

「なるほど……そういうもんか。今度やってみよう」

「うんうん、あんまりやるもんじゃあないとは思うけどね!」

「あ、この前胸元チラチラはやってみたけど効果抜群だった」

「え、やったの? マジ? 誰に?」

「綱」

「渡辺綱殿!? 頼光四天王の! 美形武士筆頭じゃん! お前モテモテよあの人!」

「あー、綱はモテるだろうねえ」

「渡辺綱殿は人気よ。武に秀でてて近寄る者は全て斬る! みたいに男女誰にでも冷たくて、言いよる男は絶えないけど皆まともに話すら出来ずに玉砕してるんだよなあ」

「……ん?」

「どうした? 合ってるだろ? 皆そう言ってるけど?」

「ああ……、うん」

 

 誰だそれ。俺の知ってる綱と同名の他人だろうか。話し下手だけど気遣い出来る優しい奴だと思うんだけど。

 

「そんな渡辺殿に胸元チラチラが効いた、ねえ。気のせいじゃないか? モテモテだぞ? 男に耐性がないわけないだろ。取っ替え引っ替えだろ」

「そうかなあ。でも誰かと付き合ってるとか婚姻の話とかないだろ」

「頼光四天王全員、頼光殿が婚姻するのを待っているって話もあるからな。それまで自由を謳歌してるんだろ。後宮でも綱殿と関係を持ったって自慢してる奴も何人かいるんだぜ?」

「え、そうなの? そりゃあ……綱に悪かったかな。気を付けよう」

 

 貴族麗人にモテモテか。綱ならそりゃあそうかと納得する。だとすると悪いことしたかも知れない。もうちょい距離感を考えたほうが良いかな?

 

「あとお前のせいだな」

「なんで俺だよ」

「お前が安倍殿と源殿の間をずっとフラフラしてるからだろ。成人の儀も済ませたんだからさっさとどっちかと婚姻しろって皆言ってるぞ。じゃないと源氏武士団は皆婚姻しないだろ」

「ええ……。俺関係なくないか」

「あるだろ。あのお二人共婚姻関係の話を断りまくってるの、原因絶対お前だろ」

「いや初耳なんだけど!?」

「お前がここで悪感情持たれてる一因でもある」

「嘘やん」

「そりゃあそうだろ。源氏の頭領と陰陽寮の最高位、両方を手玉に取って遊んでる男として悪男扱いされるだろそりゃ」

「無実! 無実だ!」

 

 だいたいむっきーには言ってないけど、あの二人は俺に貞操の呪いがあることは分かってるんだから俺を相手には選ぶわけがない。血を繋ぐのも貴族の立派な仕事だからだ。俺はその辺欠陥過ぎる。

 

「仲良いのは事実だろ」

「友人としてね!」

「と、無駄話はこのくらいにして本題なんだけど」

「うん、本当に無駄だったね」

「掃部寮ってお前最近行ったか?」

「ああ、魔除けの札を渡しに行ったな」

 

 掃部寮は宮中行事の設営や殿上人が上がる殿中の清掃を担当する職場で、新規設営の際や、周期交換用に魔除けの札を持っていくことがある。陰陽寮は加持祈祷の執り行いの担当もある為、掃部寮とは縁がある。

 

「その札が足りないんだと」

「ちゃんと数は持っていったけどなあ」

「掃部寮の誰かが盗んだんじゃないかって」

「盗む、ねえ。魔除けの札を? ……魔除けの札を必要とするような何かに巻き込まれている人間がいるってことか」

「うん。で、興味本位で調べてたんだけど、ここ数日掃部寮で参内してない人間がいる。子が病に伏せているってことらしい」

「つまり病の原因を祓う為に札を持ち出したってことか。子が絡んでいるなら仕方ないね。こっそり魔除けの札を何枚か掃部寮に持っていくよ」

「すまないね。後で雨陰に感謝するようそれとなく伝えておくよ」

「いや、別にいいよ。それにたまには自分で魔除けの札を作るのも良いさ」

「雨陰が作るのか?」

「じゃないとバレるだろ」

「そりゃ欲しがる人が多そうな札だ」

「なんでだよ」

「女連中は欲しがるさ」

「男連中は捨てそうだけどね」

「違いない。そうだ雨陰、帰る前に小説返してくれよ。次の小説書く為にすき直すから」

「ああ。あれなら手元にない」

「は?」

「ここに来る前に国婿様に渡した」

「は、はあ!?」

「何か新しい刺激が欲しいと仰っていたから、晴明ちゃんが写本した唐の詩集と一緒にな」

「お、お前なんという」

「ああ、ちゃんとむっきーが書いたって伝えてあるから」

「俺が首になったらお前のせいだからな!」

「大丈夫大丈夫。こっそり読むって言ってたし」

「胃が痛くなってきた。悪霊かも知れん。雨陰、祓ってくれ」

「気のせいだ。じゃあなむっきー」

「くぅ、次は覚えてろ!」

「もう忘れた!」

 

 国婿様、なんか気にいって凝視してたから問題ないと思うけどね。多分急に紙をたくさん渡されるかも知れないけど頑張ってむっきー。

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