あべこべ奇天烈平安京⛤   作:白石基山

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其の漆、羅刹天

「羅刹天か! よろしく!」

「……私が言うのもなんだけど、もうちょっと悩んだら? 私、貴方達人間の天敵、である元鬼よ? 今は毘沙門天様の眷属として仏法守護を司る羅刹天、だけどさ。悪鬼羅刹って聞いたことない? 自分で言うのもなんだけど、元々はそこそこ名の知れた悪鬼だったんだけど?」

 

 

 相手から誘われて乗ったのに何故か呆れられた。解せぬ。

 

 

「聞いたことあるよ。昔悪かったんでしょ? 知ってる知ってる。というわけでよろしく!」

「ええ……。この子、ほんと大丈夫かしら。心配になるわぁ……」

 

 

 頬に手を当て、眉を八の字にし俺を見下ろす羅刹天。心配になるとか言われても、知り合い皆からずっと言われてるから今更なんだよなあ。

 

 

「とりあえず、目の前にいる貴女はただの気の良い世話好きな大きいお姉さんにしか見えないから大丈夫大丈夫」

「ああ、なるほど。聞き入った話より自分で見たことを信じる人間なのね。でもかなり危ういわねえ」

「わざわざ主君の仏像磨いてる人間覗きに来るくらいだし大丈夫でしょ」

「一応考えてもいるのね。ま、いつでも呼びなさい。なんでも手伝ってあげるわ」

「じゃあ家事とかも良い?」

「……そういえば十二の神を使役した人間が家事手伝いをさせてるって聞いたわねえ。別に良いけど、私を使うなら普通荒事に使うと思うんだけど? 破壊とかのほうが得意よ?」

「そっちもたまによろしく」

「そっちはたまに、なのね。私を使役するのに。ほんと面白い子。楽しくなりそうね!」

 

 

 それだけ言って羅刹天が目の前から消えた。後で呼んでみよう。

 

 

「霊圧が消えた。雨陰、ちゃんと説明しろ」

 

 

 しまったね。話から綱を置いてけぼりにしてしまった。

 

 

「簡単に言うと、羅刹天を式神として使役出来るようになった。家事手伝いを主にやってもらう予定」

「……うん?」

「羅刹天が式神となって家事手伝いしてくれるって」

「ああ、いや聞き間違えじゃなかった。というか聞き間違えであって欲しかった。何を言ってるんだお前は」

「今言ったとおりなんだけど」

 

 

 綱が目を瞑り手を額に当てて、いかにも「まじかよコイツ」みたいな雰囲気を隠そうともしない。

 

 

「羅刹、天か。その、大丈夫なんだろうな」

「向こうが俺のこと、この子大丈夫かなってずっと心配してたくらいだから大丈夫じゃないかな」

「ああ、それは大丈夫そうかな。呼び出せるってことは何かあっても強制的に還すことも出来るのだろうし」

「何もないと思うけどねえ」

「お前が心配されるのはそういうところだぞ」

「雰囲気的に晴明ちゃんのとこにいる十二神将と似てたからさ」

「……善神に慣れてるか」

「善とか悪とか、それはこっちの価値観で現世の人間に合わせてくれてるだけだと思うよ。要は気に入ってこっちの味方してくれる神かどうかって判断。懐は深いもんね、こっちの常識で測れないくらい。信じられないくらい浅い時もあるけど」

「うん、私には分からんことが分かった。普段から交流がある雨陰にしか分からん感覚なんだろうな」

「そうかなあ?」

「そうだとも。私はもっと分かりやすいこっちのほうが性に合う」

 

 

 綱はそう言いながら、腰から下げた刀の柄を撫でる。

 

 

「こわっ」

「神を恐れん奴に言われたくない」

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

「私は安倍晴明。貴女が羅刹天? 雨陰ともどもよろしくね!」

「……安倍晴明、貴女ほんとに人間?」

「うん、それ私のとこにいる皆にも言われた」

「どなた様かに導かれて成仏してたり……してないんだ。凄いわね貴女。雨陰が私を見ても驚かない訳ね。なんで人の器に収まれてるのかしら」

 

 

 陰陽寮の庭で羅刹天を晴明ちゃんに紹介した。

 羅刹天は晴明ちゃんを見て目を見開き驚いている。それに対して晴明ちゃんは「よく言われるよあははー」と笑う。

 

 

「晴明ちゃん凄いでしょ」

 

 

 驚いてる羅刹天に声を掛ける。こっちを振り向いて俺をじっと羅刹天が見つめてる。少し何か考えていた羅刹天は俺に言う。

 

 

「うーん。でもやっぱり珍しさで言ったら雨陰のほうが上よ。なんてったって法力を操る男なんだもの。陰陽師史上最高と陰陽師唯一無二が揃ってるって感じね」

「それはそうだね。私は力が強いだけだもの」

「だけって言うには強過ぎだけどね、貴女。でもそう、そういう時代なのねー。こう、傑物が揃う時代は何か起こる時代でもあるのよ。現世が楽しみになってきたわ。雨陰、荒事にはいつでも呼んでね?」

「とりあえず頼むのは家事だけどね」

「うんうん、雨陰は私と一緒だね!」

「ああ、なるほど。いい? 雨陰。この傑物の真似してても仕方ないわよ? 神に頼らずだいたいのことは自分で出来ちゃう人間でしょ」

「晴明ちゃん、そもそも家事まったく出来ないけどね」

「私はいいんだよ! 使用人の仕事を奪う気なんてないからね! それに家事に割く時間なんてそもそもないからね! 少しでも時間があるなら占えだの悪霊祓えだの鬼退治しろだのずっと言われてきたんだから!」

「あらあら。歴代最高位級でしょうに人間社会に取り込まれてこき使われてるのねー」

「そうなんだよ! 帝の守護は常に十一の神に任せてるから良いんだけど他にも仕事が多過ぎる!」

「……常に十一の神を召喚してるの? 正気?」

「一人は色々手伝ってもらってるから常に十二、だね」

「え、大内裏のほうに感じる結界を張ってるのも貴女よね?」

「そうだね」

「全部常時同時展開してるの? 変態なの貴女」

「よく言われる」

「言われるんだ……」

 

 

 羅刹天が絶句してる。そりゃあそう。普通の人間なら一つで気絶してる。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

「ああ、雨陰。甘味を用意するのを忘れてたよ。良ければ私の私室から取ってきてくれるかな?」

「任せて」

 

 

 雨陰は甘味に弱い。私の言葉で雨陰は陰陽寮内に軽い足取りで向かう。雨陰の姿が見えなくなったのを確認して私は羅刹天に向かいあう。

 

 

「それで羅刹天。雨陰はどうかな?」

「危なかっしいわよねえ。甘やかし過ぎじゃないかしら。まあだから気になっちゃったんだけど」

 

 

 鬼神羅刹天。破壊と滅亡の神。毘沙門天の眷属になるまでは血肉を喰らう悪鬼羅刹として知られていた。

 雨陰がいつもののほほんとした顔で式神になってくれたと言い出した時には「何言ってんだろう」と思ったけど、どうやら本当に雨陰を心配する気の良い神らしい。いや、雨陰の味方をしてくれる神らしい。

 

 

「あれで雨陰は危険な目にも散々あってるんだけどね。変わらないんだよ。本人の資質かなって」

「心配ねえ……」

 

 

 本当にね。雨陰の中の妖狐が自己防衛の為に妖術も教えているらしく、腹立たしいけどそれでなんとかなっているところもある。

 むしろ組ではなく、一人なら鬼とも戦えちゃうんだよあの子は。

 そう、戦えちゃうんだ。だから逃げてくれない。逃げていい場面でも逃げてくれない。

 

 

「そうなんだよねえ……。で、どう? 雨陰は? 貴女から見て雨陰の呪いは?」

「ああ、それ? どうもしようがないわね。呪いは壊せるけど雨陰ごと壊れちゃうわ。完全に雨陰の魂に融合しちゃってる」

「やっぱりそうだよねえ……」

「ま、呪いを掛けた妖狐が雨陰を気に入ってて、多分雨陰の意識を邪魔しない為にあの子の中でひたすら眠りについてる内は大丈夫じゃないかしら」

「その妖狐が問題なんだけどねえ……。昔、大陸の王朝を滅ぼした奴なんだよねえ……多分。本人も雨陰と魂がくっついちゃったのは予想外だったろうけど」

「で、雨陰を気に入っちゃったと」

「雨陰と別れて姿を現してくれれば私なり頼光なりでなんとでもなるのに! ……いや、雨陰自身も愛着持っちゃってるから無理だよなあ。うーん……」

「貴女以外でもなんとかなるのねえ。あれ、妖狐の中でもとびっきりでしょうに」

「貴女も言ったでしょう? そういう時代なんだよきっと。だから雨陰が心配なのさ」

 

 

 チラッと陰陽寮の入り口を見る。甘味を片手に笑顔の雨陰がちょうど出てきた。私と羅刹天はそんな雨陰を見て思わずつられて笑顔になる。

 

 

「なんとかしたいんだけどねえ」

「ま、頑張りなさい人類最高の陰陽師。あの子は守ってあげるから」

「多分、雨陰が貴女に頼むのは主に家事だけどね」

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